「探索」と「活用」の両立は日本の製造業を立て直せるか:長内厚教授の見方

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概要

BSテレ東「NIKKEI NEWS NEXT」の特集は、日本の製造業にいま何が必要かを取り上げた。CEATECで注目が集まる一方、電機メーカーでは家電事業の切り離しが相次いでいる。ゲストは、半導体を含む製造業企業の経営戦略に詳しい早稲田大学ビジネススクールの長内厚教授である。長内氏は、日本企業には試行錯誤で新しいものを生む「探索」と、既存の資産で効率よく稼ぐ「活用」の両方が必要だと主張し、電機メーカーやトヨタ自動車を例にその意味を説明した。

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CEATECは家電の展示会から業界向けの場に変わった

長内氏はこの日、幕張で開催中のCEATECを実際に訪れていた。かつては自身も展示会で説明役を務めていたという。当時は家電の見本市で、製品が展示の中心だった。その頃のにぎわいと比べると寂しさも感じるというのが長内氏の率直な感想である。

ただし長内氏は、一般来場者向けの家電の展示会から、業界関係者向けにソリューションやサービスを見せる場へ変わったと捉えれば、別の見方ができるとも話した。業界関係者が足を運び、報道機関も取り上げていることから、関心の高いイベントであることに変わりはないとみている。

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スマイルカーブの「底」が上がってきた

番組はまず、世界の産業別の付加価値成長率のデータを示した。産業を上流(研究開発系)、中流(製造業)、下流(情報サービス系)に分けると、2020年までの5年間は中流の製造業の成長率がほかより低く、グラフは人が微笑むような「スマイルカーブ」を描いていた。ところが2025年までの5年間では製造業の部分が底上げされ、カーブは緩やかになった。番組はこれを、口を結んだ硬い表情のようだと表現した。

長内氏はこの変化を「非常にいいこと」と評価する。製造業が儲からないと見なされると、企業は効率よく目標を追うために、効率の悪い分野からどんどん逃げてしまう。しかし日本の強みはものづくりにある部分が大きい。その製造業の調子が良くなってきたことは、日本がここに踏みとどまってビジネスを続けられるというサインでもある、というのが長内氏の見方である。

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輸出は40年伸び続けたが、利益に結びついていない

続いて番組は、国別の製造業付加価値額の推移を示した。日本はほぼ横ばいで、直近では少し下がっている。20年余りで日本の存在感が薄れたようにも見えるグラフである。

これに対して長内氏は、別の数字を挙げた。日本の工業製品の輸出額だけを見ると、この40年ほどずっと上がっているという。問題は儲かっているかどうかで、輸入額も増えており、利益率が上がらないため利益に結びついていない。それでも、どこかで誰かがものを作り、しっかり世界に売っているという日本の製造業の現状は40年変わっていない。長内氏は、この点を押さえておく必要があると述べた。

司会者が付加価値をおおむね利益と考えてよいかと確認すると、長内氏は同意した。そのうえで、日本は実直にものは作るが、ビジネスでしっかり儲けることにまだ課題があると話した。

同じグラフでは、米国やEUの付加価値額が長期的に伸びている。司会者が、工場の空洞化が進んでも製造業が利益を生んでいることを示すのかと尋ねると、長内氏は次のように答えた。自社で生産していなくても、ものづくりに関わる企業、たとえばAppleやNVIDIAのような企業が利益を出しているということではないか。経営の巧みさで製造業が価値を生んでいる点を日本も見習うべきかという問いにも、長内氏は「まさにその通り」と応じた。

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「探索」と「活用」、効果と効率

では、日本はどうすればよいのか。長内氏の提案が「探索と活用の両立」である。

長内氏の説明では、探索とは、日本が昔から得意としてきた、試行錯誤でいろいろなものをやってみることを指す。多様なことを試すので、必ずしも効率よく儲かるわけではない。長内氏はこれを、「効率」に対して「効果」と呼んでいる。一方の活用は、過去のものを生かしてできるだけ無駄なく、効率よく儲けることである。

長内氏によれば、20世紀の日本は、ある種の無駄を許容しながら効果的に儲けることが非常にうまかった。しかし2000年代に入り、効率的に儲けなければならない局面になると、それが裏目に出た。デジタル化が進むと、同じものを大量に作りやすくなり、世界中に同じものを大量に展開する必要が生まれる。それなのに日本は数を追わず、技術で差別化するのだという姿勢を得意としてきたため、効率よく稼ぐことができなかった。長内氏はそこに日本の問題があったとみている。

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シャープは探索が足りず、他社は活用が足りなかった

番組は、日本の電機メーカーで相次いだ家電事業の切り離しも、探索と活用の両立がうまくいかなかったことの表れなのかと問うた。

長内氏は、いま注目されているシャープについて、探索が足りなかったと指摘する。液晶の次も液晶というように液晶だけを見て、液晶を活用していればよいという状態だった。液晶に軸足を置き、それ以外はやらないほどの勢いで進めたからこそ伸びた。しかし効率を追うと集中のリスクを伴うため、その分野がだめになると一気にすべてがだめになる。長内氏は、これがシャープの課題だったと述べた。

逆にほかの会社は探索ばかりを進め、いわば作り散らかしてしまい、しっかり儲けられなかった。こちらは活用が足りなかったことになる。司会者が、総合的にいろいろ手がけたがどれも中途半端で次々と撤退したということかと尋ねると、長内氏はそうだと応じ、「櫛の歯が欠けたような状態」になったと表現した。両方のバランスが取れない状態が長く続いていた、というのが長内氏の整理である。

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日立とソニー:探索の会社が活用を取り込んだ

両立できている例として番組が挙げたのは、日立製作所とソニーグループである。長内氏によれば、両社はもともと探索ばかりしていた会社で、そこに活用の視点を取り入れた。

日立はさまざまな事業を手がけていたが、今後はLumadaにつながるもの、つまりITとAIに集中し、それに関わる事業は続けるがそれ以外はやらないという形で事業を選別した。長内氏は、探索に活用を取り込んでバランスを取った会社だと評価する。

ソニーグループも、もとはいろいろなものを手がけてきた探索型の会社である。そのうえで、ゲームや半導体のように効率よく儲けられる分野にはしっかり投資し、半導体は継続的に取り組んでいる。一方で、活用で得た収益を探索につぎ込むこともできている。ソニーの場合はエンターテインメント領域がそれにあたり、新しいエンターテインメントやIPへの投資にお金を使えていることが、探索と活用のバランスの良さに表れていると長内氏は話した。

9:11

パナソニックは「産みの苦しみ」を乗り越えつつある

日立と株価の面で比べられがちなパナソニックについて、長内氏は、探索はしっかりできている会社だと評価する。いまも世界的に重要な事業や技術を多く持っている。ただ、効率よく儲けるための軸足となる既存事業を見つけられず、探索と活用の循環がうまく回らなかった。そのために産みの苦しみが続いたという。

一方で長内氏は、事業を手放していたらパナソニックは探索の能力を失っていたはずだとも述べる。産みの苦しみの中で持ちこたえてきたからこそ、いま花が咲きつつある状態と見てよいのではないか、というのが長内氏の見立てである。

司会者が柱が見えてくるのはこれからかと尋ねると、長内氏はおそらくそうだと答えた。パナソニック コネクトやアビオニクスのような事業がこれから収益化し、収益の柱として新規事業を支える構造を作れれば、好循環が回るのではないかという見通しを示した。

10:25

トヨタは無駄を許容する会社でもある

電機以外で探索と活用を両立している企業として、長内氏はトヨタ自動車を代表例に挙げた。

トヨタ生産方式は英語でよく「リーン・マネジメント」と呼ばれる。リーンは筋肉質で無駄がないという意味で、トヨタの経営は無駄がない、効率的だと言われがちである。しかし長内氏は、実はトヨタほど無駄を許容している会社もないと指摘する。

その例がマルチパスウェイ戦略である。日本ではハイブリッド車を作り、アジアではディーゼルも手がける。新しい技術として水素の燃料電池も水素エンジンも開発し、EVも作っている。どれかが無駄になるかもしれないが、とりあえずやる。どれが当たるかわからないからだ、と長内氏は説明する。トヨタの「シティ」も、まだどう儲けるかはわからないが、とりあえずやってみる取り組みの例だという。こうした探索の力と、トヨタ生産方式のもともとのイメージである徹底した効率化生産をうまく使い分けていることが、トヨタの強みだと長内氏はみている。

11:33

標準化を利益に変えるには、技術とビジネスの両方の知識がいる

番組は、探索と活用を両立すれば、日本が不得意とする世界のデファクトスタンダードや標準規格を取れるのかと問うた。

長内氏は、取りやすくなるという意味ではプラスだと答えた。しっかり稼いで、しっかり探索することは重要な前提条件である。ただ、もう一つ重要なのは、技術の知識とビジネスの知識を両方持つことだという。

長内氏が例に挙げたのは、携帯電話の3Gの規格である。日本は技術を提供し、日本の技術で世界標準を取った。しかしビジネスとしては何も収益を得ていない。技術は標準化できても、ビジネスの標準化ができていなかったと長内氏は述べる。技術標準を作ることで日本がどう儲けるのかを考え、その儲け方を組み込んだ形で標準化を進めなければ、技術の標準化だけでは利益にならないという。

司会者は、米国企業は技術標準を議論する前に製品を世界中に広めて普及させ、半ば強引に標準を取っていく、たとえばNVIDIAやかつてのIntelがそうだったと指摘し、日本にはそうしたやり方が足りないのではないかと尋ねた。長内氏は、そこにはビジネスの知恵が入っていて、製品を広く行き渡らせても最終的に回収できるビジネスのストーリーがあるからこそ、それができるのだと答えた。そのストーリーを作るのは、標準化活動に加わっている戦略やマーケティングの優秀な人材である。ところが日本は理系と文系を分けてしまい、技術の話は技術者のもの、戦略やマーケティングは文系のものとしてしまう。長内氏はそこが問題だと指摘した。

13:30

NTTのIOWNで国際標準を狙えるか

3Gの失敗を経て、長内氏が注目しているのがNTTのIOWNである。これで国際標準を狙えるのかという問いに対し、長内氏は、自身が情報通信審議会の委員を務めていることに触れた。そのうえで、審議会に経営学者が入っていること自体が大きな変化だと述べた。技術標準の議論にビジネスの視点を持つ人材が加わり始めたことを、長内氏は前向きな兆しと受け止めている。ただし、公開された部分はここで終わっており、IOWNが国際標準を取れるかについての長内氏の結論は示されていない。