ノーベル賞候補・森和俊教授が語る「小胞体ストレス応答」とは何か
テレ東BIZ ダイジェストBSテレ東の科学番組「いまからサイエンス」に、名城大学の森和俊教授が出演した。森教授はノーベル賞の有力候補とされる研究者である。テーマは「小胞体ストレス応答」。細胞の中でタンパク質を作る小胞体に不良品が溜まったとき、細胞はどう対処するのか。司会の加藤浩次さんは「小胞体」という言葉を初めて聞いたと話しており、番組はその基礎から順に解説を求めていく。
冒頭で示された研究の広がり
番組の冒頭では、研究の応用可能性がいくつか予告として紹介された。森教授によると、この仕組みが働かないと細胞は死ぬ、あるいは増殖できないというデータがすでにある。そこで、この仕組みに効く薬を作ろうという流れがあるという。加藤さんが挙げたのはがんの例である。
老化にも関わる話も出た。教授によれば、小胞体ストレス応答が働かない酵母や線虫、ハエは寿命が短くなる。番組の説明では、がんや糖尿病のほかにも、脂肪肝や心不全、アルツハイマー病といった性質の異なる病気への活用が期待されている。ただし、この抜粋部分で具体的に掘り下げられているのは基礎的な仕組みであり、病気への応用の詳細までは語られていない。
ラスカー賞とガードナー国際賞、そして「万年候補」
森教授は京都大学で教鞭をとっていた時期に、二つの国際的な賞を受けている。2009年にカナダのガードナー国際賞、2014年に米国のラスカー賞である。番組は、山中伸弥さんらノーベル賞受賞者もこの二つを受賞していると紹介した。
教授自身の説明では、ラスカー賞は「アメリカのノーベル賞」と呼ばれ、受賞者の半分がノーベル賞に至るとされる。ガードナー賞は4人に1人程度だという。加藤さんが「金銀両方とって、残るは1個だけ」と水を向けると、教授は自分を「万年候補」と表現した。理由として、ノーベル賞は70代でもらう人が多く、68歳の自分はまだ若いと考えていると述べた。最近の受賞者にも74歳での受賞例があることを挙げ、「まだまだ順番待ちがいっぱいある」と話している。
細胞を一人の人間に見立てる
研究の説明は細胞の構造から始まった。人間の体はおよそ37兆個の細胞でできている。教授は、細胞の中を人の体の中に置き換えて考えるとよいと説明する。
体の中にはさまざまな臓器があり、役割を分担している。心臓があるから血液が循環し、肺があるから呼吸ができ、胃が食べ物を消化し、腸が栄養を吸収する。細胞も生命の基本単位として独立に生命活動を営んでいるので、中で役割を分担する小さな臓器が必要になる。これが「細胞小器官」であり、小胞体はその一つだという。加藤さんの「僕が1個の細胞と考えていいということですね」という言い換えに、教授は同意している。
小胞体の役割は、タンパク質を作ることである。教授は、体が動いたり考えたりできるのはタンパク質が働いているからだと言っても過言ではないと説明した。小胞体は、その重要なタンパク質を作る場所にあたる。
番組のナレーションによる整理はこうだ。細胞では、遺伝情報を持つ核の周りに小胞体があり、そこでタンパク質が作られて体に届けられる。しかし、さまざまな原因でタンパク質の形がおかしくなると、不良品が溜まってしまう。大量の不良品が溜まった状態が「小胞体ストレス」で、これを解消する仕組みが森教授の解明した「小胞体ストレス応答」である。
メダカで見えた小胞体ストレスの影響
名古屋市にある名城大学の森研究室では、小胞体ストレス応答に関わる実験が公開された。研究室には3000〜4000匹のメダカがいるという。メダカを使う理由について、教授は二つ挙げた。扱える個体数が圧倒的に多いこと、そして仕組みとしては人に近いことである。
実験では、遺伝子操作によって受精直後からメダカの全身に小胞体ストレスをかけた。すると心臓に異常が出た。通常のメダカでは、心臓を覆う液体(心嚢液)はごく少量しかない。ところが小胞体ストレスをかけたメダカでは、この液体が大きく増えた。その圧力で心臓がうまく働けなくなったという。番組ではこれを、生まれてすぐ心臓の周りに水が溜まった状態として紹介した。
ナレーションでは、小胞体に不良品のタンパク質が溜まって小胞体ストレスの状態になると、糖尿病や脂肪肝、アルツハイマー病などさまざまな病気につながると考えられている、と説明された。
さらに教授は、同じメダカで小胞体ストレスを感知するセンサーを活性化させた。すると心嚢液は減り、心臓はほぼ正常に近い状態に戻った。教授は「心臓に関しては治った」と表現している。
シャペロン──タンパク質の形を整える介添え役
では、このとき小胞体の中で何が起きているのか。鍵になるのは「シャペロン」と呼ばれるタンパク質である。
教授の説明では、タンパク質は放っておくときちんとした形にならず、おかしな形になってしまうことがある。そこでシャペロンという特殊なタンパク質が寄り添い、正しい形になるよう手助けする。シャペロン自身もタンパク質だという。ナレーションによれば、体には約2万種類のタンパク質があり、形もさまざまである。それらを正しい形にし、品質管理まで行うのがシャペロンの役割とされる。
加藤さんはこれを、機械でどんどん製品が作られる工場の中で、不良品が出ないよう見張っている存在にたとえた。
不良品は捨てずに「修理」する
続いて教授は加藤さんに問いを投げた。細胞にストレスがかかると、普段働いているシャペロンが追いつかなくなり、不良品がたくさんできる。そのときどうするか、という問いである。
加藤さんがまず答えたのは「排除するしかない」だった。教授は「排除する前にもったいない」と返し、答えは修理だと示した。そのために細胞はシャペロンを増やす。小胞体に不良品が溜まっていることを感知する分子があり、それを初めて見つけたのが森教授である。分子の名前はIRE1で、教授はこれを「センサー」と呼んだ。
火事と消防署のたとえ
教授は小胞体ストレス応答の流れを、火事にたとえて説明した。
小胞体の中で火事が起き、状態が非常に悪くなったとする。建物なら、煙センサーや熱センサーが異常を感知して非常ベルが鳴る。小胞体ではIRE1がこのセンサーにあたる。センサーは異常を感知すると消防署に電話をかける。夜なら消防隊員は寝ているかもしれないので、太鼓を叩いて起こしてもらう必要がある。つまりセンサーは、消防署に連絡し、太鼓を叩いて隊員を起こすよう指令を出す。起こされた隊員が現場に駆けつけて火を消す。この隊員にあたるのがシャペロンで、シャペロンが増えることで異常が直される。教授は、この一連の流れを発見したと説明した。
加藤さんがまとめたのは、シャペロンは普段は多くないが、足りないとなればセンサーの指令で一気に増える、という仕組みである。教授はこれを肯定した。
意識の外で37兆の細胞が行っていること
加藤さんが特に不思議がったのは、これが本人の意識とはまったく関係なく起きている点だった。37兆個の細胞それぞれの中で、異常を見つけて「シャペロンが足りない」と判断し、太鼓を叩く人を呼ぶ役、叩く役、駆けつける役がそれぞれ勝手に動いている。教授は、これが全部の細胞で起きていることだと答えた。
加藤さんは「とんでもない発見」「これはもうノーベル賞」と興奮気味に語り、教授の研究は生命の基本的なインフラを解明したことになる、と位置づけた。この抜粋は、小胞体ストレス応答の基本的な仕組みの解説で終わっている。冒頭で予告されたがん治療薬や寿命との関係が具体的にどう展開されるのかは、ここでは語られていない。
今日のいまからサイエンスは、ノーベル賞の有力候補と言われる研究者。その大発見は、がんや心疾患など様々な病気の治療に生かせるというんです。
がん細胞は死ぬんじゃないか、増殖できないんじゃないかというデータはあって。その効く薬を作ろうと。すごいの見つけましたね。
さらに寿命の秘密も解き明かす。老化にも、この小胞体ストレス応答が働かない酵母とか虫とかハエは、寿命が短くなるんですよ。
世界が注目する大発見とは何なのか、本人を直撃。今回はノーベル賞の有力候補。いまからサイエンス。
いまからサイエンス。10月はですね、最先端のサイエンスが生み出している医療・健康革命というのを取り上げていくんですね。すごい先生が来るんです。ノーベル賞の登竜門って言われてるラスカー賞ですとか、あとはノーベル賞受賞者が結構多く輩出されてる、ガードナー国際賞っていうのも受賞されてる先生だ。すごい。
ノーベル賞を受賞した山中伸弥さんや利根川進さんも、ラスカー賞とガードナー国際賞、2つの賞を受賞していました。
ってことは、ノーベル賞に本当に近い先生というふうに、その業界では言われてる先生っていうことだよね。それはすごい。だからとうとうこの番組から、ノーベル賞の方が出るかもしれないって。そうです。ドキドキっていう楽しみって思うんですけれども、テーマはこちらです。
がんや糖尿病治療に革命。世界が注目する小胞体ストレス応答とは。ということで、全く何言ってるか全然わかんないですよ。初めてなんですか、これ。これ言われても。
ここにテーマで書いてありますけど、がんとか糖尿病以外にも、例えば脂肪肝ですとか、あとは心不全、アルツハイマーみたいな全然違う病気にも活用できるんじゃないかっていう期待があるそうなんです。
そこもすごい大事だと思うんですけどね。僕は今回、小胞体ストレスっていうね、小胞体っていうのが僕、初めて聞きましたから。何でしょうね。だから、今日来られる先生がノーベル賞を取る前に、小胞体は何なんだっていうことを今日ここで勉強しましょうよ、皆さんで。これ今日、大事な回ですよ、そういう意味では。
大事ですね。どんどん先生の研究と、そして医療がどう変わっていくのかというのも聞いていきます。
本日のサイエンティストは、名古屋にある名城大学の森和俊教授。
これ、ラスカー賞のトロフィーです。下、大理石なんで重いです。
京都大学で教鞭を取っていた時、多くのノーベル賞受賞者も獲得した国際賞を2つ受賞。ノーベル賞候補として注目されているんです。今回の見どころはこちら。がんや老化など気になる話題がありますが、まずはノーベル賞の裏側トークから。
森先生、本日はよろしくお願いします。よろしくお願いします。ちょっと今聞いたんですけど、本当にサイエンス界隈というか、ノーベル界隈って言っていいんですかね。もう近いと言われてるって。
万年候補ですね。万年。ラスカーもらったのは2014年なんで。ラスカー賞って何なんですか。アメリカのノーベル賞って言われてるやつで。すごい。その受賞者の半分がノーベル賞に行くと言われている。銀メダルと。もう言ったら前哨戦みたいなもんですね。
そうですね。さっきのガードナー賞というのが2009年にいただいたんですけど、それは4人に1人がって言われてるんで、銅か、そういう感じではあるんです。
もう銀、銅、両方取ってるじゃないですか。残るは1個だけ。そうです。まだ若いかなと思って。大体70代の人がもらうことが多いんで。様子見られてますか。先生、おいくつですか。68です。68。じゃあ、それでもう今年って言ってもおかしくないってことですもんね。
北川先生も坂口先生も74で、もらったんで。まだまだ順番待ちがいっぱいあるんで。
ノーベル賞への期待が集まる森先生。そもそもどんな研究をしているのか聞いていきましょう。
すごいことですよ。それだってもう2つ取ってんだもん、世界で有名な賞を本当に。その先生の研究されてる小胞体っていうのが、もう初めて僕聞いたぐらいなんですけど、そこから聞いてもよろしいですか。お願いします。
生き物は細胞でできてるというのは大丈夫ですよね。はい、理解しております。大体、我々37兆の細胞からできてるわけなんですけど。37兆か。
細胞の中はどうなってるかっていうと、我々の体の中と考えればよくて、体の中にいろんな臓器が入ってますよね。役割分担します。心臓があるから血液が循環して、肺があるから呼吸できて、胃があるから食べ物を消化して、腸で栄養を吸収する。いろんな臓器が入って、それで生きてるんですけど、細胞も生命の基本単位だから、独立に生命活動をやってるんですね。そしたら中に、やっぱり役割分担するちっちゃな臓器が必要なんですよ。
細胞の中にもちっちゃな臓器、小器官って言うんですけど、細胞の中にちっちゃな臓器がいっぱい入ってて、役割分担して我々は生きてるんです。
なるほどね。じゃあ僕が1個の細胞って考えていいということですね。そうそう。めっちゃ分かりやすい。
小胞体っていうのは、その小器官の1つなんです。細胞の中にある。タンパク質っていう我々の生命活動の担い手ですね。タンパク質、プロテインですけど、実際、体が動いたりとか考えたりは、タンパク質が働いてるからと言っても過言じゃないですね。
それは細胞の中でタンパク質を作ってる。そう。それで小胞体はタンパク質を作ってる大事な場所。なるほど。
ということで、最初の見どころはこちら。ノーベル賞級、小胞体ストレス応答。発見者本人が徹底解説。
私たちの体に37兆あるという細胞の中は、こうなっています。遺伝情報を備えた核の周りにあるのが小胞体。そこでは私たちが体を動かすのに欠かせないタンパク質が作られ、体に届けられます。しかし、様々な原因でタンパク質の形がおかしくなると、その不良品は体に溜まってしまいます。そうして大量の不良品が溜まっている状態が小胞体ストレス。この状態を解消するための仕組みが、先生の解明した小胞体ストレス応答です。
名古屋市にある名城大学。先生の研究室で、小胞体ストレス応答に関わる実験を見せてもらいました。
こちらがメダカの実験室です。3000匹から4000匹ぐらいいると思います。なぜメダカで実験しているんでしょうか。扱える個体の数が圧倒的に多いので、しかも仕組みとしては人に近いんですね。
このメダカを使って、小胞体ストレスが体にどんな影響を与えるか実験しました。
メダカで遺伝子操作をすることによって、受精直後から全身に小胞体ストレスをかけると何が起こるかっていうのを調べてみました。そうすると、心臓に異常が出るということが分かりました。
通常のメダカの心臓はこんな感じですが、小胞体ストレスをかけたものは。
ここに心臓があるんですけど、この心臓を覆ってる液、心嚢液というんですけど、これが普通はすごく少量なんですけど、これがものすごい増量するんですね。そうすると、この中の心臓に圧をかけて、心臓がうまく働けない。
左は正常なメダカ。ピンクの部分が心臓で、心臓の周りに液体は少ししか見られません。それに対し、小胞体ストレスがかかった右のメダカは、心臓の周りにたくさんの液体が溜まり、心臓が機能しなくなっています。つまりメダカは小胞体ストレスによって、生まれてすぐ心臓に水が溜まり、心不全の状態になってしまっていたんです。
このように、小胞体に不良品のタンパク質が溜まり、小胞体ストレス状態になると、糖尿病や脂肪肝、アルツハイマー病など、様々な病気になると考えられています。しかし、このメダカにあることを行うと、驚くべきことが起こったんです。
正常に近い状態で、心嚢液も減ってきて、心臓に関しては治った。
先生が行ったのは、小胞体ストレスを感知するセンサーを活性化させること。すると心臓はほぼ正常に戻ったんです。小胞体の中で何が起こったんでしょうか。
タンパク質もほっとくと変なふうになっちゃうかもしれない。きちんとした形にならないんで、シャペロンという特殊なタンパク質が寄り添って、いい形にしてあげる。
小胞体ストレス応答で重要な役割を果たすのが、このシャペロンです。
シャペロンもタンパク質なんです。タンパク質なんです。そういう細胞の中で、なかなか細胞の中でできないんで、いい形になるようにシャペロンが助けてる。外から手助けしてあげる。
だから機械化でどんどん作られてる工場の中で、シャペロンが不良品を見つけてるっていうことでいいですか。不良品が出ないように。不良品にならないようにしてるってことか。
私たちの体に2万種類あるというタンパク質は、様々な形をしています。そのタンパク質を正しい形にして、品質管理まで行うのがシャペロンなんです。
その細胞にストレスがかかって、シャペロンが普通は働いてるんだけど追っつかなくて、いっぱい不良品ができるでしょ。どうします。どうしたら直します。いっぱい不良品でしたら、もう排除するしかないですよ。排除する前にもったいないです。修理ですね、それは。そう、修理ですね。だからシャペロンを増やすんです。
勝手に細胞が。そう、これが小胞体がその時に、これは不良品がいっぱい溜まってるよという時に、それを感知する分子、それを私が初めて見つけた。それは何てやつですか。IRE1という名前なんですけど、センサーですね。すごいの見つけましたね、先生。
小胞体ストレス応答の鍵となるセンサーを見つけ、仕組みまで解明した森先生に、そのメカニズムを教えてもらいましょう。
例えばこれはもう火事みたいなもんだと。小胞体の中に火事が起こって、非常に状態が悪いと。そうなると、ここで火事が起こったら非常ベルが鳴りますよね。それは煙センサーか熱センサーがあるから、やっぱりセンサーが異常を感知するんですね。IRE1とかが異常を感知すると、そうすると消防署に電話かけますよ。
普段、夜だったら消防隊員の人は寝てるかもしれないんで、そこで起きてもらわないといけないんで、太鼓を叩いて起きてくれと言うんですよ。そのセンサーが消防署に電話して、太鼓叩いて送ってくれと、人に指令を出す。太鼓を叩いて消防隊員の人が起きて、現場に駆けつけて直してくれる。シャペロンが増えて、その異常を直すという。それを発見したということです。それ、小胞体ストレス応答って言うんですね。
結局それ、すごいシステムだなと思ったんですけど、シャペロンを増やす、いわゆるさっきの例えで言ったら太鼓の奏者っていうのは普段はいないんだけど、少ないと思ったらバッて出てくるっていう。センサーが出てこいっていう。センサーが出てこいっつって出てくるように、仕組みが細胞にある。そうですね。それでシャペロンを増やす。
それって俺なんかすごい不思議だなと思うんだけど、僕らの意識下に全然ないことじゃないですか。僕らは細胞1個1個、さっき言ってた37兆の細胞が、僕らの意識外のところで全部そういう活動をしてくれてるってことです。そうですね。全部の細胞で起こってることです。
細胞の中で、おいっつって、よしっつって、これシャペロン足りないぞって、バーッて叩く太鼓もあれば、叩く人を呼ぶ人もいれば、叩く人もいればって。1個1個それが勝手になってるってことです。そうです。すごいことですね。
これはとんでもない発見されましたよ、先生。本当に。これはもうノーベルですよ、先生。基本的なインフラを解明したことになるんですね。
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