NECは「AIネイティブ」と防衛でどう成長するのか:森田隆之社長が語る再生の残り1割とSIの変わり方

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概要

PIVOTの佐々木紀彦氏が、NEC社長兼CEOの森田隆之氏に、2012年ごろの苦境からの再生と今後の成長戦略を聞いた。論点はAIと防衛の二つである。森田氏は、会社と事業のあり方を「AI前提」で作り直すことを最大の課題に挙げる。そのうえで、NECが以前から手がけてきた通信インフラや宇宙などの事業が、いまでは経済安全保障の主要な構成要素になっていると説明した。AIと安全保障は互いに結びついた一つの成長の柱だ、というのが森田氏の立場である。

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記者時代から20年ぶりの本社

佐々木氏はかつて記者としてNECを担当しており、本社ビルを訪れるのは約20年ぶりだという。ラフな服装の社員が増え、ソフトウェア企業のような雰囲気になったと話すと、森田氏は外観は変わっていないとしたうえで社内の変化を説明した。コロナ以降はリモートワークが当たり前になり、出社率はおおむね50%程度だという。フロアのレイアウトも変え、ビル内にリモート用のサテライトオフィスを設けた。通常のオフィスも職場ごとにある程度自由にレイアウトを決められるようにしたため、以前より広々とした印象になっているという。

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過去の清算は「9割」、ただし構造改革に終わりはない

2012年ごろのどん底から、NECは半導体や携帯電話などの事業を取捨選択してきた。改革と再生は何割まで来たのかという問いに、森田氏は過去の清算、つまり「クリーンアップ」はおよそ9割まで来たと答えた。計画としてはほぼすべてに着手しており、残りは実行の段階で、あと1〜2年ほどかかる見込みだという。

一方で森田氏は、企業は生き物なので、改革を進めていると新たな問題がまた出てくるとも述べた。構造改革は常に意識して続ける必要がある。そのうえで、過去から引き継いだ負債、いわゆるライアビリティについては9割がた目処が立ったという認識を示した。

日本の大企業を本当に変えるには何年かかるのかという問いには、自身の経験から「10年」と答えた。改革の起点は2012年で、森田氏が社長に就いたのは2021年である。そのころに先のことも考えられる「普通の会社」になったと感じたという。過去の問題や目の前の問題を抱えながらも、ある程度バランスを取って将来を考えられるようになった、という意味だ。ただし、10年は少し時間がかかりすぎかもしれないとも付け加えた。

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「大変だったとは思っていない」

幹部として関わったこの15〜16年で一番大変だったことは何かと聞かれると、森田氏は「考えたことがない」と答えた。走り続けてきたので、大変だったとはあまり思っておらず、むしろ楽しんできたという。物事が一つずつ前に進むのは嬉しいもので、誤解を恐れずに言えば少しゲーム感覚で取り組んできたと語った。

構造改革を進める人は恨まれやすい。だからこそ自分をどう褒めるかが大事で、ある意味では自己満足の世界だと森田氏は言う。精神的にこたえなかったのかという問いには、自分は忘れやすいのだと答えた。終わったことでは悩まず、先のことだけを考えるのが基本だという。

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次の一手は「AIネイティブ」への作り替え

佐々木氏は、売上高で富士通を約20年ぶりに上回ったこと、株価水準も8兆円ほどまで上がったことに触れた。そのうえで、AIの登場で「SaaSの死」が語られるなか、2030年に向けて何が鍵になるのかを尋ねた。

森田氏の答えは、会社のあり方と事業のあり方をAIを前提にすべて変えていくことだった。社内ではこれを「AIネイティブ」と呼んでいる。簡単ではないが、日々そう言い続けながら、個別の現場では実際に変化が進んでいるという。

森田氏は、AIネイティブの議論は安全保障と切り離せないとも述べた。世界では対立する価値観が共存しており、グローバルサウスも台頭している。その中で自社の立ち位置を考えながらAIネイティブな企業とビジネスのやり方を構想するには、安全保障の視点が欠かせない。だからこの二つは相互に関係している、という説明である。

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なぜAIと防衛なのか:「生まれ育ち」が安全保障に重なった

事業を選ぶなかで、なぜAIと防衛に特化したのか。森田氏はこれを「歴史というか生まれ育ち」の問題だと説明した。

安全保障から話すと、NECの防衛事業は他社と違って比較的独立した存在だった。一方で、海底ケーブル、通信インフラ、宇宙といった事業は、もともと防衛とは関係がなかった。ところが社会がデジタル化し、AIも絡んでくると、安全保障の領域にデジタルインフラが入り込んできた。衛星も海底ケーブルも通信インフラも、どこで調達し、どこで作り、それをどう安全な形で提供するかというサプライチェーンまで含めて問われるようになった。これは防衛と同じようなビジネスモデルである。森田氏は、NECがたまたま手がけていたものが、気づいてみると経済安全保障の主要な要素になっていたと語った。

AIについては、NECがもともと通信から始まり、コンピューターや半導体を手がけてきた会社であることを挙げた。社会を変えてきた流れはインターネット、モバイルを経ていまAIに移りつつあり、AIはその中核にある。だからこの領域に挑戦しないという選択肢はない、というのが森田氏の説明である。

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「今までと同じSIでは死んでしまう」

AIの登場は、システムインテグレーター(SIer)にとって逆風ではなく、新しい市場になるのか。この問いに森田氏は、企業としてはそう考えなければならないと笑いながら答えた。そのうえで、言わざるを得ないのではなく実際にそうなのだと言い直した。ただし社内では、「今までと同じSIじゃ死んじゃう」と伝えているという。

森田氏は社内で使っている図を例に説明した。その図で意味があるのは、膨らんだりへこんだりしている部分ではなく、全体がつながっていることだという。これまでは、コンサルティングが提言し、システム構築は顧客の言う通りに作って納め、運用は運用で監視とサポートを担うというように、プレイヤーがばらばらだった。

しかし最近は、コンサルティング会社でさえ顧客から「それで使えるのか」「それでいくらになるのか」と問われる。パワーポイントの資料だけでは商売にならず、結果まで出す必要がある。AIの世界では、提言、構築、運用がつながってしまっているというのが森田氏の見方だ。システムインテグレーション自体はなくならない。だが、それだけで価値を考えていては駄目で、どんな問題を解決するのか、どうデリバリーし運用するのかまで見通さなければならない。それができなければ、ビジネスは続けられても安く買い叩かれるか、誰かの軍門に下ることになる、と森田氏は述べた。

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アビームとの補完関係

佐々木氏が、アビームコンサルティングの買収が今になって生きているのではないかと聞くと、森田氏は「すごくあると思います」と答えた。森田氏自身も大きな学びを得ているという。一方で、アビームも変わらなければならないし、NECも変わらなければならない。

森田氏によれば、アビームはNECのBluStellar(ブルーステラ)や、AIのモデル、セキュリティ、フィジカルなもの、ソフトウェアといった要素を自前では持っていない。これらはアビームがコンサルティングやシステムインテグレーションを提供する際に必要な要素になり、差別化の源泉にもなる。逆にNECにとっては、過去にあまり得意でなかった経営課題への取り組みで、アビームと連携したり彼らから学んだりできるという。

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競合はアクセンチュアか、それとも顧客自身か

コンサルからシステムへと領域を広げるアクセンチュアのような企業が最大のライバルになるのか。この問いに森田氏は、いまは各社が競走している状況だと認めた。そのうえで、案外よく考えておくべき相手は顧客そのものだと指摘した。

AIを使ってみればわかるように、いまは顧客自身がAIと会話するだけでプログラムを作れてしまう。単に画面やシステムを作るだけでは付加価値はどんどん下がる。NECはそこに「プラスアルファ」を提供しなければならない。その意味で、顧客も競合になるし、富士通や日立といった伝統的な企業も、コンサルティング会社も競合になると森田氏は述べた。

一方で、AnthropicやOpenAIのようにフロンティアモデルを作る企業については、表面上は競合する部分もあるかもしれないが、むしろパートナーとしての性格が強いという見方を示した。フロンティアモデルの開発企業はモデル開発に集中したい。しかし顧客の現場には、フロンティアモデルを使うまでもないものがたくさんある。そこではコストを考える必要があり、データのあり方も、既存システムからのマイグレーションも考えなければならない。フロンティアモデルの恩恵を受けるには、こうした障害がいくつもある。それを取り除き、実務的に仕上げていくところにNECのような企業の出番がある、というのが森田氏の考えである。

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FDEとパランティア:流行語の中身

佐々木氏は、パランティアが広めた「FDE(フォワード・デプロイド・エンジニア)」という言葉を取り上げ、NECの取り組みと重なるかを尋ねた。森田氏はまず、世の中には流行り物が次々出てくるもので、よく聞くと何を言っているのかわからない「FDE」も多いと皮肉を交えて答えた。

森田氏の理解では、パランティアのFDEがやっていたのは、AIと顧客のデータを使ってデータに意味づけと紐づけを行い、さまざまな意思決定を整理し、それをシステムとして回していくことだった。これはSIの中で今後必要になる領域だという。問題は、それをどの規模でやるか、効率よく進めるためにデータをどう持つか、企業のIPをどう守るかである。定義次第ではあるが、フロンティアモデルと実際のオペレーションをつなぐという点で、NECが目指すものはパランティアの取り組みと近い面がある、と森田氏は認めた。

17:19

防衛でもパランティアの役割を担えるか

防衛分野で、パランティアが担っているような役割を日本国内でNECが担っていくのか。この問いに森田氏は「もちろん」と答え、NECにはそれができると述べた。

根拠として森田氏が社内でもよく話しているのは、パランティアの創業初期と比べてAIモデルが格段に進化したという点である。パランティアが過去に苦労してきたデータの意味づけや紐づけは、いまははるかに容易になっている。では彼らの優位性はどこにあるかといえば、ユースケースと現場での経験、いわば「慣れ」の蓄積だという。そこはNECがキャッチアップしなければならない部分だと森田氏は認めた。

森田氏は主権(ソブリンティ)を守る観点からも、日本は日本として、ヨーロッパはヨーロッパとして、こうした能力を育てる必要があると主張した。ヨーロッパではすでにパランティアを排除しようとする動きも出ていると述べ、その背景には自分たちの肝となる部分は自分たちで守らなければならないという危機感があると解釈した。日本については、アメリカとの関係も含め、パランティアを使う場面と日本独自の仕組みを使う場面をきちんと使い分けることが必要だとした。

18:59

防衛は儲からないビジネスだった:単年契約とコストプラス

防衛産業は伸びるのは確実でも、長期契約で成長率はそれほど高くないとも言われる。この指摘に対し、森田氏はまず前提を訂正した。防衛の契約はもともと長期契約ではなく単年契約である。しかも価格はコストプラス方式で決まるため、経営努力でコストを下げると利益が減ってしまう構造だった。

森田氏によれば、数年前に防衛大臣が主要な防衛関連企業を集めてヒアリングを開いたことがあり、それが転換の起点になった。いまも不定期に開かれている。当初は、どうせ何も変わらないだろうと思っていたという。しかしその背景には国の危機感があった。防衛は儲からず、一部の団体からは「武器を作るのか」といった非難を受けることもある。森田氏自身もヒアリングで、投資家を回ると「防衛をいつやめるのか」と聞かれる、これでは続けられるわけがないと訴えたという。

こうした議論を経て、現在は営業利益率が最大15%まで認められるようになったと森田氏は説明する。一律にその利益率になるわけではなく、競争力のある技術で成果を出した企業に対して上乗せする仕組みだという。

開発投資の仕組みにも課題があった。これまでは一品ものの開発が中心で、競合する複数の技術に同時に投資する仕組みがなかった。森田氏はアメリカを例に挙げ、破壊的な新技術についてはA社の技術にもB社の技術にも投資・購入すると説明した。完全な防衛ではないがSpaceXの例を見るとわかるように、頑張ればどれだけの市場があるのかという予見可能性が広がれば、企業も健全に投資できる。さらに今はデュアルユースの重要性が大きく、サイバーセキュリティはまさにデュアルユースそのもので、AIもある意味ではデュアルユースだという。そのため防衛市場はNECにとって大きな成長の柱になる、と森田氏は語った。

22:07

デュアルユースは偶然ではなく設計から

部品の共通化などでコストを下げるデュアルユースは、偶然生まれるものなのか、それとも最初から民生利用を計画して進めるものなのか。森田氏は後者だと答え、赤外線センサーを例に経緯を説明した。

防衛事業がNECの中で独立していた時代にも、面白い製品はあった。赤外線センサーはその一つで、コロナ禍では体温チェックに大活躍した。しかし当時は1台が何百万円もした。防衛の世界にはコストを下げるインセンティブがないためだ。いざ民生市場が出てきて設計し直そうとしても、もともとデュアルユースを想定した設計になっていないため、一からやり直しになる。その結果、品質や性能が劣るうえにコストも高いものになってしまったという。

森田氏によれば、10年ほど前にこれでは駄目だと判断した。日本の防衛市場は小さいので、防衛だけでなく、最初からデュアルユースを想定した設計と開発をしなければならない。共通部分と防衛特有の部分をインターフェースで切り分けて開発すると、防衛市場だけを見れば割高になる。しかし次に民生市場を考えるときには非常に効率的に進められる。この10年ほどで、NECはそうした方向に開発手法と投資の考え方を変えてきたという。

24:10

防衛装備の輸出:同じ物を出せない問題と「取説」がない問題

輸出については、オーストラリアとの契約やニュージーランドとの協議が話題になった。森田氏によると、オーストラリアの場合は自衛隊に納めているものと同じものを提供できるため比較的容易だった。難しいのは、同じものを輸出してはいけないとされるケースである。ここで先ほどの設計の問題が出てくるが、デュアルユースの考え方を取り入れた設計になっていれば対応できるという。

もう一つの課題として森田氏が挙げたのが、NECが装備品を売る際に「取説」がないという問題だ。装備をどう運用するかのマニュアルは自衛隊が持っており、NECには渡されず、NECが売ることもできない。しかし顧客は技術を買えば、それをどう使い、どう運営するかまで必要とする。だから装備品の輸出には官民の連携が絶対に必要になる。森田氏は、日本政府もこの点をようやく理解し、対応してくれるようになったと述べた。

同盟国なら取説を渡してよいのかという問いには、同盟国ならよいとしつつ、深く見ると同盟国にも関係の濃淡があると答えた。外交上の基本方針や国同士の付き合い方をNECがすべて知っているわけではないので、国がガイドすることがどうしても必要だという。

26:06

地政学への「鼻」と政府の政策転換

NECの社長は地政学や外交に常に気を配らなければならない仕事なのかと問われ、森田氏は感性を持っていなければ駄目だと答えた。これはどういうことか、これは確認しておいた方がいい、と気づく「鼻が効く」ことが絶対に必要で、そのうえで自分で確かめていくことが事業を進める助けになるという。

この5年ほどの日本政府の政策転換については、「本当に評価できる」と述べた。17の戦略分野については、多すぎるという批判が多く、確かに多いとも認めた。それでも、なかった時と比べれば格段の進歩だというのが森田氏の評価である。あれを出発点として徐々に進化させていければよい。あれは軍事の話ではなく、日本が国際社会の中でどの技術で競争力を高めていくかというコミットメントであり、企業から見れば予見可能性が上がる。地政学を前提条件として考えなければ思わぬところで足をすくわれる時代なので、非常に重要だと語った。

国が旗を振るインパクトは大きいのかという問いに対しては、旗を振るのか、あるいは地図を見せてくれるのか、そこが重要だと答えた。ただしこれは政府に頼るという話ではない。その地図をもとに、企業が自分のリスクでリスクを取って投資する。投資の角度が上がれば、それは国にとってもメリットがある、というのが森田氏の考えである。

28:18

海外利益比率50%と投資家への説明

NECは長期的に営業利益の海外比率50%を目指している。その戦略と、NECの事業が海外の投資家にすぐ理解されるのかを問われ、森田氏は投資家に二つのことを伝えていると述べた。一つは、AIとセキュリティは「コインの両面」だということ。もう一つは防衛で、NECがなぜこうした領域を一つのグループとして考えているのかを説明すると、「なるほど」と納得してもらえるという。

半導体から撤退したことを後悔しているかという問いには、残念ではあるが、当時の判断は正しかったのではないかと答えた。

最後に佐々木氏が、日本のCEOは原稿を読むのをやめた方がいいのではないかと水を向けると、森田氏は、原稿を読んでも面白くないと答えた。その場で考えて「ああ、そうだな」という新しい発見がないと、時間がつまらない、というのがこの回の締めくくりの言葉だった。