中谷潤人が中学3年生に語った、15歳での渡米と井上尚弥戦の初黒星から学んだこと

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概要

10月16日、プロボクサーの中谷潤人が神奈川県の小山中学校で講演した。同じステージには、視覚特別支援学校に通いながらブラインドボクシングで日本一になった工藤聖真も登壇した。聴き手は受験を控えた中学3年生である。中谷は、自分が15歳で高校進学ではなくアメリカ行きを選んだ経緯と、今年5月2日の井上尚弥戦でプロ初黒星を喫した経験を語った。そのうえで、負けや苦手なものとどう向き合うかを生徒たちに伝えた。

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工藤聖真のピアノ演奏で始まった講演

最初に紹介されたのは工藤だった。司会によると、工藤は昨年11月に開かれたブラインドボクシングの全国大会「ゴールデンチャイルドカップ」で優勝している。続いて「もう1人、皆さんに会いたいというゲストがいる」と告げられ、工藤のピアノ演奏に合わせて中谷が登場した。中谷は工藤に「かっこいい演奏ありがとうございます」と声をかけてから話を始めた。

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中学3年の時点でプロへの道は決まっていた

司会はまず、生徒と同じ中学3年生の頃にどんな生活をしていたのかを尋ねた。中谷は、中学3年の時点でボクシングのプロに進むことはすでに決まっていたと答えた。プロで活躍する自分を思い描き、そのために何をすべきかを家族と相談していたという。毎日の生活は、朝にランニングをしてから登校し、放課後は通っていたボクシングジムで練習するというものだった。

ボクシングを始めたきっかけも語られた。中谷は小学3年生から空手を習っていたが、空手では「1回も勝ったことがなかった」という。両親は地元で店を営んでおり、店の常連客に勧められたことがボクシングを始めるきっかけになった。

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「高校に行って世界チャンピオンになれるか」と逆算した

中谷は中学卒業後、アメリカのロサンゼルスに渡っている。司会がその決断について尋ねると、中谷は当時すでに「プロボクサーで世界チャンピオンになる」という目標を持っていたと説明した。同学年の友人たちは高校進学を選んでいた。しかし中谷は、高校に行って世界チャンピオンになれるのかを逆算したとき、「そこは違う」と感じた。そこで人とは違う道を選び、覚悟を持ってロサンゼルスへ行ったという。

迷いや不安はなかったのかという質問には、「いっぱいありました」と答えた。それでも、ワクワクできる方、思いを持って取り組める方に進んだほうがいいと感じ、渡米を選んだ。最初は「どうなっていくんだろう」という不安が大きかったが、家族や周りの人に支えられた。そうした人たちと相談しながら進み方を決めていったという。今振り返ると「オリジナリティがあっていい選択だった」と思えるので、まずは突っ走ってみることが大事だと中谷は話した。

英語は得意だったのかと聞かれると、「全然です」と答えた。アメリカに着いても言葉が通じなかったので、「とりあえずボクシングで見せる」しかなかったという。

親が最初から渡米に賛成していたわけではない。中谷によると、両親からは最初、高校ぐらいは行っておいたほうがいいのではないかと助言された。ただ、父の教えに「人と違うことをしなさい」というものがあった。その教えに沿って、人と違う選択をして生きてきたと中谷は語った。

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成長を感じたのは「感謝する心」

ボクシングを長く続けて、どこに成長を感じるか。この質問に中谷は、感謝の心が芽生えたと実感する場面が増えたことを挙げた。司会が、SNSでも「感謝」という言葉をよく使っていると指摘すると、中谷は大切にしている言葉だと認めて理由を説明した。何かを成し遂げるには勇気やエネルギーが必要になる。しかしそのエネルギーは自分1人のものではなく、協力やサポートをしてくれる周りの人の支えがあって初めて実現できる。だから味方をたくさん得られるように、自分の言葉や行動を大事にしたほうがいい、というのが中谷の考えである。

今後の夢については、1人でも多くの人に自分の戦いを見てもらいたいと話した。自分がどれだけの思いを持って戦っているかを通じて、感動や勇気を伝えられる戦いをしていきたいという。

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二人の出会いと、工藤が語った点字の壁

中谷の記憶では、二人が初めて会ったのは相模原市役所で開かれた中谷の勝利報告会だった。工藤がその場に来ていたという。その後はブラインドボクシングを通じて交流を続けている。工藤は、試合の映像を見て「すごくかっこいい方だ」と思い、自分から声をかけたと振り返った。憧れの選手と実際に話した感想を聞かれると、「本当に信じられないというか、本当に嬉しい」と答えた。

司会が挫折の経験を尋ねると、工藤は視力を失ったときのことを話した。見えていた頃は皆と同じように印刷された文字を使っていた。見えなくなってからは点字を覚え始めたが、初めて点字に触れたときは、これで勉強や生活ができるのかと不安になったという。最初は本当に大変だったが、読めないと困るので何とか読めるようになり、今は使えていると語った。

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中谷「勉強は捨てた」、それでも苦手から目を背けない

工藤の話を受けて、中谷は自分は勉強ができなかったと明かした。「勉強はちょっと捨てた」という言葉に司会は驚いたが、中谷はそれを「ボクシングに全振りした結果」と説明した。人には十人十色に得意・不得意がある。その中でどれだけ好きになり、夢中になって取り組めるかが人生を豊かにすると中谷は言う。ただし、苦手から目をそらしてよいという意味ではない。得意なことに打ち込んでいても、不得意な部分には必ずぶつかる。そのときに目を背けずに向き合えるかが大事だと強調した。

ボクシングにも苦手な部分はあるのかと聞かれると、中谷は「たくさんあります」と答えた。戦い方もそうだし、日々のトレーニングも非常に厳しい。そこに自分の思いを乗せて取り組まなければ、いいファイトは届けられない。日々の葛藤や自分の弱さと向き合う時間が大半であり、それはこれからの人生でも大事だと考えているという。

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井上尚弥戦の敗北を「悲観的な負けではなかった」と振り返る

話題は今年5月2日の試合に移った。中谷は世界4団体統一をかけて井上尚弥と戦い、プロで初めて敗れた。試合直後に何を考えたかを問われ、中谷はこう答えた。勝負の世界なので勝ち負けはつきものだが、それ以上に、自分が思いを持って取り組んできたことに周りの人が心を動かされたと感じることができた。だから「悲観的な負けではなかった」という。そうした声をすぐにたくさん受け取れたことで、さらに前を向き、中谷潤人のボクシングをもっと届けたいという気持ちになれたと話した。

司会は、アスリートは自分の成績にばかり目が向きがちだと指摘した。そのうえで、中谷は周りの人の反応や表情が見えていたから考え方を切り替えられたのではないかと尋ねた。中谷はそれを認めつつ、自分で想像するだけでなく、周りからすぐに言葉をもらえたことが大きかったと説明し、周りへの感謝しかないと語った。

配信で見た試合後の表情がすっきりしていたという司会の感想には、その時点での自分の力は発揮でき、悔いなく戦えたので、すっきりしていたと答えた。その後の行動については、まず負った怪我を治すことに専念したという。リングに上がるときは「1ミリの不安もなく」万全で臨むことが大切だと考えており、その不安を払拭しながら現在トレーニングしている段階だと話した。

夢が決まっていない生徒へ「偏見を持たずに試す」

まだ夢が決まっていない生徒への助言を求められると、中谷は「何でもトライしてみる」ことを挙げた。偏見を持たずに試すと、意外と面白い、ここは難しいと感じる感性が芽生える。それを楽しめるかどうかは人それぞれだが、何事もまず試すことが大事だという。

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生徒・教員との質疑応答

質疑応答では、まず一番印象に残っている試合を尋ねる質問が出た。中谷はここでも5月2日の井上戦を挙げ、ボクシングという競技を思う存分楽しめたと答えた。司会が、あえて敗れた試合を選んだ理由を聞くと、中谷は次のように説明した。互いに研究し合ってリングに上がる中で、「こんなパンチも当たらないのか」という状況があり、駆け引きを含めて楽しめた瞬間が多かった。井上からも自分へのリスペクトを感じたし、互いに出し切った試合だったという。

キックボクシングをしている生徒は、負けるといつまでも引きずってしまうので、どう切り替えればいいかを尋ねた。中谷は、負けを引きずるのはあまりよくないかもしれないと前置きしたうえで、何がダメだったかに目を向けることを勧めた。負けには必ず理由がある。そこに目を向ければ克服でき、立ち直ることができるという答えだった。

別の生徒は、プロボクサーをかっこいい職業だと憧れていると話し、中谷がやってみたかった職業を尋ねた。中谷は両親がお好み焼き屋と居酒屋を営んでいたことを明かし、ボクシングをしていなければ飲食店をやっていたと思うと答えた。

最後に教員が、生徒たちに向けた質問として、勝負の場面で心がけていることを尋ねた。教員は自分自身は人生で「負け越している」と感じているが、中谷は大事なところで必ず勝っている印象があると前置きした。中谷は、プロキャリアで5月2日の試合に初めて負けを経験し、「負けほど得るものはない」と強く感じたと答えた。勝ちから学べることもあるが、それ以上に、負けてどう感じ、どう行動するかが大事になる。だからそうした場面を大切にしてほしいと生徒たちに伝えた。

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二人からのメッセージ

締めくくりに、二人がそれぞれ生徒へメッセージを送った。工藤は、街中で白い杖を持って歩く人が困っている様子だったら、「お手伝いできることありますか」と一言かけてもらえるだけで本当に助かると呼びかけた。障害のある人に限らず、身近な友達や家族が困っていたら声をかけてほしいとも話した。自分も人に声をかけるのは苦手で言えないかもしれないとしたうえで、「勇気を出して声をかけてみることが大事なのかもしれません」と結んだ。

中谷は、会場に掲げられた「Sky's the limit(可能性は無限大)」という言葉を、自分もとても大事にしていると紹介した。生徒一人ひとりに無限の可能性がある。それを自分で信じて突き進んでほしい。そうしてもらえれば自分にとっても有意義な時間だったと思える、と述べて講演を終えた。