エアコンは14年に1度しか買われない ダイキンが「認知」より「第一想起」を重視する理由

YouTubeで開く ↗
概要

エアコンは平均で14年に1度しか買い替えられない。買い替えのきっかけは多くが故障で、需要が生まれてから購入までの期間は1週間ほどしかない。日経クロストレンド・カレッジのこの回には、ダイキン工業コーポレートコミュニケーション室部長の片山義丈氏と、トライバルメディアハウス社長の池田紀行氏が登壇した。テーマは、長いあいだ関心を持たない顧客に、いざという時に真っ先に思い出してもらうにはどうすればよいか、である。池田氏はブランドを「知っているか」ではなく「思い出されるか」で測るべきだとする枠組みを示し、片山氏はダイキンの実務に当てはめて説明した。

11分で読めます

番組は3部構成で予告された。「なぜ今、認知ではなく想起なのか」「13年に1回の市場でどうやって思い出してもらうか」「それって売上に効くのか、の壁をどう越えるか」である。本記事が扱うのは公開部分で、第1部の後半、商品カテゴリーごとの想起の違いの説明に入ったところまでである。

登壇者の立場

片山氏は入社以来、一貫してダイキンのブランドづくりを担当してきた。現在は関西学院大学のビジネススクールでマーケティングコミュニケーションとブランドマネジメントも教えている。ダイキンが目指すブランドは「空気で答えを出す会社」、つまり空気で生活や社会を良くする会社だという。片山氏は自分について、入社以来ブランドづくりに失敗し続けてきたと話す。その失敗をもとに、実務でブランドをどう作るかを1冊の本にまとめている。

池田氏の会社は20年目を迎えるマーケティング会社で、大手企業の宣伝部、マーケティング部、広報部を支援してきた。2022年に出版した著書『売上の地図』では、施策から売上に至る因果の構造を整理している。この日の話は片山氏の話と「めちゃくちゃシンクロしている」と池田氏は述べた。

施策はまっすぐ売上につながらない

池田氏はまず『売上の地図』の図を示した。ウェブサイト、広告、PR、販売促進、オウンドメディア、インフルエンサー、SNS。どの施策も最終的には売上のために行われている。それでも「広告を打ったのに売上につながらない」「インフルエンサー施策で話題になったのに売上につながっているのか」という議論が起きやすい。池田氏はその原因を、施策がすぐ直線的に売上につながると考えすぎていることにあるとした。

池田氏の整理では、各メディアからのメッセージはまずブランドに間接的に影響する。ブランド価値が上がるとプリファレンス(選好)が高まり、それが想起につながる。思い出された商品が売り場に並んでいれば、試しに買うトライアルの売上が生まれる。気に入ってもらえればリピートの売上が積み上がる。図の中心にあるのが想起である。認知はその下、プリファレンスを構成するブランドエクイティの一要素として置かれている。池田氏は、認知が不要なわけでは全くないと断ったうえで、認知だけでは売れない時代になったと述べた。

売れるまでの「3回戦」

池田氏は、商品が売れるまでの過程を3回の勝ち抜き戦にたとえた。

1回戦は、知っているか知らないかである。専門用語では助成想起という。多くの企業は毎年のブランド調査で「以下のブランドで知っているものにチェックを入れてください」という複数回答の設問を使って認知度を測っている。これは見たり聞いたりすれば知っている、という状態だ。日本の大企業は数十年の歴史があり、広告にも数億円、数十億円を投じてきたので、助成想起は70%から、高いところでは95%を超えると池田氏は言う。

それでも売上が横ばいや減少になる企業は多い。池田氏によれば、その原因は認知の低下ではない。問題は2回戦、つまりニーズが生まれた瞬間にブランド名を思い出してもらえるかどうかである。これが純粋想起で、何も見ず何も聞かずに「それならこれだよね」と浮かぶかどうかを指す。

池田氏の例はランチだ。同僚3人で昼食に出て「何食べる?」と聞けば、それぞれが自分の第一想起を挙げ、その中から店が決まる。グルメガイドのリストを見比べて選んでいるわけではない。エアコンも同じで、メーカー名を見せられれば「確かにエアコンを作っている」と分かる。しかし、エアコンが壊れた瞬間に特定のメーカーを思い出せるかどうかは、それとは「別の世界線の戦い」だと池田氏は言う。

3回戦が実質的な決勝戦で、思い出された中で何番目かが問われる。池田氏の会社や大学の調査では、カテゴリー別に純粋想起されるブランド数は1.12個から多くても2.78個で、3個を超えるカテゴリーはほぼない。ビール、アイス、洗剤と聞かれても、多くの人は3つ以上答えられない。検討の候補はおおむね上位3つで、その中で最初に思い出された第一想起のブランドが圧倒的に有利だと池田氏はデータを根拠に述べた。

池田氏が指摘したのは測定の抜けである。企業は認知度を毎年の調査で把握し、売上もダッシュボードで日々見ている。しかし、その間にある想起を調査していない企業が多い。そのため「認知はあるのに、なぜ売上が下がるのか」を説明できずに苦労している。池田氏は、マーケティングコミュニケーションの最重要KPIは想起率に置くべきだと結論づけた。なお、日経クロストレンドでは池田氏の協力のもと、「想起の真実」「想起の教科書」「想起の実践」の3つの特集が組まれてきたことも紹介された。

ブランドは「頭の中の引き出し」

片山氏はまず、ブランドとは格好良さやおしゃれさのことではないと述べた。ダイキンのロゴを見て「おしゃれ」と感じる人は少ない。それでも「丈夫だ」「信頼できる」と思ってもらえればよい。つまりブランドとは頭の中のイメージだという。

片山氏の説明では、ブランドの機能は頭の中に引き出しを作ることである。何かのきっかけがあれば、その引き出しが開く。「ダイキン」という引き出しがあること自体は認知にあたる。しかし、この引き出しはほとんど開かない。開くのは、たとえばダイキンという会社を訪ねる時くらいだ。だから、社名の引き出しの存在だけを高めても価値は小さい。実際に開くのは「エアコン」という引き出しで、その中にダイキンが入っているか、しかもできるだけ前に並んでいるかが重要になる。ダイキンのブランドづくりはそこに力を注いでいる、と片山氏は話した。

14年間関心のない「そのうち客」

片山氏が長く悩んできたのは、多くの人がエアコンに関心を持っていないことだ。講演の場で自宅のエアコンのメーカーを尋ねると「ダイキン」と答える人が多いが、片山氏は「多分違う」と笑う。街頭でエアコンを買いたいかと聞くと、17%程度という数字も出るが、本当に今買おうとしているのは2%ほどだという。この2%には性能や機能の話が届く。片山氏自身が女性用化粧品の広告に関心を持たないのと同じで、残り98%の人に「我がエアコンは素敵だ」と訴えても届かない。

買い替え周期は以前は13年と話していたが、今は14年に延びた。片山氏は「いい製品を作っている」と冗談めかしたうえで、買い替えのほとんどが故障をきっかけにしていると指摘した。故障に気づくのは使っている時、つまり暑いか寒い時である。だから1年かけて検討する人はおらず、1週間ほどで買いたくなる。ニーズが生まれてから購入まではおよそ1週間で、残りの14年間は関心がない状態が続く。

ダイキンのコミュニケーションは、この14年間に、手を変え品を変え、さまざまなメディアを通じてダイキンとエアコンを結びつけておくことにある。そうしておけば、買おうと思った時に「なんか知らんけど、ダイキンがいいんじゃないの」と思ってもらえる、と片山氏は説明した。

セミ理論と、店頭での比較

片山氏は顧客をセミにたとえ、「セミ理論」と呼んでいる。顧客をセミにたとえるとは何事だと一度叱られたこともあるという。14年に1度、土から出てきたセミがエアコンの木にしがみつき、どのエアコンにしようかと考える。その時、背中にすでに「ダイキン」の旗が立っていれば、ダイキンを好意的に検討してくれる。

池田氏は、ほかのメーカーも並べて比較する人もいれば、第一想起にダイキンしか入っておらずそのまま指名買いする人もいるだろうと述べた。そして、エアコンの木ではなく、最初から「ダイキンの木」に直行する人もいるのかと尋ねた。片山氏は、掃除機ならダイソンと決めている人が多いように、エアコンならダイキンの木に登ってほしいと答えた。ただ、競合も頑張っているのでそう簡単ではない。さらに店頭では他社製品も目に入り、そこで思い出されてしまう。だからこそ、エアコンの木に登る時点で「まずはダイキン」と思われていることに大きなアドバンテージがある、と片山氏は話した。

池田氏の自宅は1台を除いてすべてダイキン製だという。池田氏は、ダイキンは他社より高いことが多いので、店頭で比較されても第一想起の人はそのまま高いダイキンを選ぶ確率が高いのか、と尋ねた。片山氏は高いと答えた。逆に、ダイキンが第二想起以下で来店した人に選ばれなかった場合、大きな理由はやはり価格になる。高くても買ってもらえる点に第一想起の大きな意味がある、と片山氏は述べた。

池田氏は、ニールセンなどが使う「価格プレミアム」という指標を紹介した。少し高くてもその商品を買うかを測る指標である。スーパーやコンビニの商品なら差は10円、20円だが、エアコンの価格差はそれよりずっと大きい。どのくらいの差かと聞かれた片山氏は、具体的な金額は示さず「まあまあ高いです」と答えた。そのうえで、長く使う製品には信頼性が求められ、サービス力も含めた総合力で評価されているのだろうと述べた。

商品カテゴリーで想起の役割は変わる

続いて池田氏は「商品カテゴリーマトリクス」を示し、カテゴリーによってマーケティングのやり方が全く違うと説明した。

下段は、スーパー、コンビニ、ドラッグストアで買う一般消費財である。週に数回、月に数回買う安い商品で、ネット検索もレビュー確認もほとんどしない。合わなければ次に買わなければよく、リスクが低いので直感的に買われる。

上段は、エアコンのような買回り品や専門品である。価格は数千円から数十万円、物によっては数千万円で、数年に1回、あるいは一生に1、2回しか買わない。失敗のリスクが高いので、情報収集、比較検討、レビューの読み込みを徹底してから買われる。100人に聞いて今欲しいと答えるのは2人ほどで、大半は「今すぐ客」ではなく「そのうち客」である。ニーズはほとんどの期間オフで、ある日突然オンになる。その瞬間に思い出してもらえるかが勝負になる。一般消費財はニーズが日常的にオンになっているのに対し、上段の商品は一瞬だけオンになって買われ、また数年オフに戻る。

一般消費財では「3位以内」、ただし第一想起は量で効く

池田氏は、ビール、ペットボトル入り茶系飲料、歯磨き粉のデータを示した。この3カテゴリーはどれも同じ傾向を示すという。純粋想起の順位ごとに過去1年間の購入率を見ると、第1想起から第3想起までの差はほとんどない。

池田氏はその理由を購買行動で説明した。日常的に買う商品では、昨日と違うものを試す「バラエティシーキング」が起きる。消費者は上位3つ程度のブランドを回りながら買う「レパートリー購買」を習慣にしている。そのため純粋想起の3位以内に入っていれば、一定の確率で「サイコロの目が出て」手に取ってもらえる。

一方、想起順位ごとに主に使っているブランドの比率を見ると、第一想起の強さがはっきり表れる。池田氏はビールのアサヒスーパードライを強いブランドの例に挙げた。第一想起のビールはネット通販で箱買いされ、冷蔵庫に常に24本入っている。飽きた時だけ、テレビCMで気になった別の銘柄を2本や6本パックで買う。池田氏の整理では、一般消費財は3位以内に入れば時々買ってもらえ、第一想起になればライフタイムバリューとしての購入量が増える。そのため売り場に立った時に「この状況ならこれだよな」と思われるよう、想起の鮮度を常に最前線で保つことが、サイコロの目が出る確率を上げることにつながる。

高額商品では「想起から購入への転換」を見る

これに対して、エアコンのように数年に1回しか買わない商品では、「今日はこっちにしてみよう」という買い方はされない。失敗のリスクも大きいので、徹底的に検討して買われる。池田氏は、この場合に見るべきなのは一般消費財のような順位別の購入率ではないと述べた。見るべきは、第一想起したブランドと、第二・第三想起のブランドで、そのまま購入に至る転換率にどれだけ差が出るかである。

池田氏が「思い出したからそのまま買うほど甘くは」と言いかけたところで、公開部分は終わる。高額な買回り品で想起の順位が購入転換にどう影響するのか、そして第3部の「それって売上に効くの」という問いにどう答えるのかは、続編で扱われることになる。