指先の「手探り」をロボットに:シンカーの近接覚センサーとエッジAI

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概要

ロボットは決まった動作を繰り返すのは得意だが、形や大きさがまちまちな物をつまんだり、手探りで部品を差し込んだりするのは苦手だ。人がやるべき作業とロボットに任せる作業をどう分けるのか。テレビ東京の番組「アンパラレルド」はこの問いを、鉄道の保線現場と、大阪のスタートアップ「シンカー(Thinker)」のロボットハンドを通して取り上げた。MCはオードリーの若林正恭、ゲストはシンカーCEOの藤本弘道と CTOの中野基輝、解説は東京大学大学院の山川雄司准教授である。

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深夜4時間で終える線路の交換作業

番組はJR東日本の保線作業の取材から始まる。5月のある深夜、横須賀線の品川〜西大井間の線路に総勢25人の作業員が集まった。この日の作業は、設置から8年が経ったレール約135mの交換である。品川駅に最終電車が到着する0時27分から始発の4時30分まで、およそ4時間で終えなければならない。

中心となる作業は古いレールの切断と、1mあたり60kgあるレールの取り外しで、そのほとんどを人の手で行っている。レールを枕木にクリップで固定する作業もある。一見簡単そうだが、一つひとつ差し込むのにコツがいるという。番組は、保線作業には時間との戦いに加えて人の感覚が欠かせず、この2つの理由で多くの人員が必要になると説明した。

JR東日本の担当者によると、保線作業はほぼ毎日、さまざまな場所で行われている。日によって異なるが、10数人ほどのチームを組み、平均4時間ほど作業する。首都圏のJRでは作業員1人あたり月20回程度、深夜の作業に当たっているという。

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昼間へのシフトと機械化の限界

JR東日本が昨年、首都圏の作業員を対象に行った調査では、作業を昼間にシフトしたいという回答が67%に上った。これを受けて同社は今年5月、比較的乗客の少ない平日の3日間、京浜東北線の田端〜田町間で日中に運転を別の線路へ切り替え、保線作業を行った。今後は人手不足で作業員が減る懸念があり、老朽化に伴って保線作業が増えるという試算もあると番組は伝えた。

人手不足の解消にロボットを導入する企業は多い。保線の現場について担当者は、機械化すれば作業員の負担軽減につながるので積極的に取り組んでいると話した。一方で、細かい作業がどうしても残り、その部分は機械より人の方が得意なところもあると考えている。人の感覚が必要な作業はまだ機械やロボットに任せられない、というのが現場の見方である。

VTRを見た若林は、線路交換には人の経験や勘が必要なのだろうと述べ、AIの進化はすごいが、まだ苦手なことやできないこともあるだろうと感想を語った。番組はこれを「人とロボットの住み分け」という社会課題として位置づけ、その実現を目指す企業としてシンカーを紹介する。

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器用なロボットハンドを作るスタートアップ

シンカーは大阪市西区、緑の多い公園のそばにオフィスを構える。2022年設立で従業員は13人。この2年ほどで中小企業庁や各省庁などから数々の賞を受けているスタートアップだと番組は紹介した。CEOの藤本弘道(56歳)は同社について、これまでのロボットハンドではできなかった器用なロボットハンドを実現していく会社だと説明する。

見た目は普通のロボットハンドに近い。しかし映像では、小さな部品をつかみ、細いプラスチック製のバンドや複雑な形の物もつかんでみせる。つかむのが難しいウズラのゆで卵も潰さずに持ち上げた。藤本は、ゆで卵のような繊細な物を手探りで、潰さずに柔らかくつかめるピッキングシステムだと説明する。このハンドは対象物に手探りするように触れて状態を感知し、それに合わせて動きを調整する。

藤本によれば、同社のハンドの特徴は、指先や手が柔軟性を持っており、その柔軟な状態を全方位で計測している点にある。その計測を担うのが、同社オリジナルの「近接覚センサー」だ。

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近接覚センサーと「ちっちゃいAI」

センサー開発の中心にいるのがCTOの中野基輝(42歳)である。中野の説明では、センサーには赤外線センサーが付いていて自ら赤外線を出す。物をかざすと、相手がどんな姿勢で、どれくらいの距離にあるかが1枚のセンサーで分かるという。

センサーはロボットハンドの内部に組み込まれている。放たれた赤外線は、ロボットの爪と連動する板に当たって反射し、センサーは戻ってきた光の量を測る。中野によると、その光のバランスを機械学習させることで、相手の姿勢や距離を3次元的に推論する「ちっちゃいAI」が入っている。

この小さなAIは「エッジAI」と呼ばれるもので、クラウドなどに頼らず、端末側だけで推論するAIだと番組は説明した。爪と連動する板から跳ね返った赤外線の量から、対象物の距離と傾きを即座に計算するのがこのAIの役割である。中野は、1秒間に200回計測できる高速さのおかげで滑らかな動きが実現できると話した。

映像では、大きさが0.5mmしか違わない2つのビー玉をつかむだけで、すばやく仕分ける様子も紹介された。番組はこれをエッジAIならではの技としている。目指すのは、人の器用な動きを手軽に自動化できる社会だという。

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「0.5mmまでなら潰していい」という指示

スタジオで藤本は、ロボットは決まった物は得意だが、多種多様な物をつまむのは苦手で、感覚的な作業も苦手だと説明した。それをできるようにするのが同社の近接覚センサーだという。若林は、AIは大量に学習させることはできても「なんとなくやって」という感覚は難しいのだろうと応じ、真っ暗な中でスマホの充電器をコンセントに手探りで差し込むのは、人間がすごいことをしているのだと例えた。

若林がウズラの卵を潰さない力加減について尋ねると、中野は意外な答えを返した。正確には、ウズラの卵は「0.5mmなら潰していい」という指示を出しているのだという。0.5mm程度までへこませてよいと設定しておくと、潰さず滑らずのちょうどよいところが分かり、同時にウズラの卵の大きさや向きの違いもすべて吸収できる。若林は、その指示がなければつるっと滑って引っ張り上げられないかもしれない、と理解を示した。そして、自身が別の番組で箸でウズラの卵を皿に移すゲームをした経験を挙げ、人間も少し強めに押さえなければならない時があると話した。

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目でやる仕事と指先でやる仕事

中野は、人が目でやる仕事と手先の感覚だけでやる仕事は違うと強調する。家で鍵を開けるとき、ドアや鍵穴の位置は目でパッと見るが、鍵が入っているかをじっと見ながら差し込むことはしない。なんとなく当ててカチャカチャ動かすと、はまる瞬間がある。こうした目と手先の上手な役割分担が大事で、シンカーは目よりも指先の部分に強く注力しているという。

番組の説明によると、一般的なピッキングロボットはカメラで対象物を捉えてつかむ。これに対してシンカーのハンドは、カメラで対象物を捉えた後、実際につかむ動作は人間のように手探りで行う。中野は、人間がやっている「なんとなく」をエッジAIで数字にしてあげさえすれば、ロボットは動けるようになると説明した。

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大規模AIではなく「反射」を担うAI

エッジAIは、一般に言われるAIと何が違うのか。中野は、世の中でAIと呼ばれているものの大半は、人と対話したり、見た物が何かを把握したりする大規模AIの話だと指摘する。一方、人が生活の中で熱い物に触ったり指を挟んだりしたとき、いちいち頭で考えずに反射的に手を引っ込める。シンカーが取り組んでいるのは、どちらかといえば、生き物の反射を司る脊髄のような部分にあたる小さなAIだという。

番組は、ChatGPTのような生成AIがネットを介してサーバーやクラウドで画像や文章を生成するのに対し、シンカーの技術の核となるAIはネットに接続せず、現場の基板の中だけで計算処理を行うエッジAIだと対比した。

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研究者の評価と「勝率100%のじゃんけんロボット」

解説の山川雄司准教授は、近接覚センサーを使ったロボットについて「すごいと思う」と評価した。ロボットを動かすには、センサーで感じた感覚を数値化し、それでロボットにどう指令するかが重要になるという。

山川自身は、人間を超える速さを持ったロボットを作りたいと考えて研究している。その一例として、勝率100%のじゃんけんロボットを作ったことがあると紹介した。高速にものを見る技術と高速に動くロボットを開発し、相手がグー・チョキ・パーのどれを出すかを瞬時に判断して、それに勝つ手を出すという仕組みだ。若林が「100%の後出しじゃんけんロボットか」と尋ねると、山川は、厳密に言えばわずかに後出しだと認めた。映像はスローで流しているからようやく分かる程度で、実際には後出しに見えないという。

何を出すかはAIが判断しているのかという質問には、AIはまったく使っておらず、撮影した画像に画像処理をかけてグー・チョキ・パーのどれかを判定していると山川は答えた。

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スタジオでのコネクター挿入の実演

最後にスタジオでシンカーのロボットハンドの実演が行われた。小さめの指先を持つハンドで、自動車部品のコネクターを優しくつかみ、差し込み口に手探りしながら入れるという作業である。中野の説明では、まずカメラでコネクターを見つけてピッキングし、そこから先を手探りで行う。挿入の場面では若林も、ハンドがわずかに手探りしている動きを確認していた。ただし、この動画は実演の途中で終わっており、作業の結果や、保線現場のような現場への導入、今後の需要についての議論は収録されていない。