安保3文書改定、自民・維新の温度差と自衛官不足、無人機戦への備えを元防衛事務次官と元陸自方面総監が議論

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概要

高市政権は国家安全保障戦略をはじめとする「安保3文書」の改定を年末までに行う予定で、議論は大詰めを迎えている。BS日テレ「深層NEWS」は、2022年の前回改定で政府・与党の調整役を務めた元防衛事務次官の髙橋憲一氏と、現役時代に防衛大綱などの作成に携わった元陸上自衛隊中部方面総監の山下裕貴氏を招き、中国・ロシア・北朝鮮の3正面に向き合う日本の防衛政策を論じた。コメンテーターは読売新聞編集委員の飯塚恵子氏である。番組では、連立相手の交代による与党内の温度差、自衛官の人材確保、無人機やAIを使う「新しい戦い方」への備え、継戦能力、防衛費と財源、そして3文書に込めるべき理念が取り上げられた。

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1:29

前回改定から4年、何が変わったのか

髙橋氏は、2022年12月の閣議決定時にはすでにウクライナ戦争が始まっていたものの、その後の変化は大きいと述べた。最大の変化として挙げたのは第2次トランプ政権の登場である。当時、日本は「ルールに基づく国際秩序」「法の支配」を前提に、同盟国・同志国と連携していくと考えていた。しかしアメリカがアメリカ第一主義を打ち出したことで、その前提が揺らいだという。加えてイラン戦争が始まり、国際情勢はさらに変化したと髙橋氏は見る。

もう一つ髙橋氏が強調したのは、米ロ間の核軍備管理の消失である。2019年に中距離ミサイルを全廃するINF条約が失効し、今年になって戦略核兵器の数の削減や信頼醸成を担ってきた新STARTも失効した。これまでの理念が失われ、核軍備管理の枠組みもなくなったという点で、安全保障環境は「極めて新しいステージに入った」と髙橋氏は表現した。

山下氏は、極東地域に目を向ければ共通しているのはアメリカの力の低下であり、パクス・アメリカーナが少しずつ崩れているのではないかと述べた。一方で中国は軍事力を強化し、現状変更の動きを活発化させている。北朝鮮は数日前にも弾道ミサイルを発射し、ロシアは戦争を続けながら日本に軍事的な威嚇・圧力をかけている。2022年の3文書策定時と比べて情勢は厳しさを増していると山下氏は言う。その一方で日本の相対的な国力は下がり、自衛隊は隊員の確保が非常に難しくなって体制を維持できるのかという問題に直面している。必要性と可能性の間に矛盾が生じている、というのが山下氏の見立てだった。

山下氏は今回の改定に求める点として、文書が単なる各省庁の分担作業の寄せ集めにならないことを挙げた。各役所が分析を分担しているためパーツごとには立派だが、1本筋の通った理念があるのかが問題だという。現在の文書は「目標とアプローチ」という書き方をしているが、日本をどう作り、どう守っていくのかという理念があり、それを実際にどう実現するのかが読んで分かる文書にしてほしいと注文した。

5:31

3文書の構成と改定スケジュール

番組では3文書の構成も確認された。今後10年程度の外交・防衛政策の基本指針である「国家安全保障戦略」、防衛目標とその達成手段を示す「国家防衛戦略」、目標達成のための装備品の調達方針や経費総額を定める「防衛力整備計画」の3段階である。山下氏は、このうち「戦略」と名のつくものは実は2つで、最後は計画だと補足した。

今回の改定に向けて、与党の自民党と日本維新の会はそれぞれ6月に政府へ提言を提出した。有識者会議も報告書をまとめる方針で、政府は与党と有識者会議の議論を受けて年末までに閣議決定するとしている。

飯塚氏は、3文書が決まらなければ政府予算案も閣議決定できない点を強調した。全体の方針が決まらないと予算を組めないため、今年はクリスマスあたりになるかもしれないが、それまでに必ず閣議決定しなければならず、時間はあまりないという。

6:44

公明党の「ブレーキ」から維新の「3歩前」へ

飯塚氏は政治環境のポイントとして、まず連立相手の変化を挙げた。公明党は「平和の党」として、軍事的な路線をできるだけ控えめにするよう自民党に後ろからブレーキをかける立場だった。これに対し維新は自民党の「3歩ぐらい前」を行き、軍事強化の強硬路線を前面に出している。その結果、自民党の側がどう慎重に進めるかという構図になっていると飯塚氏は説明した。

前回改定で調整役を務めた髙橋氏は、2022年当時のプロセスを振り返った。春ごろに自民党安全保障調査会の提言が出され、政府が議論を整理して秋口に政府案を示す。自民・公明でつくる与党の安全保障プロジェクトチームが秋口からテーマごとに緊密に調整していく流れだった。自民党が比較的高めの球を投げ、公明党は過去の安全保障政策との整合性や憲法との関係をかなり細かく詰めていった。行政府としても理論的に詰める必要があり、同時に政治的にそれが持つかどうかも見込みながら年末の閣議決定に向かったという。

当時の大きな論点は反撃能力だった。髙橋氏によれば、平成30年の大綱では「検討」にとどまっていた。最大のネックは、政府がそれまで反撃能力について「計画も装備もしない」と答弁し続けてきたことで、ただしそれは憲法にも専守防衛にも反しないという立場だった。その後、北朝鮮のミサイルが何発も発射され、BMD(弾道ミサイル防衛)での迎撃を難しくする技術的な進歩が生まれた。海上自衛隊のイージス艦に搭載したミサイルや、陸上のパトリオットで迎撃するミサイル防衛だけで国民を守り切れるのかという問題意識が政治の側にも広がり、前回改定で反撃能力が政治的にも認められたと髙橋氏は説明した。

山下氏は現場側の経緯として、日本海にイージス艦を張り付けておくのは非常に負担が大きいため、陸上自衛隊が地上配備型のイージス・アショアを持つべきではないかという議論があったことを紹介した。途中で方針が変わり洋上型になったが、様々な点で議論が深まり、体制にも影響していったのが実態だという。

12:44

原子力潜水艦をめぐる自民と維新のずれ

自民と維新の温度差を象徴する例として番組が取り上げたのが、原子力潜水艦の保有検討である。去年10月に両党が連立を組んだ際の合意書には「次世代の動力を搭載した潜水艦の保有にかかる政策を推進する」と明記された。今年6月の提言では、維新が「早急に原子力潜水艦を導入すべき」と明記したのに対し、自民党は「次世代の動力」の検討とし、「原子力」という言葉は使わなかった。

飯塚氏は今回の見直しの主な登場人物を整理した。政府側では、防衛大臣経験者の木原官房長官がおり、高市首相はおおむね木原氏に任せている。小泉氏が防衛大臣を務める。自民党では防衛大臣経験者の浜田安全保障調査会長、維新では吉村代表以下、藤田氏も含めて非常にストレートな防衛力強化を唱えている。このほか防衛産業や有識者会議のメンバーが関わる。有識者会議の議論が9月で一段落し、10月・11月から政府内と与党の議論が始まるタイミングであるため、立ち止まって考えたいというのが番組の趣旨だと飯塚氏は述べた。

髙橋氏は率直な見方として、6月に両党がそれぞれ提言を出した以上、意思疎通をしながら政策を練り合わせるプロセスが当然始まるはずだが、自分は今政府にいないので実際の話し合いは分からないとしたうえで、側聞する限りそうしたコミュニケーションが取られている感じはあまりしないと述べた。原子力潜水艦のように大きな政治問題になりうるテーマを抱えながら、12月に確実に閣議決定しなければ予算編成が遅れる。その政治プロセスをどうコントロールしているのかが見えない、という懸念である。

飯塚氏も、原子力潜水艦は国家プロジェクトのような次元の話であり、非核三原則の問題もあれば原子力基本法の改正も必要になるなど論点が非常に多く、2か月余りで議論しきれるのかという難しい課題があると指摘した。

17:09

自衛官はどれだけ減るのか

続いて番組は自衛官の人材確保を取り上げた。先月の政府の有識者会議資料によれば、自衛官の数は減少が続いており、2035年には2025年度と比べて約3万7000人減少すると試算されている。将来、今と同じ水準を維持するのは困難だと指摘されている。

髙橋氏によると、自衛官の主な募集対象人口とされる18歳から32歳の人口は、令和8年の約1709万人から、40年後の令和48年には約6割にまで落ち込む。処遇改善は非常に重要で必ずやるべきだが、同時に自衛隊の戦い方を見直し、省人化・省力化を進めなければ、厳しい安全保障環境に十分対処できなくなると髙橋氏は主張した。そのためにはAIや無人化、場合によってはフィジカルAIの導入も考えなければならない。

ただし髙橋氏は、それに伴う課題にも触れた。AIは暴走するかもしれない。またフィジカルAIについては自律型兵器(LAWS)に関する規制の議論があり、人間の意思が介在しなければ誤射や誤爆で人が傷つく恐れがある。その責任をどうするかを含め、AIや自律型兵器の規制の問題も新しい戦略や政策文書の中でしっかり議論する必要があると述べた。

19:25

「無人化は組織縮小のためではない」山下氏の反論

これに対し山下氏は「反論するわけではないが」と前置きしつつ、人材が確保できなくなると財政当局や事務方はすぐに自衛隊の体制を縮小する方向に向かい、その方便として無人化・省人化、今回はAIが持ち出されると批判した。ウクライナ戦争で見てきたように、AIの意義は精密性と速さにある。ドローンや地上の無人機は、第一線の兵士の命をどれだけ守るかのために使われているのであって、組織をコンパクトにするためではない。新しい戦い方を取り入れることと体制の議論は別の話で、分けて考えるべきだというのが山下氏の主張である。

山下氏は、現役時代に「中期防や防衛大綱は作らない方がいい、作るたびに自衛隊が縮んでいく」と冗談で言っていたと明かした。これまでは財政面から縮められてきたが、今度は人が取れないから縮めようとしている。必要性があるなら可能性を追求すべきだと訴えた。

髙橋氏は、自身もこれまで大綱に2回関わり、平成16年の大綱では冷戦終結後の「平和の配当」として陸上自衛隊を16万人から12万人に減らせという議論がすでにあったと振り返った。募集担当の課長も務めた経験から、人が取れればいいが取れない時代がすでに来ており、充足率は下がり続け、予備自衛官の充足率はさらに低いと指摘した。現実の問題を解決して任務を遂行するためには、省人化は取り組むべき課題だという立場を崩さなかった。

飯塚氏は、この対立は今に始まったものではないと補足した。いわゆる背広組は事情もあって合理化の方向に進みがちで、制服組は防衛力を基盤的にきちんと保持すべきだと主張する。さらに自民党の国防族からは、定数を減らせば中国に誤ったメッセージを送るという「見た目」を重視する議論も出るため、すんなり収まる議論ではないとの見方を示した。

番組では、この日、小野寺元防衛大臣らが自衛官の人材確保と処遇改善を目的とする議員連盟を発足させたことも伝えられた。初会合で小野寺氏は、3文書をまとめるうえで最も大切なのは重要な資源である「人」だと強調し、議連では給与・手当の見直しや家族への支援策などを検討するという。

22:59

募集の現場から見た「自治体の役割」

地方協力本部長として沖縄で2年間募集に携わり、人事計画課長も務めた山下氏は、募集の制度的な問題を指摘した。自衛官の構成で最も多い2等陸・海・空士の募集は、自衛隊法と地方自治法により、一部が自治体の法定受託事務になっている。自衛官の職名が「募集官」ではなく「広報官」であるのはそのためだと山下氏は説明し、この自治体の役割を活性化させるべきだと訴えた。地方協力本部が名簿を閲覧しようとすると個人情報を理由に反対する活動もあるが、それは本来自治体の仕事であり、自衛隊だけでやるには限度があるという。

山下氏によれば、陸上自衛隊の充足率は86.5%。もともとは予算定員の制約で低く抑えられていたが、今は集められないことが原因になっている。そのうえ定員のついていない地方協力本部などに数千人の隊員を回しているため、部隊の実際の充足率はさらに低い。第一線の普通科中隊では、4個小隊あるはずのところが演習で1個小隊しか使えない状況だという。

体制を縮めるか、国を挙げて募集努力をするかという選択の中で、山下氏は後者を主張した。現状では広報官1人が非常に広い地域を担当しているが、市役所や役場が支援して自分たちも募集に取り組めば3倍、4倍になる。それは防衛省だけではできず、国民的な議論が必要だと述べた。

25:06

無人機戦の広がりと周辺国の動き

番組はVTRで、新しい戦い方をめぐる周辺国の動向を紹介した。ロシアのウクライナ侵攻では戦闘の長期化とともに無人機を活用した戦い方が主流になってきた。先月28日からロシアで行われた合同軍事演習「ツェントル2026」で、プーチン大統領はウクライナでの実戦経験が演習に反映されていると強調した。インターファクス通信などによると、演習には中国など少なくとも8か国と、侵攻の実戦を経験したロシア兵2000人以上が参加し、無人機戦の教訓が色濃く反映されていたとされる。

中国軍は「新たな脅威への対応」と題した動画をSNSで公開し、迫る無人機を兵士が直接迎撃する様子や、防護策を施した車両による自爆型無人機への対処を見せた。北朝鮮の金正恩総書記は去年から無人機開発を最優先課題の一つに位置づけ、ロシアからジェット推進型無人機技術の提供を受けている可能性が指摘されている。

日本では、陸上自衛隊が先月2日、「小型攻撃用無人機」と呼ばれる機種を初めて公開した。スマートフォンで操作できるのが特徴で、無人機の迎撃などへの活用も想定されている。無人機の役割は情報収集にとどまらず、敵の無人機への対処や迎撃へと広がりつつある。政府はこうした新しい戦い方への対応を3文書の改定に盛り込む方針である。

29:33

流行に流されず「バランスの取れた防衛力」を

島国・日本にどのような技術と戦い方が必要かを問われた山下氏は、まずVTRの映像は展示訓練であり、最新兵器を持っていると示すこと自体が先見性のアピールだと指摘した。そのうえで歴史の例として、第一次世界大戦後に日本の陸軍と海軍がヨーロッパに調査団を派遣し、総力戦や機械化戦争といった当時の新しい戦い方を詳細に分析して持ち帰ったが、予算がなく実現できなかったことを紹介した。今回も詳細に分析すべきだが、新しいものにすぐ飛びつくのではなく、ドローンやAIがあれば戦車や装甲車はいらないといった方向に行かず、バランスの取れた防衛力を作る必要があると述べた。欠落したところが弱点になるからだ。

山下氏は自らの経験も明かした。2010年に陸上幕僚監部で中期防の議論をしていた際、内局の担当課長から、陸上自衛隊が5個部隊・90両保有していたキャタピラ式の多連装ロケットシステム(MLRS)を全廃せよと言われた。将来、多連装ロケットを使うような戦場は発生しないという理由だったが、「今のウクライナを見てください」と山下氏は言う。火砲についても、北海道に1987年制式化の自走式でない火砲が一部残るのみで、それもなくなっていく。ミサイルさえあれば火砲はいらないと言われたという。一方ウクライナでは、ドローン対応と並行して戦車や装甲車が使われ、ウクライナ軍がロシア軍のドローンを制して無力化したうえで機械化攻撃を行い、領地を確保した事例もあると山下氏は語った。日本の防衛戦略の柱は着上陸侵攻対処と防空であり、バランスの取れた多層的な防空システム、バランスの取れた装備と戦い方によって欠落や欠点を作らないことが制服組として求められていると述べた。

髙橋氏も山下氏の意見に賛成したうえで、新しい戦い方に応じて必要な装備は徐々に変わっていくし変えていかなければならないが、ときに流行に流されて「その装備はいらない」という主張が「いつも現れる」と述べた。自身の現役時代にもイージス艦は不要でミサイル艇を重視せよという人たちが現れたが、その後BMDが始まり、イージス艦が使われるようになった。艦を建造し訓練して使い物にするまで何年もかかるのだから、将来の脅威を正確に分析しながら、あまりに短いサイクルで考えるのはよくないという。

32:29

新しい戦い方の前に問われる「継戦能力」

髙橋氏はまず大きな前提として米中関係に触れた。髙橋氏の理解では、アメリカは中国を最大のライバルとしつつも話し合いのできる相手とみており、中国と対話しながらインド太平洋を比較的自由で開かれた状態に保つことがアメリカの利益につながると考えている。同時に第一列島線にいる日本などに必要な防衛力の強化を求め、第一列島線を抑止力として安定させることを期待している。アメリカは西半球に閉じこもるのではなく、インド太平洋でどの国の覇権も許さない。そこで必要な抑止力を担うのが日本の役割だというのが髙橋氏の認識である。

そのうえで髙橋氏は、新しい戦い方よりも前に取り組むべきは継戦能力の確保だと主張した。ウクライナ戦争の初期には米国製の対戦車ミサイル「ジャベリン」が大量に消耗し、アメリカの在庫が危うくなった。イラン戦争でも、イランのドローンに対して高価な迎撃ミサイルを投入することになり、アメリカは対空ミサイルを消耗した。いわゆる非対称な戦いである。そうした戦いに日本は耐えられるだけの弾薬・ミサイルの備蓄を持っているのか、防衛産業に増産を求めて十分に確保できるのか、と髙橋氏は問いかけた。

人の問題もある。現在の自衛隊の定員は、有事の初動の第一撃に耐えるための正面の定員を確保する考え方で、継戦能力としての人員は手薄だという。その担い手となるはずの予備自衛官は充足率が半分を切っている。新しい戦い方は重要だが、継戦能力をいかに確保し強化するかを合わせて考えることが必要だと髙橋氏は述べた。

山下氏は、継戦能力は防衛省・自衛隊だけでなく防衛産業の問題でもあると応じた。弾薬や装備が消耗したときにすぐ生産できる体制があるか。ただし増産を求めれば企業は投資しなければならず、その投資分をどうするかという問題もある。人的戦力、物的戦力に加え、もう一つは日本国民が長期の防衛作戦に耐えられるかどうかだと山下氏は指摘した。ウクライナはインフラが相当攻撃されており、継戦能力は総合的な国力の問題だという。

37:38

スタートアップとの装備開発、新制度への評価

防衛産業の強化策として番組は、小泉防衛大臣が今月2日に発表した新たな取り組みを紹介した。無人機やAIなど優れた先端技術を持つスタートアップ企業と協力し、装備品の開発を促すものである。小泉大臣は先月の会見で、防衛力強化と防衛生産基盤の強化を目指したいと述べていた。

髙橋氏は、日本の防衛産業はこれまで重厚長大型で、研究開発に時間がかかり、装備化まで5年、10年かかるのが当たり前だったと説明した。スタートアップと協力し、装備化まで前提にしてより早いサイクルで新技術を取り入れることは、技術革新の時代に絶対に必要だと評価した。

今回の取り組みの新しさは、自衛隊の現場のニーズをまず公開し、それに対する解決策をスタートアップから募る点にある。山下氏は、企業のアイデアと部隊のニーズを合致させ、どれだけ早く採用して戦力化するかという点で画期的に動いているのは事実だと述べた。「防衛本省とはいつも戦っていたので褒めることはないが」と笑いつつ、今回の取り組みは大したものだと評価し、延々とやっていた研究開発の期間を縮めることや補助金を出すことも隔世の感があると語った。さらに山下氏は、従来の重厚長大な大企業もこれに刺激を受けてイノベーションに取り組もうとしており、業界が活性化しているのは事実だと付け加えた。

41:21

防衛費は多いのか少ないのか

番組は防衛費の推移も示した。2022年の改定でGDP比2%を目標に掲げて以降、防衛費は右肩上がりとなり、2025年度予算でGDP比2%を前倒しで達成した。今年度の当初予算は約8兆8000億円で過去最高である。野村証券が去年発表した試算では、GDP比を3%に引き上げた場合、5年後の2031年度の防衛予算は19兆円程度(19.6兆円)になるという。一方、アメリカは去年末の国家防衛戦略で同盟国にGDP比5%の水準を求めている。

髙橋氏は、前回の改定では防衛力を抜本的に強化するという方針のもとで必要なものを積み上げた結果としてGDP比2%になったと説明した。そのうえで、この2%は純粋な防衛力整備の経費だけではないと注意を促した。純粋な防衛力整備の対象経費が約8.9兆円、沖縄の地元負担軽減が約0.2兆円、NATOの定義に基づく海上保安庁予算などが約0.9兆円、これにインフラ関連の投資を合わせて2%になる。アメリカはNATO諸国に対し中核的な軍事支出3.5%とインフラ投資1.5%で計5%を求めており、国家防衛戦略ではNATO以外の国にもこれを唱えていくとしている。オーストラリアのように3%を掲げる国もある中で、日本としては必要な装備・人員・施設を積み上げて防衛費を考えるべきだと髙橋氏は述べた。

髙橋氏はまた、日本の防衛費は実は大きくないと強調した。2024年度の1人当たり防衛費は日本が7万円で、アメリカ24万円、ロシア27万円、韓国13万円、オーストラリア14万円、イギリス10万円、フランス12万円、ドイツ11万円だという。日本の防衛費は長らく抑えられ、第2次安倍政権以降に回復してきたもので、トランプ氏以前からアメリカには日本の負担が少ないと強く言われた経験が何度もあったと振り返った。キャスターの右松氏は、この額を高いとみるか安いとみるかは国ごとの所得水準などによっても違い、単純な比較は難しい面もあると付け加えた。

45:17

財源と期限、残された時間

財源について飯塚氏は、今の臨時国会では消費減税が最大の争点になっていると指摘した。消費減税の財源をどう捻出するかの議論が終わらなければ、防衛費のためにどこかで増税したり各所から財源を集めたりする手当てもできない。消費税の議論が11月末に終わるのか、もっとかかるのではないか。現時点では消費減税の議論にもまだ十分入れていないと飯塚氏は見る。

それでも期限は切られている。飯塚氏は、税制が関わるという意味で自民党のキーマンは、防衛大臣を務めた国防族であり、現在は党の税制調査会長を務める小野寺氏だと述べた。防衛と税の両方に関わる小野寺氏が、今後議論をリードし、また非常に悩ましい立場に立つのではないかという見立てである。さらに、防衛力強化の目標達成時期も5年なのか7年なのか決まっておらず、そうした議論もこれからしなければならない。12月までの日程は非常にタイトになると飯塚氏は述べた。

47:21

3文書に込めるべき理念は何か

最後に番組は、改定される3文書にどのような理念を込めるべきかを2人に尋ねた。

髙橋氏は、これまで日本が拠り所としてきたのは法の支配であり、ルールに基づく国際秩序だったが、トランプ氏はアメリカもそれに立たないと言っていると指摘した。そのうえで、日本がどういう新しい理念でやっていくのかが問われているとし、非核三原則、原子力潜水艦、自衛官の募集、そして防衛産業を含む継戦能力といった問題をしっかり議論し、新しい理念を立てることが大事だと述べた。

山下氏は、日本がNATO諸国と違うのは、1か国でロシア、中国、北朝鮮と向き合っている点だと強調した。新しい国家安全保障戦略で日本を10年後にどう繁栄させ、どう守っていくのか、そのために防衛戦略をどう考えるのかについて、哲学や理論を1本通し、それに見合う体制を作ってほしいと述べた。理念とは物の考え方の柱だ、というのが山下氏の結論だった。

自民・維新間の調整、原子力潜水艦をめぐる法制度上の論点、人材確保と省人化をめぐる考え方の違い、そして財源と達成期限という未決の課題を抱えたまま、政府は年末の閣議決定に向けて残り2か月余りで議論を進めることになる。