「何をやるか」より「どの順番でやるか」:山口周が語るガースナーのIBM再建と40代後半からのキャリア

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概要

『コンテキスト・リーダーシップ』の著者である山口周氏は、テレビ東京・佐々木明子氏との対談で、リーダーシップのスタイルそのものに正解はなく、文脈に応じてどう使い分けるか、特にどの順番で使うかが成否を分けると語った。例として挙げたのが、IBMを立て直したルイス・ガースナーである。番組冒頭では、40代後半以降のキャリアの考え方も示された。

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40代後半は「寄り道」を考え始める時期

山口氏によれば、47〜48歳にもなれば、自分が所属する組織でトップになれるかどうかはもう分かる。なれないのであれば、高速道路を途中で降りるように、寄り道をする人生もあると考えてよい、というのが同氏の見方だ。

ここで同氏が重視するのは「アップフロントで動く」こと、つまり先回りして準備することである。これは経営でも人生でも重要だという。60歳や65歳で会社を離れると、社会関係資本は一度ゼロになる。その代わりに時間という資本はたっぷり使えるようになる。そのときに楽しめることは、10年か15年前には覚えておいた方がいいと山口氏は勧める。

あわせて勧めるのが副業だ。ただし、会社は辞めずに「かじりつく」。安定して給料が入るという土台をポートフォリオに確保したうえで、リスクを取り、大化けするかもしれないプロジェクトを仕込んでおく。山口氏はこれを人生の戦略と位置づける。

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リーダーが部下と共有すべき「舞台」と「脚本」

佐々木氏は、部長になったら上からこうしなさいと言われる、その通りにやるのではなく、どんな能力を身につければ状況に合ったリーダーシップを取れるのか、と尋ねた。

山口氏は、どんな能力かという問いに単純な答えはないとしたうえで、チームを「舞台」にたとえて説明した。部下がいて、自分がいて、上司がいて、クライアントがいる。その舞台でどんな物語が進んでいて、リーダー自身はその物語の結末をどうするのが理想だと考えているのか。そのハッピーエンドに至る物語のなかで、メンバー一人ひとりにどんな役柄を期待しているのか。リーダーが頭の中に持っているこうした脚本や演出を、部下と共有しなければならないという。

共有できていないと、部下は部下で勝手に脚本を作ってしまう。場合によっては、リーダーである自分が悪役の物語を作ってしまう可能性すらある。だからリーダーは部下の物語に入っていき、自分の物語との間にずれがあれば、それをこちら側に寄せていく必要がある、と山口氏は述べた。

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1on1は部下の「舞台設定」を知るための場

山口氏によれば、よく言われる1on1ミーティングは、要するにこの作業をしている。1on1は基本的に、こちらから話すよりも部下に話をさせる場である。そうすることで、部下が考えている舞台設定や、それぞれの登場人物のキャラクター設定が分かる。

部下の考える物語と、リーダーが考える舞台設定や、ハッピーエンドまでの流れが違っているなら、リーダーは部下の物語、つまりコンテキストに介入しなければならない。1on1は、そのずれを見つけるための手段だと山口氏は位置づけている。

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ガースナーの最初の1年:指示命令と率先垂範

佐々木氏が前回話題になったIBMの例に触れると、山口氏は、ガースナーが局面ごとに自分の立ち位置とコンテキストを変えていったと説明した。1年から2年ほどの間に、リーダーシップのスタイルを次々に切り替えていったという。

就任から最初の1年は、指示命令と率先垂範しかやっていない。山口氏によれば、IBMはその前年に1兆円の赤字を出しており、とにかく出血を止めなければ会社がなくなる状況だった。アメリカを代表する大企業が、そこまで追い込まれていたということだ。佐々木氏が「リストラもされていますね」と応じると、山口氏は、分かりやすく言えばリストラだと認めた。翌年には黒字化しているので、非常に効果的なリストラだったと山口氏は評価する。

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「ナビスコの社長?」という冷笑

山口氏は、ガースナーがIBMの前にどこの社長だったかを佐々木氏に尋ねた。佐々木氏が「ナビスコ」と答えたとおり、ガースナーはお菓子の会社の社長だった。

山口氏の説明では、当時アメリカ中のマスコミが「IBMを救うのは誰だ」と注目し、IT業界の大物経営者が候補に挙がった。一時はビル・ゲイツも候補に上がったと言われるが、みな断った。そこで決まったのがガースナーで、周囲は「誰だ」と拍子抜けしたという。IT業界の社長に全員断られたので、ICチップもポテトチップも似たようなものだから、ポテトチップを作っている会社の社長にやらせようと考えたらしい。そんなひどいことまで言われたと山口氏は紹介した。

就任後、ガースナーのやることは人を切る、ビルを売る、不動産事業を売却するといったものだった。周囲は「単なるリストラプランではないか」「やはりお菓子の会社の社長にはこれしかできない」と受け止めた。コンピューター会社としてのビジョンはないのかと問われると、ガースナーは「ビジョンなんかいらない」と答えたという。

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リストラと並行した1万人以上への聞き取り

しかし山口氏によれば、ガースナーはリストラを進めながら、社内のキーマンや重要顧客へのインタビューをずっと続けていた。座談会のような場を組み、IBMのどこが良くないか、何を変えれば良くなるか、IBMの何に期待しているかを聞いて回った。一説には1万人以上に聞いたと言われる、と山口氏は紹介している。

山口氏は、これがリーダーシップのスタイルでいえば「民主型」、あるいは「関係重視型」にあたると説明する。時間をかけて対話を繰り返し、自分なりの戦略や仮説を形づくっていったということだ。

その結果はっきりしたのは、顧客がITを使った経営課題の解決を期待していることだった。とりわけIBMに求められていたのはワンストップサービスである。山口氏の説明では、当時もさまざまなサービス企業はあったが、それぞれソリューションを一つずつしか持っておらず、利用者は状況に応じて使い分けなければならなかった。そのプロジェクトを管理するのが大変なので、IBMに相談すればワンストップで色々なITサービスを利用できる。それを期待する声が非常に強かったという。

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「e-business」というビジョン、そして育成へ

当時、ウォール街やマスコミは「IBMは大きくなりすぎた。個別のサービス企業に分割してアジャイルな組織にすべきだ」と主張していた。山口氏はこれを、経営ジャーゴンや流行り言葉の一種だと評する。これに対しガースナーの戦略は、IBMを一体のまま保つことだった。

2年目から3年目にかけて、ガースナーは「e-business」というキーワードを打ち出した。山口氏によれば、これこそがビジョンにあたる。顧客や社内のキーマンから話を聞いたうえで、物売りの会社からサービス企業に変わること、ITの力で顧客の経営課題を解決する会社になることを宣言したのである。

物を売っていた人をサービスの担い手に変えるのだから、次に重要になるのは育成だ。山口氏は、ガースナーは最後の2年間はほぼ育成しかやっていないと思うと述べた。

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一つの断面だけを見ても分からない

佐々木氏が「場面ごとに全部変えているんですね」と言うと、山口氏はうなずいた。たとえば就任から半年ほどの時点だけを切り取れば、ガースナーは完全に指示命令・率先垂範型のリーダーに見えただろうという。

山口氏はその理由として、ガースナーが元々マッキンゼーのコンサルタントだったことを挙げる。キャッシュフローをプラスにするために何をすればいいかは、コンサルタントとしておおむね見えていた。しかし、コンピューター会社として成長させるには何をすればいいのかは、なかなか分からない。だからその情報を得るために民主型のアプローチを取った、というのが山口氏の解釈である。

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順番には「アート」がある

佐々木氏が、そうしたリーダーは時代の中でもなかなか出てこない稀な存在ではないかと言うと、山口氏はキャリアも含めて「大事なのは順番」だと強調した。

山口氏の見るところ、やっていること自体が間違っている人はそれほどいない。リストラ、コストカット、戦略づくりなど、みな色々なことをやっていて、その中身はおおむね正しく、努力もしている。それでも、うまくいく組織とうまくいかない組織、うまくいく人とうまくいかない人がいる。うまくいかない場合は、たいてい順番がまずいのだという。ガースナーが就任直後にビジョンを打ち出していたら、IBMはおそらく潰れていただろうと山口氏は言う。

ビジョンを示す、指示命令する、ときには腕まくりして自分でやる、人を育てる。どれも良いことだが、大事なのは順番である。ガースナーの場合は、率先垂範と指示命令、民主型、ビジョン、育成という順だった。山口氏は、このシークエンスに「アート」があったと表現した。

佐々木氏が「アート」の意味を尋ねると、山口氏は音楽にたとえた。1オクターブには12の音しかないが、その並び方によってモーツァルトにもバッハにもなる。使っている音は全部同じで、違いはシークエンスにある。並びを入れ替えれば、音楽はまったくでたらめな音になってしまう。特定の音がすごいのではなく、音の並び方にアートがある、と山口氏は説明した。

山口氏によれば、文学もドラマも同じで、シークエンスこそがアートである。先に述べた、リーダーも部下も物語を作っていくという話についても、物語である以上そこには順序がある。それをどういう順番で組み立てるかが非常に重要になるという。

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物語の主人公に部下をさせられるか

佐々木氏が、リーダーに向いている人といない人は、その能力がある人とない人、鍛えている人と鍛えていない人の違いになるのかと問うと、山口氏は同意したうえで、もう一つの基準を挙げた。物語の主人公に部下をさせられるかどうか、である。

その点で山口氏が名前を出したのが、ジョン・F・ケネディだった。ケネディは非常にそれが上手な人だったと思う、と述べたところで、この映像は終わっている。ケネディが具体的にどのように部下を主人公にしたのかは、この範囲では語られていない。