ブラジル大統領選、決選投票はフラビオ・ボルソナーロ氏が優位か 舛方周一郎氏が読む第1回投票の結果
テレ東BIZ ダイジェスト10月4日のブラジル大統領選挙第1回投票では、現職のルーラ大統領とフラビオ・ボルソナーロ上院議員がいずれも過半数に届かず、10月25日に両者による決選投票が行われることになった。テレ東BIZの配信番組「池畑修平の国際ニュースCORE」では、司会の池畑修平氏が、ブラジルの政治・外交を専門とする慶應義塾大学法学部准教授の舛方周一郎氏に話を聞いた。池畑氏は論点として、決選投票を左右する要因、アメリカの圧力とブラジルの対応、中国やBRICSとの関係を含む外交の選択の3つを挙げた。本稿はそのうち、主に決選投票の情勢と両候補の強み・弱みを扱った前半部分をまとめる。
事前予想と逆の結果は「想定内」
池畑氏によれば、事前の報道では、両者とも過半数には届かないものの、ルーラ大統領がやや優位のまま決選投票に進むという見方が多かった。実際にはフラビオ氏がリードする形になった。
舛方氏はこの結果を「想定内」だったと述べる。前回の大統領選挙では、ルーラ氏の得票率は世論調査とほぼ同じだった一方、保守のジャイル・ボルソナーロ前大統領(フラビオ氏の父)は調査より高い得票率を得たというデータがある。そのため今回も、第1回投票ではボルソナーロ側が拮抗するか、ルーラ氏を上回るのではないかという予想は以前からあったという。
保守候補の数字が世論調査で弱く出る理由
池畑氏は、アメリカでもトランプ大統領の支持が世論調査では実際より弱めに出ることがあると指摘し、ブラジルでも同じ現象なのかと尋ねた。舛方氏は、一部で「隠れボルソナーロファン」の存在を指摘する報道があることを認めたうえで、理由はいくつか考えられると説明した。
一つは、投票直前の動向を調べること自体が難しいという点である。他方で、一部の調査会社は保守をもう少し大きく評価すべきだとして補正をかけており、実際の結果にかなり近い得票率を示していたデータもあった。舛方氏は、全体としていまの世論調査はデータが取りづらくなっているとみている。
決選投票でも構図は変わらないと舛方氏は見る
第1回投票での得票率差はおよそ1.5ポイントで、僅差とされている。それでも舛方氏は、ボルソナーロ氏が優位でルーラ氏が不利という状況は決選投票でも変わらないだろうと見る。
最大の理由は「第3極」の動きである。第1回投票で敗れた候補者のうち複数が、すでにフラビオ氏支持を表明している。2022年の前回選挙では第3極の候補がルーラ氏についたことで、ルーラ氏は勝利できた。しかし今回は、選挙戦が始まる前から第3極にあたる候補の大半が保守系だったため、ルーラ氏につくのは難しいと考えられていたという。
さらに舛方氏は、ルーラ氏の側には新たに取り込める勢力がもう残っていないと指摘する。前回の時点で、ルーラ氏は中道から中道右派の第3極の人々をかなり自陣営に取り込んでいた。今回改めて新しい支持層を広げようとしても、有力な相手がすでにいなかったという。池畑氏が、第1回はわずかな差でも決選投票ではむしろ差が広がるかもしれないのかと問うと、舛方氏はその可能性が非常に高まっていると答えた。ルーラ氏は苦心しているが難しい状況だというのが舛方氏の見立てである。
現職ルーラ氏が苦戦した理由
舛方氏は、ルーラ氏をブラジル政治の長い歴史のなかでも非常に有名で、ブラジルを象徴する重要な人物だと評価する。そのうえで苦戦の要因として、まず年齢を挙げた。ルーラ氏はすでに80歳になり、本人に新しさがなくなっている。ルーラ氏がブラジルを変えてくれるという大きな期待は、もう十分には持たれていないという。
次に、労働者党に対する保守層の強い嫌悪感がある。ルーラ氏は過去の在任中から大きな腐敗の問題に直面してきた。現在も細かな汚職のニュースが出ており、こうした点からも多くの人の支持を得ることは難しくなっていたと舛方氏は見る。冒頭の発言では、「反ルーラ」「反ボルソナーロ」というように、どちらかが大嫌いだという声が非常に多く出ていることにも触れている。
経済状況も現職には逆風だ。舛方氏によれば、ブラジルではインフレが進んでおり、感覚的には日本より物価上昇が大きい。特にサンパウロなどでは物価が高騰しており、貧しい層の間でも不満が強い。ただし舛方氏は、インフレに現職が十分対応できていないのはブラジルに限らず、世界的な状況のなかで起きていることだとも述べた。池畑氏も、世界的な物価高は現職の指導者にとって非常に悪い材料になると応じた。
フラビオ氏の強みは治安対策と「父の影」
フラビオ氏の強みとして、舛方氏はまず治安を挙げる。労働者党が解決できなかった大きな問題の一つが治安である。ルーラ氏もマニフェストで治安対策に十分取り組むと掲げているが、より目に見える形で解決したいと訴えるフラビオ氏に期待が集まっているという。
もう一つは、フラビオ氏本人への期待というより、父ジャイル・ボルソナーロ氏への期待である。フラビオ氏以上にジャイル氏を応援していた支持者が、その息子であるフラビオ氏に期待を寄せていると舛方氏は分析する。池畑氏が親子は外見もよく似ていると指摘し、ブラジルの人々にはジャイル氏の再来のように映るのかと尋ねると、舛方氏は選挙戦が始まってから現地で調査した際のエピソードを紹介した。フラビオ氏の叔父も今回の選挙に出ており、その叔父もよく似ているという。ジャイル氏が注目を集めたことで、ボルソナーロ一家全体、そして息子の注目度も高まっていると舛方氏は見ている。
ブラジルでは政治家の世襲への抵抗感は小さい
池畑氏は、ブラジルでは世襲的な政治家への抵抗感があまりないのかと尋ねた。舛方氏によれば、世襲への批判は一部にあるものの、多くの政治家の家系で世襲が続いている。自分の支持基盤を守りたいと考える政治家は非常に多く、特に保守の側では、また同じ一族の息子が出るという状況がずっと続いてきたという。
「南米のトランプ」ジャイル氏の素顔
最後に池畑氏は、ジャイル・ボルソナーロ氏が「南米のトランプ」と呼ばれ、言動が過激だったという印象を挙げ、その実像を尋ねた。冒頭では舛方氏が、「南米のトランプ」「熱帯のトランプ」と呼ばれたトランプ氏とボルソナーロ氏については、文脈を分けて考える必要があると述べている。
舛方氏は以前ジャイル氏にインタビューを申し込み、直接話したことがある。その印象では、ジャイル氏は非常にフランクな人物だという。一般にブラジルの政治家にはお高くとまった印象があるなかで、ジャイル氏は身近にいるおじさんのような素朴な人で、いつもにこにこしており、特に保守層から好かれる存在だったと舛方氏は語る。
ただし舛方氏は、ジャイル氏が過激になる状況にはいくつかのポイントがあると話し始めたところで、今回の動画は終わっている。その条件や、アメリカの介入、中国・BRICSとの関係といった残りの論点は、後編で扱われる予定である。
1回目リードしたボルソナーロがかなり有利と見ていいんですか?
今、得票率差はおよそ1.50%程度、僅差というふうに言われているんですが、彼のお父さんですね、ジャイル・ボルソナーロさんに対する期待。
南米のトランプ、熱帯のトランプって言われた。トランプさんとボルソナーロさんは文脈を分けて考える必要がある。
ルーラ、現職なのにちょっと苦戦した理由、それをどうご覧になってますか?
多くの保守の方たちというのは、この労働者党に対する嫌悪感を非常に強く持っていた。反ルーラ、反ボルソナーロということで、そのどちらかが大嫌いという発言が非常に出てくる。
こんにちは。国際ニュースCORE、司会進行の池畑です。今日はブラジルの大統領選挙です。現職のルーラ大統領とフラビオ・ボルソナーロ上院議員が接戦を繰り広げています。10月25日にはこの両者の間で決選投票となりました。この決選投票の行方、そしてブラジルの政治情勢がこれからどうなっていくのか、たっぷり深掘りします。
ゲストにお呼びしたのは、ブラジルの政治外交がご専門で、慶應義塾大学法学部准教授の舛方周一郎さんです。舛方さん、よろしくお願いします。
よろしくお願いいたします。
今日、舛方さんに特にお聞きしたいポイントを3つほどに絞りました。まず1つは、この決選投票を左右するものは何か。そしてアメリカの圧力とブラジルの主権、それから中国やBRICSとの関係とブラジルの外交の選択です。ということで、早速本題に入っていきたいんですけど。
決選投票の前に、まず1回目の投票がありました。事前の予想で、おそらく両者とも過半数には達しないだろうというふうに予想されたっていうのは、その通りですけど、どちらかというと事前の予想ではルーラ大統領の方が少しリードして、その決選投票に行くという報道が多かったと思うんですけど。そこは逆になりました。これはどうご覧になってますか?
私の中では想定内でした。前回の大統領選挙の時も、同じような結果として、ルーラ大統領の得票率はほとんど同じ調査結果になるんですけれども、保守のボルソナーロさん、お父さんのジャイル・ボルソナーロさんの得票率が高かったというデータが出てます。なので今回も、決選投票になる前の第一投票で、おそらく僅差になるか、あるいは抜くのではないかっていう予想はほぼほぼありまして、やはりそうなってしまったなというのがあります。
なるほど。もしかしてあれですかね、保守のフラビオ・ボルソナーロさんの数字が、世論調査だとちょっと弱めに出るっていうのは、アメリカでも実はトランプ大統領の世論調査の数字は実際よりちょっと弱めに出る。ちょっと似てますかね。
一部の分析の中では、隠れトランプとか隠れボルソナーロファンがいるんじゃないかみたいな報道があるんですけれども、これは実はいくつかの理由が考えられています。1つは、直前の投票事前のいろいろな分析では、なかなか調べることができないということが考えられています。他方で、いくつかの調査会社の中では、すでに保守というのをもう少し大きく評価した方がいいんじゃないかということで、だいぶ似ている得票率を示しているデータもありました。
やはり投票の、そういう会社に比べると、なかなか今のデータって取りづらくはなってるかなというふうには考えていますね。
なるほどね。世論調査自体、ちょっと難しくなってるっていうことですけど、決選投票となりました。フラビオ・ボルソナーロさんがわずかにリードしている。この情勢で決選投票に向かうと、これは1回目リードしたボルソナーロ氏がかなり有利と見ていいんですか?
今、得票率差はおよそ1.50%程度って言われていて、とても僅差というふうに言われているんですが、現状においてボルソナーロさんが優位で、ルーラさんが不利っていう状態は、決選投票になる時も変わらないだろうというふうに思われます。この理由はいくつか考えられています。まずは、第三極のいくつかの候補者の方たちは、もうすでにボルソナーロさんを支持するというふうに表明しています。
前回は、この第三極の方がルーラについたっていうこともあって、そのままルーラさんが勝つことができたんですけれども、選挙が始まる以前から、その第三極に当たる人のほとんどが保守系の方だったというのもあります。だからやはりルーラにつくのは難しいのではないかということは考えられていました。
そうしますと、そういう人たちが一気に保守のボルソナーロ氏について、ブラジルではリベラルって呼ぶんですかね、ルーラさんのこと。
左派、右派があるかもしれないですね。
右派、左派で言うと、左派のルーラ氏の側につく候補はいなくて、1回目はわずかな差でも、2回目はむしろ広がるかもしれないっていう。
はい。そういう可能性も今、非常に高まっています。前回の2022年の大統領選挙に比べても、もうすでにルーラ大統領としては、第三極の方たちを相当自分の陣営に入れてたんですよね。左派系の方たち、中道から中道右派の方たちですね。今回、その第三極に当たって、新しい人を取り込むというふうに考えたとしても、なかなか有益な方たちはもうすでになかったというのがあります。なので今回、その点も踏まえてもルーラは非常に苦心してると思うんですが、なかなか難しい状態ですね。
接戦とはいえ、フラビオ氏が強かった理由、裏返すとルーラ大統領が現職なのにちょっと苦戦した理由、それをどうご覧になってますか?
このルーラ大統領、長いブラジルの政治を考えたとしても非常に有名な方ですし、ブラジルを示す重要な人物だというふうに考えてます。ただ、彼自身がもうすでに80歳になりまして、高齢であるということに加えて、その彼自身に新しさみたいなものはすでになくなっていると。彼に何か新しいブラジルを変えてくれるっていうような大きな期待というのは、十分にはなくなっていたということがあります。
加えて、多くの保守の方たちというのは、この労働者党に対する嫌悪感を非常に強く持っていたのがあります。現職の時代から、多くの腐敗の問題とかに実は直面してきたルーラ大統領です。この問題、今でもちょっとしたところで汚職の問題とかのニュースが出てますけれども、そういった点からも、十分な支持をすでに多くの方から得ることは難しくなっていたなというふうには考えます。
フラビオ氏の強みはどういうところだったんですかね。
労働者党ができなかった大きな問題の1つというのが、やはり治安の問題だというふうに考えています。実は労働者党のルーラ大統領も、この治安対策に関しては十分な対応をするということはマニフェストで言っているんですけれども、より目に見える形でこの治安の問題を解決したいというふうに言っているフラビオさんへの期待というのは、非常に高まるなというふうには思います。
もう1つ、彼自身への期待というよりかは、彼のお父さんですね、ジャイル・ボルソナーロさんに対する期待というのが非常にあって、フラビオさん以上にジャイル・ボルソナーロを応援していたという支持者の人たちが彼にまた。
今映ってる父親のジャイル・ボルソナーロですね。
そうですね。彼の息子であるということが、より期待感を支持者の方たちに持たせているのではないかというふうに考えられます。
ビジュアルで言うと親子、よく似てますもんね。
そうですね。
これ、一般のブラジルの人からすると、このジャイル・ボルソナーロの、まさに息子だから当たり前ですけど、また再来に映るところもあるんですかね。
はい。実は私、今回ブラジルの大統領選挙戦が始まってから、ブラジルでも調査をしたんですけど、彼のおじさんも今、選挙に出て、おじさんもすごい似てるんです。なので、そのボルソナーロ一家、ブラジルの中でもジャイル・ボルソナーロさん、お父さんが注目をされたことで、息子さん自身も注目が高まっているなというふうには考えています。
なるほど。ブラジルでは、こういう、言ってみればちょっと世襲的な政治家の、世襲的なものに対する抵抗感はあんまりないんですかね。
その点に関して言えば、確かに世襲に関する批判は一部にあるんですけれども、多くの政治家の方たちは世襲がずっと続いています。その点も踏まえて、自分の支持基盤ですね、票を守りたいと思ってる方たちというのは非常に多いです。特に保守の方たちの中では、また同じ息子が出るのかっていう、そういった状況というのはずっと考えられていますね。
なるほど。どうなんでしょう、一般の人たち、例えばブラジルの景気、経済は今どんな感じなんですかね?
今のブラジルの景気情勢に関して言うならば、非常にインフレが高まっていて、感覚的に言うと日本より高いですね。サンパウロなどでは非常に高騰しているので、なかなか苦しい状況になっています。
これだけ物価が貧しい層の中でも高まっていて、非常に不満が彼らの中にはあるんだと。だから、この世界中で起きてるインフレの問題というのが、現職の中で十分に対応できなくなってるという点は、これは何もブラジルに限ったことではない、世界的な情勢の中で起きていることだというふうに考えています。
そうですね。世界的な物価高は、どうしても現職の指導者にとっては不利、非常に悪い材料となりますよね。
ちょっともう1回、父ジャイル・ボルソナーロ氏に戻りたいんですけど、私のちょっとステレオタイプなイメージかもしれませんけど、どうもジャイル・ボルソナーロさんは、南米のトランプとか、そういうふうによく呼ばれたし、結構言動が過激だった記憶。その辺どうですか?
私自身もジャイル・ボルソナーロさんに1回インタビューを申し込んだことがありまして、お話ししたことありますけど、彼自身は非常にフランクな方で、一般的なブラジルの政治家というと、ちょっとお高くとまってるって印象がある中で、彼は非常に素朴な、身近にいるおじさんなんですよね。だからそういった点で、いつもニコニコしていて、みんなから好かれているっていう、特に保守の方からそういう存在です。
ただ、彼が過激になる時期というのは、いくつかのポイントがあっ
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