衛星画像で読む中国の軍事拠点 南シナ海・ラオス・ジブチで何が進んでいるのか

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概要

「世界一流の軍隊」を目指す中国は、国外を含む各地で軍事利用できる施設の建設や拡張を進めている。BS日テレ「深層NEWS」は、元中国防衛駐在官で笹川平和財団上席フェローの小原凡司氏と、防衛研究所の高橋杉雄氏を迎え、南シナ海、東南アジアのラオス、アフリカのジブチの3か所を衛星画像で分析した。番組では中央アジアへの兵器輸出や、放送前日に確認された空母「遼寧」の動きも取り上げた。最後には、中国の言う「覇権」とは何を目指すものなのかを議論している。両氏はいずれも、中国の狙いを領土の拡張とは見ていない。他国の選択肢を狭め、中国に配慮して動かざるを得ない関係をつくることだと捉えている。

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1:18

南シナ海で倍増した中国船と「ミッションキル」

最初の話題は南シナ海である。フィリピン沿岸警備隊によると、今月8日、警備隊の船が中国海警局の船から妨害を受けた。フィリピン政府は、先月南シナ海で確認された中国軍と海警局の船が101隻に上り、8月の56隻からほぼ倍増したとしている。フィリピン軍の南シナ海担当報道官は、中国の動きを「ミッションキル」と呼ばれる手法だと説明した。フィリピン側が任務を続ける能力そのものを破壊しようとしている、という見方である。

船が増えた背景について、小原氏は中国側の主張を紹介した。フィリピンはアメリカなど他国を巻き込んで合同演習や共同パトロールを行っている。中国はこれを「いわゆる」と留保付きで呼びつつ、フィリピンが南シナ海の安全を脅かし環境を乱していると主張する。そのうえで、自国の権利を守るためとして、8月以降は海軍の演習やパトロール、海警局のパトロールを明確に増やしていると述べている。

ミッションキルの中身について、小原氏はフィリピン側の補給と救助を例に挙げた。南シナ海にはフィリピンの漁民がいるほか、フィリピンがセカンド・トーマス礁(アユンギン礁)に座礁させた軍艦には軍人が常駐している。こうした人々への補給や負傷者の輸送はフィリピンの公船が担う。中国はその船を自国の船で妨害し、目的地に到達させない。そうすることで、フィリピンがこの海域で実質的に活動できていないと示そうとしているのだと小原氏は見る。

4:05

シエラマドレ号を巡る攻防

今回の妨害は、セカンド・トーマス礁に座礁させた艦に駐留する部隊で体調不良の兵士が出て、その兵士を収容しに向かったフィリピンの船に対して起きたものだった。

高橋氏によると、中国の目的は、座礁艦「シエラマドレ号」に残る兵士たちを息ができないほど追い込み、引き上げざるを得なくさせることにある。高橋氏は歴史的経緯も説明した。フィリピンがこの艦を座礁させた当時、スカボロー礁をはじめ南シナ海のいくつかの礁では、中国が漁船で占拠し、そこから埋め立てを始めることが続いていた。フィリピンはアメリカに支援を求めたがあまり応じてもらえず、自力で対処するとして艦を座礁させた。その結果、この場所で中国の膨張は止まっている。高橋氏は、中国にとってここは目の上のたんこぶであり、フィリピンを引き上げさせたうえで漁船を送り込んで占拠することを狙っていると考えてよいと述べた。

5:37

ミスチーフ礁に集まる210隻の「漁船」

番組は次に、ミスチーフ礁の衛星画像を検証した。中国は南シナ海の西沙諸島や南沙諸島で埋め立てと軍事拠点化を進めている。ミスチーフ礁では2010年代から急速な埋め立てが始まり、約3000メートルの滑走路が建設された。今年7月に撮影された画像では礁の中央付近に多数の船が写っており、小原氏の分析では画像の範囲内で210隻が確認できたという。

小原氏によると、これらの船は漁船の形をしている。中国は明言しないが、動員された「海上民兵」の船だと小原氏は見ている。中国は、フィリピンと領有権を争う礁を占拠するときにこの海上民兵の船を使う。以前にも200隻以上の漁船で礁の中を埋め尽くして他の船を入れなくし、実質的に支配したことがある。小原氏は、そうした行動をいつでも取れるよう準備しているのではないかと述べた。

画像を拡大すると、船が横一列につながり、筏のように固定されているのが分かる。理由について小原氏はこう推測する。礁の内側なので波はそれほど高くないはずだが、漁船は長さ35〜60メートルほどと小さいため、待機中は横につないで安定させているのではないか。また、海上民兵はこの隊形のまま前方へ押し寄せる訓練も行っている。小原氏は、この隊形を使って占拠したり、他の船を押し出したりすることもあると見ている。

船の集団ごとに隻数や位置、向きがばらばらに見える点も話題になった。小原氏は、船は風に向かって立つので船首はおおむね同じ方向を向くと説明した。一方、グループごとに隻数が違う理由は分からないと率直に述べている。ただし、補給など何らかの活動をするときには固まりがばらけるため、動きがあることは画像から読み取れるという。

9:28

海上民兵とは何者か

小原氏によると、民兵は人民武装部の正式な組織である。民兵であること自体を職業にする「基幹民兵」と、そのつど動員される「普通民兵」がいる。ミスチーフ礁では、地域によって若干の差はあるが、5月から9月半ばまでの休漁期間に動員がかかり、船が増える。普段は漁業をしている人々が、動員に応じて手当を受け取る仕組みだという。

7月には210隻いた船も、休漁期間が終わった現在は大きく減っており、10月8日時点の礁内の船は字幕上で78隻程度とされる。漁が始まれば本業に戻るため、船が減るのは当然である。ただ、小原氏は2つの点が分からないと述べた。1つは、5月半ばには一気に増えるのに、減り方がそれほど急ではないこと。もう1つは、漁が始まっているにもかかわらず礁内に多くの船が残っていることで、小原氏はこれを異常な事態だと指摘した。

コメンテーターの伊藤俊行氏が、一般の漁業者も法的に位置づけられているのかと尋ねた。小原氏の説明はこうである。人民武装部が動員をかけるが、実際には漁業者個人ではなく水産会社などに働きかけ、何隻出せという形で動員していると思われる。参加者が共産党員とは限らない。ただし平時から動員がかかり、1週間程度の訓練も行われていることは分かっている。伊藤氏は、漁業が偽装なのではなく、実際に漁業をしながら必要なときには来られる体制を普段から整えているのだと受け止めた。

小原氏はさらに、基幹民兵が乗る船は漁船の形をしていても放水銃を備えていると付け加えた。ミスチーフ礁ではこうした船が50隻弱、他の漁船が漁に出ている冬の期間も礁内にとどまっているという。長期間居座ることでフィリピン側が対応に苦しみ、疲弊していく点も、海上民兵が使いやすい事情の1つだと小原氏は認めた。

12:01

フィリピンにとってのグレーゾーンの難しさ

兵士と民間人の境界を曖昧にするグレーゾーンの手法について、高橋氏はフィリピン側の苦境を説明した。フィリピンは沿岸警備隊で対抗するが、中国海警局も強力で押し込まれていく。軍同士になっても勝てないうえ、軍を出せば「軍事的にエスカレートさせた」と非難され、かえって立場が悪くなる。そのため、海上民兵や海警局で圧力をかける手法は、文字通りグレーゾーンで非常に有効な方策になっているという。

キャスターの右松健太氏は、見た目は民間漁船なので、フィリピンが強い圧力をかければ中国に「平和な漁民に何をするのか」と言う口実を与えてしまうのではないかと尋ねた。高橋氏はそれを認め、フィリピン軍自体が非常に弱いのであまり手を出せないが、仮に手を出してもそうなると述べた。サボタージュの際に「民間の漁民がやったこと」として責任を回避する可能性についても、高橋氏はあり得るとした。いわゆる「もっともらしい否定可能性」も使えるという見方である。

14:25

アンテロープ礁の滑走路と「不沈空母」

続いて番組は、南シナ海北部・西沙諸島のアンテロープ礁を取り上げた。先月25日撮影の衛星画像には、滑走路建設のために稼働するクレーンと、満載状態の資材を積んだ船が写っている。ロイター通信は専門家の見方として、滑走路の建設は順調に進み、来年半ばまでに完成する見通しだと伝えた。南シナ海で中国にとって最も重要な海上基地の1つになる可能性があるという。

小原氏によると、建設中の滑走路は北端がまだ確定していないが、オーバーランエリアを含めて3000メートルを超える規模になりそうだ。戦闘機だけなら一般に2400メートルあれば運用できるが、大型輸送機や空中給油機には3000メートル程度が必要になる。東北東に約90キロ離れたウッディー島には約2300メートルの滑走路があるため、欧米メディアの中には、アンテロープ礁に滑走路を造る必要はないと論じるものもあった。しかし小原氏は、2300メートルでは大型輸送機が降りられないと指摘する。戦闘機を展開するには機体だけでなく整備要員や機材も運び込む必要があり、大型輸送機が欠かせない。そのため、アンテロープ礁はパラセル諸島で非常に重要な軍事基地になる可能性があると小原氏は見ている。

高橋氏は、こうした基地の増加を「沈まない空母」がいくつもできた状態だと表現した。15年ほど前に南シナ海で埋め立てが始まったころ、高橋氏自身も「有事にはアメリカが潜水艦からトマホークを数十発撃てば無力化できる、ただの標的ではないか」という議論をしていたという。しかし拠点が6か所、7か所と増えると、互いに支援し合い、互いのミサイルで防護できるため、簡単には潰せなくなる。高橋氏は、中国にとって最重要の拠点である海南島の前方に、海と空の要塞地帯ができつつあるというイメージで捉えてよいと述べた。

戦闘機や哨戒機が常時離着陸するようになれば、事実上の防空識別圏を南シナ海に設定することも可能になり、能力は大きく上がると高橋氏は見る。台湾有事を見据えた布石か、南シナ海支配の一環かという問いには「両方」と答えた。台湾有事の際には南から攻めることになるし、マラッカ海峡を通る航路を他国に使わせなくすることもできるからだという。第1列島線の前進か内海化かという問いに対しては、こう答えた。フィリピンやベトナムが中国になびく可能性はそれほど高くない。だからこそ、相手を子分にするのではなく南シナ海を実力で支配する。そのための拠点だという。

中国はこうした施設を軍事施設だとは言っておらず、アンテロープ礁を観光地にするという話さえある。小原氏はこれに対し、いくつかの根拠を挙げた。まず、アンテロープ礁は南北を反転させるとスビ礁とよく似た形をしており、比較するとスビ礁と同じような施設を建設しているように見える。次に、島の上の2か所にコンクリート製造施設が造られている。画像の船の積み荷はセメントと思われ、骨材や砂利と混ぜてコンクリートを大量に生産している。普通の施設ではなく、なぜこれほどのペースで造るのかを考えれば、少なくとも軍民両用になると考えるのが自然だと小原氏は述べた。

伊藤氏は、礁は本来、隠れ岩のような場所で、そこに施設を造るのは脆いと思っていたと述べた。そのうえで、数を増やすことでその弱点を克服できるのか、まだ造り続けるのかと尋ねた。高橋氏は、浅い場所にしか造れないので適地はそれほど多くないとしつつ、数を多く、しかも大きく造っていると答えた。アンテロープ礁の埋め立て面積は、辺野古のキャンプ・シュワブに新たに造られる基地の4倍あるという。そうすることで戦闘機も受け入れ、ミサイル攻撃にも耐えられるようになっていくのではないかと高橋氏は見ている。

21:36

ラオスの「共同訓練センター」は軍事基地か

話題は東南アジアの内陸国ラオスに移った。首都ビエンチャンの北約50キロにある空港で、中国の新たな施設の運用が始まった。先月の画像では滑走路が完成している。中国国防省は先月29日、この空港で共同支援訓練センターと航空学院の運用を開始したと発表した。目的はラオス空軍のパイロット育成の支援であり、第三国を標的にするものではないと説明している。

小原氏は滑走路の短さに注目した。オーバーランエリアを含めても約2000メートル、実際の滑走路はおそらく1800メートル程度しかない。今月に入ってからの画像では、着陸用の白線と滑走路の方位を示す数字がすでに描かれている。この長さでは大型の戦闘機の離着陸は難しい。そのため小原氏は、現時点では中国の説明どおり、小型の訓練用ジェット機などを使う訓練施設だろうと見ている。ただし「共同」という名前を付けている以上、中国も使えることになる。滑走路の北側にも南側にも拡張の余地があり、今後どう使っていくかは注目すべきだと述べた。

ニューヨーク・タイムズによると、衛星画像では中国とパキスタンが共同開発した軽量の2人乗り機JL-8が確認されている。高橋氏は、現状では中国軍の基地になるかどうかは判断できないと前置きした。そのうえで、ラオス軍の訓練を支援すれば長期にわたって両国の軍と軍の関係が非常に強くなるとし、それが現時点で評価できる狙いだと述べた。ベトナムは中国の友好国になりきらないうえ、アメリカとの関係も深めている。その間にあるラオスとの関係強化には、かなり強い目的があると高橋氏は感じている。

内陸国であることの意味について、高橋氏は、海に面していないため大量の物資を運び込むのが難しく、軍事拠点にすることはそもそも難しいと述べた。ただ、インドシナ半島の中央にあるため、ベトナムや南シナ海、インド洋方面をにらみながら関係を強化し、何らかの施設や情報収集拠点にすることはあり得ると見る。

伊藤氏は日本との関係を取り上げた。ラオスの首相は6月に来日して高市首相と会談し、「自由で開かれたインド太平洋」での協力を確認している。カンボジアについては、中国が基地の拡張を手助けしているとみられる一方、日本はOSA(政府安全保障能力強化支援)で協力している。伊藤氏は、日本にとって重要な国々に中国が入り込んでいることには注視が必要ではないかと問いかけた。高橋氏は、多くの国は中国かアメリカか日本かを選びたくないので両にらみで進めると答えた。ラオスとカンボジアは比較的中国寄りだが、だからこそ日本との関係もある程度は維持したいと考えており、そこがポイントになるという。

カンボジアのリアム海軍基地とラオスの空港が空と海で連携しているのかという問いに、小原氏は、現段階で連携しているようには見えないと答えた。どちらの基地もそれほどの規模がないからだという。リアム海軍基地も中国では「共同保障訓練センター」と呼ばれている。中国語の「保障」には整備や補給の意味が含まれる。ここでも「共同」という言葉を使っていることから、中国はカンボジア海軍を訓練・支援すると言いながら、自らも使えるという意味を持たせていると小原氏は見ている。

37:04

中央アジアの兵器市場でロシアに代わる中国

番組の映像では、ウズベキスタン国防省が今年8月にSNSへ投稿した動画が紹介された。中国国営の英字紙チャイナ・デイリーによると、ここで最新鋭の戦闘機として紹介されているのは中国のJ-10である。米経済誌フォーブスは、中央アジア諸国はもともとロシアとの軍事的な結びつきが強いが、西側の制裁でロシアの防衛産業が影響を受けるなか、代わりの供給元として中国の存在感が増していると伝えた。先月27日のトルクメニスタン独立記念日のパレードでは、中国の移動式防空システムFK-2000が少なくとも10基確認されたと、香港のサウス・チャイナ・モーニング・ポストが報じている。

中国製兵器の評価について、高橋氏はロシア製との大きな違いとして、実戦でまだ使われていない点を挙げ、性能の評価は難しいと述べた。一方で、価格の安さ、インフラ整備などとの抱き合わせ販売に加え、最近では電子装備や半導体の能力は中国製のほうが高いと考えられる点が評価につながっているのではないかと見る。

小原氏によると、中国はもともと中央アジアや中東、アフリカに武器を売っていたが、かつては近代的な兵器を製造できず、安価な武器が中心だった。買う側も当時はそれほど高性能な兵器を求めていなかった。今は地域によって緊張が高まり、高性能な兵器が求められている。そこで手頃な価格で高性能な兵器となると中国製が候補に挙がるという。J-10については、パキスタン空軍のJ-10Cが相手の航空機を撃墜した実績があるとされ、実戦経験のある数少ない戦闘機になった。そのためJ-10Cを欲しがる国は増えていると小原氏は見ている。

ロシアとの摩擦について、高橋氏は、旧ソ連圏に他国の影響力が強まることをロシアは好まないので愉快ではないだろうと述べた。ただ、ロシアはウクライナを巡って中国から様々な支援を受けており、実際にアフターサービスもできなくなっているのだろうと推測する。そうであれば、不愉快でも受け入れざるを得ず、今後は競争していかなければならないと考えているのではないかという。中央アジア諸国の側について高橋氏は、中国の安全保障圏に吸い込まれる警戒感はあるとしつつ、ウクライナ侵攻を見てロシアに依存しすぎる怖さも感じたはずだと述べた。東南アジアと同じく両にらみでいきたいという動機があるのだろうという見方である。小原氏もこれに同意した。どの国もロシアへの一方的な依存を怖れてきた。そこへ中国が、カタログデータ上ではあってもロシア製に対抗できる性能の兵器を売れるようになったことで、中央アジア諸国が本当にバランスを取れるようになってきたと述べた。

29:15

ジブチ基地で増える通信施設

中国が軍事的影響力の拡大のために重視しているとされるのが、アフリカ東部のジブチである。ジブチはバブ・エル・マンデブ海峡に面しており、米戦略国際問題研究所(CSIS)によると、世界の海上貿易の約16%がこの海峡を利用している。ジブチにはアメリカ、フランス、イタリアなどに加え日本の自衛隊も拠点を置いており、多国間の共同訓練も行われる。中国は2017年にここへ基地を造った。CSISは、中国の基地は経済的権益を安全保障上の脅威から守るとともに、海軍の訓練拠点としても活用されているとしている。

今年2月撮影の衛星画像を2023年のものと比べると、基地の南東側と北西側に新たな施設が増えている。CSISによれば、これらは通信施設である。

小原氏はまず、ジブチ基地は中国が海外で唯一、自国の基地だと認めている施設だと説明した。2017年に完成し、2018年から運用されている。日本やアメリカ、フランス、イタリアの基地は飛行場側にあり、航空機によるパトロールを主な目的としている。これに対し中国の基地は海に面し、海の方を向いている。小原氏は、中国がバブ・エル・マンデブ海峡を含むこの海域を重要な海上交通の拠点と考え、ここを押さえる意思を持っていると見る。また、日本の自衛隊の基地などは撤退を想定した仮設の基地であるのに対し、中国の基地は恒久的な使用を念頭に置いた非常に堅固な建物になっているという。

能力強化の面では、北側にレーダードームが複数造られ、南側には大きなパラボラアンテナが3基並んでいる。CSISの分析では短波通信用、超短波通信用などのアンテナ類や5Gの設備もあるとされる。小原氏は、これらを使って各種の通信や通信の傍受も行えるようになっていると見ている。周波数ごとに得られる情報が違うのかという質問には、こう答えた。機器によって出す電波は異なり、自ら通信する場合も、電波の長さによって到達距離が変わったり、距離は短いが非常にクリアに通信できたりする。5Gであれば、どの帯域幅でどれだけのデータを送れるかといった違いがあり、用途は様々だという。

イラン情勢を受けて中東に展開する米軍の情報を集めている可能性について、高橋氏は次のように述べた。ジブチの各国の基地はもともと海賊対策のために造られた。ただ中東情勢の緊迫で軍の活動が活発になれば、中国から見て、ここで米軍の情報を取れば価値の高いものが得られると考えるのは自然だろう。仮に暗号が読めなくても、電波がどの頻度で、どこから出ているかという、いわゆるシギントだけでも相当な情報になる。そうした点は考えているのではないかという。

日本が中国をどう警戒すべきかについて、高橋氏は「両方を見る必要がある」と述べた。まず、海賊対策での協力は今や数少ない日中協力の1つなので、きちんと続けることが第一に必要だという。一方で、情報収集やアフリカへの影響力の足場になるという点には警戒の要素がある。ただ中国のアフリカ政策は、冷戦期に植民地独立運動を支援していた時代からの長く深い付き合いに根ざしている。それを理解したうえで何が起きているかを正確に知り、日本は日本でやるべきことをやっていくことが必要だと高橋氏は述べた。

伊藤氏は、中国は衛星画像で見られていると分かっているはずだと指摘した。そのうえで、見られても仕方ないと思っているのか、ある程度見せる意図があるのか、それとも見えない動きにこそ注意すべきなのかと問うた。小原氏は、ジブチ基地に関してはわざわざ見せるためではないと思うと答えた。ただ、これだけ大々的な基地を造れば、中国が軍事プレゼンスを展開する拠点を持っていると示すことにはなり、それを隠すつもりもないのだろうと述べた。

41:18

空母「遼寧」の動きと台湾周辺の同時行動

番組では新たなニュースとして、防衛省統合幕僚監部の発表も取り上げた。前日、中国の空母「遼寧」が沖縄本島と宮古島の間を通過して太平洋に出て、石垣島の南約250キロで艦載機の発着艦訓練を行ったという。

高橋氏によると、中国の空母がこの海域を抜けて西太平洋に出ること自体は時々ある。今回の特徴は、そのまま西太平洋へ出るのではなく台湾の方へ進み、そこで戦闘機を発着させたとみられる点だ。様々な情報を総合すると、この時期は台湾海峡周辺で中国空軍や海警の活動が活発化しており、11機が台湾海峡の中間線を越えた。中間線を越えるのはかなり挑発的な行動で、しかも戦闘機だけでなく電子戦機や無人機も含まれていた。これが台湾の東西で同時に起きたことがポイントだと高橋氏は強調する。台湾の封鎖などを目指した演習・訓練だった可能性は否定できず、ある種の警戒が必要だと述べた。

小原氏は、衛星画像から追った経過を説明した。遼寧は青島の基地から運用されているが、10日までは在泊していた。11日から13日の間に姿を消し、13日の画像ではすでにいなかった。空母打撃群を構成する大型の055型駆逐艦も一斉に出港しており、ある程度大規模な行動が想定された。一方で、打撃群が長期間行動するときには補給のために常に随伴するはずの総合補給艦は、いったん出たものの13日には港に戻っている。そのため小原氏は、今のところそれほど長い航海にはならないのではないかと見る。ただし補給艦が再び出始めれば分からないと留保した。訓練の目的については、高橋氏の言うように何かピンポイントの目的があって動いたのだろうと述べた。

44:05

中国の「覇権」は何を目指すのか

まとめの議論として、右松氏は中国の覇権とはどのようなものかを問うた。高橋氏は、今見て取れるのは子分を増やすことではないと答えた。他国の選択肢をできるだけ狭め、最終的には中国の意向を忖度して動くように仕向けていくことが覇権戦略ではないかという。グローバルに広げて軍事的影響力も増し、アメリカと対抗できる存在になる。あるいは、アメリカを快く思わない国にとっての「プランB」になれるような形をつくる。高橋氏は、アメリカを完全に置き換える覇権ではなく、アメリカの覇権に対するアンチテーゼ的な選択肢になることが、現実的に目指せるところではないかと述べた。

小原氏は、中国のやっていることは歴代王朝とあまり変わらないのではないかとさえ思うと述べた。中国の王朝は領土を広げる一方、周辺国が朝貢すれば、かえってより多くの土産を渡していた。ただし中国の言うことは聞かせた。今の中国も、子分を作るというより安全保障協力を強め、相互の協力関係を強固にしている。これは日本がヨーロッパやオーストラリア、フィリピン、ベトナムなどと始めていることでもある。しかし、中国からの支援がなくなればその国の能力も失われるという関係になれば、相手は中国の意向をうかがわざるを得ない。小原氏は、中国はそうした協力を広げ、中国が求める国際秩序を支持させ、あるいは中国に忖度して動くよう求めており、今はその布石を打っている段階に見えると述べた。東南アジア・南アジアについては、まだ軍事協力の段階であり、中国に頼らざるを得ないように仕向けていくものだという。

アメリカの見方について、高橋氏は2つあると説明した。1つは、中国のグローバルな影響力拡大をアメリカへの挑戦として警戒する見方である。もう1つは、米中競争の焦点は西太平洋、第1列島線、台湾といったエリアなので、中国がジブチなどへ投資して資源を広く分散させれば、かえってアジアが手薄になるとして「やらせておけ」とする見方だ。中国が往年の米軍のような世界展開をまだ目指しているとは思わないとしつつ、焦点が台湾と西太平洋である以上、そこが薄くなるならやらせておけばよいという発想があるという。そう仕向ける戦略的コミュニケーションがあるのかという問いには、単に観察しているだけだろうと答えた。むしろ、アフリカなどを重視して張り合うのか、西太平洋や中東を重視するのかという、アメリカ国内の政策論争につながる話だという。小原氏は、アメリカに張り合うつもりはないだろうとしつつ、海上輸送路に中国が影響力を行使できるようになることには警戒感があると付け加えた。

49:05

今後注目すべき点:兵器以外の軍の強化

最後に、今後何に注目すべきかが問われた。高橋氏は、中国軍の近代化というと新型兵器に注目が集まりがちだが、軍はそれだけではないと述べた。基地というインフラがあり、兵士の練度もある。今回取り上げたのは、兵器を支えるインフラが中心だった。南シナ海の「不沈空母」のような基地を今後どうしていくのかに加え、番組で扱わなかった論点としてPKOや海賊対策を挙げた。これらは中国にとって一種の実戦訓練の場と位置づけられてきており、それによって兵士の練度も上がっているという。高橋氏は、兵器以外の部分での中国軍の強化にも注目していく必要があると述べた。

小原氏は、軍には複数の側面があるという指摘に同意したうえで、人民解放軍の「保障」、つまり整備・補給の問題は今なお根深いものが残っているようだと述べた。国内の基地も拡張しており、今後どうするのかは注目しなければならないという。海外への影響力という点では、ソマリア沖の海賊対処に派遣された第48次の部隊が現在帰国の途上にあり、東南アジア各国を回って影響力を強めている。小原氏は、そうした動きを踏まえ、日本も影響力を強化する取り組みが必要だと締めくくった。