小野寺氏ウクライナ訪問の舞台裏と、ロシアの民間施設攻撃をめぐる「新ドクトリン」:深層NEWS 10月9日

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概要

BS日テレ「深層NEWS」の10月9日放送では、元駐ウクライナ大使の松田邦紀氏、元陸上総隊司令官の髙田克樹氏、防衛研究所研究幹事の兵頭慎治氏をゲストに迎え、キャスターの右松健太氏、コメンテーターの飯塚恵子氏(読売新聞編集委員)とともに議論した。テーマは大きく二つある。一つは、松田氏が全日程に同行した小野寺元防衛大臣のウクライナ訪問で何が見えたのか。もう一つは、キーウの橋やドネツク州の路線バスなど民間施設への攻撃を強めるロシアの狙いである。番組冒頭では、当日発表されたノーベル平和賞についても意見が交わされた。

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ノーベル平和賞はナビ・ピレイ氏に:国際法秩序へのメッセージ

番組の放送中、日本時間の午後6時過ぎに、ノーベル平和賞が南アフリカの国際法学者ナビ・ピレイ氏に決まったと伝えられた。ピレイ氏は元国連人権高等弁務官で、南アフリカ高等法院で白人以外の女性として初めて判事となった。ICC(国際刑事裁判所)の判事やルワンダ国際刑事裁判所の所長も務めている。選考委員会は、ICCの赤根所長らがトランプ政権から制裁を受けている現状を念頭に、裁判官が制裁を受け機関が攻撃にさらされる中で、勇気と決意を持つ人物が必要とされているとしてピレイ氏の業績をたたえた。

松田氏は、国際法の秩序が揺らぎ、意図的に壊そうとする勢力がいる中で、ノーベル委員会が最大限の敬意を払って決めたものだと受け止めた。自身の解釈としては「ほとんどICC、ICJといったものに対する平和賞」だと述べた。髙田氏も、トランプ氏の標的となっているICCに関わった人物を選んだことに、法の支配を念頭に置いた選考を見た。

兵頭氏は、当初は赤根所長自身が受賞対象になるのではという見方もあったが、結果的にICCの元判事が選ばれたことについて「ギリギリの判断」だった可能性に触れつつ、法の支配に基づく国際秩序が重要だというメッセージは十分に感じ取れたと語った。

飯塚氏はより踏み込み、トランプ大統領への強烈な「アンチテーゼ」を象徴する受賞だと評した。人権高等弁務官は国連事務総長が任命する人権分野の最高責任者であり、現職のフォルカー・テュルク氏はトランプ政権を批判し続けている。今年6月にはサッカー・ワールドカップを前に、アメリカの移民取り締まりを改善すべきだという強いメッセージも出した。ピレイ氏自身は直接トランプ批判をしていないが、このポジションにいた人物が受賞したことには、アメリカも含めて人権問題についてより明確な理想を掲げるべきだというメッセージが込められていると飯塚氏は見る。さらに、今年2月に誰がイランに対する戦争を始めたのかを考えるべきだとし、平和賞で評価されるべきは紛争解決によってどれだけ人々に平和が広がったかであって、「自分がこれをやった」という主張ではないとして、受賞にふさわしいというトランプ大統領の主張は当たらないと述べた。右松氏は、トランプ氏のICC批判や制裁がかえってICCの存在意義を国際社会に再認識させたのであれば、強烈な皮肉として刻まれるだろうと付け加えた。

7:45

小野寺訪問団の目的:3文書改定と「21世紀の戦争」を現場で学ぶ

今月1日、小野寺元防衛大臣はキーウを訪問し、ゼレンスキー大統領と会談した。松田氏は日本から全日程に同行している。

松田氏によれば、最大の目的は、政府・与党が年末に向けて取り組む安全保障3文書の改定に生かすことだった。ドローンやAIといった新技術の導入と、それに伴う戦術・作戦術・戦略面での変化、いわば「21世紀の戦争」について、現場の関係者から話を聞き視察する。加えて、戦時下のウクライナで急速に確立しつつあるドローンをはじめとする防衛産業と、それを支える研究機関、企業、政府、金融機関などの「エコシステム」の実態を見て、日本の安全保障に生かせる教訓を持ち帰る狙いがあった。開戦以来ウクライナを支援してきた日本の立場を、議員団の訪問という形でウクライナ政府と国民に示すことも目的の一つだったという。

ウクライナ側の受け止めについて松田氏は、日本との関係をさらに強化したい思いがあったと説明する。8月初めの在外公館長会議の場で、ゼレンスキー大統領が外交団に対し、日本との関係はもっと発展できるはずだと激励したこともあった。あまり知られていないが、欧米各国はこの数年、政府間の交流に加えて議員外交を積極的に展開してきたという。国民に直接選ばれた議員団を受け入れることで日本国民に感謝を伝えたいという思いに加え、小野寺議員をはじめ同行議員がいずれも自民党内の安全保障の専門家であることから、欧米諸国に比べて弱かった防衛分野での協力について議論を深めたい意識がウクライナ側にあった、というのが松田氏の見立てである。

現職時代に小野寺防衛大臣を支えた髙田氏は、小野寺氏が当時から現場を大事にし、隊員との会話を通じて温度感を政策に反映する姿勢を持っていたと振り返り、それが今回の訪問につながったと見ている。兵頭氏は、先月の森衆院議長の訪問、国民民主党の玉木代表の訪問も含め、議員外交による連帯表明がウクライナ側から評価されていると指摘した。3文書改定を前に、新たな戦い方を自ら経験しているウクライナから現場の声を聞き取ることは重要なタイミングであり、迎撃用・防衛用ドローンの技術協力について話し合いができた点も大きな収穫だったと述べた。

13:26

列車は3度緊急停止:11時間の予定が18時間に

小野寺氏は自身のXで、訪問の詳細を投稿している。一行はポーランドのヘウムから列車でウクライナに入った。所要時間は11時間の予定だったが、ロシア軍の空襲のため到着まで18時間かかった。小野寺氏は、移動中に突然列車が停まり、車掌が「すぐに車外に出て」と叫び、着の身着のままで途中駅のシェルターに誘導されたと書いている。

投稿写真に写る松田氏は比較的落ち着いた様子に見える。松田氏によれば、9月前半にもウクライナを訪問しており、その際にも列車の緊急停止と車外退避を一度経験していた。ウクライナ防空軍と国有鉄道との連絡体制や、車両ごとに1人いる国有鉄道職員の対応を知っていたため、多少落ち着いていられたという。

今回は列車が3回緊急停止し、3回とも車外退避を命じられた。写真や映像にあるのは3回目のシェルター避難で、映像のない2回目は、レール脇の夜露に濡れた草むらの中を移動し、列車から離れた場所で避難した。寒さという点では屋外避難のほうがずっと厳しく、シェルターは比較的暖かかったが、シェルターに避難するということはそれだけ緊急性が高かったとも言えると松田氏は説明する。3度の避難で睡眠も削られたが、外国人もウクライナ人の乗客も落ち着いており、鉄道や駅の関係者の誘導体制もしっかりしていたので、不測の事態なく列車に戻れたという。

飯塚氏から、開戦当初の2022年と比べて安全が悪化した実感はあるかと問われると、松田氏は、開戦当初と現在ではロシア側の攻撃対象とその背後にある意図が大きく変わったと答えた。地上戦で苦戦する中、ウクライナを支援する欧米からの人や物の移動を阻害したいという狙いで、鉄道や関連する通信への攻撃を行っているという趣旨だが、発言の後半は放送上で途切れている。

18:23

ゼレンスキー大統領が再現した「世界で一番有名なセルフィー」

小野寺氏はXに、会談後、ロシアの侵略を受けた際に大統領が勇気を示した「世界で1番有名なセルフィー」の場所を訪ねたところ、大統領自らが案内し、参加者全員を入れて再現してくれたと投稿している。

松田氏はこの振る舞いに三つの意味を読み取った。首都への空襲が続く中、危険を冒して連帯を示しに来た日本の議員団への敬意。大統領一流のユーモラスなホスピタリティ。そして、ウクライナを支援する国の指導者たちが危険な状況でも訪問し支援を約束していることを、国内外に明確に示したいという意図である。映像の持つインパクトは大きく、松田氏のもとには前任地の香港やパキスタンの知人からも「見たよ」と連絡が来たという。右松氏が、指導者は逃げないという当時のメッセージが国民を鼓舞し今につながっていると述べると、松田氏は、指導者だけでなく、日本をはじめ支援する国々も逃げないというメッセージだったと応じた。

20:22

学ぶべきは武器そのものより「エコシステム」

協議の中で最も印象に残ったことを問われた松田氏は、ドローンやAI、ミサイルそれぞれの説明やウクライナ側の期待もさることながら、戦時下のウクライナがどのように新しい武器弾薬の研究開発と量産化を進めたのか、その全体のエコシステムを官・民・学が協力して作り上げた過程を知れたことが極めて大きな教訓だと答えた。一例として、新しい武器の開発から生産までのリードタイムを、かつての数年から現在は2か月まで縮めたという。

右松氏は、こうした仕組みは侵略されるという強烈な圧迫感の中で生まれたもので、環境の違う日本に実装するのは難しいのではないかと問うた。松田氏は、戦時だからこそ作り上げられた面はあるとしつつ、分析していけば、日本国内で普段は別の分野で培われてきた研究開発の成果、すなわち汎用品・汎用技術を、防衛や、平時の治安維持、防災といった日本の様々なニーズに合わせて受け入れることはできると考えたと述べた。

飯塚氏は、安保3文書改定に向けて知見を得るという明確な目的があった点で意義があり、その内容は高市首相をはじめ政府内にも伝わったはずだと評価した。一方、ゼレンスキー大統領にとっても、日本を含むG7や西側社会から支援を受け、寄り添われていることを示せた点で大きなメリットがあったと見る。

23:54

髙田氏が知りたい軍事的な中身:デルタ、周波数、継戦能力の尺度

髙田氏は、日本がウクライナから学ぶべき知見を軍事的な観点から具体的に挙げた。第一に、開戦から4年7か月の間に現場のニーズを吸い上げて作られたとされる戦場管理システム「デルタ」の中身である。デルタは米軍のメイブン・スマート・システムとプロトコルを共通化し、相互に学習できる状態になっていると聞いており、そこに日本が入り込む余地があるのかどうかを知りたいという。

第二に無人機の運用で、使用している周波数帯がどれほど広いのか、中継アンテナを使ってどれほどの出力(ワット数)で運用しているのか。それが分かれば、現在の国内法の縛りの中でできるのかできないのかという大きな判断ができると述べた。

第三に継戦能力である。日本は現在、非常に古い戦争を題材に弾薬が何発必要かといった計算をしているが、4年7か月戦っている実際の戦争から、継戦能力を保つにはどれだけ必要かという新しい尺度を教えてほしいと考えている、と髙田氏は語った。

25:24

キーウの橋と路線バスへの攻撃

番組の後半は、ロシア軍による民間施設への攻撃に移った。ウクライナ非常事態庁などによると、東部ドネツク州クラマトルスクで今月8日、停車中の路線バスに乗客が乗り込んでいたところが攻撃され、33人が死亡、20人が負傷した。ドネツク州当局によると、誘導滑空爆弾が使われた。前日にも攻撃があり、2日間で78人が死亡している。北部チェルニヒウ州では集合住宅も攻撃を受けた。

首都キーウでは4日、ドニプロ川にかかる北橋を無人機が直撃し、市長によると2人が負傷した。南橋も無人機の攻撃を受け、米戦争研究所によると1日から4日の間に北橋と南橋は合わせて7回攻撃された。BBCによれば、市内を東西に分けるドニプロ川の橋は1日あたり約50万台の車両が行き交う交通の要衝である。番組が紹介した映像では、市民が「もう1時間バスを待っている」「毎日の仕事で川の向こうに行かなければならないが、橋を渡るしか手段はない」と語っていた。

北橋への攻撃は、ドイツのメルツ首相のキーウ訪問中に行われた。ゼレンスキー大統領は、破壊はテロ行為そのもので、ロシアは市民を大都市から追い出し都市機能を麻痺させようとしていると非難した。

30:49

誘導滑空爆弾の性能と、バスは狙われたのか

髙田氏の説明では、誘導滑空爆弾は慣性航法とロシアの衛星測位システムGLONASS(アメリカのGPSに相当)で誘導されるため、動いている目標は狙えない。地図上の座標を入力し、そこへ確実に向かわせる爆弾で、高高度から投下すると射程はおよそ100km前後とされる。炸薬量は、映像で見たキーウの橋を攻撃したドローンの2〜3倍程度と理解しているという。

そのため髙田氏は、誘導滑空爆弾であったことを前提とすれば、バスを狙った可能性は低く、たまたまバスがいた場所に着弾したのだろうと見る。ただし、誘導滑空爆弾だったかどうかも含めて確実な答えではなく、あくまで仮定の上での話だと断っている。

32:28

「新ドクトリン」か、交戦規定の修正か

ゼレンスキー大統領は今月3日公開のロイター通信のインタビューで、ウクライナの情報機関が、プーチン大統領がこれまでよりはるかに広範な民間施設への攻撃を認める新たなドクトリンを示した文書を入手したと述べた。インフラや物流施設、特に都市や村を問わずあらゆる場所の道路、学校、病院への攻撃を認めているという。人々に首都をはじめとする都市を離れるよう圧力をかけることが作戦の狙いだとし、前線で苦戦する中、プーチン大統領が強硬姿勢を内外に示したい思惑もあるとの見方を示した。

髙田氏は、そもそも攻撃対象をドクトリンで定めるのかという点に疑問を呈した。髙田氏の理解では、ドクトリンとは軍事行動や部隊運用の基本原則・指針であり、アメリカのエアランド・バトルや旧ソ連の縦深作戦がその例である。これを基に部隊運用、教育訓練、防衛力整備が行われる。一方、今回のような目標の拡大は、ROE(交戦規定)の再認可や修正に近い。ドクトリンが「どう戦うか」を示すのに対し、ROEは「どこまでやるか」を示すものだと説明し、大統領がドクトリンと言うならそうなのだろうが、自分たちの感覚では交戦規定の修正と理解していると述べた。

では、ロシアは国際人道法を無視して民間施設を攻撃する段階に踏み切ったのか。髙田氏は、それはロシアが苦しいことの裏返しだと見る。国際人道法を真っ向から否定することはしないが、グレーな部分にどんどん手をつけている印象だという。

兵頭氏は、ロシアはこれまでも民間インフラを攻撃し、軍事拠点や軍事利用を理由に挙げてきたが、ここまで攻撃が拡大すると説明はほとんど難しくなっていると指摘した。特に短期間に北橋と南橋を集中的に攻撃したことは、民間人が多く使うインフラを攻撃せよという明確な指示がなければ起きないと考えられ、ドクトリンの内容はまだ明らかでないものの、民間人の犠牲を承知の上で攻撃するという「レベルの引き上げ」をロシア側が打ち出しているのではないかと述べた。

36:29

欧州の会議で共有された「ロシアは焦っている」という認識

松田氏は、ロシアが苦戦し焦っているというのは、9月初めに自身も参加した安全保障会議での最大のテーマの一つだったと明かした。欧米の現役・退職した政治家や軍人、専門家が集まったこの会議では、昨年2回、今年春から夏にかけて1回、計3回の東部での大攻勢にいずれもロシアが失敗したとの評価が出たという。

会議で示された数字によれば、ロシア側の戦死者は今年前半が1日あたり1000〜1300人、今年の夏からは1500〜1700人、ごく最近は開戦以来最多の1日2000人以上に達した。これはロシアが事実上の動員で補充している兵の数を上回っており、戦えば戦うほどロシアは地上戦で負けていく状況だという。

その中でロシアが打ち出したのが二つの方向だと松田氏は説明する。一つはウクライナ国内へのほとんど無差別と言っていい攻撃の強化で、これが今回の新ドクトリンの議論にあたる。もう一つは支援するヨーロッパ諸国へのハイブリッド攻撃の強化で、選挙干渉やSNSでの干渉にとどまらず、領空・領海侵犯、事実上のテロ行為、支援に関わる軍需工場や関係者への放火や暗殺未遂などが始まっているという。会議のコンセンサスは、ここで動揺するのではなく、ロシアを交渉の場につかせるためにウクライナ支援とロシアへの制裁・圧力をさらに強化すべきだというものだった。小野寺議員一行の訪問はこうした背景のもとにあった、と松田氏は位置づけた。

39:38

橋を「落とさない」攻撃の意味

キーウでは、旧市街、大統領府などの政府施設、企業の本社、大学のほとんどがドニプロ川の西岸に集中し、東岸には住宅地が広がる。松田氏は、東岸には京都市との姉妹都市提携を記念した京都公園があり、ヨーロッパ最大級の桜並木と、滝を含む立派な日本庭園があって、戦時下で市民の憩いの場になっていると紹介した。西岸に住む人がそこへ行くには橋を渡らなければならない。右松氏も2月の取材で北橋を通り、多くの車が行き交う都市の動脈だという印象を持ったと語った。

髙田氏が注目したのは、橋を落とすほどの大型ミサイルが使われていない点である。小型ドローンで7回攻撃しても、それだけで橋を落とすことはほぼ不可能だ。本気で落とすこともできたはずだが、それをやれば国際人道法違反は免れない。髙田氏によれば、人道法違反かどうかは、標的が適切か、兵器が適切か、民間への付随的被害(コラテラル・ダメージ)の予見可能性がどうかという三つの指標で判断される。橋をまるごと落とせば間違いなく該当するが、今回はそうとも言えないギリギリのところを突いているという。

その狙いについて髙田氏は、地上戦で成果が出ない分、住民の心に不安と恐怖を植え付け、ウクライナ国民の内側から政権を倒そうとする別のアプローチではないかと見る。たびたび非常ベルが鳴るスーパーには怖くて行かなくなるように、スーパーそのものを壊さなくても人を遠ざけられる、という例えを挙げた。物理的に橋を落とさず、「この橋を通りたくない」という心理的影響を与えることが都市機能の麻痺につながる、という見立てである。

43:50

なぜ今、橋なのか

兵頭氏は、米戦争研究所などの分析ではザポリージャ州でも橋への攻撃が行われており、キーウだけの問題ではないと指摘した。ドクトリンがウクライナ全域で橋を攻撃するよう指示している可能性もあり、ウクライナ側は今後も警戒せざるを得ないという。

10月に入って攻撃が急に集中した理由について、兵頭氏はロシア側の焦りを挙げる。ウクライナによるロシア国内への攻撃が続いていることへの政治的な報復の意味合いもあるだろうとする。またドネツク州でのウクライナ側の作戦により、ロシアが未制圧地域で進めようとした攻勢作戦が失敗に終わり、前線でも苦境に立たされつつある。さらに西側の支援を抑えたいという狙いから、外国の要人が利用する列車への攻撃も強まっており、メルツ首相のキーウ訪問中に橋が攻撃されたことには欧米諸国を牽制する意図もあったのではないかと述べた。

右松氏は続けて、大規模な攻撃ではなく小型無人機などで低コストに一定の効果を上げることがロシアの思惑と一致しているのではないかと髙田氏に問うたが、その応答は放送上では確認できない。飯塚氏は、コストは安くても民間人を無差別に攻撃する規模は拡大しているとし、それに対するヨーロッパの批判が静かに感じられると指摘した。ロシアのハイブリッド攻撃を受けて欧州がロシアを恐れ、報復を警戒している面があるのかもしれないが、民間人の死傷者が増えている以上、ヨーロッパはもう少し声を上げるべき時ではないかと述べた。

46:49

ウクライナの対抗策:ロボット砲とジェット推進型迎撃ドローン

AFP通信によると、ウクライナ空軍は橋などを狙う無人機への対策として、橋にロボット砲の設置を進めており、ロシアのジェット推進型無人機をすでに撃墜したと主張している。キーウには12基が設置されたという。

髙田氏は、単体で動かしているだけならそれほど効果はないと評価した。見たところ12.7mm程度の機関砲で、1000m程度まで近づかないと効果が出にくい。ただし「ロボット」「AI」という言葉が入っており、目標の発見、識別、追跡、射撃、評価という一連の流れ(F2T2EA、いわゆるキルチェーン)を担うシステムの中の一つの火力プラットフォームとして配置されているなら効果はあるという。パトリオット(PAC-3)などと比べれば途方もなく安価で、市内の各所に設置されていく可能性もあると見る。

一方で、市街地での12.7mm弾は落下する破片の問題もある。髙田氏は、兵士が肩に担いで撃つ赤外線誘導の携帯型地対空ミサイル(MANPADS)が有効だとした。ジェット推進型の無人機は必ず熱源を出すため、赤外線ホーミングが非常に効くという。ただ、限られた資源は前線が優先であり、都市部をどこまで守るかは軍人が口を挟むところではなく、米軍で言う「防護対象リスト(ディフェンデッド・アセット・リスト)」として政治が決めることだと強調した。

松田氏は、ウクライナの迎撃態勢は従来、電子戦(ジャミング)、赤外線ミサイル、航空機搭載の機関砲、ピックアップトラックの荷台に載せた機関砲で構成されてきたと補足した。これらは時速300〜400km程度の通常型ドローンには対応できるが、時速600〜700kmに達するジェットドローンには対処が難しい。そのためウクライナはジェット推進型の迎撃ドローンを開発し、実戦化にはすでに成功しており、今後はその量産化が鍵になると述べた。

51:14

日本企業の工場も標的に:JTの工場への攻撃

最後に、日本関連企業への攻撃が取り上げられた。ロシア国防省は7日、ウクライナ中部ポルタワ州にあるJT(日本たばこ産業)関連会社の工場などを攻撃したと発表した。飯塚氏は、攻撃は1回ではなく2回目であり、標的として狙われていると見られると指摘したうえで、JTがウクライナで工場を持ち続ける理由は経済的な見通しなのか、両国関係や支援の意味もあるのかを松田氏に尋ねた。

松田氏によれば、開戦前から40社ほど進出していた日本企業のうち、開戦後にウクライナから撤退したところは一つもない。理由の一つは雇用の維持である。JT、正確にはジャパン・タバコ・インターナショナルのウクライナ法人は、日本のウクライナにおける最大の投資先の一つで、最も多くの雇用を生んでいる会社の一つだという。

JTが意図的に狙われたかどうかまでは分からないと松田氏は断ったうえで、前後してコカ・コーラやマクドナルドなど、市民生活に近いものを作る工場や倉庫も攻撃されていると指摘した。髙田氏が述べたように、市民生活への嫌がらせ、不自由感を作り出すことが、軍需産業と全く関係のない日本や欧米の企業の工場が狙われる背景にあるのではないかという見方である。2度攻撃を受けたものの、JTの全従業員は無事で、不幸中の幸いだったと松田氏は語った。