【ReHacQvsIVS2026】「増益20%では足りない?」投資家が明かすグロース市場の残酷な現実【藤野英人×田端信太郎×朝倉祐介×持田昌幸】

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概要

新興企業が新規公開(IPO)を果たした直後に成長が鈍化し、株価が低迷する「上場ゴール」の問題が指摘され続けている。同時に、東京証券取引所グロース市場の低迷やIPO件数の減少など、新興市場全体が厳しい局面に立たされている。

見出し付き・読了10分

スタートアップが上場後も成長を維持し、長期的な資本を引き付ける市場をどう形成すべきか。カンファレンス「IVS」のセッションにおいて、モデレーターの藤野英人氏(レオス・キャピタルワークス創業者)、田端信太郎氏(アクティビスト個人投資家)、朝倉祐介氏(アニマルスピリッツ代表)、持田昌幸氏(タイボーン・キャピタル・マネジメント 日本株投資責任者)の4名が、公開市場の投資家視点とスタートアップ経営の実態から議論を交わした。


グロース市場の現状と上場株投資家の冷徹な視線

セッションの口火を切ったのは、アクティビスト個人投資家として活動する田端信太郎氏である。田端氏は、日経平均株価が高値を試す一方でグロース市場全体が低迷し、大型株や半導体関連など値動きの強い銘柄にばかり資金が向かう「モメンタム」相場が続いている現状を指摘した。

田端氏によれば、上場株式市場における「成長(グロース)」の定義は、未上場市場で多用されるユーザー数や売上高の拡大ではなく、「利益成長」そのものを指す。インフレ環境下において、新興企業が決算説明会で誇らしげに前年同期比10〜20%程度の増益率を示すことに対し、田端氏は強い違和感を示した。グローバル市場には利益が急伸する銘柄やS&P500、有力なグローバルテック企業といった選択肢が豊富に存在するなかで、設立から数年の新興企業がわずかな増益率にとどまるのであれば、相対評価として資金を投じる合理性は薄いと主張した。

一方、タイボーン・キャピタル・マネジメントで日本株投資責任者を務める持田昌幸氏も、半導体一色のようなトレンド相場に触れつつ、最終的に投資家が注視するのはテーマ性や売上規模ではなく、収益性と将来のフリーキャッシュフローの創出力であると述べた。また、上場市場の投資家は時間軸を重視するため、「2年後に株価が上がる」と言われても、その確信が得られる材料(カタリスト)が出る時期まで買いを控える傾向がある点を指摘した。

なぜ「上場ゴール」や「スモールIPO」が生まれるのか

スタートアップが未熟な規模のまま上場を急ぎ、結果として上場ゴールに陥ってしまう背景には、国内の資本供給構造が関係している。アニマルスピリッツの朝倉祐介氏は、未上場段階で数十億〜数百億円規模のリスクマネーを供給するプレイヤーが不足していた過去の構造を振り返った。

朝倉氏が過去に設立したレイターステージ向けファンド「THE FUND」での経験によれば、当時最も競合したのは他の未上場投資ファンドではなく、当時の東証マザーズ(現グロース市場)そのものだったという。起業家は上場が現実的に見えてくると、上場準備の苦労を考慮しても早期のIPOを選びがちになる。

これに対し、セッションでは起業家の置かれた経済的インセンティブの課題も浮き彫りになった。藤野英人氏は、米国の起業家と異なり、日本のスタートアップ創業者には高額な役員報酬を取らずに身を削って経営している者が多く、資金的な事情から早期のイグジットを望むケースが少なくないと補足した。

田端氏からは「それならばIPOを焦る前に、未上場の段階でベンチャーキャピタル(VC)が創業者の持ち分の一部を買い取って息をつかせることはできないのか」という疑問が投げかけられた。朝倉氏は、かつては創業者が途中で株式を現金化することへの根性論的な批判が存在したものの、現在ではセカンダリー取引によって創業者が持ち分の一部を売却する事例が出始めていると説明した。

また藤野氏は、支配権を維持しようとするあまり創業者が自社株を担保に融資を受け、その後の市場下落によって強制的な売却に追い込まれるリスクにも言及した。制度設計や個人のインセンティブ構造を複眼的に捉えなければ、根性論だけで上場ゴールの問題を解決することはできないという見解で一致した。

日本市場におけるM&Aの壁とプライベート・エクイティの台頭

早期の上場に代わる出口戦略としてM&A(企業の合併・買収)の活性化が挙げられるが、日本国内では大型M&Aが極めて起きにくい現状がある。朝倉氏は、米国のスタートアップのイグジットはおよそ8〜9割がM&Aであるのに対し、日本はその比率が逆転していると指摘した。さらに、国内のM&A案件の多くには「約50億円のガラスの天井」が存在し、数百億〜数千億円規模のディールは金融系などの特定セクターを除けば稀であると述べた。

田端氏は、大企業側が買収後のバリューアップに自信を持てず、減損処理による責任追及を恐れて50億円前後の無難な規模にディールを抑え込んでいると分析した。さらに、買収された側の創業者が子会社社長や本体の役員に就任した際、大企業のプロパー社員との間で生じる待遇差や嫉妬といった感情的軋轢、年功序列的な組織力学も阻害要因になっていると論じた。藤野氏も、解雇規制をはじめとする日本の硬直的な労働市場が、M&A後の機動的な組織再編を難しくしていると同意した。

一方で持田氏は、事業会社による戦略的買収(ストラテジックM&A)だけでなく、国内外のプライベート・エクイティ(PE)ファンドの規模拡大と存在感の向上に注目した。持田氏自身の関与先でも事業会社ではなくPEファンドへ売却した事例があるとし、IPO以外の現実的な受け皿としてPEファンドが機能し始めていると評価した。田端氏も、自身が投資していたインフォリッチの事例などを挙げ、市場で過小評価された企業がプレミアムを伴って買収・MBO(経営陣による買収)される動きに期待を寄せた。

規制強化のジレンマ:スモールIPO排除と市場の選別機能

新興市場の健全化をめぐる議論のなかで、オルツの粉飾決算疑惑をはじめとする不正事案が市場に与えた悪影響が取り上げられた。朝倉氏は、こうした不正企業は真面目に事業を行うスタートアップやVCにとって極めて迷惑な存在であると強く批判した。

しかし同時に朝倉氏は、旧マザーズ発足以降の上場約1,000社のうち、社会的な問題となった粉飾等はわずか10件程度(約1%)に過ぎないというデータを提示した。1%の不正を取り締まるために残りの99%に対して過度なデューデリジェンスや引受審査の厳格化を課し、資金調達の円滑さを損なう制度設計には疑問を投げかけた。さらに、時価総額100億円未満の企業に退出を促すグロース市場改革の趣旨は理解できるとしつつも、エス・エム・エスやシフト、ZOZOのように初値時の時価総額が数十億〜200億円程度であっても、その後に大きく成長した優良企業が存在することを挙げ、入り口の審査基準まで一律に狭めてしまうことへの懸念を示した。

藤野氏は、取引所の審査部門や証券会社の引受部門が「将来成長するものや面白いもの」を目利きできるのかという本質的な問いを投げかけた。事件が起きるたびに「正しい経営」や確実な予測可能性ばかりが求められ、非連続な成長を目指す企業が市場から締め出されるという矛盾が深まっていると指摘した。

田端氏は投資家の立場から、未上場時の評価額を下回って公開する「ダウンラウンドIPO」をむしろ歓迎すると発言した。評価額が十分に下落した状態で市場に出てくることは、未上場のVCが享受するはずだった成長余地が公開市場の投資家へ開放されたことを意味するためである。株式市場はそもそも自己責任原則に基づくミスプライシング(価格の歪み)を見つける場であり、情報開示に虚偽がない限り、過保護な規制で優良な投資機会まで奪うべきではないと論じた。悪意を持った粉飾行為には20〜30年の厳罰を科すべきだが、市場全体の取引基準を過剰に硬直化させるのは本末転倒であるという考えである。

上場企業はいかに株主と対話すべきか

時価総額100億〜200億円規模の銘柄において証券アナリストのカバーが途絶えるなか、個人投資家との直接的な接点が重要性を増している。田端氏は、「湘南投資クラブ」や「カブベリー」といった個人投資家の自主的な勉強会を例に挙げた。こうした場に登壇する中小型企業の経営者に対し、参加者からアナリスト顔負けの鋭敏な質問が飛ぶケースが増えているという。生成AIの活用によってリサーチ環境が平準化された現在、真摯に情報開示を行う企業であれば、直接投資家とエンゲージメントを築く好機が広がっている。

一方、IR(投資家向け広報)のあり方について、登壇者からは短期的な株価対策への警鐘が鳴らされた。朝倉氏はミクシー経営時の経験から、日々の株価の上下には過度に惑わされず、中長期で本質的な企業価値を返すための組織・事業作りに集中していたと振り返った。一時的なブームで業績や株価が急騰した際には、資本コストの上昇と市場の過剰な期待を冷ますため、あえて慎重なIRを行ったという。

持田氏もこれに同調し、業績の改善が本物であれば、いずれ市場の誰かが割安さに気付いて評価を見直すと述べた。ファーストリテイリングなどのように、過度なアピールを行わずとも着実に実績を積み上げる企業には長期でプレミアムが付与されるとし、経営は「ロングゲーム」であると説いた。

田端氏は、四半期決算が2〜3回良かった程度で「株価が評価されない」とSNSで不満を漏らす新興企業経営者が散見される点を批判した。市場から継続的な高い株価収益率(PER)を付与されるのは、一過性の急伸を演じる企業ではなく、3〜5年にわたり期初の約束を着実に守り、安定した成長軌道を維持する企業である。サイバーエージェントの藤田晋氏がメディア事業への大規模投資を行いながらも営業利益の階段状の推移を意識した事例を引き合いに出し、上場企業には「関係者にネガティブサプライズを与えないプロセス管理」が不可欠であると説明した。

藤野氏も、株価は「EPS(1株当たり当期純利益)×PER(株価収益率)」で決まる原則を改めて提示した。時価総額が小さく地味な銘柄であっても、年率20〜30%の利益成長を3〜5期連続で達成すれば、EPSの拡大に加えてPERの急拡大(マルチプル・エクスパンション)が起き、株価が数倍に跳ね上がる。未上場時の「結果がすべての大逆転劇」という論理と、上場市場の「計画の再現性と透明性」という論理の違いを、起業家は深く理解する必要があると総括した。

セッションの結論:資本市場と向き合う起業家への提言

セッションの締めくくりとして、登壇者各氏からスタートアップ市場の活性化に向けた最終的なメッセージが提示された。

朝倉氏は、ウォーレン・バフェットの「良い事業家であるから良い投資家であり、良い投資家であるから良い事業家である」という言葉を引用し、経営者と株主は対立する関係ではなく、長期的な企業価値向上を共に目指すパートナーであると述べた。起業家自身が投資家の視座を持って経営に当たることが肝要であると語った。

田端氏は、上場後のIRを証券会社やCFO任せにせず、自社の製品やサービスを顧客に届けるマーケティングと同じ意識で捉えるべきだと提言した。「自社の株券」にとってのターゲット投資家は誰であり、競合との差別化要因は何かを経営者自らが突き詰めることが、株主に選ばれる必須条件であるとした。

持田氏は、究極的には業績の裏付けがすべてであり、数字が伴っていれば株価はいずれ追いつくと総括した。また未上場企業に向けては、事業計画の進捗に合わせて未上場段階から既存株主を段階的に入れ替えていくような、柔軟で最適化された資本政策の重要性を説いた。

最後にモデレーターの藤野氏は、市場に向き合う心構えとして「株価は常に正しい」と「株価は常に間違っている」という一見矛盾する二つの命題を提示した。市場で形成された価格である以上はその現実に謙虚でなければならないが、同時に市場価格が企業の真の価値と完全に一致することは稀であり、過大評価か過小評価の振れ幅の中に常に存在している。この乖離の構造を冷静に見極め、事業と市場の双方に向き合い続けることが、上場ゴールを超えて持続的に成長するための指針として示され、セッションは幕を閉じた。