中間選挙3週間前、共和党への逆風とトランプ離れ ロシア産ディーゼル合意から激戦州回避まで

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概要

アメリカの中間選挙(11月3日投開票)まで約3週間となった時点で放送されたBS日テレ「深層NEWS」は、共和党に逆風が吹くなかでトランプ大統領が巻き返せるのかを議論した。出演者は、選挙戦略や選挙とメディアの関係を研究する上智大学の前嶋和弘教授、アメリカ政治・外交に詳しい同志社大学大学院の三牧聖子教授、読売新聞編集委員の飯塚恵子氏である。キャスターは右松健太氏が務めた。出演者の見方はおおむね一致している。物価高とイラン戦争によって政権への支持が落ち、その結果、共和党候補者のあいだでトランプ氏と距離を取る動きが広がっている。ただ、候補者は資金面などでトランプ氏から完全には離れられず、難しい選挙を強いられている、という見立てだ。

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ロシア産ディーゼル燃料の制裁緩和は「対露制裁の骨抜き」

番組はまず、週末にトランプ大統領が見せた対ロシア政策の転換を取り上げた。トランプ氏は9日、ロシアがアメリカと世界の市場にディーゼル燃料を供給することでプーチン大統領と合意したと自身のSNSで発表した。これを受けて財務省は、ロシア産ディーゼル燃料への制裁を来年4月7日まで緩和すると発表している。さらにトランプ氏は10日、ディーゼル燃料の世界的な高騰はゼレンスキー大統領が招いたと批判し、ウクライナには新たな大統領が必要だとの考えを示した。

前嶋氏はこの合意を「対露制裁の骨抜きとしか言いようがない」と評した。前嶋氏によれば、トランプ政権は昨年春のトランプ・ゼレンスキー会談のころから、ウクライナをもう支援しない方向に動いてきた。現在ウクライナ支援の中心は完全にヨーロッパに移っている。アメリカとしてはウクライナとの関係を切り、ロシアとの関係を強めた方がよいという考え方なのだろう、というのが前嶋氏の推測である。ただし大きな転換であるにもかかわらず、実際の輸入量を考えると割に合わず、アメリカにとってプラスになるのかは首をかしげざるを得ないと述べた。

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燃料高騰の深刻さと、割に合わない取引

番組によると、全米のディーゼル燃料の小売価格は、2月末にアメリカとイスラエルがイランを攻撃して以降、約60%上昇している。三牧氏は、この高騰は政権にとって「大変深刻」だと述べた。ディーゼル燃料は建設や農業など多くの機材に使われており、価格が上がれば日々の食料などの値段も上がる。トランプ氏は焦って制裁緩和に踏み切ったのだろうと三牧氏は見る。一方で三牧氏は、国際刑事裁判所(ICC)に制裁を科すと言いながら、侵略戦争をやめないロシアには少量の取引であれ制裁を解除したことを問題視した。今回の電話会談でも戦争の話は出なかったとされる。国際的に大きな影響がある選択であり、本当に割に合うのか疑問だという。

右松氏は数量面のインパクトを確認した。ロシア側の供給は10月に30万トン、11月に50万トン、12月に100万トンとされる。これに対し、アメリカ国内のディーゼル燃料消費量は1日あたり約52万トンだ。10月分の30万トンは1日分にも満たない。前嶋氏はこれを、小さな利益のために国際関係を揺るがす「非対称」な取引だと表現した。

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「ゼレンスキーのせい」は通用しているか

飯塚氏は、トランプ氏が10日に限らず9月ごろから、燃料価格の上昇はゼレンスキー大統領がロシアの製油所を攻撃しているせいだと主張してきたと指摘した。しかし価格のグラフを見れば、急上昇は2月末から3月初めに始まっている。飯塚氏は、トランプ氏が始めたイラン攻撃によって価格が上がったのは明らかで、ゼレンスキー氏とは関係がなく、自ら招いたことを他人になすりつけていると述べた。

三牧氏もこの見方に同意し、世論の変化を説明した。少し前までは、物価高の原因は民主党の物価対策が悪かったからだという共和党側の説明が、それなりに受け止められていた。しかし関税に加え、イラン戦争が決定打となった。いまの物価高はトランプ政権の政策が原因だと答える人が、有権者全体でも共和党支持者のあいだでも増えているという。三牧氏によれば、ゼレンスキー氏のせいだという言い訳は通用しておらず、多くの人はトランプ政権の政策、とりわけイラン戦争が原因だと見極めている。

前嶋氏は、トランプ氏が支持者向けに繰り返している論法も紹介した。ディーゼルに限らず消費者物価指数(CPI)が上がったのは基本的にイラン攻撃以降である。トランプ氏はこの攻撃で核の脅威をイスラエルだけでなくアメリカからも排除したのだから、これくらいの痛みはいいだろうと語っている。この言い方がどこまで支持者に受けるかは何とも言えない、と前嶋氏は留保をつけた。またトランプ氏は、就任時に3%台だったCPIを半分にすると言っていたが、実際にはむしろ上がっている。トランプ氏はバイデン政権期の前年比8%の物価高を持ち出して比較するが、それはコロナ禍という例外期の数字であり、説明として厳しいと前嶋氏は述べた。

「感情的分極化」と支持者の受け止め

右松氏は、トランプ氏が会談後に「世界中のディーゼル価格は記録的な速さで下落するだろう」と投稿したことに触れた。1日分にも満たない量でそう言っていることを、共和党支持者は真に受けるのかと問いかけた。

前嶋氏はキーワードとして「感情的分極化」を挙げた。共和党支持者は民主党のやることはすべて悪いと考え、民主党支持者はトランプ氏のやることはすべて悪いと考えている。その中で共和党支持者の多くは、世界やアメリカが楽になるとは思えなくても「トランプは頑張っている」「バイデン時代の8~9%のインフレの方がひどかった」と受け止める。前嶋氏によれば、共和党支持者に限るとトランプ氏のインフレ政策などへの支持は7割ほどあり、日本からは見えにくい難しさがあるという。

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ゼレンスキー退陣論と「エネルギー停戦」発表

トランプ氏がゼレンスキー氏に「新たな大統領が必要」と言及した背景について、三牧氏はイラン戦争の行き詰まりを挙げた。トランプ氏はもともと中間選挙までにイラン戦争を停戦・終結させると言っていた。しかし現在は、近く終わるだろうと言いつつ大規模攻撃もあり得るとしており、発言がぶれている。物価高とイラン戦争を結びつけて政権を責める見方が強まるなか、戦争を終えられないまま、責任をゼレンスキー氏に転嫁して人々の目をそらそうとしている、というのが三牧氏の分析だ。

トランプ氏は11日にも、ロシアとウクライナがエネルギー停戦で合意したとSNSで発表した。しかしゼレンスキー氏は初耳だとしている。三牧氏は、イラン戦争でも同様のパターンが繰り返され、多くの人が本当に合意したのか怪しんでいると述べた。そのうえで、トランプ氏にもディーゼル価格を落ち着かせたい動機はあるので、うまくエネルギー停戦に結びつけてほしいとも語った。前嶋氏は、同様の「合意」発表は2カ月ほど前にもあったと補足した。

前嶋氏はさらに、ゼレンスキー氏に退陣を求める発言は複雑な意味を持つと指摘した。ウクライナは戒厳令下にあり、ロシアによる選挙介入の懸念もある。国民は世界中に避難してディアスポラとなっており、まともな選挙はできない。そのため選挙は行われていない。大統領選挙を実施していないからゼレンスキー氏には大統領としての正統性がない、というのはロシアの主張であり、それを受け入れてはいけないところだと前嶋氏は述べた。

12:47

3日間に起きた3つの出来事が意味するもの

飯塚氏は、日本の連休にあたるこの週末の3日間に、トランプ氏が大きな発言・行動を3つ重ねたと整理した。ロシアからのディーゼル燃料輸入の決定、ゼレンスキー氏は辞めるべきだという主権侵害のような発言、そしてICCへの制裁の発表である。ICCについて飯塚氏は、アメリカは加盟国ではないので判断に異議を唱えることはできると認める。しかし圧力で裁判所を機能不全に追い込むのは筋違いで、法の下の平等や法の支配を脅かすものだと批判した。

飯塚氏の見方では、これらは選挙が共和党にとって低調で、トランプ氏への支持が下がっていることの表れであり、MAGA支持層へのアピールだという。加えて、プーチン氏と会談したばかりで「頭がそこに洗脳されているのかな」との個人的な感想も述べた。さらに飯塚氏は、ICCへの制裁がノーベル平和賞の発表(先週金曜)の数時間後に発表されたことに触れ、トランプ氏の個人的な嫉妬心から決まったのではないかとすら思うと語った。こうした不安定さと、選挙のためなら何でも言い、何でもする態度を考えると、残り3週間でさらにいろいろなことが起きるのではないかと見ている。右松氏も、ロシアのナラティブ(物語)が色濃いという印象を受けると応じた。

15:36

選挙情勢と逆風の背景

選挙分析機関クック・ポリティカル・リポートは、下院で民主党が優勢と報じている。中間選挙では上院が定数の約3分の1、下院が全435議席改選される。今回、上院は7つの州で接戦が予想され、下院は民主党が過半数を上回る224~234議席を確保するのが最も可能性の高いシナリオと分析されている。

三牧氏は、逆風の背景としてイラン戦争と物価を挙げた。トランプ氏は前回の大統領選で物価を解決すると訴えて信任を得た。また、歴代政権のような無駄な対外戦争はしないというのも支持者への重要な約束だった。その2つが破られたと三牧氏は言う。関税政策も物価高に拍車をかけている。当初は人気のあった移民政策も、ICE(移民・関税執行局)があまりに暴力的な取り締まりを行ったことで、不支持が上回るようになった。主要政策すべてで不支持が支持を上回っているという。下院は全議席改選なので民意が直接反映されやすい。上院は3分の1の改選だが、それぞれ特徴のある候補が出てきており、共和党の議席を民主党が奪う可能性が出てきたと三牧氏は述べた。

17:27

中間選挙で与党が負けやすい構造

前嶋氏は、中間選挙が政権与党に不利になる構造的理由をシンプルに説明した。投票率の違いである。中間選挙の投票率は大統領選挙より10~15%ほど下がる。大統領本人が候補にならないため、大統領の「応援団」が投票に行かないからだ。第2次世界大戦後の20回の中間選挙で、大統領の政党は下院で平均26議席減らしているという。

前嶋氏によると、現在の下院は共和党220対民主党215でスタートし、共和党が5議席(現在は4議席ほどかもしれない)上回っている。ここから26を引く。共和党側が選挙区割りの見直しで議席を上積みしようとしており、それがプラス10程度になるかもしれない。それらを加味しても、民主党がプラス10~20となり、先ほどの224~234という数字になる。上院は戦後平均でマイナス4議席である。前嶋氏は、政策やインフレをまったく無視しても、ほぼこの数字になると述べた。

19:41

「35カ所すべてを訪問」と言いながら激戦州を避ける理由

トランプ氏は9月の共和党大会で、勝敗に重要な選挙区や州が35カ所あり、そのすべてを訪問すると述べた。しかし実際の遊説先を見ると、アラバマ州やオクラホマ州など共和党が優勢な地域を回っている。ワシントン・ポストは、激戦州を訪れていないことは、トランプ氏が国内の多くの地域で依然として不人気であることを浮き彫りにしていると報じた。

三牧氏は、激戦州の共和党候補から見れば、実はトランプ氏にあまり来てほしくないというのが多くの候補者の心理だろうと述べた。トランプ氏は、中間選挙では投票率が落ちることを踏まえ、「私が投票用紙に載っていると思って投票してくれ」と訴えて自分の力で支持者を動員しようとしている。しかしイラン戦争をはじめ、トランプ氏の政策は軒並み不人気だ。接戦の候補にとっては、トランプ氏が来ると不人気な政策と自分が結びつけられてしまう。有権者から、なぜイラン戦争や関税政策にもっと反対しないのかと問われかねない。候補者はトランプ氏と距離を取り、「自分は州のために政治をしている」と訴えたい。選挙を全国的なトランプ選挙にしたい大統領と、距離を置いて戦いたい接戦候補とでは、選挙に対する考えが相当違うと三牧氏は分析した。

21:53

アラバマの空席が示すもの

10月2日にトランプ氏が訪れたのは、共和党の地盤が特に強いアラバマ州だった。ワシントン・ポストによれば、大統領選なら4万人規模の会場に入りきれないほどの聴衆が集まるところだが、今回は空席が目立った。

三牧氏は空席の原因について次のように説明した。予備選と違って本選は、岩盤支持層だけでなく無党派層、さらには民主党支持者の一部も取り込まなければ勝てない。しかしトランプ氏は熱狂的な集会を重ねることで勝とうとしている。2期目に入り、戦争を始めるなど約束が裏切られた現状では、トランプ氏を支持し続ける人はいても、関税政策やイラン戦争が本当に「アメリカを再び偉大に」しているのか、少なくとも国民のためになっていないのではないか、という違和感を持つ人が出てきている。そうした人は民主党に投票はしなくても、熱狂的な集会に足を運ぶのはやめているのではないか、というのが三牧氏の見立てである。

三牧氏によれば、MAGAの中にはトランプ氏がやることなら「戦争しない」と言って始めた戦争すら支持する、個人のファンのような層もある。一方で、民主党に見捨てられた地域の人々のために国内に注力し、産業を取り戻してくれると期待して支持した人も多かった。しかし関税はカナダなどとの関係で跳ね返り、産業を取り戻すどころか庶民の家計負担を増やしている。熱狂的な支持はいまもあるにせよ、以前ほどではなく、離れていく人も出てきていると三牧氏は述べた。

24:15

税金を使ったテレビ広告は「確信犯」

トランプ政権が9月に放送したテレビ広告も批判を招いている。政権の政策紹介や「共産主義の打倒」といったメッセージを含む複数の広告で、与野党から、公的資金つまり税金が選挙活動に使われていると批判された。トランプ氏は、偉大なアメリカを前向きに宣伝するもので政府の広報だと公共性を主張していたが、10月5日には税金による負担を取りやめると表明した。

前嶋氏は、これは確信犯だと見る。問題のある広告を流せば、日本の番組を含め世界中が問題視して取り上げる。本来なら見なくてもいい映像を、結果的に多くの人が見てしまう。そこがポイントだという。遊説で失言や暴言が出るのも同じ構図で、前嶋氏はテネシー州での演説を例に挙げた。トランプ氏はその場と関係のないミシガン州の民主社会主義者エルサイード氏の話を持ち出し、「ミドルネームは自分が作ってやった、モハメッドだ」、つまりムスリムだという趣旨の勝手なことを言ったという。テレビに注目され、それが各所に流れる。トランプ氏はテレビの人なので、いかにメディアをジャックできるかを考えているのだろうと前嶋氏は述べた。

右松氏が「それでも違法な手段はだめだろう」と指摘すると、前嶋氏も違法行為に見えると認めた。そのうえで前嶋氏は、2010年代の最高裁判決により、外部資金で意見広告を出すことは、大金持ちがトランプ氏のために大金を出す場合でも問題ないと説明した。広告を出す方法はいくらでもあるのに、わざわざ政府の金を使うのは、やはり何か意図があるのだろうと語った。

27:46

テキサス州上院選、パクストン氏の音声流出

番組はVTRで、共和党が38年にわたって上院選で勝ち続けてきたテキサス州が異例の接戦になっている状況を伝えた。共和党の上院候補パクストン氏(63)は弁護士出身で、現在は州司法長官を務める。トランプ氏から「真のMAGA戦士」と称賛される人物だ。トランプ氏はこの州を3度訪れている。9月9日の共和党大会でトランプ氏は、パクストン氏の話し方は今ひとつかもしれないし最もハンサムな男でもないと冗談を交えつつ、国内最高の司法長官で次の上院議員にふさわしいと絶賛した。パクストン氏も謝意を示した。

ところがニューヨーク・タイムズは9月30日、パクストン氏が資金集めの会合でトランプ氏を批判したとされる音声を入手したと報じた。音声でパクストン氏は、共和党大会の後に支持率が下がり、誰もが数字を落としていると語っていた。トランプ氏の応援演説が逆効果だったとの認識を示したことになる。番組が取材したテキサスの政治コンサルタントは、トランプ氏と距離を置く無党派などの有権者には演説がかえって逆効果だった可能性があると話した。特にトランプ氏との特別な関係が強調されたことが、無党派層への支持拡大でマイナスに働いた可能性を指摘した。

パクストン氏は疑惑を巡って州議会に弾劾されたほか、不倫問題も明るみに出るなど、数々のスキャンダルを抱える。それでもトランプ氏が支持する理由として、VTRは2人の長年の関係を挙げた。パクストン氏は州司法長官としてトランプ政権の政策を後押しする訴訟を多く手がけてきた。2020年の大統領選でトランプ氏が敗れた際には選挙結果の無効を求め、バイデン前政権に対しては100件を超える訴訟を起こしたという。コンサルタントは、候補者たちが急速に方針を転換しているのは大統領の支持率や有権者の考えをはっきり把握しているからだと述べた。

33:07

テキサスの変化と「予備選で勝てる候補」の問題

前嶋氏は、テキサスが接戦になっている理由を2つ挙げた。1つ目は人口動態の変化である。州の法人税がないなど税負担が軽いため、カリフォルニアなどから人が流入し、ダラスなどの都市部はかなり多様化している。共和党の牙城といっても共和党一色ではなくなり、民主党も勝てる土壌が出てきた。

2つ目は候補者選びである。前嶋氏によれば、アメリカの議会選挙では現職が出れば9割勝つ。テキサスの上院議席は穏健派の共和党現職が持っていた。しかしトランプ氏と親しく、トランプ氏の盾のような役割を果たしてきたパクストン氏が予備選で勝った。前嶋氏は、スキャンダルを抱え、ヨーロッパ風に言えば極右の候補に替えてしまったことで、そもそも弱い候補にしてしまったと述べた。予備選はイデオロギー的に右寄りあるいは左寄りの人が投票に行く構造なので、本選で勝てるか怪しくても、トランプ支持者が多い予備選ではこうした候補が勝つ。前嶋氏はさらに、テキサスでは州知事(共和党のアボット氏)も怪しく、州議会も共和党から変化があるかもしれないと見られていると付け加えた。

三牧氏は、トランプ氏の後押しがなければパクストン氏は予備選での勝利も難しかったはずで、音声流出はどうかと思うと述べた。トランプ氏に押し上げられた候補だからこそ、いまは関税などトランプ氏の政策と距離を取らなければならず、そこに苦労しているという見方だ。民主党側は、37歳のジェームズ・タラリコ氏を擁立している。牧師になるために勉強している人物で、職権乱用や不倫問題を抱えるパクストン氏とは対照的であり、世代の新しさも感じさせる。三牧氏は、ずっと「赤い州」だったテキサスで民主党が勝つ可能性があるのはそのためでもあると説明した。

なぜ本選に強い現職を立てなかったのかという右松氏の問いに、三牧氏はトランプ氏の発想を挙げた。トランプ氏は自分のラベルを貼ることが候補者にとってプラスだと考えており、いまの遊説もその発想で行っている。しかし実際には、トランプ系の議員ですらトランプ色を薄めないと勝てない。大統領の考えと選挙の実情が相当ずれている。ただ、党内でのトランプ氏の影響力は絶大で恐ろしく、候補者は距離を取りきれない苦しさがあるという。

前嶋氏は数字でこの構造を補足した。トランプ氏の支持率は全体では40%から30%台に落ちているが、国民の3割ほどの共和党支持者に限れば、まだ8割5分ほどある。民主党支持者の間では3~5%程度だ。自分の応援団を連れて行けば勝てるというのがトランプ氏の発想だが、中間選挙で投票に行かないのはまさにその応援団である。予備選では勝ちやすくても、本選では相対的に応援団が減って勝てなくなる構図だと前嶋氏は述べた。

38:59

移民政策とヒスパニック票の離反

飯塚氏は有権者を大まかな図で整理した。民主党支持が約3割、MAGAを含むトランプ支持が約3割、その間に無党派層・浮動票がある。争点はまず物価高で、これはすべての層に響いている。次に戦争への介入で、民主党支持者は当然反対しており、MAGAの人々も別の理由から対外介入を許せないとしている。岩盤層がここで崩れてきているのが重要だと飯塚氏は言う。3つ目が移民対策とICEである。テキサスを含む南部には、ヒスパニックの人々が多い。前回の大統領選などでトランプ氏に賭けてみるという珍しい動きがあったことが勝利の原動力になったが、ICEはやりすぎだとしてこの層が離れつつある。岩盤層が崩れ、勝因の1つだったヒスパニック票も逃げつつあるため、トランプ氏は厳しい状況にあると飯塚氏はまとめた。

三牧氏も、ヒスパニック票の動向はテキサスに限らず重要で、2024年大統領選でのトランプ氏勝利の大きな原動力だったと述べた。当初は移民政策を支持していたヒスパニック有権者も、取り締まりがあまりに暴力的で効率も悪く、自分たちが中南米系出身だというだけで疑いの目を向けられる状況に直面している。さらにカトリック教会が、宗教はもっと平和的で寛容であるべきだとして、政権の移民政策や戦争を強く批判している。自らの信仰に照らして支持してよいのかという宗教面の要因もあり、ヒスパニック票は中間選挙で相当程度民主党側に移るのではないかと見られていると三牧氏は述べた。

42:00

広がる「トランプ離れ」と離れきれない事情

ロイター通信は、激戦の62の選挙区・州のうち41カ所で、候補者がトランプ氏と距離を取る姿勢を示していると報じた。番組では、フロリダ州から下院に立候補しているベルトラン候補の選挙サイトを例示した。8月時点ではトランプ氏とベルトラン氏の家族が一緒に写る写真が掲載されていたが、現在は家族だけの写真に替わり、トランプ氏には一切触れていない。ロイターによれば、選挙サイトからの画像削除などトランプ氏と距離を置く姿勢は、少なくとも12人の候補者で確認されている。

この変化について三牧氏は、現実的だとしつつ、共和党側の問題も指摘した。トランプ氏に支持されれば勝てるという状況が続いたため、候補者が州の課題を観察して訴えを練ったり、候補者としての資質や魅力を高めたりする努力が不足していたのではないか、という見方である。対照的に民主党は、前回の敗北を受けて、経済や労働者への訴えが欠けていたのではないかという議論を党内で進めてきた。物価高など生活問題に具体的に答えなければ信頼も票も取り戻せないという問い直しが進み、テキサスのタラリコ氏やミシガンのエルサイード氏のような特徴的で魅力のある候補が出てきた。社会主義者がさまざまな接戦州で台頭しているのもその表れだと三牧氏は述べた。

一方で、露骨にトランプ氏を批判すれば、本人や岩盤支持層から攻撃される恐れもある。三牧氏は、トランプ氏の応援演説は応援なのかけなしているのか紙一重のところがあり、怒りを買えば集会の場で罵倒されかねないと述べた。さらにトランプ氏は自身のスーパーPACに巨額の資金を集めている。選挙には金がかかるため、パクストン氏のように音声が流出しても、トランプ氏の資金援助を得なければ勝てない。機嫌を取って露骨には距離を取れないが、政策からは距離を取りたい。共和党候補はそうした難しい選挙を戦っていると三牧氏は分析した。

前嶋氏は、候補者が写真を載せるかどうかは綿密な調査に基づいて決めていると説明した。トランプ氏の写っている写真とそうでない写真のどちらがよいかを有権者に尋ねているのだという。また、予測を覆して共和党が下院の多数派を維持するとすれば、それは本来は行かないはずのトランプ応援団が投票に行く場合だと述べた。だからこそ候補者はトランプ的なものを完全には捨てられない。トランプ氏が全米を回って「自分がいると思って投票しろ」と訴えているのは、まさにこの逆転の可能性を狙ったものだという。これに対し三牧氏は、イラン戦争や政策への不支持が高まっていることをトランプ氏自身が理解していないのではないかと述べた。候補者にとって、イラン戦争や関税政策を前面に出されるのはむしろ困ることであり、大統領と候補者の間に大きな不一致があるという。

前嶋氏はまた、大統領が中間選挙の応援に回るのはここ25年ほどの傾向だと指摘した。それ以前は、大統領の応援団が投票に行かない選挙なので行っても効果がなく、基本的には行くべきではないとされていた。前嶋氏は、2002年にジョージ・W・ブッシュ大統領が全米を遊説した際に「大統領が中間選挙で自党の応援に行った」とニュースになり、変だと思って見ていたことを覚えているという。それ以降、大統領の応援がかなり定着したと述べた。

下院で敗れた場合にトランプ氏が恐れるもの

飯塚氏は、選挙結果はまだ分からないと前置きしたうえで、仮に世論調査どおり民主党が下院の過半数を取った場合を考えた。それは単にトランプ氏がレームダック化するということにとどまらないという。民主党はエプスタイン問題や私腹を肥やしているといったスキャンダルについて、議会の調査権限を使い、委員長ポストを取り、召喚するなどして調査を始めるだろう。飯塚氏は、トランプ氏が法案が通らなくなることよりも自分の身を守ることを考え、身の危険を感じて必死になっているのではないかとの見方を示した。

48:51

国際選挙監視団を招待せず

番組の最後には、トランプ政権が中間選挙に国際的な選挙監視団を招待していないことが取り上げられた。欧州安全保障協力機構(OSCE)は、アメリカの中間選挙に監視団が招待されていないことを明らかにした。2002年に監視を始めて以降、初めてのことだという。

三牧氏は、トランプ氏周辺のインフルエンサーなどが、選挙結果が思わしくなければ戒厳令を敷けばよいといった発言をしており、トランプ氏自身も類似の発言をしていると指摘した。アメリカの民主主義が危うく、選挙が形式的に行われているだけだと言われてきたが、その選挙すらまともに行えないかもしれない、と懸念を示した。

前嶋氏は、選挙で最も大事なのは透明性だと強調した。OSCEを招くようになったのは、2000年の大統領選でフロリダ州のわずか538票で決着がつく事態になり、これではまずいという反省から、外部に不正がないかを厳密に見てもらうためだったという。共和党側が民主党の不正を主張するのであれば、むしろ監視団に来てもらえばよい。呼ばないことで、逆に共和党側が不正をしそうに見えてしまう。前嶋氏はそう述べたうえで、そう断言してよいかどうかは微妙だと留保をつけ、議論は締めくくられた。