「政治とカネ」から法人減税の総括まで 林芳正氏が中田敦彦氏の質問に答えた総裁選対談

YouTubeで開く ↗
概要

2025年の自民党総裁選を前に、中田敦彦氏のYouTubeチャンネルで候補者の林芳正氏との対談が行われた。中田氏は通り一遍の質問を避けるため、視聴者のコメント欄を集計し、関心の高い問いを林氏に投げかけたと説明する。前半の中心は「政治とカネ」で、政治資金の公開ルール、旧文通費、派閥、責任の取り方が取り上げられた。後半は物価高対策、減税、財源論、実質賃金、法人税へと進んだ。全体を通して林氏は、「禁止より公開」を徹底する制度づくりと、財政の信認を重視する慎重な立場を示した。中田氏はその立場に対し、国民感覚とのずれや再分配のあり方について繰り返し問いを重ねた。

21分で読めます
1:48

自民党とYouTube――野党時代に始めた発信が先細った経緯

対談の冒頭、林氏は自身がYouTubeで注目された経験を語った。10年以上前、あるテレビ局の新春特番の歌合戦で政治家対決があり、林氏はピアノを弾いて「レット・イット・ビー」を歌った。その動画がYouTubeで大きく広がったという。真面目な話をした動画は伸びないのに、あの動画だけは伸びた、と林氏は笑う。ライブではギターが8割、ピアノが2割で、中学時代からバンドをやっていたこと、地元の下関から近い福岡の音楽シーンでチューリップ、甲斐バンド、海援隊をコピーしていたことも話した。

自民党のネット発信について、林氏には「もったいない話」があるという。鳩山政権で野党に転落した際、自民党は党本部を挙げてニコニコ動画で12時間の生配信を行い、ネットサポーターズクラブを作ってオフ会も開いた。林氏によれば、新しい発信手段への取り組みは自民党が最も早かった。ところが与党に戻ると皆が忙しくなり、政府としての発信も増えたため、党の発信は弱くなっていった。林氏はこれを「ウサギと亀みたいになっちゃった」と表現する。

中田氏はYouTubeの特徴として、コメント欄による双方向性を挙げた。林氏も自身のチャンネルのコメントを気にしており、国民や視聴者の意見がリアルタイムで分かると認めた。

6:30

5万円ルールの「抜け道」とアメリカのFEC方式

中田氏が最初に取り上げたのは、政治資金規正法で年5万円以下の寄附者の名前が公開されない点だ。このルールは「ザル」と言われ、大企業が社員名義で分散購入すれば、まとまった金額を入れられてしまう。

林氏は、昨年の総裁選からアメリカの連邦選挙委員会(FEC)にならった仕組みを提唱してきたと説明した。1円単位まで全部を記載させると、若い議員の事務所は秘書3人ほどで回しているため、その作業ばかりになってしまう。そこで、報告をすべて第三者機関に出させる。第三者機関は、基準額の5万円以下であっても不審な点があれば突き返し、是正に応じなければ公表する。林氏によれば、この機関は公認会計士や税理士などの専門家を入れ、自民党からも立憲民主党からも共産党からも等距離に置かれた中立機関で、国の予算に対する会計検査院のような位置づけになる。林氏は、この方式は与野党ですでに合意に向かっており、自身の政策プランにも入れていると述べた。政治資金パーティーについても、小泉進次郎氏らの論戦を経て「禁止より公開」が世論調査で多数になった。そのうえで林氏は、公開するならここまで細かくやらないと抜け道になると強調した。PayPayなどの電子決済が普及すれば、データをそのまま出してチェックしてもらう形にできるという見通しも示した。

番組はここで補足解説を挟んだ。現行法では年5万円以下の寄附と1回20万円以下のパーティー券購入は氏名の記載が不要で、この仕組みを悪用した例として西松建設事件を紹介した。同社がダミー政治団体を使い、社員名義で分散して寄附やパーティー券購入をさせ、実質的な企業献金を隠していたこと、約6500万円が虚偽処理だったと報じられたことに触れている。

10:22

献金の「両引き検索」と第三者機関の独立性

中田氏は、大企業や特定業種を優遇できると疑われる租税特別措置(租特)と、現在の政治資金の仕組みが組み合わさると癒着につながると指摘し、議論の状況を尋ねた。

林氏が示したのは、デジタル化による検索可能な公開だ。「林芳正」と検索すれば献金している企業が一覧で出てくる。逆に「トヨタ」と入れれば、その企業がどこに献金しているかが出る。どちらの方向からも検索できるようにし、ある議員が特定企業に有利な仕事をしているという疑いがあれば、誰でも確かめられるようにする。「ここまでやらないと公開にならない」と林氏は言う。整備にかかる期間については、システムだけなので1〜2年ほどでやってもいいと答えた。

中田氏は、政治家はこの分野にメスを入れたくないだろうと思っていたと率直に述べた。そのうえで、問題があるときだけ公開する方式では、第三者機関が政治と一体化して不透明になるおそれはないかと問うた。林氏は、委員の指名の段階で独立性を担保することが要になると答えた。アメリカのFECでは共和党推薦と民主党推薦の委員が互いを徹底的にチェックし、そこに党派に属さない有識者が加わる三者構造になっている。日本でもそうした仕組みにしなければ公開にならない、というのが林氏の考えだ。

14:04

旧文通費・立法事務費と「年収6000万円相当」

次に中田氏は、調査研究広報滞在費(旧文通費)を取り上げた。月100万円の旧文通費に加えて立法事務費が月65万円あり、いずれも非課税だ。中田氏の計算では、年間約2000万円の非課税収入は、税率50%の人にとって4000万円の収入に相当する。これに議員報酬とボーナスの約2000万円を足すと、国会議員の収入は年6000万円相当になる。林氏も「そうですね」と応じた。番組の補足解説は、旧文通費は年1200万円で2025年から領収書提出が義務化されたが自動公開はなく罰則もないこと、立法事務費は年780万円で会派経由のため配分が不透明であることを付け加えている。

林氏は、議員報酬は確かに自分たちの給料だが、旧文通費のようなお金は「5人から10人ぐらいのオフィス」の経費として見てほしいと説明した。衆議院なら有権者は30万人ほどいて、後援会への文書発送や移動に費用がかかる。小さな会社の経費と考えればイメージが変わるのではないか、という説明である。公設秘書は3人まで公費で、それ以外は自前で賄っている。特に官房長官である現在は、地震などに備えて東京から30分以内の場所にしか行けないため、地元で支援者の声を聞く支部や人員が欠かせないという。

これに対し中田氏は、政治家の立場に立てば理解できるとしながらも、生活に困窮している国民にはその説明が届きにくいと指摘した。例として、政治家がスーパーを視察したときに秘書から財布を受け取っていた件を挙げ、「5人も6人も秘書がいるのか」という感覚とのずれがあると述べた。旧文通費の公開義務化は前進だが、それなら立法事務費も公開すべきではないかとも問うた。林氏は、自民党では立法事務費はすべて党に入っており、各党が同じ条件で公開する方向の議論になると答えた。さらに、不記載問題をきっかけに不満が噴き出した今こそ、徹底的に公開して、どれだけのコストで何をしているかを理解してもらう機会だと述べた。中田氏は、非公開の制度は「政治家は悪いことをしない」という信任を前提に余地を残していたもので、その信任が不記載で裏切られたことが今の怒りの正体ではないかと整理した。

20:49

責任の取り方――選挙は終わっても党としては終わっていない

不記載問題の原因究明について、林氏は経緯を順に挙げた。検察の捜査と裁判、政治倫理審査会での弁明、岸田内閣での役職停止や除名といった党内処分、選挙での非公認である。林氏は、司法で無罪になっても政治責任はあり、信頼を裏切られたと思う人が多ければ選挙で通らないと述べた。衆院選と参院選で議席を大きく減らしたのは、その洗礼を受けたということだという。

中田氏は、選挙で洗礼を受けたから禊が済んだという考え方ではなく、立法府として適切な法整備をすることが国民の望む責任の取り方ではないかと問いかけた。林氏は政倫審で野党が質問に立つ意義を説明したうえで、こう述べた。個々の議員については、説明して納得してもらえた人が戻ってきた。しかし党全体としては、選挙が終わったから説明も終わったとはならない。それが過半数割れという結果であり、先の参院選の総括文書にも反省が書かれている。党としては終わった話ではない、というのが林氏の立場だ。

24:06

派閥の解散と麻生派の存続、宏池会の件

中田氏は、清和会(旧安倍派)では派閥ぐるみで還流や不記載が行われていたと確認したうえで、他派閥にも似た状況があったのではないかと尋ねた。林氏は、二階派では裁判に至ったものはなかったと述べた。自身の宏池会については、客観的に説明しなければならないとしたうえで、不記載はなかったが、誰かが返したお金を帳簿担当者が記載していなかった件があったと説明した。同時期に問題化したため強い批判を受け、官房長官就任後も会見で説明し、最終的に岸田総理(当時)が責任の取り方として派閥解散を決めたという。

なぜ麻生派だけが解散しなかったのかという問いに、林氏は派閥の性格から答えた。派閥は大学でいえば公認の体育会ではなく、学生が自由に作るサークルのようなものだという。麻生氏から聞いた話として、昔はどこかに属するのが当然ではなかった。大きい派閥が5つ、小さいものが10ほどあっても、全部合わせて党全体の半分程度で、「この人をいつか総理総裁に」と思う人が集まるグループだった。それが中選挙区制のもとで膨らみ、田中角栄氏の時代には100人を超えた。林氏は、これは本で読んだ知識だと断っている。小選挙区制になると党が公認や人事を決めるようになり、小泉内閣では閣僚を派閥推薦でなく一本釣りで選んだことで力関係も変わった。

解散の際に決まったのは、派閥がパーティーを開かないことであり、林氏は麻生派もこれを守っているはずだと述べた。派閥を残すかどうかは自主的な集まりの問題で、法律もルールもない。若手が10人集まる勉強会まで禁止するのか、何人以上ならだめなのかという定義の問題にもなるという。

30:00

政治資金パーティーと企業献金の位置づけ

中田氏は、派閥のパーティーは禁止されても個人のパーティーは続くことに「抜け道感」があると指摘した。また、政党交付金は企業・団体献金が政策に介入するのを防ぐため、国民からサブスクのように一律に集める仕組みとして作られたのではないかと問うた。

林氏は、企業・団体献金の廃止と政党交付金の導入がセットだったという説について、その場にいた伊吹文明元衆院議長が「そんなことはなかった」と証言していると紹介した。企業献金は、八幡製鉄事件の判決を根拠に、自由主義経済を守るために企業にも一定の範囲で政治活動の権利があるという考え方に立つ。政党交付金は、それとは別に各政党へ公平に配る仕組みとして議論された。ただし林氏自身は当時まだ議員ではなかったと断っている。アメリカでのインターン時代に見た、かごに小切手を入れていくファンドレイジングパーティーも、当時の議論のイメージにあったと聞いたという。そのうえで、納得のいく公開を徹底すべきだと繰り返した。

33:39

適正な経費とDX、「地上戦」との折り合い

中田氏は、今の国民感覚で妥当な報酬と経費はどれくらいかと尋ねた。林氏は5人規模の事業を例に、1人500万円として人件費で2500万円、そこに事務所代や電話代がかかると試算した。

中田氏は、DXはそもそも人件費を大きく下げる改善であり、手紙、ポスター、紙の手続きといった秘書業務自体を変える方向はないのかと迫った。チームみらいのように新しい方法で有権者に訴える例も挙げた。林氏は、会合に代理人を出す代わりにオンラインやタブレットで対応することは可能だとしながら、握手して「この人はやってくれそうだ」と感じてもらうことは、デジタルの情報だけでは「ちょっと自信がない」と答えた。有権者がそれで良いと考えるなら時代の変化とともにその方向に進めばいいが、まだ来てほしいと思う人に「うちはデジタルしかありません」と言っていいのかは迷いが残るという。

中田氏が、経費込みで6000万円が妥当か、2000万円減らして4000万円程度なら想像がつくかと重ねて問うと、林氏は「4000〜5000万、6000万ぐらい」と幅を持たせた。1年生議員と当選を重ねた議員でも違うため、まず経費を全部公開したうえで国民に判断してもらう、という結論に落ち着いた。

38:09

総裁選の紙投票への問題提起

DXに関連して、中田氏は総裁選の投票が紙で行われていることに疑問を呈した。昨年の総裁選で、国会議員が名前を呼ばれて1人ずつ紙を入れる光景を見た。過半数に届かず決選投票になり、同じ光景がもう一度繰り返されたときには「ひっくり返りそうになった」という。デジタル化やAIを進めると言う人たちが紙で投票しているのを見て、DXに不安がよぎったと述べ、M-1グランプリの1本目と2本目のネタのように、少なくとも2回目には工夫があってもいいのではないかと提案した。

林氏は「考えたことがなかった」と認めた。参議院の本会議では賛否ボタンによるデジタル投票ができること、マイナンバーカードの普及で本人確認の課題が解決に近づいたため、国政選挙でもスーパーで不在者投票ができるような仕組みが可能になるかもしれないことを話した。一方で、アメリカの議会もガチャンと入れる方式だと付け加えた。

42:24

物価高対策――短期の給付と長期のユニバーサルクレジット

後半は物価高対策に移った。林氏は、石破政権の給付金を引き継ぎつつ、長期的には英国のユニバーサルクレジットの日本版を作る構想を掲げている。

給付金について林氏は、参院選の公約として約束したこと、そして何よりすぐ実施できることを理由に挙げた。岸田内閣で給付と減税をセットで行った際、給付は年末までに市町村で始められたが、所得税の減税は年1回の仕組みのため反映が翌年6月になり、半年かかった。今から減税を決めても来年6月の物価状況は分からない。メールでも「今困っている」という声が届くので、電気・ガス代の支援に加えて給付を行うのは、すぐできるという意味で「ありかなと思っている」と述べた。ガソリンの暫定税率廃止も与野党で合意しており、年内のなるべく早い実施を目指すという。

ユニバーサルクレジットについて林氏は、児童手当や住居手当のようにばらばらの社会的支援を一本化する仕組みだと説明した。収入、子育て費用、税金、保険料を家計簿のように見て、負担感に応じて支援する。中田氏が「症状ごとに薬を出すのではなく、人間ドックで全体を見てから薬を出す感じ」とたとえると、林氏は「いただき、それ」と喜んだ。英国では15年かかったとされるが、林氏は前例があればコロンブスの卵のように早くできると考えている。全国民のデータを取るのではなく、世帯を類型化してポイント化するなどして、総裁任期の残り2年で目処をつけたいという。

林氏はさらに、欧州の先進国と比べると、日本では住民税を払い始める所得層で税と保険料を合わせた負担が「ポコっと」跳ね上がると説明した。英国はこの段差に気づいてなだらかにしたのだと思う、と述べ、その穴を埋めるのがユニバーサルクレジットだとした。給付は一度きりだが、この仕組みは恒常的なので、子どもが中高生のあいだは支援が続くと分かり、家計の見通しが立つ。

中田氏は、参院選で示された「NO」には、給付が少なく遅かったという不満と、恒常的な減税を求める気持ちの2つがあったのではないかと問うた。林氏は両方あると答えた。

49:55

シンガポール型の即時給付はなぜ難しいか

中田氏は、国民番号と口座が紐付いていて、建国記念日にスマホの銀行アプリへお祝い金が入るシンガポールの例を挙げた。日本でもマイナンバー、銀行ネットワーク、スマホを組み合わせて、発表の翌週や翌月に給付が届く仕組みは作れないかと尋ねた。林氏は「ここまでの質問をされたことはない」と驚き、まさにその検討をしてきたと明かした。

林氏によると、マイナンバーカードの普及率は6〜7割で、紐付けられた公金受取口座は約6000万口座に達している。ただ、紐付けは義務化できないため、残りの人をどうするかが問題になる。シンガポールは人口が東京規模で、全員に義務付けているのではないかと林氏は見る。また全銀ネットの送金能力では、1億人に送るには数か月かかってしまう。公約作りの際には、6000万人には国から直接配り、口座のない人には自治体が配る案も検討した。しかし、例えば下関市には、市民のうち誰がその6000万人に含まれるかのデータがない。国のデータを市町村ごとに分ける作業が必要になり、そのたびに「時間がない」という結論になったという。

ユニバーサルクレジットは恒久的な制度なので、支払い方もこの機会にきちんと作れば、ずっと使えると林氏は言う。毎年使う制度になれば、全銀ネットの側も設備投資を考えるだろうとも述べた。

54:53

減税の選択肢――社会保険料、所得税、消費税

中田氏は、維新が掲げる社会保険料の引き下げ、国民民主党の所得税の壁、れいわなどの消費税減税のうち、林氏のビジョンに入りうるのはどれかと尋ねた。

林氏が最も近いとしたのは社会保険料だ。維新とはすでに半年ほど議論を重ねている。保険料を下げるには医療の支出側をどこで減らすかを決める必要があり、不安を招かないよう案を出し合って何往復も議論していると説明した。

所得税については、払い始めるのが年収340〜350万円程度なので、本当に厳しいその下の低・中所得層には届かず、高所得層にも効いてしまうと指摘した。財源がいくらでもあるならやってもいいが、金利がある中では困っている人に絞るべきだという。中田氏が、所得税減税を掲げる小林鷹之氏の案では困窮層への恩恵が少ないのではないかと確認すると、林氏はそれを認めた。

消費税について林氏は、民主党政権時代の三党協議の経緯を説明した。逆進性対策には、公明党が主張した軽減税率と、民主党(現在は立憲民主党)が主張した給付付き税額控除の2案があった。後者は時間がかかるとして軽減税率が採用された。最近、石破総理と野田代表の間で、マイナンバーの普及で状況が変わったとして給付付き税額控除の議論の場が立ち上がった。林氏はこの方向を支持する。消費税は社会保障に充てられ、医療などには保険料に加えて国費が半分ほど入っている。ここを削れば給付が切られるという不安につながるので、社会保障と一体で議論すべきだという。

中田氏が、税の原則である「公平・中立・簡素」からすると軽減税率も給付付き控除も簡素ではないと指摘すると、林氏は、軽減税率の線引きでイートイン問題が起き、「国税Gメンがマクドナルドを全件取り締まるのか」という話になったと振り返った。最も簡素なのは単一税率だが、所得が10倍の人がコメを10倍食べるわけではないので逆進性が生じる、と説明した。

1:02:52

財源論――金利のある世界、トラスショック、MMT

財源があるかないかで対立する議論について、林氏は慎重な立場を明確にした。アベノミクス期はマイナス金利で緩和していたが、ロシアのウクライナ侵略による石油高騰などでデフレから押し出されるように脱却し、金利がプラスの世界になった。同じ借金でも利払いが膨らむスピードが違い、市場もそれを知っている。緩いことをすればアタックされ、トラスショックのようになると林氏は述べた。

トラス元英首相は林氏が外務大臣だったときのカウンターパートで、チャーミングでシャープな人だったという。TPP加盟の話もしたが、財政の話はしたことがなかったので、あの展開には驚いたと振り返った。中田氏は、自国通貨建て国債だから大丈夫だという信念で財源を示さず大減税を打ち出し、国債と株が暴落して2か月もたずに退陣したと整理した。林氏は、英国はEUを離脱し独自通貨ポンドを使っている点で、円を持つ日本と同じだと指摘した。

自民党内にもいる、MMT的な発想で国債を増発すべきだという意見や、減税を阻んでいるのは財務省だという議論について問われると、林氏は「実験するわけにいかない」と答えた。失敗して困るのは政府ではなく国民で、リスクをどこまで取れるかは「博打」のような感覚があるという。能登の地震やパンデミックで必要な支出はするが、財政をきちんとする姿勢を市場に示し続けることが大事だとした。単年度のプライマリーバランス黒字化はほぼ達成目前で、次の目標は世界一高い債務残高の対GDP比を圧縮することだ。経済が成長すれば分母が増えるので、借金が少し増えても比率は下がりうると説明した。

自民党内で同じ考えの人は「結構多いんじゃないか」と林氏は見る。「緊縮財政派」「財務省と結託している」「ザイム真理教」といったレッテルで1〜2分の議論で結論を出されると伝わりにくいと述べつつ、ドイツやアルゼンチンのハイパーインフレのようになってはならないと強調した。また、借金は数十年後の納税者のお金を今使うことでもあると付け加えた。

1:10:57

実質賃金1%上昇目標と国家の役割

林氏が掲げる実質賃金1%上昇の目標について、林氏は、物価が2%上がるなら給料が3%上がる状態、つまり給与明細で3%増を実感できる状態だと説明した。

中田氏は、国が企業に賃上げを強制できるのかと問うた。林氏は、強制できるのは最低賃金だけだと認めた。政府にできるのは、成長戦略で企業の収益を伸ばして賃上げにつなげることと、人件費を増やした企業の法人税を軽くする税制で後押しすることだという。中田氏は、賃上げ優遇税制は租特であり、「公平・中立・簡素」から外れていくと反論した。国家の役割が富の再分配なら、それは税制設計で行うべきで、企業に賃上げを要請するという経路は間接的で受け入れにくいと述べた。

林氏は、賃金は労使交渉で決まるのが基本だと認めた。そのうえで、安倍政権以来の政労使会議は、メディアも入れて世の中の機運を醸成する「運動論」であり、国家の権力的な再分配とは性格が違うと説明した。中田氏は、空気の醸成を12〜13年続けても課題が解決していないのは、企業が利潤追求を許されているからであり、内部留保が過去最高なのに賃金に反映されないなら、法人増税と消費減税で再分配すべきではないかと踏み込んだ。

1:16:45

法人減税は「うまくいかなかった」――税制大綱の総括

これに対し林氏は、党税制調査会で実はずっと議論してきたと明かした。民主党政権からの交代直後、シンガポールなど各国が法人税を下げ、引き下げ競争が起きる中で、国際競争力を保つために日本も下げた。ところが2〜3年前の税制大綱には、法人税を下げても設備投資や賃金の増加にはつながらず、「うまくいかなかった」と明記されているという。それがアベノミクスの定義に含まれるかは分からないとしながらも、法人減税の効果があまり出なかったことは文書に残っていると述べた。

内部留保には海外投資に回った分もあるが、現金も増え続けている。自社株買いで1株あたりの価値を上げることも自由ではあるが、それよりも設備投資や賃上げに使ってほしいという議論を中でしてきたと林氏は言う。中田氏が、株価が4万円を超え4万5000円をうかがうのに誰も喜んでいないと指摘すると、林氏も、昔は株価が上がるとみんなが喜んだが、今は大企業の業績と国民生活が乖離していると認めた。その因果をリバランスする方向は「ありだと思います」と述べた。具体策としては、法人税率を全体として引き上げ、研究開発や将来の賃上げに使う企業だけ負担を軽くすれば、より効き目が出るという方向の議論がすでにあるという。

林氏は、政策は良かれと思ってやるが、思い通りにいかなければ方向転換すべきだと語った。自由貿易で最も安いところで作ればよかった時代とは違い、オーストラリアが新型コロナの発生源に言及したら中国がワインを買わなくなった例や、日本が外交問題で鉱物の輸出を止められた例のように、貿易がカードに使われるようになった。当時はなかった「経済安全保障」という言葉が生まれたように、時代に合ったことをやる必要があると述べた。

中田氏は、法人減税に効果がなかったという話を自民党から聞いたのは初めてだと述べた。アベノミクスは成功していたが財務省の増税で成長が止まった、という議論ばかりが聞こえ、大企業を優遇して国民生活を困窮させる体制を本当に反省しているのか分からなかった。それが経済でも政治とカネでも信頼を損なっていたが、そうした総括があるなら状況は変わるかもしれない、と率直に語った。林氏が「今度その紙を持ってきますよ」と言うと、中田氏が「紙じゃなくてデジタルがいい」と返し、林氏は「1本取られた」と応じた。

対談の最後、中田氏はまだ聞きたいことがあるとして、総理になった後に改めて話を聞かせてほしいと依頼し、林氏はこれを受けた。林氏は、どこを軸に発信すべきか学びがあったと述べて対談を締めくくった。