米国株の23時間取引で何が変わるのか:日本の投資家にとっての利点と注意点

YouTubeで開く ↗
概要

ニューヨーク証券取引所やナスダックなど、米国に上場する銘柄の取引時間が12月から23時間に広がる。経済番組「マネーのまなび」では、日本経済新聞編集委員の田村正之氏が制度変更の中身と背景を解説し、米国株に投資する個人投資家や証券会社の受け止めも紹介した。番組の問いは、取引時間が延びると日本の投資家に何が起こるのか、である。田村氏は、選択肢が広がり便利になる一方で、取引のしかたによっては注意が必要だという立場をとる。

6分で読めます
1:07

冒頭のやりとり:日本株より長く取引できる米国株

番組の冒頭で、出演者の武藤十夢さんは、米国株に「ちょっとだけ」投資していると話した。個別株を売買し、積み立てとETFも利用しているという。23時間取引というテーマには、出演者から「寝るのを我慢する必要もない」「日本株と変わらない」「日本株よりも長く取引できる」といった反応があった。

ナレーションによると、米国時間の12月6日から、ニューヨーク証券取引所やナスダックなどに上場する銘柄の取引時間が23時間に拡大される。時差のある日本などでも米国株を取引しやすくなるため、投資家や企業の視線がさらに米国に向かうという声も出ているという。

1:43

取引時間はどう広がるのか

田村氏は、現在の取引時間を次のように説明した。米国市場の通常の取引時間は、米国時間で午前9時半から午後4時までである。これに加えて、米国時間の午前4時から9時半までと、午後4時から8時までの時間外取引がすでに行われている。

今回は、取引所がこれらとは別に時間外取引を新たに設ける。追加されるのは米国の夜間にあたる時間帯で、日本時間ではおおむね午前10時から午後5時ごろになる。既存の時間外取引と合わせると、1日23時間の取引が可能になる。

スタジオからは「日本人にとってちょうどいい時間帯」「取引しやすそう」という声が出た。田村氏は、日本の取引時間と重なることで、これまで日本と米国が時間帯で分かれていた面がなくなるとも指摘した。

3:17

なぜ今、取引所は時間を延ばすのか

拡大が決まった理由について、田村氏は二つの要因を挙げた。

一つ目は、取引所外との競争である。日本では東京証券取引所など取引所のシェアが非常に大きい。これに対して米国では、日本でいうPTS(私設取引システム)のような取引所外の取引のシェアがかなり高いという。ニューヨーク証券取引所やナスダックにとっては、そうした取引の場と競争して、自分のところに取引を集めたいという事情がある。

二つ目は、アジアの需要である。日本を含むアジアでは米国株の人気があり、追加される時間帯はちょうどアジアの日中にあたる。取引所はアジアのニーズを取り込もうとしている、と田村氏は説明した。スタジオでは、日本だけでなく中国やインドでも便利になるため、世界的にさらに米国へ資金が集まるかもしれない、という見方も出た。

4:15

日本の証券会社ではまだごく一部しか取引できなかった

田村氏によると、日本の日中にあたる時間帯の米国株取引は、米国では「ナイトタイム取引」と呼ばれ、ATSという仕組みで行われている。ただし、この夜間のATSでの取引を扱える日本の証券会社は、新興の証券会社のごく一部に限られていた。大手のネット証券でも、この時間帯は取引できていないという。

取引所が23時間取引を始めれば、この時間帯の取引が広く可能になる。田村氏は例として、日本の取引時間中にトヨタと米テスラの値動きを比べながら売買することを挙げた。こうした取引をしたい人には便利になる、と話した。

4:58

ニュースへの反応と市場の相互作用

スタジオでは、アジアで起きた出来事も米国の株価に影響するので、日本の出来事を踏まえながら米国株を売買できるのは良い、という意見が出た。ニュースに即座に反応できるようになるという声もあった。

一方で、この時間帯には米国で大きな発表は基本的にない、という指摘もあった。そのうえで、日本側のニュースを受けて米国株がどう買われ、どう売られるかを判断する場面はありうる、という話になった。田村氏も、米国独自のニュースでなくても、たとえば日本の日中に原油価格が大きく上がった場合などには反応しやすくなると述べた。

5:45

米国株に投資する個人投資家の受け止め

番組は、米国株に投資する個人投資家にも話を聞いた。この投資家は、取引の機会が増えることで、日本市場と同じように昼間も相場に向き合ってしまう人が出るかもしれないと話した。見なくてよいものまで見えてしまい、かえって成績が悪くなる人もいるかもしれない、という見方である。

本人については、じっくり考えたいタイプなので、市場が常に動いている状態はあまり得意ではないという。ただ、暗号資産はすでに24時間動いており、それがドル建ての株式でもできるようになる、と受け止めている。気持ちは「楽しみ半分、忙しくなるかなという懸念半分」で、慣れるだろうがすぐにではない、と語った。

6:32

メリット:決算に機動的に対応できる

個人投資家への影響については、別の取材先がメリットと注意点を挙げた。

メリットは、決算に応じてポジションを縮小・拡大したり、ポートフォリオを調整したりする対応を機動的に行えることである。日中にリアルタイムで売買できるようになる点もメリットに挙げた。これまで日本株市場の構成銘柄や成長性に物足りなさを感じていたデイトレーダーやスイングトレーダーも、日本の昼間に「マグニフィセント7」のような流動性の高いグローバル銘柄を売買できるようになる、という。

6:47

注意点:つい動いてしまうことと、板の薄さ

注意点の一つ目は、相場が見えすぎることだ。日本の取引時間中に米国株の値動きが見えるようになるため、動かなくてよいのに動いてしまい、売らなくてよいのに売る、買わなくてよいのに買う、ということも起こりうるという。

二つ目は、取引の成立のしかたである。時間外の取引なので板が薄く、売値と買値の差(スプレッド)が開きやすい。いわゆる「板飛び」やスリッページが起きやすいと考えられる、と指摘した。特に中小型株に注意が必要だという。ナレーションでは、取引が少ないと、株価が102ドルのときに出した注文が、実際には103ドルで成立するといったずれが生じる可能性がある、と説明した。

8:04

どんな人が備えるべきか

米国への投資を考える人がどう対応すればよいかについて、取材先は次のように答えた。最も大きな影響を受けるのは、個別株を売買する人と、これまでドルで売買してきた人である。そのため、個別株やドル建てETFに関心があるなら、今から始めておくのも一つの手かもしれないという。

一方、コア・サテライト戦略のコア部分で投資信託を積み立ててきた人は、特に慌てずに見守っておけばよく、これまで通りでよいだろう、と話した。

8:39

証券会社の対応:松井証券は大きな期待

米国株の売買にかかる米ドルの両替手数料を無料にしている松井証券は、23時間取引に大きな期待を寄せている。同社は12月7日午前11時から、米国株の取引時間を現行の12時間から23時間に拡大する。

同社の担当者は、23時間対応にはシステム改修のコストや業務フローの変更に伴うリソースがかかると認めた。それでも、それを上回るメリットがあると考えて対応を決めたので、期待感のほうがはるかに大きいと話した。背景には、米国株の取引そのものが今後大きく伸びていくという見立てがあり、米国株での強みをあえてサービスの中に作ってきている、という。

番組はこのあと、取引時間の拡大で特に大きな変化がありそうなのはどんな投資家か、という問いに進むところで、この動画は終わっている。