投球を再現するロボット「トラジェクトアーク」は野球の練習をどう変えたか 斎藤隆・真中満が聞いた仕組みと限界

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概要

PIVOT BASEBALLのこの回は、前半でポストシーズンを見るためのデータ解説を締めくくり、後半で投球再現ロボット「トラジェクトアーク」を取り上げた。出演は元メジャーリーガーの斎藤隆、元ヤクルト監督の真中満、DELTA社長の岡田友輔、司会の西川典孝である。後半にはトラジェクトスポーツの東アジア統括を務める山同建がゲストとして加わった。

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後半の問いは、実在の投手のボールを機械でどこまで再現できるのか、それが球団の練習をどう変えたのか、という点にある。山同は導入実績や価格、使われ方、まだできないことまで具体的に説明した。元選手の2人は、打者・投手としての感覚から質問を重ねた。

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佐々木朗希の「球の質」と、データで測りにくい勝負強さ

データ解説の最後に岡田は、ドジャースの投手陣について説明した。山本由伸は基本的に安定した内容だという。そのうえで岡田は、佐々木朗希に注目してほしいと述べた。ボールの「スタッフ」やコマンドなどの評価を見ると、ボールそのものは山本に劣らないくらいの評価になっている。シーズン後半に調子が良かった時期には、すでにそれなりのポテンシャルを示していたと岡田は見ている。

出演者からは、評価と印象がなぜここまで違うのかという疑問が出た。そこで挙がったのが四球(BB)である。岡田は、四球の指標は悪くても投げているボールの質は良く、彼のポテンシャルはそこに表れていると説明した。

話題は、緊張する場面での強さはデータで測れるのかという点に移った。真中は代打として1シーズンに31安打を記録している。勝負がかかった場面で結果を残す力をデータで捉えられないかと問われると、岡田は「難しい」と答えた。打席ごとに状況がすべて違うためだ。これに対して斎藤は、9月・10月の数字を切り出せば、シーズン後半に強い選手は見えてくるのではないかと提案した。斎藤によれば、メジャーでは9月以降の数字が重視されるといわれている。それまでは平均的でも終盤に強い選手を、球団は見ているはずだという。

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ゲストの経歴:リトルリーグからラプソード日本立ち上げまで

トラジェクトアークの話題は、以前の岡田との雑談で出たものだった。番組ディレクターが強い関心を持ち、開発企業に連絡してゲストを招いた。

山同は子どもの頃にアメリカに住んでいた。リトルリーグでは投手として、バージニア州で2位になった。本人はこれを「私の野球のピーク」と笑う。帰国後は神奈川で一番弱い学校で野球を続けた。その後は大学と社会人でアメリカンフットボールを30歳ごろまでプレーした。引退後は野球に戻り、スポーツメーカーでグラブやバットの制作、マーケティングに携わった。前職では、後の話にも出てくる計測機器ラプソードの日本での立ち上げを担当したという。

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従来のピッチングマシンとの違い

山同はまず、従来のピッチングマシンとの違いを説明した。これまでのマシンには、アーム式と回転するローラー式の2種類があった。どちらも決まった方向・角度からボールを発射するだけで、回転や回転軸は考慮されていない。主な目的は、バッティング投手の肩の負担を減らすことだったと山同は言う。

トラジェクトアークは、AIとトラッキングデータを使って、プロの投手のボールを忠実に再現する。リリースの角度、回転数、回転軸、スピード、アームスロット(腕の角度)を精密に再現でき、縫い目の向きまで合わせられるという。同社はこれを「ピッチングロボット」と呼んでいる。機械はレールの上を動き、右投手・左投手の区別をつけたうえで、投手の実際の数値を入力する。すると、投手の映像と一緒にそのボールが再現される仕組みだ。

真中は、ソフトバンクを訪ねたときに似たような機械を見たことがあると話した。ただ、それがこの機械なのかは分からないという。

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世界で120台、MLB30球団中28球団が導入

山同によれば、10月時点で全世界に120台が導入されている。メジャーリーグでは30球団中28球団が使っている。大谷翔平が使っているというニュースもあり、ドジャースももちろん導入済みだという。

残る2球団について、山同は球団名を明かさなかった。ただ、経緯は説明した。この2球団は会社ができたばかりの頃に導入した最初期の顧客だった。当時は精度が低く、使うのをやめてしまったという。現在は再導入に向けて交渉中で、年内には入るだろうと山同は見ている。

会社の創業は2019年である。カナダのウォータールー大学の学生2人が、投手が優位に立つ「投高打低」の時代に何かできないかと考え、このマシンを生み出した。7年目の若い会社で、社員も若いという。

NPBでは12球団中7球団が導入している。球団同士の横のつながりで情報が伝わり、「入れないとまずい」という流れになっているという。7球団の中には複数台を導入している球団もある。斎藤や真中は、打撃の良いソフトバンクには何台か入っていそうだと推測したが、山同は球団名を明かさなかった。

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価格は72万ドル、約1億1000万円

価格をめぐっては、出演者が予想を出し合った。斎藤は、昔のアーム式マシンが150万〜200万円ほどだったと振り返った。山同もアーム式は50万〜150万円ほどだったと補足した。出演者からは「外国人選手を1人獲るくらい」「1億円に届かないくらい」といった予想が出た。

山同が明かした価格は72万ドル、日本円で約1億1000万円である。山同自身も、最初に聞いたときは「とんでもない値段」だと思ったという。それでも、ここまでの機能があれば元は取れると考えている。導入前と導入後で成績に変化が出ていることからも、価格に見合う価値があるというのが山同の見方だ。本人も「ちょっと営業的」と断ったうえでの発言である。

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球団の利用データをもとにソフトウェアを更新し続ける

斎藤は、選手の感想や利用データを集めて改良しているのかと尋ねた。山同によれば、社員は各球団の利用データをすべて見られる。誰がどれくらい、どういう投手のボールを打っているかが分かるが、もちろん公開はしない。

球団とは毎年、特にウインターミーティングの時期に、翌年の使い方を話し合う。アナリストから「こういう機能を足してほしい」という要望も届く。同社のエンジニアはそれを次々と製品に反映している。ハードウェアはあまり変わらないが、ソフトウェアの機能は進化し続けているという。

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「軽いボール」を用意した理由

西川は、打者がよく言う「軽い150キロ」「重い150キロ」をマシンで調整できるのかと質問した。山同は、選手がどう感じるかは分からないと前置きした。そのうえで、同社が複数の種類のボールを用意していることを紹介した。

用意されているのは、重さ5.25オンス(約140グラム)のメジャー公式球、耐久性を高めたトラジェクト専用球、そして軽量のボール2種類である。

軽いボールを作った理由について、斎藤はマシンの負担軽減や打者の手首の保護を挙げた。山同は、マシンへの配慮も理由の一つだが、一番の理由ではないと答えた。

山同によれば、150キロや160キロのボールを打ち込む選手は「恐怖感しかない」。バットが折れるかもしれないし、けがをするかもしれない。トラジェクトを打ってけがをしたら元も子もない。最初はメジャー公式球などを使っていたが、選手から「痛い」という声が上がった。そこでローリングス社と契約し、軽量球を用意したという。

選手の中には、試合前にたくさん打つのではなく、打席に立ってその日の先発投手の軌道を見るだけの人もいるという。

今後はディンプル(くぼみ)のついたプラスチックボールも出す予定だ。ただし柔らかいボールでは、打球のデータが測りにくくなる。そのため、なるべく本物を打った感覚に近く、選手の負担も減らせるボールを開発しているという。

真中はこの考え方に賛同した。試合で150キロの直球を集中して打つのは、4打席でも20球ほどにすぎない。マシン練習では30分から1時間打つこともあるので、本物と同じ負荷では続かないと真中は言う。打者にとって大事なのは変化球にタイミングが合っているかどうかで、少し軽くても重さはあまり気にならないだろう、というのが真中の見方だ。

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試合前の準備だけではない使い道

世間ではトラジェクトは試合前の準備に使うものと思われているが、実際の用途はほかにもあると山同は言う。

一つはファームや若い世代の育成である。もう一つはキャッチャーの練習だ。高卒の捕手がいきなりプロの投手の球を受ける機会は少ない。出演者からは、工藤公康の球を城島健司が捕れなかったという昔の話も出た。

いま急に増えているのが「自己分析」だという。投手が打席に立ち、自分のボールを打者の目線で見るのである。

山同は斎藤を例に挙げた。自分のボールが本当に打者にとって打ちにくいのかを、投手はこれまで見ることができなかった。数値が良くても、それが本当に有効かどうかは分からない。投手自身がいいと思って投げていても、打者からすれば打ちやすいかもしれない。これを確かめられるという。斎藤はこの発想を「画期的」と評した。

斎藤は、投手のフォームが変わったら映像も更新されるのかとも尋ねた。山同によれば、映像はチームが投手の後方から撮影したものを、リリースやアームスロットに合わせて取り込んでいる。かなり手間のかかる作業である。細かく分析したいチームは、その手間をかけてリリースとアームアングルのパターンをすべて入力し、選手に体験させているという。

18:34

1球団で最大8台、球場・キャンプ地・ドミニカに配置

真中は、1台では足りないだろうと指摘した。山同によれば、メジャーでは本拠地の球場に必ず入っており、ブルペンを一つつぶして設置している。そのほか、マイナーの施設、アリゾナやフロリダのキャンプ地にも置かれている。最近はドミニカ共和国の施設にも入っているという。

最も多い球団は8台を保有している。メジャーの球場は2台を置くようには作られていないので、1つの球場に置けるのは基本的に1台だ。ただ、日本のある球団はすでに2台を入れているという。

アマチュアでは、日本の高校や大学には価格の面で入っていない。一方、アメリカのNCAAには5台が導入されており、山同は今後かなり増えていくと見ている。

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唯一再現できない球種:アンダースロー

山同はクイズとして、トラジェクトでも再現できないものがあると出題した。真中が即座に「アンダースローで投げる球」と答え、正解だった。

サイドスローは問題なく再現でき、肩のラインあたりまでは対応できる。それより下からの投球ができない。理由はカメラの構造上、アンダースローの角度に対応できないためだという。

山同によれば、ラプソードやトラックマンでも、アンダースローはカメラに入りにくく、計測しにくい時期があった。カメラとレーダーで計測するため、その範囲から外れるものはまだ測るのが難しい。メジャーにはアンダースローの投手があまり多くないという事情もある。社内では「アンダーも取れないとまずい」という議論になっているという。

斎藤は、むしろ再現できないのがそこだけという点がすごいと受け止めた。

22:35

前後方向のリリース位置と、精度の限界

山同は、さらに進化させたい点も挙げた。リリース位置は上下左右には動かせるが、前後には動かせない。そのため現在は、メジャーリーグの平均的なエクステンション(踏み出しによってリリースが前に出る距離)を前提に、本来の18.44メートルより少し前にマシンを設置しているという。前後にも動くようになれば、さらにリアルになると山同は話す。斎藤も、投手はそこで勝負しているのだから意味があると応じた。

精度について山同は、通常のマシンのようにボールが暴れることは「間違いなくない」と述べた。ただし、縦横の変化量には多少のずれが残る。チームによっては完璧を求められることもあるという。斎藤は、18.44メートルの間には空気抵抗があり、屋内か屋外かでも条件が違うので、多少のずれはやむを得ないと理解を示した。

斎藤の現役時代の投球も、映像とトラッキングデータがそろえばAIに学習させて再現できるという。斎藤は、これは実戦と同じなので試合の感覚で打席に入らないとけがをすると話した。西川が「WBCのような短期決戦なら侍ジャパンも何台か買うべきでは」と振ると、真中は「そんな予算はない」と冗談で返した。

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今後追加される機能:ABS対応、打撃映像、HitTrax連携

山同は、今後のソフトウェア機能も紹介した。トラジェクトはABS(自動ボール・ストライク判定)に対応している。また、打者を正面から撮った映像を見られるようにする計画がある。真中によれば、練習後に横から撮ってもらうことはあっても、正面から自分を見る機会は意外とない。打った後に自分のスイングを確認できるのは大きいという。

現状では、選手は打った直後に映像を見られず、アナリストが確認してからフィードバックしている。今後はタブレットを横に置き、打った直後に自分の打撃を確認できるようにするという。

来年度には、打撃シミュレーションシステム「HitTrax」の3Dシミュレーションも追加される予定だ。打った打球がメジャーの球場でどう飛んだかを、ゴルフシミュレーターのように表示できる。バットのスイングデータやコンタクト率といったバットトラッキングのデータも取れるようになる予定で、ホークアイに近いデータが得られるようになるという。

出演者からは、大谷翔平が屋外で打撃練習をしなくなった理由はこれだったのか、という声も上がった。

これらのソフトウェア更新は無償で提供されると山同は説明した。メンテナンスなどの定期的なサポートも行っているという。

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打者を再現するロボットは必要か

西川は、逆に打者を再現できないのかと問いかけた。

斎藤は、投手にとっても意味があると考える。真中のような打者のスイングを再現できれば、どうすればアウトを取れるのかを試せるからだ。スライダーを縦に変えるべきか、スプリットを増やすべきか、直球をどこに投げるべきかを検証できるという。

真中は懐疑的だった。投手は自分主導で投げられるが、打者は投手の球に合わせる側である。しかも投手が狙った所に必ず投げられるとは限らない。そのため打者側を機械で再現するのは難しいのではないか、と真中は話した。

それでも出演者からは、5年後、10年後には実現しているかもしれないという声が出た。ロボットが9体並ぶ「ロボット野球」になったら面白くない、という冗談も飛んだ。

山同は、トラジェクトの立場を「手伝い」と位置づけた。球団ごとに育成の方法や評価基準は少しずつ違い、各球団は岡田が紹介したような指標を満たすための練習方法を工夫している。トラジェクトはその結果を出すための手伝いをするという。

実機を見る機会について山同は、現状ではNPB球団の施設にしかないと説明した。いずれはデモができるスタジオのような場所を作りたいという。

最後に、山本由伸の投球を再現したら打てるかと聞かれた真中は、「こんなおっさんに無理だ」と笑った。そして、山本が50歳になったときの投球にしてほしいと返した。