ビール大手4社にカルテル疑惑、物価高でなぜ摘発が相次ぐのか:松井彰彦教授がリーニエンシー制度をゲーム理論で読み解く
テレ東BIZ ダイジェスト大手ビール4社に、出荷価格をめぐるカルテルの疑いが持ち上がった。BSテレ東「NIKKEI NEWS NEXT」は、ゲーム理論を使って経済慣行がどう生まれ、どう続くかを研究する東京大学の松井彰彦教授をゲストに招き、この問題を取り上げた。番組が問いかけたのは次の点である。物価高の中で価格カルテルの摘発がなぜ増えているのか。違反を自主申告すれば課徴金が減免される「リーニエンシー制度」は、なぜ不正の解明に効くのか。松井氏は、物価高がカルテルを起こしやすく、かつ見つかりにくくしていると指摘する。そのうえで、リーニエンシー制度は「囚人のジレンマ」の構造を使って企業同士の協調を崩す仕組みだと説明した。
ビール4社への強制調査と「やっていたか」という感想
番組によると、公正取引委員会は7日、アサヒビール、キリンビール、サッポロビール、サントリーの4社に対し、独占禁止法違反の疑いで強制調査に入った。4社は数年前から、ビールや発泡酒などの出荷価格を事前に話し合って調整するカルテルを結んでいた疑いが持たれている。公取委側は「調査をスタートしたところであり、まず事実関係の解明をする必要がある」との立場を示している。
番組が示した経緯は次のとおりである。4社は2022年10月と2025年4月に同じタイミングで値上げした。酒税改正があった2020年10月と2023年10月、そして今年10月には、改正分を出荷価格に反映した。小売価格はオープン価格としているが、結果として各社の主力商品の値段はほぼ同じ水準になっている。
この価格推移の表を見た松井氏の感想は、「やはりやっていたか」というのが正直なところだというものだった。
どこからがカルテルになるのか
番組では、何をもってカルテルと認定されるのかも確認した。松井氏によれば、理論上の線引きは比較的簡単である。競合企業同士が話し合い、価格の具体的な金額や値上げのタイミングを決めた時点で、それはカルテルになる。
ただし松井氏は、これは理論上の話だと付け加える。実際に摘発するには、話し合った事実がメールや文書など何らかの形で残っていなければならず、そうでなければ摘発にはなかなかつながらないという。
カルテルが取り締まられる理由について、松井氏は次のように説明する。協調して値上げをすれば当然消費者が損をし、経済学的には社会全体にも損失が出るとされる。そうした社会に反する行為だから取り締まる必要がある、という考え方である。そのうえで、話し合いがあったかどうかは外から分かりにくい。だからこそ政府や公取委が努力を重ね、制度改正を進めてきたのだと述べた。
物価高が「上げやすく、バレにくい」環境を生んだ
最近はアイスクリーム、軽油、人材派遣など、カルテルの枠組みでの摘発や強制調査が相次いでいる。なぜ今こうした動きが目立つのかという問いに、松井氏はいくつか理由があるとしたうえで、最も大きいものとして近年の物価高を挙げた。
松井氏の見立てでは、さまざまなモノの値段が上がる中で、企業は価格を上げやすくなった。同時に、周囲が一斉に値上げしている状況では、話し合って値上げしても発覚しにくくなった。一方で摘発が増えている点については、協調した値上げは社会のためにならないとして公取委が取り締まりを強化していることも見逃せないと指摘した。
番組の司会からは、来年4月に予定されている食品の消費減税についての質問も出た。ここ数年は10月や4月といった節目に大量の商品が値上げされてきたが、消費減税は逆に値段を下げる方向の動きになる。この影響について松井氏は、高市首相も言及していたように、消費減税分がそのまま価格に反映されるとは限らないと述べ、それは経済原理としてやむを得ない面があるとの見方を示した。ただ、その中で値下げ幅を企業同士で調整するようなカルテル的な行為が出てくる可能性もゼロとは言えないとしている。
売上高の10%という課徴金
番組は独占禁止法の仕組みも整理した。独禁法は「不当な取引制限」を厳しく禁じており、違反には裁判所が科す刑事罰と、公取委が命じる行政処分がある。行政処分では、違反期間中の対象商品・サービスの売上高の10%を課徴金として納めるよう命じられる。
課徴金は高額になりうる。番組によれば、2023年には大手電力会社が企業向け電力の供給をめぐってカルテルを結んだとして、過去最高となるおよそ1000億円の課徴金納付命令が出た。
課徴金の額が近年上がっている点について、松井氏は、大型案件での摘発が出てきたことが大きいと述べる。それを裏で支えているのが制度改正、特にリーニエンシー制度だという。もっとも松井氏は、この制度は導入から20年ほど経っており、新しい制度とは言いにくいとも付け加えた。
リーニエンシー制度とは何か、なぜ導入されたか
リーニエンシー制度は、日本語では「課徴金減免制度」と呼ばれる。事業者が自ら関与したカルテルや入札談合について、違反内容を公取委に自主的に報告すると、課徴金が免除または減額される。公取委の調査開始前に最初に報告した事業者は、課徴金が全額免除される。番組によれば、リニア中央新幹線をめぐる談合や大手電力会社のカルテルでも、この制度によって不正が明らかになった。2025年度の申請件数は過去最多となった。
導入の背景について松井氏は、制度ができる前の2006年以前はカルテルの摘発がまったく進まなかったと説明する。カルテルは話し合いである以上、証拠をつかむのが難しい。証拠は内部からの通報がないとなかなか得られないため、証拠集めのための通報を促す必要があった。リーニエンシー制度は「通報すれば許す」という制度であり、それによって通報が進んだのではないかと松井氏は述べた。
司会が「制度ができる前は確たる証拠を得るのが難しかったが、今は通報した企業がメールや書類などを提供するので、裏付けが得られて全容を解明できる、という理解でよいか」と確認すると、松井氏はその理解でよいと答えた。
囚人のジレンマで見る「通報しない協調」から「先を争う通報」へ
番組では、この制度がゲーム理論の「囚人のジレンマ」に基づくとされる点を、松井氏が2つの表を使って説明した。
左側の表はリーニエンシー導入前の状況である。企業Aと企業Bがどちらも通報しなければ、カルテルによって例えば4億円ずつ儲けられる。どちらかが通報すると、その利益はなくなる。この条件では、両社とも通報しないことを選ぶ。つまり、どちらも協調を選ぶ結果になる。
右側の表はリーニエンシー導入後である。この制度では、自分が先に通報すれば得をする。松井氏は、先に通報すればライバル企業に打撃を与えることもできると指摘する。自分が通報して相手が通報しなければ、例えば3億円といった大きな利潤が得られる。逆に相手に先に通報されると大赤字になる。こうなると、互いに「相手が通報するのではないか」という疑心暗鬼が広がり、通報するインセンティブが生まれる。松井氏は、これがこの制度の狙いだと説明した。
課徴金の大きさが通報の動機を支える
司会は、通報したほうが得だと企業に感じさせるほど、現在の課徴金は大きくなっているのかと尋ねた。松井氏はこれを肯定した。制度設計の段階で議論になったのは、売上高の10%という水準だったという。大企業であれば相当な額になるため、これだけの課徴金を科せば通報するインセンティブが出てくるだろうと考えられた。そして実際に、現実もそうなったと松井氏は述べた。
司会が、近年続々と出ている大型案件、何千億円単位の課徴金が話題になるような案件の背景にこの仕組みがあるということかと確認すると、松井氏はそうだと答えた。
番組の公開部分はここで終わり、リーニエンシー制度についてさらに詳しく聞いていくとして、議論は後半に続くとされた。
先週明らかになった大手ビール4社による価格カルテル疑惑。数年前からビールなどの出荷価格を巡りカルテルを結んでいたとして、独占禁止法違反の疑いで公正取引委員会の調査が始まりました。
まさに今、調査をスタートしたところでありますので、本件についての事実関係という、事実解明というところをまずやる必要があると。
公取委の調査では、事実解明をしやすくするために設けられたリーニエンシーという制度があります。違反の事実を他社よりも先に申告することで、課徴金の免除や減額が認められるもので、経済学のゲーム理論を基に作られています。
リニア中央新幹線を巡る談合や、大手電力会社によるカルテルでも、この制度で不正が明らかに。2025年度はこの制度の申請件数が過去最多となりました。
不正の当事者たちの絆を切り裂くリーニエンシーとは。ゲストをご紹介します。ゲーム理論を基に経済慣行がどう生まれ、どういくかなどを研究している東京大学教授の松井彰彦さんです。よろしくお願いします。
よろしくお願いいたします。
今ご覧いただいた通り、7日に公正取引委員会は国内大手4社を独占禁止法違反の疑いで強制調査しました。アサヒビール、キリンビール、サッポロビール、サントリーは、ビールや発泡酒などの出荷価格を事前に話し合って調整するカルテルを結んだ疑いが持たれています。
4社は2022年10月と25年4月に同じタイミングで値上げしたほか、酒税改正があった20年10月、そして23年10月、今年10月に改正分を出荷価格に反映し、小売価格はオープンとしていますが、結果的に各社の主力商品の値段はほぼ同じとなっています。まずは松井さん、このビール4社のカルテルについて、どういうふうに見てらっしゃいますか。
やはりこの価格推移の表を見ても、やっぱりやっていたかっていうのが正直な感想ですね。
カルテルは、話し合って値上げ幅でしたりタイミングを相談するということですよね。具体的にどこからがカルテルであると認識されるものなんでしょうか。
はい。理論的には割と簡単で、話し合って価格の実際の金額ですね。それから、いつ上げるなら上げるか、そういうことを決めたら、もうその時点でカルテル。ただこれは理論的な話で、現実にはやはり話し合った事実、それがメールであったり文書であったり、何らかの形で残っていないと、なかなか摘発にはつながらないかなと思います。
基本的にはカルテルというのは、共謀して値上げに向かうことが多いということですよね。
そうですね。やはり値上げをしてしまいますと、消費者が当たり前ですけど損をするというところで、経済学的には社会的にも損失が出ると言われているので、そういった社会に反する行為、これは取り締まらなくてはいけないと、そういう考え方になるかなと思います。
ただ、話し合ったかどうかというのは、なかなか分かりづらいものがありますね。
公正取引委員会、政府もいろんな努力をしてきて、制度改正とかを行ってきたというところがあると思います。
最近ではアイスクリームでしたり、軽油、そして人材派遣など、カルテル疑惑で摘発や強制調査が相次いでいます。直近の動きがこう大きくなっているのはどうしてなんでしょうか。
はい。いくつか理由はあると思うんですけれども、1つ大きいのはやはり近年の物価高かなと思います。いろいろなものの価格が上がっている中で、価格を上げやすくなったと。同時に、陰で話し合って上げてもバレにくくなったというところはあるかなと思います。
摘発が増えてきたのは、それに伴って、やはりそういう共謀して値上げするのは社会のために良くないからということで、公正取引委員会も取り締まり強化を図っているというのも、見逃せない点だとは思います。
確かに直近ここ数年ですね、10月でしたり4月でしたり、そういった節目のタイミングでものすごい数の商品が値上げされているという印象があるんですが、ただ来年4月には消費減税も控えていますよね。これはどちらかというと物の値段が下がるというふうに、食品に関してはですね、そういう動きだと思うんですが、どういうふうな影響があると見ていますか。
はい。まずは高市首相が言われていましたけれども、消費減税分は価格は下がらないだろうと。もうこれは経済原理で仕方がないかなと思うんですけれども、中にはそこで下げ幅を調整するようなカルテル的な行為というのも出てくる可能性がゼロとは言えません。
では、そもそもこの独禁法に関してちょっと確認していきたいんですが、不当な取引制限を厳しく禁止しています。裁判所が科す刑事罰のほかに、公正取引委員会が命じる行政処分があります。これは違反行為の期間中に関する対象商品・サービスの売上高の10%の課徴金納付が命じられるということです。
この課徴金というのが高額でして、2023年には大手電力4社が企業向け電力の供給を巡ってカルテルを結んだとして、最高となるおよそ1000億円の課徴金命令が出るということですね。松井さん、近年、課徴金の金額も上がってきているんですね。
はい。大型案件で摘発が出てきているというのが1つ大きな点です。それを裏で支えているのが制度改正、特にリーニエンシーという、20年前なので新しいとは言いづらいんですけれども、そういう制度かなというふうには思います。
そのリーニエンシー、摘発が進むきっかけとなっているということですけれども、課徴金減免制度というものだそうです。事業者が自ら関与したカルテル、入札談合について、違反内容を公正取引委員会に自主的に報告した場合、課徴金が免除または減額される制度ということで、公正取引委員会の調査が始まる前に一番初めに報告した事業者が、なんと全額免除されるそうです。これはどういった経緯で導入されたんでしょうか。
はい。やはりこれ、導入前、2006年以前はですね、カルテルの摘発が全然進まなかったんですね。なぜ進まなかったかというと、カルテルは話し合いですから、証拠をつかむのが難しいんですよ。
証拠はやはり通報がないとなかなかつかめないということで、この証拠集めのための通報、これを促さないといけない。このリーニエンシー制度というのは、通報すれば許してあげるよという制度なので、それによって通報が進んだというところがあるんじゃないかなと思います。
これはカルテルが起きていたということを証明するためには、例えばメールであったりとか、書類のやり取りだったりとか、確たる証拠が必要なわけですよね。
はい。それを得るのもやはりこの制度ができる前は難しかったけれども、今だったら通報した企業がそういうものを提供するので、確たる裏付けが得られて全容が解明できる、そういうふうに。
そういう理解で良いかなと思います。
このリーニエンシー制度は、ゲーム理論の囚人のジレンマというところから来ているということなんですが、具体的にはどういうことなんでしょうか。
はい。例えばこの表、2つ並んでいますが、左側の表がリーニエンシー導入前の表で、企業Aと企業Bが通報しなければ、例えば4億円なら4億円を山分けできると。どちらかが通報してしまうと、それがパーになると。じゃあ企業A、Bはどうしますかっていうと、やっぱりこれ通報しませんよね。
そう。どちらも通報しないことを選ぶ、協調を選ぶということですね。
それに対してリーニエンシーというのは、自分が先に通報すれば得をする制度になっているんですね。特に相手、ライバル企業に痛手も与えられますから。そういうところで通報すると、これ右側の図ですけれども、自分が通報すると、相手が通報しなければ大きな、例えば3億円なら3億円という大きな利潤が得られると。相手に通報されると、赤字、大赤字、損すると、いうところで、お互いに通報するという、疑心暗鬼が広がってですね、通報するインセンティブが発生すると、そういう制度になっています。
お互いが通報しなかった時よりも、どちらかが通報して、自分が先に通報した方がインセンティブが大きくなるということですね。
これ、通報した方が自分たちが得する、損をするっていうふうに感じられるぐらい、今、課徴金の金額が大きくなっているということですか。
そう。やはり議論になって、売上高の10%、大企業であれば相当な額なので、これぐらいの課徴金を課せば通報するインセンティブは出てくるだろうと。実際に現実もそうなったということですね。
それがこの近年の続々と大型案件のですね、何千億円単位の課徴金という話の案件が出てきている、その背景にあるということだと思います。
はい。この後もリーニエンシー制度について、さらに詳しく聞いていきます。
記事公開 · 更新
