高市首相の「存立危機事態」答弁はなぜ中国を怒らせたのか──中田敦彦が語る50年の曖昧戦略と台湾史、日中関係の行方

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概要

高市首相の国会答弁をきっかけに、日中関係が急速に悪化している。高市氏の発言はそれほど問題だったのか、中国はなぜここまで怒っているのか。中田敦彦はこの回でこの二つの疑問を取り上げ、どちらかに肩入れせずに説明すると前置きした。そのうえで、答弁の中身、中国の反応、高市氏の思想的背景、台湾をめぐる戦後史を順にたどり、最後に今後の展開と日本経済への影響について自身の予測を示している。

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発端は予算委員会での岡田克也氏の質問

中田によれば、発端は11月7日の衆議院予算委員会である。立憲民主党の岡田克也氏が「存立危機事態」について高市首相に踏み込んだ質問をした。予算委員会で予算以外のことを聞いてよいのかと思う人もいるだろうが、予算委員会では野党が首相にどんな質問をしてもよいことになっている。中田はこれを、首相に直接問いただせる貴重な機会として野党が使ったのだと説明する。やり取りの全編はYouTubeなどに残っているので、関心のある人は実際に見てほしいとも勧めている。

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「存立危機事態」とは何か

中田は言葉を分解して説明する。「存立」は存在、つまり国家の存在であり、「危機」は危ないこと、「事態」はシチュエーションを指す。合わせると「国家の存在が危ぶまれる状況」という意味になる。

この概念は歴史が浅く、2015年に安保関連法が成立したときに生まれた。戦後の日本は軍隊を持たないところから出発し、アメリカの要請などを受けて自衛隊がつくられた。ただし自衛隊は憲法上は軍隊と明記されず、グレーな存在である。そのなかで日本は「専守防衛」、つまり自分の意思で他国を攻撃せず守りに徹する立場をとってきた。

その後、自衛隊がアメリカへの協力で派遣されるといった事態が重なった。中田によれば、こうした経緯から、自国が攻撃される場合の個別的自衛権だけでなく、仲間が攻撃されたら自分も動いてよいのではないかという集団的自衛権の議論が増えていった。存立危機事態はその延長線上にある考え方で、他国が攻撃を受け、それによって自国も危ないとなれば自衛隊を動かせるというルールである。

中田はこれを「自衛隊動かしスイッチ」と表現する。自国が攻撃されていなくても、政府が存立危機事態と認めれば自衛隊を動かせる。この変更は、もともとグレーだった専守防衛のラインをさらにグレーにする方向の変化だというのが中田の見方である。国民の命を自衛隊として送り出すのは重い決断であり、スイッチを押してよいタイミングが曖昧なのは問題ではないか。これが岡田氏の質問の出発点だったと中田は説明する。

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岡田氏が突いた安倍・麻生発言との矛盾

高市氏は当初、これまでの政府の考え方と同じで総合的に判断する、と曖昧に答えていた。そこで岡田氏は、安倍晋三氏や麻生太郎氏の過去の発言を持ち出した。麻生氏は、中国が台湾を攻めれば存立危機事態になる可能性が高いと述べていた。安倍氏も存命中、首相在任中ではないときに「台湾有事は日本有事」と語っていた。

中田の解釈では、岡田氏の問題意識はこうである。政府は存立危機事態を個別に判断すると言っている。その一方で、有力な政治家が「台湾が攻められたら自衛隊を動かしてよい」と受け取れる発言を軽々しくしているように見える。それは政府の公式見解なのか、高市氏の考えをこの場で聞きたい。命を動かす権力の運用だからこそ、慎重に確認しようとしたのだという。

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なぜ「バシー海峡」が名指しされたのか

岡田氏はさらに具体例として、台湾とフィリピンの間のバシー海峡が中国によって封鎖された場合はどうかと尋ねた。台湾は北西側の台湾海峡と南側のバシー海峡に挟まれている。中田は、台湾海峡ではなくバシー海峡を挙げたことに意味があると指摘する。

バシー海峡は日本のシーレーン、つまり海上の流通経路として重要だからだ。石油や天然ガスなどの資源は中東などから大型タンカーで運ばれてくる。飛行機より船のほうが運べる量が多いため、時間がかかっても船で輸送されるものは多い。中田によれば、台湾海峡のほうが狭く、バシー海峡のほうが深くて大型タンカーを通しやすいといった理由から、主にバシー海峡が使われている。

ただし岡田氏はここで釘も刺していた、と中田は言う。シーレーンが封鎖されても迂回すればよい。経済的な打撃はあっても、自衛隊を動かすよりはましだという考え方である。中田の説明では、岡田氏は日本の武力行使はできるだけ避けるべきだと主張している。台湾と中国が戦争になっても、まず優先すべきは台湾にいる日本人の帰国を助けることであり、日本が武力行使を決断すれば戻れる人も戻れなくなる。そのうえで、この状況でも存立危機事態にあたるのかを問うたのである。

これに対して高市氏は、いろいろな状況があるとしつつ、中国が「戦艦」を用いて武力行使を伴う封鎖をした場合は「どう考えても」存立危機事態になりうる、という趣旨の答弁をした。これが大騒ぎになった。

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50年続いた「曖昧戦略」からの逸脱

中田は、騒ぎになった理由を、首相がここまで踏み込んだのは初めてだったからだと説明する。日本は台湾と中国の関係について、50年にわたってあえて発言を曖昧にとどめる戦略をとってきた。

その起点は1972年、田中角栄首相のときの日中共同声明である。中国は、台湾は自国の一部であり、中国と台湾は二つの国ではなく一つの中国で、台湾は国内問題だと主張していた。これに対して日本は、その立場を「理解し、尊重する」と表明した。中田はこの言い回しを重要だと見る。「支持する」「賛成する」と言えば、台湾から見て日本は中国側につく敵になる。「理解し尊重する」は、あなたの言い分は分かった、そう考える中国を否定はしない、という意味であり、賛成かどうかは言っていない。日本はそのうえで中国と国交を開き、台湾とも経済的に密接に交流してきた。

歴代首相も同じ趣旨の質問を受けてきた。中田は二つの例を挙げる。2005年の小泉純一郎首相は、台湾と中国が戦争になったら自衛隊を動かすのかと問われ、「仮定の質問には答えられない」と退けた。高市氏と思想が近いと言われる安倍晋三首相も、2016年に「台湾海峡の平和と安定が重要」と答えるにとどめた。中田によれば、どちらも実質的には何も答えていない「ゼロ回答」である。

では、安倍氏や麻生氏の発言とは何が違うのか。中田は、首相在任中かどうかで意味がまったく異なると説明する。靖国参拝がたびたび問題になるのも同じ理由だという。首相の公式の行動や発言は、国の意思を対外的に表明することになる。在任中でなければ一政治家の個人的なスタンスであり、「日本にはいろいろな政治家がいる」で済む。高市氏は総裁選と首相指名選挙を経た正式なトップであり、その人が予算委員会という公式の場でこの発言をした。だから50年の曖昧戦略からの大転換と受け止められてもおかしくない、と中田は言う。

中田によれば、質問した岡田氏自身もそこまで明確な答えを予想しておらず、焦りを隠せない反応だった。岡田氏は小泉政権時代にも同じ質問をしていた。当時は自衛隊の海外派遣が争点になっており、「仮定の質問には答えない」という答弁を引き出したことで、曖昧戦略が続くことが世間に示された。今回も、タカ派と言われる高市氏に、首相としては曖昧戦略を踏襲すると示させようとした可能性が高い、と中田は推測している。ところが結果は逆になった。

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想定問答か、アドリブか

この答弁が官僚と準備した想定問答だったのか、高市氏のアドリブだったのか。中田はここをポイントに挙げる。予算委員会では何を聞かれるか分からないため、官僚と事前に想定問答を作り込むという。ただし全部はカバーできず、7割が想定問答、3割がアドリブという実感を示すデータもあるらしい、と中田は伝聞の形で紹介する。そのうえで、今回は3割のアドリブだった可能性が高いと言われていると述べる。

根拠として中田が挙げるキーワードは二つある。一つは「戦艦」だ。中田によれば、この言葉は軍事の専門用語としては古く、今のプロは使わないらしい。官僚が想定問答を作っていれば、この言葉は使わせないはずだという。もう一つは「どう考えても」という強調表現である。予算委員会では言質を取られると後で攻められるため、答弁は防御的になりやすい。官僚と作る文章は国民から見てまどろっこしいほど慎重で、「どう考えても」「間違いなく」「絶対に」といった表現は官僚的な文章ではありえないという。

この二点から、専門家の見方ではアドリブの可能性が高い、と中田は紹介する。つまり自民党内で方針を決めて臨んだわけではなく、岡田氏とのやり取りのなかで、高市氏がこれまで考えてきたことが表に出た。それが周囲の受け止め方だと中田は言う。

20:31

中国の反応──総領事の投稿から経済措置へ

翌11月8日、中国の薛剣駐大阪総領事が、非常に激しい言葉で高市氏を非難する投稿をした。中田は、自分の口で再現するのがはばかられるほどの言葉だったと言う。中国政府の人間としてその言葉選びはどうなのかと批判も受けたが、ここから分かるのは、中国側が尋常でないほど驚き、怒っているということだと中田は読む。中国にとって台湾問題は国内問題であり、そこに日本が首を突っ込み、軍を動かすとまで言ってきた。なぜそこまで言うのか、という怒りである。投稿はすぐ削除されたが、一気に拡散した。

怒りは個人レベルにとどまらず、政府の措置として表れた。まず中国当局が日本への渡航自粛を呼びかけた。「禁止ではなく自粛なら構わないのでは」と思うかもしれない。しかし中田は、中国は憲法に共産党が指導する国だと書かれている一党独裁国家であり、政府に逆らうことへの危機感が強いので、日本でいう自粛とはまったく違い、ほぼ禁止なのだと説明する。実際に旅行や航空便のキャンセルが相次ぎ、来るはずだった観光客が来なくなるという損害がすでに出ているという。

水産物でも措置がとられた。中国は北海道のホタテなどを大量に買っていたが、輸入を禁止するのではなく、検査のレベルを上げて「基準に達していない」として実質的に輸入を止めた。中田は、自粛や検査強化という形はグレーでも中身は経済制裁だと見る。こうした措置が発言から約1週間で打ち出され、日本経済への損害は約1.8兆円という試算もあると中田は紹介している。

その後も非難は続いた。17日には毛寧報道官が、台湾問題で「火遊び」をやめ、発言を撤回するよう求めた。中田は、この段階から中国の主張は発言への怒りではなく、撤回の要求に変わったと指摘する。さらに傅聡国連大使は、日本は中国の「核心的利益」、つまり最も重要な利益に挑戦していると非難した。大使、総領事、報道官と、あらゆるポストの人物が撤回を求めている。中田によれば、その理由は、日本のトップが50年守ってきたラインを超え、自衛隊を動かすと言ったと中国が判断したからである。

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高市氏の思想──サッチャーと2024年の著書

中田は、高市氏の発言はうっかり出たものではないと説明する。高市氏は尊敬する政治家として、イギリスのサッチャー元首相をよく挙げている。サッチャーには「弱さやためらいは侵略を招きかねない」という趣旨の言葉がある。フォークランド紛争で、イギリス領だったフォークランド諸島をアルゼンチンが元は自分たちの領土だとして電撃的に奪おうとした。イギリスは速やかに軍艦を派遣し、短期間で奪還した。その後に語られた言葉だという。

中田はここで、タカ派とハト派の違いを戦争抑止の方向性の違いとして整理する。タカ派は、毅然とした態度で「何かあれば動く」と明確に示すことで抑止できると考える。ハト派は、強気に出れば相手を刺激し喧嘩になりやすいので、穏便にして揉め事を避けることが抑止になると考える。サッチャーは明らかにタカ派で、それで紛争を収めた実績がある。

ただ、それだけなら憧れの話にすぎない。中田はそう述べたうえで、高市氏の著書を取り上げる。政治家は首相を目指す時期に重要な著書を出すもので、田中角栄の『日本列島改造論』もそうだったという。高市氏は総裁選に出るタイミングの2024年に『日本を守る 強く豊かに』を出版した。中田によれば、この本では、安全保障に曖昧さは危険だという趣旨が繰り返し述べられている。つまり高市氏は、曖昧戦略は日本にとってメリットがなく、明言したほうがよいと考えている。

同じ本には「台湾を第二の香港にしてはならない」とも書かれている。中田の説明では、香港は戦後長くイギリス領として扱われ、返還後は自治を持っていた。しかし中国の法律や選挙制度のもとに組み込まれていき、デモや対立を経て中国の支配下に置かれた。「第二の香港」とは、かつて中国の支配下になかった地域がそうなってしまうことを指す。高市氏は台湾がそうなってはならないと明言しているわけだ。

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政治家を見る三つの軸

日本と関係のない台湾がなぜ高市氏にとってそれほど大事なのか。この疑問に答えるため、中田は政治家を分類する三つの軸を示す。「タカ派かハト派か」「ネオコンか孤立主義か」「保守かリベラルか」である。

保守とリベラルは価値観の軸で、選択的夫婦別姓への賛否や皇室のあり方、LGBTQの権利などがテーマになる。タカ派とハト派は、中田のたとえでは「なめんじゃねえぞ」と言って舐められない人と、舐められてもいいから穏便に行こうという人の違いである。上司にはっきり物を言う『半沢直樹』の「倍返し」はタカ派、「まあまあ」と調整するのがハト派だという。

ネオコン(ネオコンサバティブ、アメリカの新保守主義)は、他国との関係に積極的に関わる立場である。中東やアジアの紛争に介入し、「世界の警察」と呼ばれ、同盟を重視したかつてのアメリカのイメージに近い。中田はこれを「お節介派」と呼ぶ。孤立主義は「俺は俺、人は人」で、クラスで誰かが喧嘩していても関わらない態度だ。

中田によれば、高市氏はタカ派で、ネオコンで、保守である。今回の問題に保守の軸はあまり関係がない。重要なのは、タカ派とネオコンの度合いがほかのどの政治家よりも濃いことだという。「台湾を第二の香港にしてはならない」は台湾問題に関わろうとするネオコン的な姿勢であり、「安全保障に曖昧さは危険」は明言を重んじるタカ派的な姿勢である。どちらも2024年の著書にすでに書かれていた。

中田は、この信念と50年の曖昧戦略は真逆だと言う。安倍氏や小泉氏のように比較的タカ派、比較的ネオコンとされる政治家でさえ、中台問題には踏み込まなかった。そこはある種の聖域であり、絶対的なレッドラインだった。高市氏はそれを明言した。だから大きな出来事なのであり、高市氏がこのスタンスを簡単には変えないだろうことも分かる、と中田は述べる。

37:53

台湾史①──国共内戦から「一つの中国」へ

なぜ中台問題はこれほどセンシティブなのか。中田は戦前から歴史をたどる。1927年ごろから中国では国民党と共産党が争う国共内戦が続いていた。日本と戦う間は一時的に共闘したが、戦後になると中国本土の覇権をめぐって再び内戦になった。国民党のトップは蒋介石、共産党のトップは毛沢東である。

勝ったのは毛沢東の共産党だった。敗れた蒋介石は支持者や財産を持って台湾に逃れ、中華民国を引き継ぐ独立国だと主張した。共産党は中華人民共和国を建て、台湾は敗れてなお逃げている国民党の軍事独裁政権であり、内乱つまり内政問題で、二国間の問題ではないと位置づけた。中田によれば、1949年のこの分裂が出発点である。

重要なのは、当初国連にいたのも、日本やアメリカが支持していたのも台湾だった点だと中田は言う。国連ができたときの中国のトップは中華民国の蒋介石であり、戦後の内戦で入れ替わったからだ。その後20数年、世界と日本は中国の扱いに迷った。

転機はアメリカの決断である。人口2000万人ほどの台湾に対し、中国は10億人を超え、経済規模の違いは無視できなかった。さらに冷戦で米ソが対立するなか、アメリカは「敵の敵は味方」と考え、ソ連と中国の共産主義のやり方の違いに目をつけた。中国と手を組むことでソ連を追い詰めようとしたのである。これがニクソンショック(外交面)で、中田は1971年の出来事として語る。驚いた日本も足並みをそろえ、翌年の日中共同声明に至った。中田は、台湾を国連から外して中国を認めたのはアメリカの意図であり、それ以来、日本だけでなくアメリカを含む世界中がこの問題に気を遣い、曖昧戦略をとってきたと説明する。

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台湾史②──1996年の民主選挙と「デービッドソンの窓」

中田は次の大きな分岐点として1996年を挙げる。台湾で、総統を民衆の選挙で選ぶ制度が始まった年である。それまで台湾は内戦から逃れてできた経緯から1980年代まで戒厳令を敷き、国民党の軍事政権が続いていた。戦後の雰囲気が薄れるなかで、台湾も民主化に向かったのだという。

中国はこれを強く嫌い、ミサイルを発射して威圧した。中田はその理由をこう説明する。中国の立場では、台湾は反乱を起こした国民党が騒いでいる地域である。しかしそこで民主的な選挙によってトップが選ばれれば、軍事政権が無理に治める地域ではなく、住民が自らリーダーを選ぶ地域に変わる。国家としての雰囲気が強まり、「国内問題」という建前を言いにくくなる。

このときアメリカは台湾周辺の海域に空母を出して中国を牽制した。中田によれば、1990年代の中国はまだアメリカに対抗する力がなく、これを国家的屈辱として忘れてはならないと位置づけた。そして、台湾問題にアメリカにすら口を出させないため、軍事力を増強してきたという。2010年代にはスマートフォンやIT革命の波に乗ってアリババ、バイドゥ、テンセント、ファーウェイ、シャオミなどが成長し、中国のGDPは日本を抜いて世界2位になった。

そして2021年、インド太平洋地域を管轄するアメリカ海軍のデービッドソン司令官が、2027年までに中国は台湾を攻め落とす力を持ちうるとの見通しを示した。これは「デービッドソンの窓」と呼ばれている。中田は、その根拠として人民解放軍の軍事力と技術の急成長を挙げる。アメリカにとって遠方での戦いは大きな負担で、ベトナム戦争でも苦戦した。隣同士の中台の戦いに介入するには中国の何倍もの労力がかかる。2021年の時点ですでに危うく、2027年には介入が無理になる可能性が高いという予測だった。

2027年という年は、習近平国家主席が人民解放軍の建軍100年を節目として世界一流の軍隊にすると掲げている年だと中田は説明する。その節目までの政権のレガシーとして悲願の台湾統一を狙っているのではないか、そしてそれを実現しうるスピードで成長している、というのがこの予測の中身だという。高市氏が2024年の著書で「台湾を第二の香港にしてはならない」と書いたのは、2027年までに中国が本気で台湾に侵攻する可能性が高いと見ているからだろう、と中田は推測する。

中田はこの歴史を、戦前からの国共対立、ニクソンショックと日中共同声明による台湾と中国の地位の逆転、民主化によるこじれ、アメリカの介入による中国の屈辱、2010年代の躍進とアメリカ側の警告、と整理する。こうして数十年こじれ続けた末の2025年に、首相が公式の場で中台問題を存立危機事態の具体例として言及してしまった。だから中国は烈火のごとく怒っている。最悪の場合、日中が武力を伴う争いに至る可能性もゼロではないため、国民は注視しなければならない、と中田は述べる。

50:28

高市氏の現在の立場と、習近平・トランプ電話会談

中田によれば、撤回を求められた高市氏は、自分の発言は従来の政府方針に沿っていると説明している。存立危機事態の一般論を述べただけで、存立危機事態にあたるかは個別の状況に応じて政府が総合的に判断する、特定のケースを想定しているわけではない、という立場である。中田は、これは実質的に曖昧戦略への回帰だと見る。一方で、岡田氏がバシー海峡や中台の具体的な状況を挙げたうえでの答弁だったので、一般論だったという説明はかなり苦しいとも指摘する。中国もそうは受け取っていない。

中国の動きは早かった。11月24日には習近平国家主席とトランプ大統領の電話会談が行われた。中田は、中国の狙いを、アメリカが高市発言を支持すれば大変なことになるのでアメリカの真意を確かめ、圧力をかけることだったと説明する。トランプ大統領は、中国にとって台湾問題が重要であることを理解している、という趣旨を述べたという。中田は、これは完全な曖昧戦略で、田中角栄の「理解し尊重する」と同じ態度だと評する。この会談によって、曖昧ラインを越えたのはアメリカと一緒にではなく日本の首相だけだったことが浮き彫りになった、と中田は見る。

53:59

未来予測①──撤回しない高市氏と、収まらない中国

中田は、今後の最大のポイントは高市氏が発言を撤回するかどうかだとする。現状は「撤回はせず、曖昧に戻す」というやり方である。撤回すれば、2024年の著書で示した政治家としての信念を曲げることになるので、簡単には撤回しないだろう、と中田は予測する。

撤回はしないが従来の方針どおりなので安心してほしい。これで中国の怒りが収まれば、高市氏にとっても日本にとってもベストのシナリオである。しかし中田によれば、11月23日に王毅外相が、日本はレッドラインを越えており中国は断固として反撃する、という趣旨を述べた。中田はこれを、曖昧に戻しても撤回しない限り攻撃の手は緩めないという意味だと解釈する。ここでいう攻撃とは制裁のことであり、すでに約1.8兆円規模とされる打撃に加えてさらに強めるという意思表示だという。

そこで中田は、高市氏が撤回しないことを応援するのか、撤回することを応援するのかが国民に問われていると述べる。考える材料として、サッチャーの事例をもう一度検討する。フォークランド紛争のとき、イギリスはアルゼンチンに対して圧倒的に強く、アメリカもイギリスを支持していた。だからこそ毅然とした態度と即座の派遣が正解となり、美談として語られている可能性が高い。日中関係がイギリスとアルゼンチンの関係と同じなら、高市氏のやり方は「令和のサッチャー」として抑止力になるかもしれない。しかし現在の中国と日本の国力、軍事力、経済力がそれに近いと言えるかどうかは、かなり厳しい目で見る必要がある、と中田は言う。

中田は、強気を続けた場合に予想されるのは制裁の過激化だとし、中国の制裁にはパターンがあると説明する。輸入を止めるだけでなく、レアアースの輸出を止めて日本の産業に打撃を与える。中国に進出している日本企業に圧力をかけ、商売をしにくくする。さらにアニメや音楽、イベントなど日本の文化コンテンツの消費や参加、輸入を制限する可能性もある。発言が撤回されるまで日本経済に打撃を与え続ける。これが中田の予測である。

59:25

未来予測②──積極財政・円安・物価高との矛盾

中田は、高市氏が撤回せずに曖昧戦略へ戻り、中国が撤回しない限り制裁を強めるなら、国民の生活は厳しくなると予測する。理由は日本経済の現状にある。

国民はすでにインフレと物価高に苦しんでいる。高市氏は積極財政の立場で、国債を発行して補助金や戦略的投資にお金を使うと述べている。中田は、これは日本企業を元気にする可能性のある攻めのやり方だと認めつつ、アベノミクスの時代との違いを指摘する。安倍政権のときはデフレだったが、今はコストプッシュ型のインフレで物価が上がっている。この状況で積極財政を進めれば円安とインフレがさらに進む、と中田は説明する。

円安と株高は、輸出する大企業にとっては良いことで、企業目線では「高市トレード」と歓迎される。しかし補助金をいくら出しても、円安が止まらない限り物価高は止まらない。中田によれば、高市氏の就任以降、円相場は1ドル150円台の上の方へ進み、いずれ160円台、165円を突破する可能性もあると言われている。ガソリン減税や給付金があっても国民が望むのは物価高の根本的な解決だが、円安と物価高は止まらないという予測が大勢だ、と中田は述べる。高市氏の路線がそうだからだという。そこに中国の制裁強化が重なったらどうなるのか、と中田は問いかける。

1:02:11

高い支持率と厳しい経済のミスマッチ

中田は、この矛盾に気づいている日本人がどれだけいるかと問う。高市氏の支持率は非常に高く、中国への強気の発言を否定的に見る国民はむしろ少ない。中田はその理由を、中国からの観光客が増えたことによるオーバーツーリズムや、マナーを守らない外国人、奈良の鹿が蹴られているかもしれないといった恐怖感やフラストレーションに求める。そうした人々には、高市氏の発言が「ようやく言ってくれた」と、日本の復活を感じさせる鼓舞に見えるのだろうという。

それでも中田は、本当の国益は何かを考えると天秤にかけられていると述べる。日本人のプライドが満たされる一方で、中国との関係が急速に悪化し、ただでさえ揺らいでいる日本経済のなかで国民の生活はさらに苦しくなる。抑止のために明言する、台湾は日本にとって大事だから存立危機事態と認定して動くと示す、サッチャーのように毅然とした日本でありたい。中田は高市氏のこうした考え方は「すごく分かる」としたうえで、それが今の状況に合っているかが問題だと言う。

さらに中田は、多くの日本人が物価高の根本原因を理解していないと指摘する。ガソリン高をまだロシアとウクライナのせいだと思っている人が多い。しかし中田によれば、価格は一時的に上がった後に国際的には落ち着いており、原油の高さに苦しんでいるのは日本だという。海外からの観光客が多いのも、円が安く日本の物価だけが安いからだ。日本人自身がそれを買えないのは、実質賃金が上がっていないからである。そのなかで本当に必要なのは給付金なのか、と中田は問う。中国人観光客が来なくても日本はやっていける、言ってもらえてスカッとする、という気持ちも分かると認めつつ、数字で見た日本経済は非常に厳しい。中田は、高い支持率と厳しい経済状況のミスマッチこそ、高市政権の最も悩ましい点だと述べる。

ニュースを見るための三つの指標

最後に中田は、今後のニュースを追うための指標を三つ示す。一つ目は、高市氏が発言を撤回するかどうか。二つ目は、中国が制裁を強めるか緩めるか。三つ目は円安で、円安が加速すれば輸入コストが跳ね上がって価格に転嫁され、物価高は止まらない。中田によれば、この三点で見ると、今回のニュースは去年や今年だけの話ではなく、戦後から続く中国、台湾、日本、アメリカの関係を総括するような出来事だと分かる。

中田は、自分は特定の国や政治家を応援したいわけでも、何かを否定したいわけでもないと強調する。中国や共産党の考え方も、台湾の考え方も、高市氏の考え方も分かる。大事なのは国民が理解したうえで選択することであり、何も分からないまま印象で語れば争いが無駄に過熱するだけだという。国民が理解して選んだ未来であれば、日本はきっと正しい方向に向かうと思っている、と述べて中田は話を締めくくった。