ホワイトハッカー田中悠斗氏が語る「改ざんに気づけない社会」のリスクとサイバー攻撃への備え

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概要

防災システムなど、サイバー攻撃の被害が相次いでいる。日本テレビのニュース番組で、デジタルハリウッド大学特任教授の田中悠斗氏に話を聞いた。田中氏はホワイトハッカーとして、攻撃者の視点から社会を守る立場にある。田中氏が最も危険だと考えるのは、情報漏洩やシステムの暗号化といった目に見える被害ではない。データが書き換えられても誰も気づけなくなり、何を信頼すればよいか分からなくなる事態である。企業には反撃を前提にした仕組みが必要だと田中氏は述べ、個人には利便性と引き換えに情報を差し出してきた習慣を見直すよう求めた。

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混乱は個人にも企業にも広がる

現状はかなり悪いのか、という問いに対し、田中氏は「このまま続けば混乱が加速する」と答えた。個人は不安を募らせる。経営者や企業は、被害にどう対応すべきかという問題を抱える。こうした混乱が個人と企業の両方で広がっていくという見方である。

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預金が書き換えられるシナリオと「真正性の崩壊」

キャスターは、個人にとっての最悪のシナリオとして、攻撃前に100万円あった預貯金が10万円に書き換えられる事態は起こりうるのかと尋ねた。田中氏は「想定の範囲内には存在する」と答えた。ただし、すぐに直接起きるとは限らないという。各機関はバックアップを取るなど、そうした事態を防ぐ対策をしているからだ。

田中氏が最も怖いケースとして挙げたのは、改ざんされたこと自体が分からなくなる状況である。いまニュースで取り上げられている個人情報の漏洩やシステムの暗号化は「直接的な被害」にあたる。一方で田中氏は、今後数年以内、場合によっては5〜6年かかるかもしれないとしたうえで、改ざんに気づけず何を信頼してよいか分からなくなる事態が来ると見ている。田中氏はこれを「真正性の崩壊」と呼んだ。

真正性とは、そのデータが確かにそこにあり、誰にも手を加えられていないことを担保することだと田中氏は説明する。これまでの経済の枠組みでは、日本では銀行のような存在がその機能の半分ほどを担ってきた。100万円を預けていれば、100万円が確実にあると誰もが思っている。

田中氏は身近な例としてATMを挙げた。銀行側の記録では100万円のうち90万円が引かれており、ATMの記録でも同じ額が引かれている。ところが実際に引き出した紙幣の枚数が足りない。一人に起きただけなら自分の勘違いかと思う程度で済む。しかし同時多発的に何人にも起きれば、「何かが起きているのではないか」「ここに預けておくのは怖い」「信用していいのか」という疑いが広がる。昔は、どこかに預けても守られる保証はないとして預けない人が多くいた。今もそうした人はいるが、再び多くの人がそうなれば困る、と田中氏は述べる。田中氏はこの事態を、真正性が崩壊し、信用経済そのものが崩れていく状況だと表現した。

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田中氏自身はお金をどこに置いているか

では田中氏は銀行にお金を預けていないのか。この問いに田中氏は「多少はある」と答えた。ただし、それが失われても構わないという。それ以外は、最近では農地を多く取得したり、山を持ったりしている。学校法人を通じた学校教育のように、実業に近いレイヤーにも資産を移しているという。

キャスターが、現金ではなくそれに見合う投資をしているのかと確認すると、田中氏は投資とも少し違うと答えた。実体経済のなかでお金に換えるために何かをするのではなく、それそのものが必要だと考えているから取り組んでいるのだという。そうすれば価値の交換先がお金である必要はなくなる。「ありがとう、じゃあ今度うちの牛をあげる」というような世界が早く来てほしい、と田中氏は語った。キャスターは、サイバー攻撃で牛を奪うことはできないと応じた。

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企業に必要なのは「反撃のための情報」を即座に届ける仕組み

企業は今のままではいけないとして、どんな対策ができるのか。田中氏は、具体的な手法としての対策は数多くあると前置きした。そのうえで企業に必要なものとして挙げたのは、反撃の体制である。ただし日本では、民間による反撃は現在違法だ。そのため各企業は、反撃に必要な情報を、反撃できる人たちのもとへ即座に届ける仕組みを持つ必要があると田中氏は主張した。

民間がハッキングを受けて逆に攻撃を仕掛けると、不正アクセスとして扱われる。田中氏は暴力の論理になぞらえて説明した。やられたらやり返したいし、自社が狙われていなくても、助けを求めている企業が目の前で殴られているのに助けてはいけない。それが今の日本の状況だという。現行のアクティブサイバーディフェンスの法制度では、反撃できるのは警察官か自衛官に限られる。だから被害を受けた側は彼らに助けを求めるしかない。しかし攻撃者はすぐに逃げるので、即座に動かなければならない。ここに、情報をすぐ届ける仕組みが必要だとする根拠がある。

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盗ませて特定する仕組み「ICE」

キャスターは、個人情報や機密情報をあえて盗ませ、その中に逆攻撃できる仕組みを組み込んでおくことは可能かと尋ねた。田中氏は「できる」と答え、自社の特許でもあると明かした。周囲から違法ではないかと指摘されるため、グレーゾーン解消制度を使って適法性を確認しながら進めているという。

その仕組みの名称は「Intrusion Countermeasure Electronics(侵入対策電子プログラム)」で、略して「ICE(アイス)」と呼ばれる。田中氏によれば、攻撃者が誰なのか、何を持ち出されたのかを即座に探知する仕組みとして特許を保有している。

探知は国内でもできる。しかし逆攻撃については、現時点では委員会の承認のもとで警察官か自衛官が行う必要があり、国内では難しい。一方、他国では政府と協力して反撃も行っていると田中氏は語った。なぜ日本ではできないのかと問われると、日本では違法だからだと答えた。やろうと思えばできるが、自分が捕まるだけだという。

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AIは攻撃の「試行回数」を増やした

現在の日本への攻撃は、AIが独自に判断して行っているのか、それとも人間が命令を下しているのか。この問いに田中氏は「両方ある」と答えた。手口には、フィッシングやなりすまし、サーバーへの直接攻撃、アプリケーションの裏側の調査などがある。AIの登場によって、決められた単位時間あたりに試せることが明らかに増えたと田中氏は指摘する。

AIは善意の人も悪意のある人も使う。田中氏は、インターネットもそうだったように、新しい技術が出ると悪用が起きやすく、AIはサイバー攻撃と簡単に結びつきやすいと述べた。

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利便性のために差し出してきた情報を見直す

今後どうすべきかについて、田中氏は具体的な対策手法よりも根本的な問題を挙げた。人々はこれまで、利便性と引き換えに、あまりに無自覚に情報を提供してきた。利用規約を読まずにボタンを押すことが習慣になり、個人情報やアイデンティティに関わる情報をサービスに渡してきた。企業の側も、何も考えずに使えるようにと設計し、利用者が考えなくて済むようにしてきたと田中氏は見ている。

しかし安全保障と利便性は、どうしても天秤にかかる関係にある。守る側に立つなら、異常時の手順を正しく確認しておく必要があると田中氏は言う。異常時の手順とは、この場合は何をする、別の場合は何をする、という各段階のバックアップを用意することである。例えば、普段使っているIP通信の連絡アプリがつながらなければ電話にする。電話がつながらなければメールにする。また、普段使っているSaaSやWebサービス、アプリについても、自分の情報を渡して得ているコンテンツが本当に必要なのかを見直すよい時期だと田中氏は述べた。

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「奇跡的な平和な時代」は終わり始めている

キャスターが「自分が何に登録しているのか、利便性だけで簡単に入力してよいのかという不安な時代がやってきている」とまとめると、田中氏は次のように締めくくった。仕組みを信じ込み、気にせず情報を渡し、裏側の仕組みを考えなくても使えた奇跡的に平和な時代は、残念ながらもうすぐ終わる。すでに終わり始めている。まずそれを認識することが出発点であり、これからは自分で責任を持って自分で行動しなければならない。田中氏はこれを、ある意味では本質的だが残酷な時代が来てしまったのだと語った。