一番小さいものと一番大きいものはなぜつながるのか:理論物理学者・野村泰紀が語る素粒子と宇宙

YouTubeで開く ↗
概要

池上彰が「いま話を聞きたい」人物に話を聞くシリーズで、今回登場したのは理論物理学者の野村泰紀である。専門は素粒子論と宇宙論で、話の軸になったのは「これ以上分けられない最小の存在を調べる学問が、なぜ広大な宇宙を知ることにつながるのか」という問いだ。野村は、この二つの分野は「一番小さいところと一番でかいところ」でありながら直接関係していると説明する。話はさらに、相対性理論の成り立ちや「理論が観測に先行する」物理学の歴史にも及んだ。

8分で読めます
1:27

荒れた中学校とテニス部からの経歴

番組の紹介によれば、野村は1974年生まれである。東京大学理学部物理学科を卒業し、同大学院理学系研究科物理学専攻で博士課程を修了した。その後カリフォルニア大学バークレー校の物理学教授となり、現在はラインウェーバー理論物理学研究所の所長を務めている。

ただ、少年時代はいわゆる優等生ではなかったと紹介された。通っていた中学校はドラマ『スクール・ウォーズ』のように荒れていて、ズボンの太さで序列が決まっていた。野村はその序列を破ってしまい、大変な目にあったという。高校では体育会系の軟式テニス部に所属した。練習中に水を飲んではいけないという昭和的な規則があったが、そのなかで神奈川県ベスト4まで勝ち進んでいる。

2:26

ブルーバックスと高校の夏の講義

宇宙に興味を持ったきっかけを池上が尋ねると、野村は興味は少しずつ育ったものだと答えた。昔のことはすぐ忘れてしまう性分で、最近になって同じ質問を受けることが増え、ようやく思い出してきたという。振り返ると、中学生の頃には講談社ブルーバックスのような一般向けの科学書を何冊か読んでいた。図書室にこもるタイプではなかったが、図書室にあった本を読んで興味を持った記憶がなんとなくあると話す。

大学進学の時点で、宇宙物理学を研究すると決めていたわけではなかった。物理学には物性物理、生物物理、素粒子物理などさまざまな分野がある。高校生の段階では、それぞれの違いも物理学そのものも十分には分かっていなかったと野村は言う。

転機になったのは高校3年の夏だった。化学の教師が趣味で、夏休みに相対性理論などの話をしてくれたのである。受験に出ない内容なので、受験を控えた3年生は来ないだろうと思われていた。ところが実際には席がかなり埋まっていた。その教師は話が上手で、野村は「こういう世界があるのか」と感じた。相対性理論は面白いというより「変」なのだと野村は表現する。物理学者になるかは別として、こうしたことを調べながら生きていけたらいいとぼんやり考えた。地方の県立高校の生徒だった野村は、理学部が強そうな大学を選び、結果として東京大学に進んだ。

4:53

素粒子物理と宇宙論、そして研究者という選択

就職ではなく研究者の道を選んだ理由について、野村は自分の専門の性格を挙げた。

素粒子物理は物質の階層をたどる学問だと野村は説明する。物質は分子でできていて、分子は原子でできている。原子は原子核の周りを電子が回る構造で、原子核は陽子と中性子でできている。陽子と中性子はさらにクォークでできている。こうした粒子が互いにどう作用し、ぶつかったときにどんな力で動くのかを調べるのが素粒子物理である。宇宙論は、その知見を使って宇宙がどう変わっていくかを調べる。宇宙が変化してきたことはすでに分かっていて、昔の宇宙は温度が数兆度にも達する、今とはまったく違う世界だった。原子も最初からあったわけではなく、だんだんとできてきた。野村はこうしたことを調べる方向に関心を移していった。

この分野は企業では研究できないと野村は言う。少なくとも直接には何の役にも立たないからだ。勉強したあとも人生をかけて続けたいなら、研究者になる以外の道はおそらくなかったと振り返る。

6:55

小さいものを見るには高いエネルギーが要る

池上は、最小の存在である素粒子と広大な宇宙が結びつく感覚がつかめないと率直に伝えた。野村は、説明は意外に簡単だと前置きして話し始めた。

まず、極端に小さいものは顕微鏡で見えない。野村はスケールの差をこう示した。原子核は原子より5桁小さく、原子核を1円玉とすると、電子が回っているのは1キロ先になる。現在の研究では、そこからさらに4桁ほど小さい領域を調べている。

これほど小さいものは光で直接見るのではなく、物をぶつけて調べる。細かい構造を見ようとするほど、高いエネルギーでぶつけて粉々に壊さなければならない。飛び散った破片を集めて解析し、逆算して元の構造を調べるのである。だから小さいものを調べるには大きなエネルギーが要り、巨大な粒子加速器が使われる。野村によれば、現在世界で最もエネルギーが高い加速器はスイスとフランスの国境にあり、周長は27キロほどある。そこで粒子を光速の99.99999%まで加速し、衝突させて壊す。野村は「小さいところ」と「高エネルギー」はこの意味で結びついているとまとめた。

8:22

時間を遡ると宇宙は高エネルギーの世界になる

この高エネルギーの物理が宇宙と直接つながる、と野村は続ける。宇宙はいま膨張していて、銀河と銀河の距離はどんどん離れ、密度は下がり続けている。逆に時間を遡れば、宇宙はぎゅうぎゅうに詰まり、密度が高くなる。圧縮すれば温度も上がるので、初期の宇宙は高エネルギーの状態だったことになる。

すると宇宙の始まりを調べるには、高エネルギーで何が起きるかを説明する理論が欠かせない。その理論を得る手段が、地上の加速器で高エネルギーの衝突を起こし、小さな領域の構造を見る素粒子物理である。そこで見つけた理論を使って宇宙を調べる。だから二つの分野は直接関係していると野村は説明した。

9:31

光速を超えられないという発見と重力の矛盾

池上はヒッグス粒子を例に挙げた。理論から存在が予言されながら証明されていなかったものが、のちに実証される。これは不思議なことだと池上が言うと、野村は理論が先行する例は物理学にたくさんあると応じた。宇宙の膨張も最初は理論だったという。その説明のため、野村は話をアインシュタインまで遡った。

ニュートン力学では、力を加えると加速度が生じる。だから力を加え続ければどこまでも速くなると考えたくなる。しかしアインシュタインが相対性原理にたどり着いて分かったのは、速くなるほど加速しにくくなり、光の速さは絶対に超えられないということだった。光速は1秒間に地球を7周半する速さで、野村は秒速約3億メートルと表現した。これが自然界の最高速度である。

ところが、ニュートンの重力理論ではこの上限を超えてしまう。太陽から地球まで光で8分かかるので、太陽が消えても地球は8分間それに気づかないはずだ。ところがニュートンの理論では、太陽が消えた瞬間に引力がなくなり、地球はすぐにまっすぐ飛んでいってしまう。情報が一瞬で伝わることになり、光速が上限だという原理と矛盾する。そのためアインシュタインは重力の理論を修正する必要があった。

11:16

トランポリンで考える一般相対性理論

修正の結果生まれたのが一般相対性理論である。この理論では、地球を動かしているのは引力ではない。太陽が空間を曲げているのだ。野村はよく使われるたとえを紹介した。トランポリンにボウリングの球を置くと、表面が沈む。そこにパチンコ玉を転がすと、くぼみに沿って曲がって回る。空間が曲がっているから、地球は太陽の周りを回るのである。

このモデルでは、太陽を取り除いてもトランポリンが一瞬で平らになるわけではない。くぼみは徐々に戻っていく。一般相対性理論は、その戻る速さがちょうど自然の最高速度になるように作られている。だから太陽が消えても、地球は8分間は回り続ける。

11:55

自分の方程式を信じきれなかった天才たち

アインシュタインがこの理論を宇宙全体に当てはめると、宇宙が変わらずにずっと存在するという解が出てこなかった。方程式が許すのは、宇宙が広がっているか縮んでいるかのどちらかだけだった。当時は宇宙は不変だと考えられていたので、アインシュタインは「そんなはずはない」と自分の方程式に手を加え始めた。池上が、アインシュタイン自身が後に方程式をいじったのは失敗だったと語っていると補うと、野村も同意した。自分で作った美しい式が膨張を示していたのに、あれほどの天才でも信じきれなかった。そして数年後、宇宙が実際に膨張していることが分かった。

野村は、理論が先行するのはむしろほとんどの場合だと言う。ヒッグス粒子はその一つにすぎないとして、別の例も挙げた。すべての物質には性質が反対の反物質が存在するという考えがそれである。ポール・ディラックが方程式を書くと、反物質が必ず出てきてしまった。ディラックも天才だったが、そんなものは見たことがないと考えて信じられなかった。今では反物質は普通に作れるし、その後実際に発見されている。

12:52

ニュートリノの予言と、話の続き

最後に話題はニュートリノに移った。番組冒頭の予告では、ニュートリノが私たちの体をいくらでも通り抜けていることが取り上げられている。理論的にはそうでも、どうやって通り抜けるのかと疑問を抱く池上に対し、野村は「むしろスカスカ通り抜けるほうが普通」だと答えていた。ただし、この映像の範囲ではその理由までは語られていない。

ニュートリノも、存在すべきだという理論が観測より先にあった例だと野村は言う。予言したのはパウリで、野村は「ちょっとアホみたいな」簡単な話だと前置きした。中性子は壊れて陽子と電子になる。普通、止まっている一つの物体が二つに壊れれば、二つの破片は右と左に正反対の方向へ飛ぶはずだ——野村がこう説明し始めたところで、この映像は終わっている。この食い違いがどうニュートリノの予言につながったのか、そしてニュートリノがなぜ体を通り抜けられるのかは、本編の続きで語られる内容として残されている。