自動運転は地方の足になれるか 技術ジャーナリスト・鶴原吉郎氏が語る採算の壁と移動の未来

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概要

人口減少で公共交通が細る地方こそ、自動運転を必要としているのではないか。技術ジャーナリストの鶴原吉郎氏は、ニーズの切実さは認めながらも、普及はまず利用者の多い都市部から進み、地方に恩恵が届くには時間がかかると見る。地方で実証実験が続かない理由、自家用車向け自動運転の各国の現在地、日本のロボタクシー計画、そして車の位置づけがどう変わるかについて、鶴原氏の見立てを整理する。

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予算が切れると終わる地方の実証実験

鶴原氏によれば、日本で公共交通の自動運転を進めるにあたり、政府は地方での実験にかなりの予算を出すようになった。地方自治体が手を挙げて国の資金を受け、実証実験を請け負う企業も多く存在する。

車両で多いのは、ゴルフカートのような小型の電気自動車だという。本来は公道を走らない車両にブレーキランプやヘッドランプ、ウインカーを付けて公道を走れるようにし、カメラやレーダーを載せて決まったルートを低速で走らせる。観光用や市民の足として使われ、輪島の町でも地震の前にはこうした車両が走っていた。廃線になった鉄道の跡を道路にして他の車が入れないようにし、そこをカート型の車両が往復する例もある。

鶴原氏は、こうした取り組みは技術的に高度ではないものの、公共交通が貧弱になった地域で移動手段をつなげないかという狙いで100か所ほどで行われていると説明する。ただし、多くは「今年の予算が終わったらおしまい」という形で、恒常的に続いている例は少ないという。

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ティアフォーとオープンソースという戦略

実証実験の技術を担う企業の一つがティアフォーである。鶴原氏は加藤社長と10年ほど前から付き合いがあるという。同氏の説明では、ティアフォーはウェイモのような先行企業に対し、オープンソースソフトウェアという方法で対抗しようとした会社だ。ウェイモの自動運転ソフトウェアは非公開だが、ティアフォーは「Autoware」という基盤ソフトを公開し、誰でも改良してよいとした。

鶴原氏はこれをLinuxにたとえる。Windowsは中身が非公開で、マイクロソフトの収益源になっている。一方、Linuxはリーナス・トーバルズ氏が基本部分を作って公開し、改良したら成果をコミュニティに戻すというルールで多くの人が改良を重ねた。その結果、完成度が高く、お金を払わずに使えるソフトウェアになった。ティアフォーはグーグルほど資金や人員がないため、世界中の開発者を味方につける方針をとったという。鶴原氏は、中国で多くのロボタクシーを走らせているバイドゥ(百度)の「Apollo」も、もとはAutowareを大幅に改良したものだと述べている。

一方で、ティアフォーはあくまでソフトウェア企業で、自らタクシー事業を運営しようとはしていない。自社技術で改造した車両を実証実験に貸し出すことはあるが、それが地域に根付いて続く形にはなっていない。鶴原氏は、これが日本の地方の現状だとまとめる。

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免許返納と閉じこもりという地方の切実さ

地方では人口が減って公共交通がなくなり、高齢者は役所から運転免許の返納を勧められる。しかし返納すると移動手段がなくなり、病院にも行けず、友人に会いに行くのもおっくうになる。外出のたびに息子や嫁、孫に送迎を頼むのも気が引ける。鶴原氏は、こうして家に閉じこもると健康にもよくなく、場合によっては認知症の発症につながるかもしれないという危機感を、どの自治体も持っていると話す。

ただし鶴原氏は、最終的には自治体ではなく企業がビジネスチャンスを見いだして運営しなければ難しく、補助金だけでは回らないと考えている。

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運転を自動化しても解決しない問題

鶴原氏が最近話を聞いた神奈川中央交通では、平塚のようにそれほど地方ではない都市でも運転手のなり手が非常に少なく、将来は路線の半分ほどを自動運転にしたいと真剣に取り組んでいるという。

課題の一つはコストである。現在、バスを自動運転化するには数千万円の改造費がかかり、それをどう回収するかが問われる。もう一つは安全と運用だ。神奈川中央交通も自動運転化したバスの実験車両を走らせているが、車内で乗客が転倒した場合や、小さな子どもが扉に挟まらないかといった安全確認、何か起きたときの対応が必要になる。タクシーでも、運転手がいるから車内をあまり汚さないという面があり、無人になるとシートを破られるようなことがないかを確認しなければならない。鶴原氏は、運転さえ自動化すればすべて解決するわけではなく、いまはそうした点を見極めている段階だと述べる。

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安い人件費の乗り合いバスに勝てない

さらに、自動運転でない乗り合いバスを運行する自治体は全国に100ほどあり、多くは退職した、後期高齢者ではない高齢の人が安い時給で運転している。そのため運用コストが低く、現状ではまだ高価な自動運転車両はコスト面で見合わない。

ここから鶴原氏は、自動運転はまず利用の多い都市部のタクシーやバスで採算が合うようになり、車両が増えて技術のコストが下がり、その後に地方へ、という順序になると予想する。地方まで恩恵が及ぶには時間がかかるというのが「正直なところ」だという。

聞き手が、課題が先にある地方の方が導入しやすいのではと尋ねると、鶴原氏はニーズの切実さは高いと認めつつ、利用者の絶対数が少ないことを最大の課題に挙げた。少ない利用者で広いエリアをカバーするには多くの車両を配備できず、採算が合いにくい。移動する権利を基本的人権に加え、公的資金を入れるべきだと主張する人もいるが、財政に余裕のある自治体は少ない。鶴原氏は、コストを下げたうえで公的補助も使いながら現実的な落としどころを探る形でなければ難しいと見ている。

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自家用車ではレベル2プラスが市街地へ

自家用車について、日本で実用化されている主流はレベル2の運転支援である。高速道路の単一車線で、アクセル・ブレーキ・ハンドル操作なしに走れるが、ハンドルは握っている必要がある。その先のレベル2プラスは、厳密な定義はないものの、前を見ていればハンドルから手を離してよいというものだ。

日産の「プロパイロット2.0」は、鶴原氏が前日に試乗したエルグランドのほか、アリア、リーフ、セレナの4車種に搭載され、手放し運転ができる。キックスにはまだ搭載されていない。日産は2027年に次世代プロパイロットを実用化し、信号や標識、交差点がある一般道でも使えるようにするとしている。鶴原氏の見立てでは、ハンドルは握っておく必要があるが、目的地を入力すれば操作は車がすべて行うものになる。

テスラはハンドルから手を離して走れるが、日本や中国では手を添えておくことが前提で、市街地でも使える運転支援という位置づけになる。日産に続き、トヨタとホンダは2028年から同様の機能を搭載すると発表しており、鶴原氏は、日本でもいわゆるテスラ水準の機能が来年ごろから一般化していくと述べた。

技術の調達先は各社で異なる。日産は英国のウェイヴ(Wayve)、ホンダはAI企業のヘルムAI(Helm.ai)の技術を一部取り入れ、トヨタは基本的に独自開発としている。鶴原氏は、自社開発にこだわるのも、AIに強い企業と組むのも一つのやり方で、どちらが良い悪いではないとした。そのうえで、他の自動車メーカーは自力で開発するのが大変なため、こうした企業との共同開発や技術導入で進めるだろうと予想している。

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中国はテスラと同等の水準に

中国では、街中で使えるレベル2プラスがすでに多くの企業で導入されている。先行したのは「新興3強」と呼ばれるシャオペン、リ・オート、NIOで、いずれも自動車メーカーというよりIT企業的な出自を持ち、AIを応用した自動運転技術を独自に実用化した。少し遅れて、中国の販売トップを争うBYDや吉利(ジーリー)も最近急速に追いついた。

一方、上海汽車、北京汽車、第一汽車のような国営出自のメーカーはコンピューター技術が得意ではなく、そこにファーウェイがセンサーとソフトウェアをセットで提供している。鶴原氏によれば、ある程度以上の価格帯の車では20万〜30万程度のオプション、あるいは標準装備でこうした機能が付き、すでに一般的に走っている。

その背景として鶴原氏は、EVやソフトウェアを国策として推進していること、そして国費で優秀な学生をスタンフォード大学やカーネギーメロン大学などに大量に留学させ、帰国した「海亀族」がバイドゥなどのIT企業を創業してきたことを挙げる。さらに、中国はアマゾンやフェイスブックのような米国IT企業のサービスを導入させなかったため、代わりとなる国内企業が育ち、そこで力をつけた技術者が自動運転分野に入ってきたという。日本ではアリババやテンセント、グーグル、アマゾンに匹敵する企業が生まれなかった、と鶴原氏は対比した。以前はテスラがリードしていると言われたが、いまは中国勢が少なくともテスラと同等になっているというのが鶴原氏の印象だ。

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米欧の伝統的メーカーは足踏み

米国の伝統的メーカーについて、鶴原氏はGMの例を挙げる。GMはレベル3に近い「スーパークルーズ」の実用化を目指し、自動運転ベンチャーのクルーズ・オートメーションを買収してロボタクシーにも取り組んだ。しかし、実験車両が人をはね、数メートル引きずる事故を起こして社会的批判を浴び、戦線を縮小した。現在はレベル2プラス程度を手がける方向だが、具体的な時期を発表しておらず、その点ではむしろ日本の方が進んでいると鶴原氏は見る。フォードも積極的な姿勢を示していない。

欧州でも、メルセデス・ベンツ、BMW、フォルクスワーゲンといった大手でさえレベル2プラスはまだ実用化されておらず、今年末から来年にかけてになるとの見通しだ。鶴原氏は、テスラと中国勢は特別で、それ以外の伝統的メーカーの間には大きな差はついていないと整理した。

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日本のロボタクシーは日産・ウェイヴ・ウーバー連合から

日本のロボタクシーについては、日産が来年度の事業開始を目指して実験を進めている。日産の車両、ウェイヴの自動運転技術、ウーバーの配車プラットフォームを組み合わせた形で、まず都市部から始まり、ウーバーのサービス地域で順次拡大していくと鶴原氏は見る。

ホンダはGMクルーズと組んで事業を始めると発表していたが、GMの縮小で白紙に戻り、体制を立て直している最中だという。ウェイモも日本で実験しているが、開始時期は未定で、車両を提供するのがトヨタになるかもまだわからない。トヨタは有力候補の一つだが、トヨタとウェイモの組み合わせが実現するかは不明だとした。はっきりしているのは日産・ウェイヴ・ウーバー連合の動きであり、バス会社による自動運転化も2030年ごろまでに何らかの形で実用化したいという段階にある。

経済産業省は全国100か所程度で自動運転の移動サービスを導入する目標を掲げているが、鶴原氏は「あまりうまくいく感じがしない」と率直に述べる。理由の一つは事業主体がはっきりしないこと。もう一つは、日産も東京、横浜、大阪といった大都市圏から始めるはずで、とても100か所には届かないことだ。ゴルフカートのような車両が少し走る程度で「自動運転モビリティができました」とするのも疑問だという。

そのうえで鶴原氏は、しっかりした事業体が本格的に展開し、少しずつ広げていく道筋を描く。日産は福島県浪江町で、人間が運転する乗り合いバスのサービスに力を入れており、都市部で一段落すれば福島あたりで自動運転の移動サービスを始めるのではないかと推測する。同様に、ホンダなら栃木周辺、トヨタなら地元の愛知県など、各社に思い入れのある地域から地方へ広がっていくのではないかという。

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移動の目的まで提供する「チョイソコ」

聞き手が、無人になってもオペレーションのコストは残ると指摘すると、鶴原氏は地方での参考例として、トヨタ系部品メーカーのアイシンが全国展開する乗り合いサービス「チョイソコ」を紹介した。運転は人間が担い、アイシンは車両と運行の仕組みを提供し、事業主体は自治体や地域の企業体が務める。

特徴の一つは電話予約である。停留所は決まっており、利用者はどこからどこへ行きたいかを伝える。スマホでも予約できるが、高齢の利用者が多いため、まず電話でオペレーターが受ける。もう一つは広告モデルだ。病院や薬局、美容院など高齢者が利用する店舗にスポンサーになってもらい、その前に停留所を設け、車内に広告を出す。トヨタ系ディーラーが広告を出し、店舗でそば打ち体験のような高齢者向けイベントを企画することもある。移動手段だけでなく出かける目的も提供し、生きがいの一部を担う発想だ。

鶴原氏は、移動だけを見ていると採算の道筋は見えにくいが、広告やコンテンツと組み合わせて考えれば違う選択肢が出てくるかもしれないと述べた。

30:46

自動運転はEVでなければならないのか

テスラに試乗した聞き手が、自動運転とEVの相性について尋ねると、鶴原氏はEVが向いているとされる理由を二つ挙げた。一つは、高性能コンピューターや多数のセンサーを積むため電力が多く必要で、もともと大量の電気を持つEVが適していること。もう一つは、モーターの方がエンジンより応答が速く、コンピューターの加速やブレーキの指示に対して制御しやすいことだ。

ただし、エンジンを発電に使いモーターで走るハイブリッド車なら問題なく自動運転できると鶴原氏は言う。ウェイモも米国でハイブリッドのミニバンを使ってサービスを行っていたことがあるという。エンジン走行よりモーター走行の方が制御しやすいことは確かだが、不可能ではないというのが鶴原氏の答えだ。

32:36

車を持たない世代と、都市で減るもの

5年後、10年後の姿を問われ、鶴原氏は自身の家族の話から始めた。3人の子どもは誰も車に興味がない。息子2人はAT限定免許で、せっかくだからマニュアル免許を取ったらと勧めると「だって運転する機会ないじゃん」と返されたという。子どもたちは車を持たず、共働きのため横浜に住む鶴原氏とは違って無理をしてでも東京23区内の駅近くに住み、車なしで暮らしている。若者は車に興味がないと言われるが、まさにそれを地で行っていると笑う。昔から「自動運転はできる」と言い続け、娘から「いつできるのよ」と言われてきたが、いよいよその時代が来つつあると鶴原氏は話す。

鶴原氏が描くのは、車を持たなくても呼べば来てくれて、人件費がない分タクシーよりかなり安い移動手段だ。テスラは、本当に実現するかはともかく、今のタクシーの10分の1程度の料金でサイバーキャブを運行すると言っている。それが実現すれば車を手放す人も出てくるかもしれない。

ただし鶴原氏は、車が減るのはむしろ都市部だと見る。地方では都市部ほど配車台数を増やせず、待たされたり雨の日に乗れなかったりするため、車はあまり減らないだろうという。さらに都市部では、混雑した地下鉄や鉄道、バスに乗るより安い自動運転車で移動しようという流れになり、公共交通の需要の方が減るのではないかと予想している。地方でも、増えるインバウンド客に対し、AIが英語、フランス語、ロシア語、中国語、イタリア語などで案内するようになるとも述べた。

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車の分類に当てはまらないモビリティへ

鶴原氏がもう一つ強調したのは、車の形が多様になることだ。人間が運転する車にはある程度以上の大きさが必要だったが、自動運転なら荷物だけを運ぶ小さな車でもよい。宅配便の荷物を運ぶ車、広い空港で足の不自由な人を運ぶカートなどに加え、2本の足でおぶって階段を登り、お寺に連れて行ってくれるようなものも出てくるかもしれないという。AIを積んだ多様なモビリティが登場し、移動の自由が広がっていく世の中になってほしいというのが鶴原氏の願いだ。

最後に鶴原氏は、大げさに言えば馬車が自動車に変わるような変化がこれから起きると述べた。馬車から自動車への転換にも30年ほどかかったといい、ガラケーからiPhone、ブラウン管テレビから液晶テレビへの移行のような変化が、今後20年から30年かけて目の前で起きるだろうと語り、「ぜひ楽しみに見ていましょう」と締めくくった。