相次ぐ情報流出の背景にAIはあるのか――オープンウェイトモデル「GLM-5.3」の脅威と、流出した免許証画像がeKYCを突破する危険性

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概要

タイムズカーで最大約660万件の情報流出が発表されて以降、企業や団体を狙ったサイバー攻撃の被害公表が連日続いている。テレビ東京キャスターの竹﨑由佳氏が進行するこの番組では、AIを使ったセキュリティ事業を手がける株式会社AgenticSec代表取締役CEOの中谷翔氏と、テクノロジー分野を取材するテレビ東京の鵜飼祥記者が、攻撃急増の背景に最新AIがあるのかを議論した。中谷氏は、AIの進歩と攻撃の増加には関連があると個人的には考えている。一方で、個々の事案にAIが使われたとは現時点で断定できないという立場も崩さない。

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攻撃者の技術で先回りするセキュリティ企業

中谷氏が率いるAgenticSecは、顧客のセキュリティを守るために攻撃者が使う技術をあえて用い、攻撃者より先にリスクを洗い出す製品を展開している。中谷氏によれば、今の攻撃者はAIを使う。そのため同社もAIを使い、「AIで攻撃されるとこんなことが起こる」という状況を模擬的に見せる製品を提供しているという。中谷氏は以前、Anthropicの「Claude Mythos」に関する解説動画にも出演している。

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業種を問わず広がる被害

番組ではまず、公表された被害の規模が整理された。ディスカウントストアを運営するミスターマックスでは最大約173万人分、GMOのアンケートサイトでは最大約95万件、焼肉きんぐでは会員のほぼ全件にあたる1078万件の顧客情報が流出した可能性がある。このほか旭の子会社で55万件、10万件規模の流出可能性を発表した企業もある。大和証券や大阪大学へのランサムウェア攻撃も起きており、被害は業種を問わない。デジタル大臣は閣議後の会見で「自分の情報は自分で守るという意識を持ってほしい」と呼びかけ、官房長官も事態を大変深刻に受け止めているとしている。

ここ数週間で被害が急増しているように見えることについて、中谷氏は、9月の終わり頃からタイムズの事案を皮切りにほぼ毎日のように漏洩事案が出てきたと振り返る。そのうえで、見かけの急増を二つの要素に分けて考える必要があると指摘した。報告事例が大きく増えたのは事実だが、攻撃を受けた時期はまた別の問題だという。多くの企業が被害を受けているのを見て、他の企業でも「うちはやられていないか、もう一度点検しなさい」という指示が出た。その結果、数か月前に侵入されていたことが判明したケースもおそらくあるだろう、と中谷氏は推測する。つまり攻撃自体が増えている面と、過去の侵害がさかのぼって明らかになった面の両方がある、というのが中谷氏の見方だ。

警察庁の発表では、今年上半期に検知されたサイバー攻撃の準備段階とされる不審なアクセスは、1つのIPアドレスあたり1日1万3687件に上った。前年同期比で50%増え、過去最多である。

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注目されるオープンウェイトモデル「GLM-5.3」

鵜飼記者は、最新AIが今回の攻撃増加に関係しているのではないかと個人的に見ていると述べた。中谷氏も個人的には同じ考えで、AIモデルの進歩と攻撃の増加には関連を感じているという。ただし、現在増えている攻撃が新しいモデルによるものだという証拠は世の中に出回っておらず、断定はできないと念を押した。

そのうえで中谷氏が注目しているのが、中国などがよく開発しているオープンウェイトモデルだ。特に最近セキュリティの業界で話題になっているのが「GLM-5.3」である。中谷氏によれば、GLM-5.3は4月にリリースされたAnthropicのMythosと同程度のサイバー攻撃能力を持つ。しかもMythosやFableなど米国のフロンティアモデルに備わっている「サイバーセキュリティ的に危険な攻撃はしないようにする」というガードレールが、GLM-5.3にはあまりない。この点についてはAnthropicから詳しいレポートが出ているという。能力は高いがガードレールが薄いモデルが出回ったことも攻撃の増加に関連しているのではないか、と中谷氏は個人的に見ている。

GLM-5.3がどれほどの脅威なのかという問いに、中谷氏は「やっぱりすごい」と答えた。4月のMythosでサイバーセキュリティ能力ががらりと高まったと報じられた。それから半年ほどの10月に、同等のものがオープンウェイトで手に入るようになったことになる。攻撃者にとってはガードレールもないため使いやすい。こうしたモデルが出てくること自体は予想されていたが、予想より少し早く出てきた。攻撃の増え方とも重なり、「やっぱり来てしまったか」という感覚だと中谷氏は語った。

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オープンウェイトとは何か、なぜ問題になるのか

鵜飼記者は、ChatGPTやAnthropicのClaudeシリーズのようなクローズドモデルと、オープンソースのモデルとの中間にあるのがオープンウェイトだと補足した。ユーザーが自分の好みに合わせてチューニングできる点が特徴だという。

中谷氏はこれを認めたうえで、さらに説明を加えた。オープンウェイトモデルは、チューニングせずに手元の環境にダウンロードして高性能なマシンで動かすこともできる。また、モデル内部の結合の重み(ウェイト)を変えることで、「セキュリティ的に危ないことはするな」といったアラインメントの部分をいじることも技術的には可能だ。GLM-5.3については、現状では重みをいじるまでもなく悪用できるように見えるという。ただ今後、オープンウェイトモデルのガードレールやアラインメントが厳しくなってきた場合には、オープンウェイトであることを生かして重みを改変し、悪用する事例が出てきても不思議ではない、と中谷氏は見ている。

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米中のAI開発姿勢の違い

ガードレールの強さは開発企業のモラルに委ねられているのか、という問いに対し、中谷氏はモラルに加えて「何を目指して開発しているか」「どんなユーザーに使ってもらいたいか」によると答えた。GLM-5.3を提供する中国企業がどのような狙いで公開しているのか、正確なことは知らないと前置きした。そのうえで、米国のOpenAIやAnthropicと比べると、まず性能が大事で、アメリカに追いつき追い越すことが最大の目標になっている印象だと述べた。

一方の米国企業について中谷氏は、サイバーセキュリティ能力や数学的能力はベンチマークで測れる範囲ではかなりの水準に達していると見る。そのため、理解しにくいベンチマークを増やして競争を続けるより、安全性に着目したり、サイバーや数学以外にも裾野を広げる汎用的な力(AGI的な方向)を伸ばしたりする方向に向かおうとしているのではないか、というのが中谷氏の考えだ。中国がセキュリティ分野に注力しているかどうかは正確な情報がなく何とも言えないとしつつも、GLM-5.3については、少なくとも目標の一つとしてセキュリティ能力を明確に狙っていると感じられるほどの伸びがあると述べた。

フロンティア級の性能を持つオープンウェイトモデルが中国から出てくることは予想されていたのか。中谷氏は「予想していた」と答えた。これまでもオープンウェイト系のモデルは、OpenAIやAnthropicなど米国フロンティアモデルから6〜10か月ほど遅れて性能が追いついてくる傾向があった。Mythosが出た際にも、これはAnthropicだけにできることではなく、OpenAIも追随するだろうし、オープンウェイト系も半年ほどで追いつくだろうと別の取材で話していた。実際にその通りになった、と中谷氏は振り返った。

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なぜ「AIによる攻撃」と断定できないのか

一連の事案がGLMやAIによるものだと断定できない理由について、中谷氏は図を使って説明した。被害を受けたシステムが、AIによるサイバー攻撃と、AIを使わない従来型の攻撃の二つから通信を受けたとする。被害側からはその二つを見分けることができない、というのが要点だ。AIによる攻撃と従来型の攻撃すら区別できない以上、どのAIモデルが使われたかを被害側で識別することはさらに難しい。

中谷氏はここで「ハーネス」という仕組みも説明した。ChatGPTなどのAIモデルは、言語で質問を受けて言語で返す。つまりトークンを受け取ってトークンを出力するのが基本的な挙動だ。しかし言語を出力するだけでは、サイバー攻撃を実行したり画像を生成したりすることは難しい。そこで、コンピューターのプログラムを実行する能力をモデルの横に持たせる。それがハーネスで、ツールやソースコードを実行する能力を備えた制御基盤を指す。AIモデルが指示書を作り、ハーネスがそれを実行するという二段階の構造になっている。現在はCodexやClaude Codeといったコーディングエージェントを使えば、ユーザーが指示を投げるだけで、モデルが必要に応じてハーネスを呼び出し、ユーザーの望む行動まで自動で実行する、と中谷氏は解説した。

ガードレールはこのどこで働くのか。中谷氏によれば、モデル側とハーネス側の両方で防いでいる。モデル側では、アラインメントと呼ばれる技術によって「こういうことは言うな」という方針がモデルに埋め込まれ、危険な内容がそもそもトークンとして出にくくなっている。ただそれだけでは保証として弱すぎるため、ハーネス側でもブラックリストのような形で特定の行為を絶対にできないようにしている。その集合がガードレールと呼ばれるものだ。GLM-5.3の場合、ガードレールはあるにはあるが、その水準が非常に低いということになる、と中谷氏は述べた。

鵜飼記者は、AIなら24時間365日攻撃を出し続けるといった量の違いで見分けられるのではないかと尋ねた。中谷氏の答えは否定的だった。攻撃者が一つずつ手作業で攻撃を送るのと比べれば確かに量は違う。しかし従来から、攻撃者が自作の攻撃プログラムをループさせて24時間回し続けるやり方はあった。それと比べると、発信元がAIなのか従来のプログラムなのかは量からも判別できなくなっているという。

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中小企業や学校まで狙われるようになった理由

鵜飼記者はさらに、狙われる対象の変化を指摘した。これまでは、数千万人規模の顧客基盤を持つ大規模事業者やインフラ系事業者など、リターンが大きそうな相手が狙われることが多かった印象がある。ところが最近は高校や、顧客がそれほど多くない事業者も被害を公表している。

中谷氏は、この印象は基本的に正しいと答えた。各組織はそれぞれ異なるIT基盤を持っているため、画一的な攻撃で多くの組織を突破するのはこれまで難しかった。攻撃リクエストを試しに送り、返ってきた反応を見て「この反応なら次はここを変えれば通るのでは」と考える作業は、従来は人間が頭を絞って時間をかけて行う必要があった。それをAIが自律的に行えるようになった。その結果、攻撃を対象ごとにカスタマイズしながら幅広く仕掛けられるようになったのが現状ではないか、と中谷氏は見ている。

中谷氏は誤解のないように補足した。以前から幅広く狙う攻撃自体はあったが、いちいちカスタマイズしている余裕がないため成功率は低かった。一方、大企業が相手なら手間をかけても成功すれば見返りがあるので、刺さる攻撃を作り込んでいた。だから大手からの流出が多かった。それがAIでカスタマイズを自動化できるようになり、小さな組織も含めて幅広く漏洩事案が出やすくなった、というのが中谷氏の描く構図である。

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AIで攻撃者は何ができるのか――既存経路の自動化

今回の国内事案でAIが使われたことは示されていない。そのうえで、仮にAIを使えば攻撃者は何ができるのか。中谷氏は、AIによってまったく新しい経路の攻撃が大量に生まれているわけではないと説明した。公開されたウェブサイトやAPIの脆弱性を突く攻撃も、VPNを狙う攻撃も従来からあった。こうした攻撃の入り口で、これまで人間が脆弱性を突いたりフィッシングメールでパスワードを奪ったりしていた作業が、AIによって大幅に自動化・コード化されつつある、というのが中谷氏の現状認識だ。新しい手段ではなく、突破しやすくなったということになる。

ウェブサイトやAPIへの不正アクセスでは、各社が独自に作り込んだ脆弱性や、各社が共通して使うライブラリの脆弱性を探し出して突き、目的を達成する。AIの登場で、脆弱性の探索、それに基づく攻撃プログラムの作成、実際に成功するまでの調整を全自動でできるようになってきたという。中谷氏はMythosの解説でも話したこととして、次の点を強調した。脆弱性を見つけるところまでできる人はいても、その脆弱性に合わせて攻撃コードを作れる人は技術的に難しいため、かなり限られる。AIがそこをかなりこなせるようになったため、公開ウェブサイトなどへの攻撃は楽になってしまっているという。

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認証情報の窃取とフィッシングの高度化

従業員のアカウントや端末を経由した攻撃についても、中谷氏は危険性が増していると述べた。脆弱性を突く攻撃も昔から怖かったが、長年最も多かった攻撃経路は、認証情報を奪われてなりすまされ、侵入されるパターンだったという。

認証情報を奪う典型的な経路がフィッシングだ。中谷氏は例として、Appleを装って「パスワードの更新期限が来ているので更新してください」とメールやメッセージアプリで誘導し、Appleそっくりの偽サイトでIDとパスワードを入力させる手口を挙げた。AIによって、誘導のメッセージを人間らしく作ったり、誘導先のサイトをリアルに作り込んだりすることが容易になり、数も精度も上がっているという。

中谷氏はさらに、「過激なので放送ではカットされるかもしれない」と前置きしたうえで、リンクをクリックしただけで端末を乗っ取られる攻撃にも触れた。こうした攻撃は以前からあったものの、それほど多くはなかった。しかしAIによって作りやすくなっており、フィッシングでリンクをクリックしただけで乗っ取られる事態が起きやすくなっているという。

これはAIがコンピューターを操作する「コンピューターユース」のようなものかと問われ、中谷氏は違うと答えた。リンクをクリックすると、メールアプリからリンク先に飛ぶまでに様々なソフトウェアを経由する。モバイルアプリなら、LINEアプリを開くような「ディープリンク」をクリックすると、OSなど紐づいた部分にも制御が渡る。そのいずれか、あるいは最終的に開いたアプリやブラウザの脆弱性を突かれると、どの範囲かは脆弱性によるものの、何らかの制御を奪われてしまう。これは昔から起きていたことだと中谷氏は説明した。

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攻撃者は増えているのか――ツールの低コスト化と多様な被害要因

一連の攻撃は、高度な技術を手にした有名ハッカー集団の仕業なのか、それとも攻撃者自体が増えているのか。中谷氏は、攻撃者や攻撃組織の数がおそらく増えていると見込んでおり、その根拠を二つ挙げた。

一つ目は、攻撃ツールが安く手に入るようになったことだ。高性能なAIが入手しやすくなったことに加え、サイバー攻撃専用のオープンソースソフトウェアも出回っている。AgenticSecのような企業も技術的にはそうしたものを見ているが、悪意を持って使うこともできてしまう。AIそのものも、その周りで使うハーネス的な部分も手に入りやすくなっているという。

二つ目は、日本国内の被害状況を見ても、各社がやられている原因が様々だという点だ。ある会社では、フィッシングで外部クラウドサービスのアカウントを奪われ、ドライブアプリのファイルを読まれた。複数の事業会社が利用する委託先のお問い合わせフォームサービスが攻撃され、顧客が入力した氏名やメールアドレスがフォーム経由で漏れた事案も複数見られる。自社アプリケーションが侵害されたケースもある。こうした要因の多様さから、一つの組織が同じようなAI攻撃を繰り返しているだけではないだろう、と中谷氏は考えている。

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世界的にも増える攻撃

この秋以降の攻撃増加は世界的な傾向なのか。中谷氏は、確かな証拠データはまだ少ないとしつつ、どうやら世界的に増えているようだと述べた。参考にしているのが、ネットワークセキュリティやクラウドセキュリティを手がけるイスラエルのチェック・ポイントのレポートだ。同社は自社サービスを導入した顧客に届く通信を監視でき、攻撃通信の増減を把握できる立場にある。

中谷氏によれば、同社のレポートでは9月から攻撃の増加が観測されている。9月の全業種の攻撃数は前年9月と比べて48%増え、金融セグメントに絞ると今年8月から9月にかけて14%増えたという。日本だけにとどまらず世界的に攻撃事例が増えているとデータからは見ている、と中谷氏は語った。

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流出した免許証画像とeKYC突破の危険性

ここまでの話はAIを使ってどう侵入するかだった。話題は次に、得られた情報をAIで悪用すると何ができるかに移った。タイムズカーの件では運転免許証の画像が多数流出したことが問題視されており、想像しやすいのはディープフェイクによる悪用だ。

鵜飼記者が紹介したのが、オンライン本人確認であるeKYCだ。最近は多くのサイトのユーザー登録で、免許証を見せる、顔を左右に向ける、免許証の厚みを見せるといった手順が求められる。KYCは「Know Your Customer」の略で、そこに「電子的な」という意味のEが付いたものがeKYCである。

中谷氏は、AIを使えばeKYCを突破できる可能性は「実はある」と考えている。現行の日本のeKYCは、主に犯罪収益移転防止法に基づく方式、いわゆる「ホ方式」で行われている。顔写真付きの本人確認書類の券面の見た目と厚みを確認し、厚みがあることで偽造書類ではないと判断する理屈らしい、と中谷氏は説明した。加えて、本人の顔を静止画1枚ではなく動きも含めて確認し、実在する人物であることを確かめる。ただしこれはAIが生まれる前の制度であり、ディープフェイクがあればかなり容易に突破されるだろう、と中谷氏は推測している。

その根拠として中谷氏が語ったのが自身の経験だ。以前在籍した消費者向けサービスの開発会社で、自社アプリに登録する顧客の本人確認をeKYCでもできるようにするプロジェクトのリーダーを務めていた。eKYCシステム自体を作ったわけではないが、システムを提供するベンダー数社を選定する過程で、ある会社のシステムを自分たちでテストすることになった。開発者本人の免許証や顔写真を登録するのは、テストとはいえ従業員のプライバシー上問題がある。そこで、トランプ大統領や当時の安倍首相のパーティー用マスクを買ってきて、マスクを被った状態の免許証画像をテスト目的に限って作った。それを紙に貼り付けて厚みのチェックを通し、マスクを被ったまま「右を向いて」といった指示通りに動いたところ、ほぼ確実に突破できたという。

中谷氏は、これは2018〜2019年頃の話であり、各社とも法制度の範囲内で技術的な精度を上げてきているだろうと留保した。一方で、今の生成AIやディープフェイクはマスクよりはるかに精度の高い顔画像を作れる。そのため現行の方式には限界があると考えている、と述べた。

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AIの「悪用」か「暴走」か

この時点で竹﨑氏は別の仕事のため退席し、以降は鵜飼記者が質問を続けた。鵜飼記者は、米国でこうした議論が盛り上がった発端として、OpenAIとHugging Faceに関わる件を挙げ、あれはAIの暴走だったと述べた。そのうえで、今回の一連の攻撃は悪意を持った人間によるものと見てよいのか、それともAIが暴走して仕掛けている可能性も少しはあると考えるべきなのかを尋ねた。

中谷氏は「極めていい質問で、かつ極めて難しい質問」だとして、慎重に答えると前置きした。日本人や米国人のように、OpenAIやAnthropicといった広く使われているAIを使っている限り、攻撃的な暴走のようなことはなかなか起きないのではないか、というのが中谷氏の考えだ。その理由として、先に説明したガードレールの存在に触れたところで字幕は途切れている。ガードレールの薄いモデルの場合にこの見立てがどう変わるのかは、ここでは語られていない。