太ももの筋肉と腸内細菌から見る健康寿命:川上泰雄氏と佐治直樹氏の解説

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概要

BSテレ東「いまからサイエンス」の健康をテーマにした2回分をまとめた動画である。前半では早稲田大学の川上泰雄教授が、シニア世代が自分の足で歩き続けるための運動習慣を解説する。後半では国立長寿医療研究センターもの忘れセンターの佐治直樹氏が、腸内細菌と脳の関係(腸脳相関)を説明する。聞き手はどちらも加藤浩次である。

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「下半身を鍛えればいい」は正しいか

冒頭で加藤は、自分なりの運動理論として「とにかく下半身さえやっておけばいい」と語る。毎朝ベランダでスクワットをしているという(タバコを吸いながら、と付け加えてスタジオの笑いを誘った)。ジムでは見栄えのする上半身を鍛える人が多く、下半身はおろそかにされがちだというのが加藤の印象である。

川上氏はこの考えを「正しい」と認め、常々伝えたいメッセージだと応じた。理由として挙げたのは、人間が二足歩行の動物だという点である。立つのも移動するのも二本の足で行うので、動くことは結局、下半身を使うことが中心になる。多くのスポーツでも最終的に地面と接しているのは足であり、下半身をどうコントロールするかは人間にとって重要だと川上氏は説明した。

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シニア世代は「下手に、しんどく歩け」

川上氏が今回のポイントとして挙げたのは、「いかにあまり上手じゃなく歩くか」である。人間はもともと歩くのが上手で、上手になりすぎた結果、普通に歩くだけではあまりエネルギーも筋肉も使わない。脳が楽に歩くためのプログラムを持っているから長距離を歩けるのだが、そのぶん筋肉への刺激にはなりにくい。

筋肉は刺激がないとだんだん小さくなり、いつしか歩けなくなる時が来る。そうならないために、普段の生活の中で少しずつ刺激を入れる必要がある。それが「しんどく歩く」、つまり「しんどいなと思いながら歩く」ことだと川上氏は言う。

具体例として最初に挙がったのは、駅で階段とエスカレーターが並んでいたら階段を選ぶことである。平地を歩くときも、とことこ歩くのではなく、大股で歩く、早足で歩く、蹴るようにして歩くといった工夫でしんどさを少し増やす。

スタジオで川上氏が実演した大股歩きのポイントは二つある。一つは後ろ足で地面をしっかり蹴り出すこと。足の指を使いながら最後まで蹴り出す感覚である。もう一つは、足が地面につくときに「ドーン」と強めに踏み、刺激を感じること。この着地では太ももの前側がよく使われるという。加藤が骨にも刺激を与えたほうがよいと聞くと述べると、川上氏も同意した。

ただし30分ずっと続けるのはしんどいので、「この10歩はやってみよう」という程度に時々取り入れ、それを積み重ねればよいと川上氏は話す。

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日常動作に運動を組み込む

加藤が、歯磨きのときに腰を落として空気椅子のような姿勢をとる、つま先立ちで磨く、といった工夫でもよいのかと尋ねると、川上氏は「いいですね」と答えた。そのうえで、トイレで立ち上がる動作を2回繰り返すという例を挙げた。

加藤は、1日2回なら1年で730回、2年ならさらに倍になると計算し、侮れないと感心した。川上氏は、高齢者はこれが何十年も積み重なるので、若者よりもインパクトが大きいと述べた。

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歩く速さと寿命、ふくらはぎの役割

川上氏によると、一生懸命急いで歩くのではなく、普通に歩いていて自然に速く歩けてしまう人は寿命が長いことが分かっている。逆に、歩く速度がなんとなく遅くなっている人は寿命が短いというデータが出ているという。歩く速度が速い人は筋肉量が多いと考えてよく、特に太ももの筋肉量と関係していると川上氏は説明した。

血液循環についても、筋肉の収縮によって行われるので、結果的に全身の代謝も上がるという。「ふくらはぎは第二の心臓」という俗説が本当かと加藤が尋ねると、川上氏は肯定した。先ほどの蹴り出しをしっかり行うことは、ふくらはぎのトレーニングになり、ふくらはぎのポンプを使って血液を体に巡らせる効果もあると述べた。

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日常生活でほとんど使われない大腿四頭筋

川上氏の研究室では、起きてから寝るまでの1日にどの筋肉を使っているかを筋電図で測定した。その結果、太ももの前側の筋肉、特に大腿四頭筋は1日の生活の中でほとんど使われていなかった。大腿四頭筋は膝を伸ばす筋肉で、人が立ち上がるときに使う。

続いて示されたのは、研究室で何千人も測定してきたデータのグラフである。横軸は年齢、縦軸は太もも前側の筋肉量(グラム)を体重(kg)で割った指標だ。20代は筋肉が多いものの個人差も大きい。そこから徐々に減っていき、60歳ぐらいから減少が加速し、そのペースはおよそ2.5倍になる。川上氏は、普通に生活しているとこれが通常のパターンだと述べた。

グラフには80代・90代のデータもあり、デイサービスを利用する高齢者と、特別養護老人ホームで寝たきりの人が色分けされていた。寝たきりの人の多くは点線より下にあり、太ももの筋肉が体重1kgあたり10g程度になると、もはや立てない状態になるという。

川上氏は、この筋肉は加齢でじわじわ減り、60歳前後から急に減少が加速するのが特徴だとまとめた。立って歩くという最も重要な動作の鍵になる筋肉なので、保っておく必要があるという。番組のナレーションでは、川上氏によれば太もも前側の筋肉が多い人と少ない人とでは、寿命に最終的に20年近い差が出るとも紹介された。

13:15

家でやるならスクワット

この筋肉を維持するために、川上氏は速く歩く、階段を上るといった行動を少しずつ積み重ねることを勧めた。家の中でやるならスクワットが一番よいのかという加藤の問いには、座っている時間が多い生活では、そこから立ち上がる動作が最もよく行う運動であり、自分の体重を使うスクワットは一つのポイントになると答えた。ちょっとした体操に仕立てれば家の中で簡単にできるとも述べている。番組では、川上氏が西東京から依頼を受けて考案した運動プログラムのうち、太ももの前側に効く体操が紹介される流れとなっていた(動画内では体操の内容に入る前に後半へ切り替わる)。

14:29

後半:腸内細菌と認知機能

後半のゲストは佐治直樹氏である。国立長寿医療研究センターは病院と研究施設が連携し、高齢者を中心に治療と研究を行う施設で、佐治氏はそこで認知症の専門医として働きながら腸内細菌の研究もしている。番組の紹介によると、腸内細菌と認知症の関係を日本で初めて明らかにした研究者である。

冒頭の予告部分で佐治氏は、腸内細菌と認知機能にはしっかりした関係があり、細菌を制御することで認知機能を良い方向に導くことも可能になってきたのではないかと述べている。認知症にならないための食生活については、魚、キノコ、大豆、コーヒーが統計学的に有意に多かったという話が紹介され、一般的な日本食にコーヒーを加えることがポイントだとナレーションは伝えた。

16:28

腸内細菌はどこに、どれだけいるのか

加藤は、皮膚の常在菌のように体の表面は菌だらけだが、体内では腸にしか菌はいないのかと尋ねた。佐治氏は、口の中の歯周病菌などさまざまな臓器に菌はいるが、総量や影響を考えると腸内細菌が大きなウェイトを占めると答えた。腸内の菌の数については、学術的には約1000種類の細菌が1000兆ほどいるのではないか、と見積もりとして述べた。

菌が人間にとって必要な理由として、佐治氏は、自分の体だけでは代謝できないものを細菌が分解し、それを栄養として利用している面があると説明した。民族や地域ごとの腸内環境は、日本でも海外でも研究されている最近のトピックだという。

アフリカで2年間現地の食事をすれば現地の人と同じような腸内細菌になるのかという加藤の質問には、佐治氏は「それはちょっと分かりません」と答えた。そのうえで九州の研究者による調査を紹介した。ナレーションによると、九州大学とアジア各国の研究者が2009年から、日本を含む5つの国と地域で7〜11歳の児童約300人の腸内細菌を調べた。その結果、日本・中国・台湾など東アジアではビフィズス菌とバクテロイデスが多く、タイやインドネシアなど東南アジアではプレボテラが多いという違いが見られた。佐治氏は、東アジア系の腸内細菌はある程度似ているのだろうと述べた。

19:18

次世代シーケンサーと検査キット

腸内細菌研究が2000年代に活発化したきっかけは、次世代シーケンサーの登場である。佐治氏によると、以前の細菌研究は菌を培養する方法が中心で、シャーレでうまく育たない菌は調べられないという限界があった。次世代シーケンサーは細菌のDNAを調べるため死んだ菌も検出でき、解析が飛躍的にレベルアップした画期的な技術だと佐治氏は評価する。その結果、知られる菌の種類も増えていった。

この検査は高価だが、腸内細菌を知りたい人は多く、佐治氏の病院で研究した際も希望者が多かったという。現在は薬局などで腸内細菌検査キットが販売されており、便を採取して送ると菌のレポートが返ってくるサービスもある。番組では、菌の種類やバランス、改善のアドバイスまで受け取れるキットが紹介された。

21:36

脳から腸へ:ストレスとお腹の不調

本題の腸脳相関について、佐治氏は「脳腸相関」と「腸脳相関」の両方の言い方があり、自分は腸から脳への方向に関心があるので「腸脳相関」と呼ぶことが多いと説明した。情報のやりとりは双方向で、同じ経路ではないが、脳から腸へ、腸から脳へ、それぞれ影響しているという。

脳から腸への例は、ストレスを感じるとお腹が痛くなったりトイレに行きたくなったりする現象である。佐治氏は、視床下部から下垂体を経るホルモンのシステムなど、その神経の仕組みが論文で解明されつつあると述べた。ナレーションでは、ストレスホルモンが分泌されて自律神経の働きも変わり、それが腸を刺激して下痢や便秘を起こすことがあると補足された。

23:35

腸から脳へ:迷走神経とパーキンソン病

腸から脳への経路の一つとして佐治氏が挙げたのは、迷走神経を伝わって神経の病気に関わる物質が上がっていくという学説である。例として紹介されたのがパーキンソン病だ。パーキンソン病では脳の黒質の神経細胞が死んでドーパミンが出なくなり、動作が鈍くなる。その原因とされるアルファシヌクレインという物質は、元をたどると腸から上がってきているという研究があり、パーキンソン病が腸から来ているのではないかという研究が大学病院などで進められているという。

ナレーションは、パーキンソン病の原因はまだ完全には分かっていないとしたうえで、患者の多くが発症前に長年便秘だったことが判明しており、腸で生じた異常なタンパク質が迷走神経を通って黒質の神経細胞に障害を起こすという説が注目されていると伝えた。

24:59

血流に乗る代謝産物

もう一つの経路は血流である。佐治氏によると、腸内細菌が活動して出す物質(代謝産物)が血流に乗って脳に作用するシステムがある。ナレーションでは、悪玉菌が作るアンモニアやインドールといった代謝産物が血液を通じて全身や脳に運ばれて炎症を起こし、認知機能に悪影響を及ぼす可能性があると説明された。

これを聞いた加藤が、腸から菌の物質が上がっていくのはあまりいいことがないのかと言うと、佐治氏は菌の種類によると答え、良い物質も上がっていくと述べた。加藤が良い物質は何をしているのかと尋ねたところで、動画は途切れている。