研究データ管理の「事例」と「人材」をつなげて探す:RDM人材ネットワークのプロトタイプ

YouTubeで開く ↗
概要

国立情報学研究所(NII)オープンサイエンス基盤研究センターの長岡千香子氏は、研究データ管理(RDM)の実践事例と、その事例に関わった人材を検索できる仕組みのプロトタイプを紹介した。「研究データ管理人材ネットワーク(仮称)」と呼ばれるもので、昨年度(2025年度)に開発したという。探す対象は、データの専門職やURA、図書館職員など、事例に関わった人材である。直前に登壇した古川氏の話を受けて、長岡氏は実際に何を作ったのかを説明した。この発表はすぐに使えるサービスの紹介ではない。事例や人材をどう見える化していくべきかを議論するための材料として示された。

5分で読めます

RDMに関わりうる職種と、その多様さ

長岡氏はまず、RDMにどのような職種が関わっているかを整理した。最初の資料は、昨年まで活動していた国立情報学研究所 研究データ基盤運営委員会のRDM人材育成作業部会の成果である。この部会は研究データ管理の担当者に求められる標準スキルを作成し、その中でRDMを担いうる職種を一覧にしていた。挙げられた職種は14種類ある。長岡氏によれば、そのうち一部はすでに多くの人がよく知っている職種だ。一方で残りの職種は、機関によってはまだ配置されておらず、特に人材不足が指摘されている。

海外の例として、長岡氏はNFDI4Earth Living Handbookに載っているRDM関連職種の一覧も紹介した。データコレクター、データユーザー、データキュレーター、データライブラリアンなど、さまざまな職種がRDMの専門家として位置づけられている。データライブラリアンやデータ保存に関わる情報専門職のほか、データスチュワードも最近は知る人が増えているのではないか、と長岡氏は述べた。

国内大学ではRDM実務担当者が不足している

では、国内の各機関にRDMの専門家は足りているのか。長岡氏は、今年3月に公開した国内大学のオープンサイエンス状況調査の結果を示した。調査結果は二つの観点から整理されている。一つは、メタデータやデータキュレーションといった項目ごとの人材確保状況である。もう一つは、RDMの実務担当者がフルタイム換算(FTE)で何人関与しているかである。長岡氏によれば、実務担当者は1未満という結果が出ており、人材が不足している状況がうかがえる。

これまでの人材育成の取り組みと、新たな課題としての「見える化」

長岡氏によると、今年で5年目になるAIエコ事業では、人材育成の取り組みとして大阪大学とNIIがいくつかの機能を開発してきた。第1部で話題になった学認LMS上でのRDM人材育成教材、教材を再利用してもらうためのデータカタログ、個別最適化などである。

人材不足そのものはこの5年間ずっと検討してきたテーマだ。ただ、これまでの取り組みに加えて人材不足の解消に何をすべきかを考える中で、「見える化」について踏み込んだ検討を始めたのは昨年度からだという。

長岡氏は、見える化すべき対象を二つ挙げた。一つ目は研究データ管理の実践事例である。どのようにRDMを実践したのか、どのような体制を構築したのかといった情報は、これまでも論文などの形で共有されてきた。長岡氏が重視するのは、事例の情報に加えて、どの職種の人がどの業務に貢献したのかを明確にしてまとめることである。二つ目は、RDM専門人材がどのようなスキルや経験を持っているかの見える化だ。この二つを紐付けて、他機関や研究者に向けて、また皆で見える化していくことが鍵になると考え、現在議論しているという。

プロトタイプの構成:「事例」と「人材」の相互リンク

プロトタイプには「事例」と「人材」のページがあり、両者は互いに紐付いている。2025年度は大阪大学と金沢大学が協力し、事例と人材の情報を提供した。

事例ページでは、RDMの実践事例を記事の形でまとめている。画面で示された例は、オープンサイエンスを推進するための支援体制をどう構築したかという事例だった。記事には、誰が何をしてこの事例を作り上げたのかが明記されている。画面右側では職種ごとにタブを切り替えられる。長岡氏は、たとえば図書館職員なら図書館職員の話が気になるだろうと述べた。自分に関係する職種の視点で読めれば、自分は何をすればよいか、他機関の同じ職種は何をしているかという観点で事例を見られる。長岡氏は、こうした見せ方が大事だと考えている。

人材のプロファイルページには、氏名、所属機関、連絡先、自己紹介などが載る。デモ画面では長岡氏自身の情報が使われていた。ページの下部にはデジタルバッジが表示される。デジタルバッジは、個人の能力や経験、スキルを証明するために、最近は大学でもよく発行されているものだ。長岡氏はこれを使って人材の能力を見える化し、さらに学習につなげることを構想している。バッジを見た人が同じことを学んでみたいと思えるような流れである。こうした仕組みがあれば少し前進するのではないか、という考えで開発を進めているという。このほか、事例と人材を検索する画面も用意している。

想定される使い方

長岡氏は、利用者ごとに次のような使い方を想定している。

研究者であれば、宇宙科学のように自分の分野に関連するデジタルバッジを持つ支援人材を検索し、助言を求めたり、関連する事例を確認したりできる。ただし、全員が人材に直接連絡すると大変なことになる。そのため、まずは関連する事例情報を参考にしてもらうことを想定している。

これから自機関でRDMを導入しなければならない専門人材の場合は、事例と人材を紐付けて見ることで、誰がどのような体制で進めたのかを把握できる。それを参考に、学内のRDM人材に声をかけたり、人を雇用したりして体制を作っていく使い方が考えられる。また、プロファイルページのデジタルバッジを通じて、自分と近い職種の人を参考にスキルアップしてもらうこともできる。

長岡氏は、このような形で利用できるものを作れないかと考えて現在着手している段階だと述べ、発表を締めくくった。