【大谷翔平】なぜスイングスピードが低下した?/山本由伸の好調の理由/シンカー進化でサイヤング級の活躍/ポストシーズン直前に「MLB日本人選手」をデータで徹底分析【PIVOT BASEBALL】
PIVOT 公式チャンネルポストシーズンを直前に控えるメジャーリーグ(MLB)において、日本人選手の果たす役割は年々大きくなっている。元ヤクルトスワローズ監督の高津臣吾氏、野球データ分析を手掛けるDELTA社長の岡田友輔氏、スポーツライターの西尾典文氏を迎え、最新のトラッキングデータやセイバーメトリクスをもとに、ドジャースの大谷翔平および山本由伸の現状と技術的な変化について分析が行われた。
日本人メジャーリーガーの現在地と多様化する挑戦ルート
MLBでプレーする日本人選手について、元監督の高津氏は、故障等で休養したダルビッシュ有の投球を今季もっと見たかったとしつつも、投手も野手もそれぞれのチームで重要な役割を担い、優勝争いやポストシーズン進出に大きく貢献している点を高く評価する。
アマチュア野球を長年取材してきた西尾氏は、現役メジャーリーガーの顔ぶれを見ると「高卒ドラフト1位」出身者が依然として多数派を占めている点を指摘する。プロの世界へ早い段階で身を置き、基礎と経験を積むことがメジャーで活躍する上でのひとつの優位性であることは変わらない。しかし近年では、日本の高校から直接米国の大学へ進学し、そこからメジャーを目指す選手が登場するなど、挑戦のルート自体に新たな広がりが見られる。西田陸浮のように米大学を経てメジャー昇格を果たした実例や、佐々木麟太郎のように高校卒業後に直接米国の大学へ進む事例を挙げ、今後10年のスパンで見れば、NPBを経由する従来型以外のルートからメジャーへ到達する日本人選手が増加する可能性があると論じた。
大谷翔平の打撃異変:スイングスピード低下と二刀流の代償
大谷翔平の今季の打撃成績について、岡田氏はデータ面から「打撃の質」に生じた変化を解説した。打席あたりの得点創出力を示す「wRC+」やOPSといった指標が、前年に比べて落ち込んでいる点が挙げられた。
興味深い比較対象として示されたのが2022年のデータである。2022年は大谷が打者として666打席、投手として166イニングを投げ、投打の両方で規定に到達した「二刀流が最も機能したシーズン」であった。しかし、打撃単体の成績(本塁打数、長打率、OPS、wRC+)を精査すると、二刀流をフル稼働させた今季の数値と酷似している。この傾向から岡田氏は、投手と打者の両方をフルに継続することは、どうしても打撃パフォーマンスにある程度の影響を及ぼすという構造が改めて確認できたと説明する。
特に顕著な変化が現れているのが「バットスピード(スイングスピード)」である。MLB上位1%以内を示す「100」というトップ水準にあった2023年と比べ、その後は97、93と推移し、今季は79まで低下した。
月別のスイングスピード推移を追うと、その要因がより鮮明になる。2023年から全体的に下降傾向にある中で、2025年9月に二刀流登板を再開した直後から数値が急激に低下していた。今季も同様に、登板を重ねる中でスイングスピードが落ち込んでいる。これに加えてシーズン終盤の故障の影響も重なり、数値が一段と押し下げられた形である。
一方で、大谷はバットとボールが最適な角度でコンタクトする割合を示す「ランチアングル・スイートスポット率」を年々向上させている。低下しつつあるパワーやスイングスピードを、コンタクト技術の向上によって補い、成績を維持しようとするアプローチが機能していると岡田氏は分析する。
年齢的な節目と今後の起用法という課題
スイングスピードの低下は、身体能力や打球速度と密接に連動する。通常、スイングスピードが速いほど強い打球が生まれる確率(ハードヒット率やバレル率)が高まり、安打になる割合も上がる。岡田氏によると、打者に専念していた2024年シーズン(50本塁打・50盗塁を達成した年)は、シーズンが進むにつれて打球速度が上昇しており、フィジカル面でも打撃に全力を注ぎ込める状態にあった。
しかし今季の大谷の最大打球速度は114マイルにとどまっている。この数値自体はメジャー全体の上位20%程度に位置し、平均を大きく上回る優秀な数字ではあるものの、かつてのように「メジャートップクラス」に君臨していた水準からは後退している。
一般に野手の打撃成績の全盛期は27歳から28歳前後とされる。大谷は規格外の身体能力によって高い水準を維持してきたが、32歳という年齢を迎えた現在、経年による肉体変化と二刀流の負担が重なっていることは否定できない。
このデータを受けた高津氏は、監督の立場からすれば投打ともにチームの柱である大谷の起用法は極めて難しい判断になると述べる。勝つためには先発ローテーションに入って投げてほしい一方で、打撃を優先させるために登板をセーブさせるべきかという葛藤が生じる。
岡田氏は、今オフ以降、球団フロントと首脳陣が大谷の起用法について綿密な対話を持つタイミングが来ていると指摘する。例えば、先発登板の間隔を中5日や中6日からさらに延ばし、年間登板数を15〜20試合程度(月2〜3回登板)に抑える、あるいは定期的に打者としての休養日を挟むといった、徹底した稼働管理を行うことが、長期的な戦力維持のために現実的な選択肢になるのではないかとの見解を示した。
投手・大谷の現在地:三振奪取からゴロ誘殺へのシフト
打撃面での負荷が議論される一方、投手・大谷のパフォーマンス自体は、故障離脱前までは極めて高水準にあった。奪三振率は以前よりやや低下したものの、今季はスプリットの投球割合を増やし、打者にゴロを打たせる投球スタイルへと舵を切っていた。
高津氏は投球フォームのマイナーチェンジなどにも触れつつ、2021年のスイーパーを多投して空振りを奪うスタイルから、スプリットで効率よく打ち取るスタイルへと、大谷自身が毎年思考を重ねてモデルチェンジを遂げている点を評価した。岡田氏も、登板さえ継続できればサイ・ヤング賞を視野に入れられるほどの質の高い投球内容を披露していたと認める。それだけに、いかに肉体への過負荷を避けながらその能力をチームの勝利に還元させるかが、ドジャースにとっての最重要命題となっている。
山本由伸の投球革命:曲がり球から「小さく動かす球」への移行
ドジャースの先発陣を支える山本由伸については、球種構成の大胆な変更と、それに伴う課題の克服がデータによって浮き彫りになった。
今季の山本は、奪三振率こそ前年よりわずかに低下したものの、与四球率を減らし、非常に安定した投球を続けている。その背景にあるのが、過去3年間の球種配分の劇的な変化である。
- フォーシームの投球割合を減らす一方、ボール自体の質が向上し、空振り率は上昇。
- かつて山本の代名詞とされていたカーブやスライダーといった「大きく曲がる球」の割合を大幅に削減。
- 代わりにカッターやシンカーといった「手元で小さく動く球」の割合を急増させた。
スライダーを除いても、5つの球種をそれぞれ全体の10%以上の割合で投じることができる構成となっており、打者にとっては的を絞ることが極めて困難な投球スタイルを確立している。
高津氏は、空振りを狙うだけでなく「打たせて取る」方向へマイナーチェンジしていると分析する。曲がり球を減らして動く球を増やし、たまに投じるカーブの緩急効果を際立たせることで、結果的にフォーシームの威力や空振り奪取力も引き上げられているという。
シンカーが生んだ対右打者の克服
この球種変更が最も大きな成果として表れたのが、「対右打者」の被打撃データである。
山本は本来、左打者を得意としていた反面、右打者の対応にやや課題を抱えていた。右打者に対するハードヒット率(強い打球を打たれた割合)は、2020年が44.9%、前年が47.4%と高い数値を記録していた。しかし今季、右打者に対してシンカーを積極的に投じる配球へ転換した結果、右打者のハードヒット率は38.1%へと10%近く改善した。強い打球を抑制することは長打や本塁打の劇的な減少に直結するため、投手として極めて本質的な進化を果たしたと言える。
さらに特筆すべきは、新球種としてのシンカーの急速な「質的向上」である。投球の威力(スタッフ)やコースへの制球力(コマンド)を総合した指標「Run Value(100球あたりで平均的な投球より何点失点を防いだか)」において、山本のシンカーは劇的な推移を見せている。
- 2024年のシンカーのRun Valueは「-1.7」(平均より失点を増やしていた)
- 今季のシンカーのRun Valueは「+2.2」(平均より2点以上失点を防ぐボールへ変化)
わずか2年足らずの間に、投げるほど失点につながっていた発展途上の球種を、メジャートップクラスの失点抑止力を持つ絶対的な武器へと昇華させた。
制球力とピッチデザインが支える適応力
右投手が右打者に対してシンカーを投じる難しさについて、高津氏は技術的な観点から補足を行った。腕を内旋させて投げる性質上、自然とシュート回転はかかるものの、右打者の外側からストライクゾーンに入れる「バックドア」や、左打者の内側から入れる「フロントドア」を投げ分けるには、極めて繊細なコントロールが要求される。山本はその高度な制球力を短期間で実戦レベルに引き上げた。
メジャーの投手のなかでは小柄な体格に属する山本が、これほどの適応を見せる背景には、すべての球種をストライクゾーンの四隅へ投げ分ける圧倒的な「コマンド(狙った場所へ投げる能力)」の高さがある。
また、打者の目から自分の球種や軌道がどう見えているかをアナリストとともにデータで可視化し、シーズン中であっても課題に合わせて柔軟に持ち球の比率や質をアップデートできる環境も大きい。大谷やダルビッシュにも共通するように、データを論理的に理解した上で実戦で即座に体現できる日本人投手の器用さと適応力が、現代MLBの高度なピッチデザインと結びつき、進化を後押ししている。
大谷翔平の身体的負荷への向き合い方と打撃・投球スタイルの再構築、そして山本由伸が見せるデータと技術を融合させた柔軟なモデルチェンジは、ポストシーズンの勝敗を分ける重要なファクターとなる。番組はその後、MLBへ挑戦する日本人打者の指標分析として、村上宗隆や岡本和真らのデータ検証へと議論を展開させていった。
