少額から事業用不動産へ J-REITと不動産セキュリティトークンが変える個人の資産形成

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概要

日本経済新聞社の特別企画「REAL ESTATE FRONTLINE」の第2回は、「個人でも参加できる不動産での資産運用」がテーマである。オフィスビルや大型商業施設、ホテルといった事業用不動産への投資は、これまで富裕層や機関投資家のものと見られてきた。番組ではそれがなぜ個人にとって身近になりつつあるのか、インフレの時代にどう向き合えばよいのか、個人の資金が都市や社会に何をもたらすのかを、3人の経営者が論じた。出演は、CBRE代表取締役社長の辻貴史氏、KJRMホールディングス代表取締役社長の鈴木直樹氏、KDX STパートナーズ代表取締役社長の中尾彰宏氏。進行はフリーアナウンサーの森本智子氏が務めた。

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「貯蓄から投資へ」の受け皿としての不動産

冒頭で辻氏は、日本の個人が持つ預貯金は1000兆円を超えるとされると述べた。今後は物価が上がり、日本も本格的なインフレの時代を迎える。そうなると現金の価値は目減りすると考えられ、資産形成への関心が高まって「貯蓄から投資」の時代になる、というのが辻氏の見立てである。そのうえで、インフレに強い不動産に個人も参加できる枠組みを作っている2社の話を聞くのが楽しみだ、と議論の方向を示した。

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2社の立ち位置:KJRMとケネディクス

鈴木氏によると、KJRMホールディングスは、グローバルなプライベート・エクイティ会社KKRの日本における不動産運用部門である。もともとは三菱商事とUBSの合弁会社として25年前に設立され、4年前にKKRグループに入った。上場J-REITの日本都市ファンド投資法人と産業ファンド投資法人、それに私募ファンドを運用しており、運用資産は約2兆8000億円にのぼる。隣のケネディクスグループとは競い合う関係にあり、両社とも国内最大級の不動産運用会社だという。

中尾氏が率いるKDX STパートナーズは、ケネディクスグループの中で不動産セキュリティトークン(ST)を専門に扱う会社である。ケネディクスは、不動産証券化の法規制が整い始めた1995年に設立され、昨年30周年を迎えた。現在の運用総額は5.5兆円で、J-REIT、私募ファンド、そして主に個人投資家向けに新しい投資機会を提供する不動産STの3つを事業の柱にしている。

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J-REITの成り立ちと現在の規模

辻氏は歴史を振り返った。不動産が金融商品として扱われるようになったのは1990年代後半からで、バブル崩壊後の不良債権処理に伴って法制度が一気に整備された。不動産の証券化を進め、個人にも投資機会を提供するという目的で、2001年9月にJ-REITが発足した。

不動産投資には本来、多額の資金と専門知識が必要になる。しかし不動産を小口化して証券市場に上場したことで、一般の個人もプロが運用する不動産に気軽に参加できるようになった。J-REITは今年で25周年を迎え、上場銘柄は60近く、時価総額の合計は16兆円規模になった。辻氏は、金融商品として一つの地位を獲得したと評価している。

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個人にとってのJ-REITの利点

鈴木氏は、J-REITが個人にとって「貴重な機会」である理由を具体的に説明した。アパート投資とは違い、オフィスビル、ホテル、商業施設、物流施設は金額が非常に大きい。個人が自分で買うのは資金面でも、購入機会を得るという面でもほとんど不可能だ。

J-REITでは、投資信託の枠組みの中に、普段は個人がアクセスできない優良物件を複数組み入れる。分散効果の効いたポートフォリオを作り、それを小口に分けて販売する。鈴木氏によれば、通常は1口10万円程度から投資できる。

鈴木氏がもう一つの利点として挙げたのは、手間がかからないことだ。株式と同じように証券会社の口座で、価格を見ながらタイミングよく売買できる。運用はプロの運用会社が担うため、建物のメンテナンス工事や借入れの手続きはすべて運用会社が行い、投資家は保有にともなう手間から「完全にフリー」になる。森本氏も、実物不動産なら金利上昇時に気になる借入れの心配がない点を指摘した。

個人の資金を扱う以上、透明性と信頼性が求められるのではないかという問いに、鈴木氏は、J-REITは不動産投資になじみのない個人でも安心して投資できるビークルとして設計されていると答えた。金融庁をはじめとする当局が受託者責任や遵法性を重視して枠組みを整えており、当局も運用会社も個人の信頼を損なわないようかなり注意を払っているという。

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「安定分配」から「インフレに負けない運用」へ

鈴木氏は、運用会社の側で大きな変化が起きていることも強調した。従来のJ-REITは、インフレに負けないことより、安定した分配金を出すことに力を入れてきた。これからはインフレの下で資産価格の上昇を投資家が享受できる運用に変わりつつあるという。

例として、鈴木氏は自社が運用する日本都市ファンドと産業ファンドが掲げる3つの目標を説明した。1つ目は「内部成長」で、既存の保有物件から得るキャッシュフローを、賃料の引き上げやコストの削減で増やすことである。2つ目は物件の入れ替えだ。各ファンドはそれぞれ100物件以上を保有しており、中には競争力や成長力が落ちた物件もある。それらを適宜売却し、将来性のある物件に入れ替えていく。3つ目は、売却で生じた売却益を投資主に還元することだ。

鈴木氏によれば、この方向転換は自社だけのものではない。J-REITの運用会社はこの数年で大きく舵を切っており、インフレ時代に資産の成長が期待できる運用に変わってきていると見ている。

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不動産セキュリティトークンとは何か

続いて話題は、個人投資家の間で注目されている不動産セキュリティトークンに移った。中尾氏の説明では、セキュリティトークンとはブロックチェーンという技術で発行や流通を管理する有価証券のことで、デジタル証券とも呼ばれる。銀行預金なら銀行のメインフレーム、上場株式やJ-REITなら証券保管振替機構というように、これまでの金融取引は中央集権的なシステムで管理されてきた。ブロックチェーンでは、接続している各データベースが分散して取引を管理するため、安全かつ効率的に取引を管理できるという。

森本氏が「本気で理解したい」ので、もう少し分かりやすく説明してほしいと頼むと、中尾氏はJ-REITとの比較で説明し直した。

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J-REITが失ったものをSTで取り戻す

中尾氏は、J-REITは素晴らしい商品であり、ケネディクスにとっても主力商品だと前置きした。簡単に売買でき、手間がかからず、税制上も優遇されている。ただ、不動産がもともと持っていた分かりやすさは薄れているという。「このホテルに泊まったことがある」「このオフィスで働いたことがある」から買いたい、という動機は、多数の物件をまとめたJ-REITでは成り立ちにくい。

もう一つの問題は価格の安定性である。中尾氏の見方では、不動産は本来ローカルなもので、安定した家賃が定期的に入れば、その価値は資本市場の影響をそれほど受けない。ところが上場商品になると、不動産自体が安定していても資本市場の影響で価格が乱高下することが多々ある。中尾氏は、J-REITは「金融商品化されすぎた」ために、分かりやすさや安定性という不動産の持ち味が少し損なわれたと表現した。

STでは、「あなたが投資しているのはこのビルです」という形で投資対象を明確にする。その分だけ規模は小さくなるが、デジタル技術を使い、上場しなくても小口で売買できる仕組みを整えた。小口であること、手間がかからないこと、証券会社で簡単に売買できることといった金融商品としての利点は維持しながら、投資対象が明確で、資本市場のノイズが入りにくく、不動産としての安定した価格形成が期待できる商品を、STの商品設計の柔軟性によって提供できるようになったと中尾氏は説明した。

中尾氏は両者の違いを料理にたとえた。J-REITは有名シェフが作るコースメニューで、一通り楽しめて安心して食べられる。STはアラカルトで、「今月は旬だからこれを食べたい」「デザートはお腹いっぱいだからいい」というように好きなものを選べる。美味しいものを食べたいという欲求は同じでも、自分でポートフォリオを組みたい人にはSTが向いており、そうした使い分けがされているのではないか、というのが中尾氏の見方である。

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STはどこまで広がっているか

普及の状況について、中尾氏は自社の数字を挙げた。これまでに16本のSTを発行し、合計2600億円の不動産をST化した。購入した投資家は同社だけで延べ2万人を超える。

中尾氏は、拡大の理由は証券会社を通じて株と同じように買えるというアクセスの良さだけではないと見ている。単一物件の商品なので分かりやすく、理解しやすく、納得しやすい。資本市場のノイズが入りにくい不動産投資商品であることも、個人投資家に支持されているのではないかと述べた。

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リスクをどう考えるか

森本氏が、J-REITもSTも投資商品である以上、価格変動などのリスクがあるのではないかと問うと、辻氏は「リスクがない投資はない」と明言した。投資の話で「リスクはありません」と言われたら怪しいと思ったほうがいい、とも付け加えた。

そのうえで辻氏は、どちらの商品も不動産のプロが物件を目利きして取得し、保有期間中はしっかり運用し、最適なタイミングで売却するので、その専門性は一つの安心材料になると述べた。裏付け資産が不動産である以上、不動産のリスクは考えなければならない。辻氏が挙げたのは、テナントが抜けて収入が落ちること、金利の上昇や維持コストの上昇によってコストが増えること、そして経済環境の変化や災害などで物件の価値が下がることである。

それでも辻氏は、株式投資と比べれば不動産のリスクの幅は小さいと考えている。さらにインフレの時代には家賃も上がっていく。新しく物件を建てようとすると建築コストが今は高いため、既存の物件を買うことでインフレによる成長を取り込める。この点で不動産には魅力がある、というのが辻氏の主張である。

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経済社会に組み込まれる不動産と「好循環」

最後のテーマは、インフレ時代の投資判断の軸と、不動産投資と都市開発の可能性である。今後、不動産投資への資金流入は爆発的に大きくなっていくのかという問いに、辻氏は、流れが大きく変わったと感じるのは、不動産の資金が日本の経済社会の発展に組み込まれつつある点だと答えた。そして、経済や社会の発展に組み込まれた不動産の価値は目減りしないと考えている、と述べた。

辻氏が例に挙げたのは、優秀な人材が力を発揮できる最新鋭のオフィス、eコマースを支える物流施設、テクノロジーの進化を支えるデータセンター、ライフサイエンスなどの研究施設、そしてエネルギーインフラである。経済の営みの基礎には必ず不動産がある。個人の資金が不動産を通じて社会のインフラに投資され、経済と産業が発展し、インフレが回って個人の賃金や所得も上がっていく。辻氏はそうした好循環ができることを望んでいると語った。社会の価値が上がれば、投資家のリターンも増える。

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投資判断の軸はトータルリターン

インフレ圧力が昨年あたりから強まる中で、投資家はどんな判断基準を持つべきか。鈴木氏の答えは「トータルリターン」だった。分配金から得るインカムと、保有するJ-REITなどの価格上昇によるキャピタルリターンを合わせたものがトータルリターンである。鈴木氏は、運用会社としてこれを確保することを目線に運用しており、投資家にもこの両方を合わせて見てもらうのが最も良いポイントだと述べた。前半で語られた、安定分配からインフレに負けない運用への転換と対応する考え方である。

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開発型STと地方の不動産:お金以外の価値をどう組み込むか

都市開発への影響について、中尾氏はSTの商品設計の柔軟性をあらためて強調した。現在のSTは既存の不動産を裏付けとするものが中心だが、今後はこれから開発する不動産の資金をSTで集める「開発型」の商品も考えられるという。

さらに中尾氏が挙げたのが、地方にあるスタジアムや美術館のような資産だ。機関投資家向けの商品では扱いにくいが、個人投資家が中心で単一物件の商品であるSTなら対象にできる可能性がある。投資商品である以上、一定の経済的リターンは大切だとしたうえで、中尾氏は、たとえばスタジアムを本拠地とするサッカーチームの年間チケットが1枚無料でもらえるといった特典を例に出した。そうすれば不動産を実際に利用でき、体験的な価値や情緒的な価値を投資と結びつけられる。いまは投資資金とつながっていない地方の資産にこうした仕組みを使えば、地方創生といった社会課題の解決にもSTが役立つのではないか、と中尾氏は考えている。

森本氏が、ふるさと納税にも少し似た感覚だと応じると、中尾氏は、自分が育った町やゆかりのある町の不動産は、その人にとって単なるキャッシュフローの塊ではないはずだと答えた。STは投資家と投資対象の距離が非常に近い商品なので、金銭だけでなく志や思いも含めて商品に組み込んでデザインできる。それがSTの面白さであり、社会貢献につながる使い方もできるのではないか、と述べた。開発型や地方資産を対象にしたSTは、中尾氏が今後の可能性として語ったもので、すでに実現した事例として紹介されたわけではない。

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結び:ポートフォリオの一部を超えた関わり方

番組の最後に森本氏は、個人が不動産と関わる意味は、ポートフォリオの分散先として組み込むことにとどまらないと振り返った。不動産は日本のインフラやテクノロジーの進化と深く結びついており、今後は地方創生にも個人が関われる可能性がある。J-REITの「インフレに負けない運用」への転換、STによる単一物件への投資、そして体験価値を組み込んだ地方資産への投資構想が、その可能性を具体的に示す論点として提示された。