「街が戦場に組み込まれた」スロビャンスクの日常と要塞ベルト攻防、韓ウ関係の冷え込み

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概要

ロシア軍の前線から約10kmの町スロビャンスク(ウクライナ東部ドネツク州)を拠点に活動する写真家・尾崎孝史さんが一時帰国した。尾崎さんは、町の暮らしそのものが戦場の一部になったと語る。BS日テレ「深層NEWS」(2026年10月9日放送)は尾崎さんへの取材映像をもとに、元駐ウクライナ大使の松田邦紀氏、元陸上総隊司令官の髙田克樹氏、防衛研究所研究幹事の兵頭慎治氏と議論した。テーマは、最前線の町で何が起きているのか、ロシアは何を狙っているのか、ウクライナの「ビバルディ作戦」は戦況をどう変えたのか、の3点である。後半では、北朝鮮兵の扱いをめぐって冷え込んだウクライナと韓国の関係も取り上げた。

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帰国の道のりそのものが危険だった

キャスターの右松健太氏が今週火曜日に尾崎さんから話を聞いた。尾崎さんによると、今春以降は激しい砲撃が繰り返され、大きな爆弾も落ちるようになった。危機がいよいよ迫っていると感じているという。

日本へ戻る道中でも、厳しさを実感した。現地では「移動が危険」がいわば合言葉になっている。ドネツク州全域で鉄道は止まっており、隣のザポリージャ州までは車で約7時間かかる。途中の幹線道路は、両側面と上部がネットで覆われていた。ロシアもウクライナも自爆ドローンへの対策としてこうしたネットを使っており、軍用車も民間車両も狙われるため、尾崎さんは「今もあって当たり前」の光景だと話す。幹線道路は無人機攻撃の標的になりやすい「キルゾーン」で、大型無人機の攻撃で路面が大きくえぐられた場所も多いという。

ザポリージャからポーランド方面までは鉄道で約40時間かかった。国境に近い駅に着いたところで、緊急アナウンスが流れた。乗客は全員降りて列車から離れるよう指示され、明かりも消すよう求められた。光がドローンを呼び寄せる目印になるからだ。泣く子どもをあやそうと母親がスマートフォンの動画を見せ、その光が点いたらしい場面もあったという。尾崎さんたちは約1km歩いて避難した。番組によると、その2日前にもポーランド国境付近でロシア軍の無人機が列車に直撃しており、この日は空襲警報の発令を受けて列車が一時停止していた。

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「窓を開ければどこかで煙が上がっている」

尾崎さんは侵攻直後からウクライナで取材を続けている。いまの拠点スロビャンスクは、ロシア軍が10kmほど先まで迫る最前線の町だ。今春ごろから昼夜を問わず攻撃が増えた。毎日、窓を開ければどこかで煙が上がっており、「ドーン」という音で着弾が分かることが1日に何度もある。アパートを出ようとするとドローンの音が聞こえ、近づいてくるのが分かる。尾崎さんはこうした状況を「本当に町が戦場の中に組み込まれている」と表現した。

最も大きく変わったのは市民の振る舞いだという。以前は空襲警報が鳴っても市民はほとんど気にせず、ベビーカーを押す女性がそのままおしゃべりを続けていた。いまは物陰に隠れ、動けるタイミングを計り、さっと逃げる。恐怖心が変わったのだと尾崎さんは見ている。

今年8月、尾崎さんが町の中心部の広場を散歩していたとき、空襲警報が鳴り響いた。尾崎さんはとっさに建物の壁に隠れ、身をかがめて警戒を続けた。警報の数分後に空爆が来ることもあるからだ。一方、小型無人機や小規模な攻撃では警報が出るとは限らない。アパートが断水し、水をくみに外へ出たときには、尾崎さんがいた場所からわずか数百mの地点に無人機が直撃した。少しのことで建物を離れるのが1回1回命がけになってきている。尾崎さんはこの数カ月、そう感じさせられているという。

攻撃が半年以上続くなかで、町の対応はむしろ手際よくなった。被弾するとすぐに清掃員が来て道をほうきで掃き、割れた窓はベニヤ板でふさがれる。一連の流れが粛々と進んでいく。尾崎さんは「怖いんですけど、もうこれがまさに日常の風景なんですね」と話した。

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バスターミナルへの攻撃と「心理戦」

市によると、先月末時点で約2万4000人が町に残り、そのうち約1700人が子どもだ。子どものいる家庭には避難命令が出ており、週3回のペースでバスによる避難が実施されている。

住民に大きな不安を与えたのが、今年7月の町中心部への攻撃だった。ロシア軍が狙ったのはスロビャンスク最大のバスターミナルで、近隣都市への路線バスや避難者のバスが発着する場所である。尾崎さんの映像には、ドローン攻撃で原形をとどめないほど破壊され、タイヤ付近から煙を上げる車が映っていた。

スーパーマーケットや交通機関など、生活に欠かせないインフラが標的になっている。尾崎さんはそこに心理戦の要素を感じている。ロシアは町を完全に破壊するのではなく、住民の「シンパシー」を見ながら迫ってきているという。住民はどの国が自分たちにとって暮らしやすい環境を用意してくれるかを天秤にかけている。実際、年金が3倍もらえるロシアを選び、ロシア側へ移った住民も相当数いると尾崎さんは話す。右松氏はこれを、市民の感情を揺さぶり、最終的には血を流さずに併合していく戦い方を見据えたものではないか、と受け止めた。

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要塞ベルトの北端としてのスロビャンスク

スタジオでは兵頭氏がまず地理的な位置づけを説明した。スロビャンスクは、ドネツク州のウクライナ側支配地域を守る「要塞ベルト」の北端にある。ロシアは近くのリマンを足がかりに、スロビャンスクを包囲する形で要塞ベルトの制圧を進めようとしていた。それがウクライナのビバルディ作戦で難しくなった。ただ、プーチン大統領は要塞ベルトを早期に制圧したいと考えているため、緊迫感は高まっている。兵頭氏は、前線近くのキルゾーンに加えて町にもドローンが飛来しており、住民の不安は募っているだろうと述べた。

髙田氏は、攻撃が町の外から中心部へ移ってきたことについて、ドローン同士が飛び交う「ノーマンズランド」、つまり入れば生きていけない地帯が西へずれてきた証拠だと見る。スロビャンスクは要塞ベルトの北の門にあたり、ここを崩されれば州境まで一気に進まれるからだ。

髙田氏はロシア特有の抑止の考え方にも触れた。西側では、相手に行動を思いとどまらせることを抑止と捉える。これに対しロシアは、相手の頭の中、つまり考え方そのものを変えることを抑止と位置づけている、と髙田氏は説明する。スロビャンスク、クラマトルスク、ドルジュキウカといった要塞ベルトの都市で住民の気持ちを政権から引き離すことこそ、ロシア型の手法の一つではないか、という見方である。

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軍事的に失敗したから心理戦に切り替えた、という見立て

松田氏は経緯を振り返った。スロビャンスク、クラマトルスク、ドルジュキウカの一帯には、2023年夏以降ロシアが攻撃を集中させてきた。しかし作戦は失敗を重ね、膨大な兵力を失っている。リマン方面から迂回する作戦も阻止された。ロシア軍は兵を大量に失い、捕虜も出し、逆にウクライナ側がリマン方面で前に出る状況になっている、と松田氏は述べた。

そのうえで松田氏は、ロシアが作戦を変えつつあると見る。戦場と後方の境目がなくなり、最も困っている住民に「何でもいいから戦争をやめてくれ」と思わせる心理戦へ、徐々に切り替えているというのだ。空襲が激化しているとはいえ、西ウクライナの人々とは気持ちが違うだろうと松田氏は言う。日常と非日常が一体化し、常に危険と隣り合わせになれば、ロシアに協力してもいいと考える人が出てこないとも限らない。そしてこの問題は、戦闘をこのまま続けるのか、どこかで停戦に持ち込むのか、ウクライナ政府や欧米、日本の支援はどうあるべきか、という問いにつながる。松田氏は、その重要な局面が奇しくも最前線からの尾崎さんのリポートに表れていたと述べた。

兵頭氏は、ロシアは攻撃のない平穏な生活を求める住民の気持ちにつけ込み、ロシアの言うことを聞くしかないと思わせようとしているのだと語った。ただし、その先に待っているのは年金3倍の暮らしではないだろうとも指摘した。おそらく差別され、ロシア国民として正当に扱われることはない。兵頭氏は、それが分かっていてもそう思わざるを得ない切実さに身につまされると話した。

右松氏は髙田氏に問いかけた。町を完全に破壊する強度の攻撃も選択肢ではありえたが、その後の統治を考えれば意味がない。だからこそ認知戦・心理戦で徐々に抵抗意識をそぎ、ほかの地域にも同じ手を仕掛けるのではないか。髙田氏は「その通りだと思います」と同意した。

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ドルジュキウカ:水を運ぶ住民がドローンに狙われた

番組は、スロビャンスクの南でより前線に近いドルジュキウカの映像も紹介した。先月15日に撮影されたものだ。侵攻前には5万人以上が暮らしていたが、州知事によると8月時点で残る住民は3630人だった。映像では、自転車を押して歩く65歳の住民の姿、通りに張られた防護ネット、壊れた車両や無人機の残骸、無人機を迎撃しようと発砲する兵士が映っていた。ウクライナ軍は、毎日数十発の誘導弾が投下され、通りには無人機が飛び交っていると説明している。

町では先月23日、自転車で水を運んでいた住民2人がロシア側の無人機に攻撃され、1人が死亡、1人が重傷を負った。使われたのは、カメラを搭載し、操縦士が映像を見ながら攻撃するタイプの無人機だったという。髙田氏は、事実であればロシア軍人が民間人を直接標的にした事例であり、人道法違反として言い訳のしようがなく、徹底的に断罪されるべきだと述べた。

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12年かけて築かれた要塞ベルト

リマンからコスチャンティニウカにかけて南北に連なる要塞ベルトについて、番組は尾崎さんが撮影した映像を示した。スロビャンスクを取り囲むように複数の塹壕が掘られ、らせん状の鉄条網が張られている。これらが最終的に市街地へのロシア軍の侵入を防いでいるとされる。

髙田氏は、映像で見えるものは周到に準備されたものだとしつつ、作戦上あまり関係のない部分が公開されているにすぎないと見る。防御の核心は決して公開されず、実際にはもっと重厚だろうという。2014年のクリミア併合から数えて12年間、この地域は要塞化が進められてきた。髙田氏は、2023年6月のザポリージャでのウクライナの反転攻勢を受け止めたロシアの「スロビキン・ライン」に匹敵するのは間違いないと評価した。ここを抜かれれば西側の州境まで一気に進まれるため、ウクライナは最終防御陣地と考えているだろうとも述べた。

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カニの爪:ロシアの「両翼包囲」と北の爪が折れた意味

ロシア軍がこの防御線を抜くには何が必要か。一般論として、と断ったうえで髙田氏は、ロシア軍にはノモンハンの時代から続く定番の戦法として「両翼包囲」があると説明し、カニにたとえた。2本の触角にあたる部隊が正面から当たり、左右の爪が大きく迂回して相手を挟み込む。この戦域でいえば、スロビャンスクからコスチャンティニウカの正面が触角で、北のリマン方向と南の方向から要塞ベルトを取り囲むように迂回するのが爪にあたる。

髙田氏によれば、今回リマン正面で北側の爪が折れたことの効果は非常に大きい。戦域全体の接触線は約1000km、日本でいえば仙台から神戸までの範囲で戦争をしているようなものだ。そのうちリマン正面はわずか10km程度で、戦争全体への影響は微々たるものにとどまる。それでも、要塞ベルトの戦略的重要性を考えれば、北の爪を失ったことはロシアにとって非常に厳しい、と髙田氏は述べた。

ロシア軍は新しい戦法を見いだせていないのか、という右松氏の問いに、髙田氏は「見出せてないんじゃなく」と答えた。電子戦や無人機をどんどん取り入れており、アップデートはされている。ただ、基本的な戦術思想はノモンハンのころとよく似ている、というのが髙田氏の見方である。

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ビバルディ作戦:兵士の命を守る戦い方

ウクライナ軍はこの方面でビバルディ作戦を展開し、領土の一部を奪還した。髙田氏が最も印象に残ったのは、ウクライナが兵士の命を守る作戦を真剣に考えている点だという。髙田氏は昨年10月、ワシントンDCで開かれた米陸軍の年次総会に出席した。そこでドリスコル陸軍長官が、国防総省はもはや兵士の命を犠牲にして戦争に勝つような戦い方はしないと言い切り、髙田氏は驚いたという。今回ウクライナが実行したのはまさにそれではないか、と髙田氏は見る。突撃、空挺、敵の後方への進入といった兵士の命が危険にさらされやすい場面で、ほとんど無人機が先行したからだ。陸上自衛隊にとっても大きな示唆になると髙田氏は述べた。

成功の背景について、髙田氏は技術力に加え、作戦を担った部隊がアゾフ大隊を源流とする伝統的に強い部隊であることを挙げた。アップデートの回数と速さも含め、見習うべき点は山ほどあるという。作戦の進め方も非常に巧妙だと評価した。たとえば、ロシアが使っていたBTR-60装甲兵員輸送車を北側から入れたことである。地上の兵士は敵の方向を向いているため、横や後ろから来るものは味方だと思ってしまう。それでも最もすごかったのは、作戦を誰にも漏らさなかった保秘だろう、と髙田氏は語った。

作戦名は作曲家ビバルディの「四季」になぞらえて4段階あるとされ、ウクライナ側は3段階目まで終了したと発表している。4段階目について髙田氏は「私が推測できるぐらいなら大した作戦じゃない」と前置きしつつ、冬が近いことを踏まえ、戦線を固める段階になると推測した。北側の爪を二度と出させないよう地固めをする。取り返した土地の地雷除去には時間がかかり、爪を出させないためには自軍の陣地を前に出す必要もあるかもしれない。そこへ冬が来て、双方がにらみ合う形になる。このため4段階目には少々時間がかかるだろう、というのが髙田氏の想像である。

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松田氏が見たウクライナ軍の変化と停戦戦略

松田氏は軍事の素人だと断りつつ、自身が見聞きしたことを語った。ウクライナ軍もロシア軍も、多くの軍人はソ連時代に同じ教育を受けており、互いの手の内は分かっている。ロシアは伝統的な火力優位で攻めてきた。火力で劣るウクライナも当初は同じ戦い方を志向し、ゼレンスキー大統領は欧米に戦車や大砲を求めた。しかし途中から、同じことをしていてもだめだと判断し、空だけでなく地上走行型も含めたドローンを地上戦で大量に使い始めた、と松田氏は説明する。

松田氏はさらに、ウクライナがおそらくどの国よりも先に、AIと前線に張り巡らせた各種レーダーなどを統合して運用する「デルタ」システムを導入したと述べた。膨大なデータを人の手を介さず一瞬で処理し、どの部隊のどの武器でどの陣地を叩くかを決める。人間は最後に攻撃するかどうかの決断だけをする仕組みだという。ビバルディ作戦はこうしたドローンを有機的につなぎ、機動戦を展開した。大型の航空ドローンに地上型ドローンをぶら下げて敵の後方や側面に降ろし、前後から挟み撃ちにする。前線の地雷除去もドローンで行い、その後ろを陸上型ドローンが進む。こうしてリマン方面で成果を上げた、と松田氏は説明した。

松田氏は9月初めに議員団とともにウクライナを訪れた。そこでのやり取りを踏まえ、誰の発言かは明かせないとしたうえで、自分なりの見方を示した。ウクライナは停戦交渉を少しでも有利に進めるという発想で戦っている、というものだ。ロシアは勝っていないことを示し、米国の圧力や制裁で外から圧力をかけ、戦場で有利な展開をつくって停戦に持ち込む。ロシアがそれに乗ってこなければ、ウクライナはビバルディ作戦を時期を見てほかの地域でも展開し、より大きな損害を与えていくだろう、と松田氏は述べた。

34:40

北朝鮮兵の引き渡し公表で冷え込む韓国とウクライナ

番組後半は韓国とウクライナの関係悪化を扱った。ゼレンスキー大統領は先月23日の国連総会演説で、北朝鮮兵2人を韓国に引き渡したと公表した。韓国側は非公開とする合意があったとして反発し、ウクライナ側は合意の存在を否定している。韓国外務省は今月8日、駐ウクライナ大使を本国に召還すると発表した。一方で、解決に向けた協議は続けるとしている。

兵頭氏は、両国の間でどのようなやり取りがあったかはまだよく分からないとしたうえで、北朝鮮に対する見方の温度差がポイントだと指摘した。ウクライナにとって主敵はロシアであり、ロシアを支援する北朝鮮の兵士を捕虜にしたことをアピールしたい。韓国にとっては北朝鮮こそが主な脅威であり、あまり刺激したくない。最近では金正恩総書記が、ロシアから得たドローン技術も含め、ミサイルと組み合わせた総合火力の作戦能力を映像で誇示する動きもある。李在明大統領はSNSで、ウクライナは朝鮮半島の戦争をあおるような動きを取っているとまで述べた。兵頭氏は、外交的な冷え込みがどこまで進み、戦争にどんな影を落とすかが注目されると語った。

大使召還は相当強い措置なのか、という問いに、松田氏は、韓国はさまざまな事情からきつい措置を取らざるを得なかったのだろうと答えた。同時に協議継続も表明していることから、松田氏は両国が問題を乗り越えることを期待する。松田氏はヨーロッパの安全保障会議に出席した際、多くの関係者から、韓国や日本の反応はなぜ弱いのかと問われたという。北朝鮮はロシアと軍事同盟を結び、武器弾薬やミサイルに加えて兵まで送っている。戦争は事実上東アジアに飛び火している。ロシアは北朝鮮に支援を行い、北朝鮮は21世紀型の戦闘の経験と教訓を持ち帰り、ロシアに供与したミサイルは性能が改善されて北朝鮮に戻っている。そうした指摘が会議の場で相次いだという。松田氏は、日本もウクライナとの間や日韓の間でこの点を議論する必要があるとし、友好国同士が仲間割れをすれば喜ぶのはロシアと北朝鮮だと述べた。

39:55

韓国の港からロシアへ燃料? 「影の船団」の疑い

関係悪化に拍車をかけかねない報道もある。英ガーディアン紙は今月6日、港湾記録や船舶追跡データを引用し、今年7月から8月にかけて軽油などの燃料17万6000トン以上が韓国の港からロシアへ海上輸送されたと報じた。ウクライナ大統領府の制裁担当補佐官はSNSで、ロシアが事実上石油の精製能力を失うなか、それを補うことに寄与したとして、韓国の制裁政策と著しく矛盾すると批判した。韓国外務省は8日、確認された事実ではないと反論し、正式な手続きを経たロシアへの燃料輸出はなく、違法な取引が確認されれば法に基づき対応すると強調した。

兵頭氏は、一部で「影の船団」の関与を疑う見方が出始めていると説明した。報道によれば、燃料を運んだタンカーの一部はすでに英国やEUの制裁対象に指定されていた。韓国の港を出る際の書類上の目的地は日本など別の国に偽装され、実際にはウラジオストクへ直行して荷揚げしていたのではないかと指摘されている。韓国が公的に渡したというより、韓国当局が把握できない形で輸送が行われていたのではないか、という見方である。ロシアはこれまで制裁を受けるなか、影の船団を使ってインドや中国に石油を輸出してきた。いまは燃料不足に陥っているため、逆向きに利用されている面もあるのではないか、と兵頭氏は述べた。事実関係はまだ明らかになっていないため、真相を見極めたいとした。

影の船団の実態について、兵頭氏は、ロシアの影響下にありながら船籍がはっきりせず、位置情報を切るなどして捕捉されないように密輸を行う船だと説明した。これまでは主にヨーロッパ方面で活発化し、ヨーロッパが制裁を強化してきた。これが影の船団だとすれば東アジアでも同様の動きが活発化していることになり、日本も注目する必要がある、と兵頭氏は述べた。

43:28

韓国と日本を「一括り」にすべきではない、という指摘

読売新聞編集委員の飯塚恵子氏は、ヨーロッパ側が韓国と日本の認識の甘さを指摘しているという松田氏の話を受け、両国をあまり一括りにされたくないと述べた。韓国は北朝鮮を同胞と見ており、李在明政権は関係改善を図りたいという国内の思惑も抱えている。日本は北朝鮮と明確に対峙し、どう抑止するかという状況にある。ウクライナとの無人機共同開発など安全保障協力も進め、G7の一員でもある。飯塚氏は、日本は韓国とは一線を画しているとみる。そのうえで、危機感という点では、北朝鮮がウクライナの戦場から持ち帰る軍事技術や戦い方が東アジアに反映される可能性を、安保3文書改定の議論の中でもっと認識すべきだと述べた。

45:12

秋から冬へ:それぞれの注目点

最後に、秋から冬へ向かうウクライナ情勢の注目点を各ゲストが挙げた。

松田氏は、停戦をめぐる米国・ロシア・ウクライナの3者協議が開かれるかどうかを挙げた。ロシアは戦場で苦戦している。その一方で、ウクライナへの空襲の激化やヨーロッパへのハイブリッド攻撃が続いている。これにしっかり耐えたうえで、再開に向かおうとしている米国主導の仲介外交を、日本も含めて応援していく。いまがそのための最も重要な時期だと松田氏は位置づけた。この機会がするりと抜けてしまい、いたずらに戦争が来年も続くことを最も危惧すると述べた。

髙田氏は「第2のビバルディ作戦があるのか」に注目したいと一言で答えた。

兵頭氏は、今日9日に米国のウィトコフ特使がフロリダでウクライナのブダノフ大統領府長官と実務協議を行うと伝えられていることを紹介した。ルビオ国務長官も、戦争は膠着状態にあるが危険な状況だと述べており、米国は停戦交渉に意欲を見せている。兵頭氏は松田氏と同様に、3者協議が本格化し、交渉の動きが活発になることへの期待を示した。