【ダウンタイム症例解説⑤】宝田萌乃(小学生)・キッズ整形【古川凛】
高須幹弥(高須クリニック)ドラマ『ダウンタイム』における小学生配信者「萌えのんちゃん(宝田萌乃)」の美容整形エピソードを題材に、高須幹弥氏が小学生や未成年への美容整形手術の是非、医療広告ガイドラインの観点、そしてクリニック側のビジネス構造や現代のルッキズムについて解説を行った。
ドラマの設定と医療広告ガイドラインの抵触点
劇中では、500万人の登録者を持つ小学生配信者・萌えのんちゃんが、東山美容クリニックからの企業案件として大々的な美容整形を受けるというストーリーが描かれる。住宅ローンの残る父を支えるため、成長に伴う人気低下を打破しようと過激な施術を求める構図となっている。
この「美容整形の企業案件」について、高須氏は医療広告ガイドラインの観点から問題点を指摘する。通常行われているモニター割引や無料モニターは、術前術後の写真や体験レポートを提供する対価として施術費が免除または減額される仕組みであり、現行のルール上はグレーゾーンながら許容されている側面がある。しかし、クリニック側から広告料などの報酬(対価)を受け取ってレポートを発信することは明確に禁止されており、劇中の案件はガイドラインに照らすと「黒(アウト)」に該当すると述べる。
また、劇中で提示されていた「切開二重、目尻切開、涙袋形成、鼻のプロテーゼ、顎のヒアルロン酸、全身脱毛」といった施術メニューについても言及した。現在、未成年であっても二重の埋没法やレーザー脱毛を発信する動画はすでに多く存在するため、より過激な手術を選んで再生回数を稼ごうとする劇中の判断は、小学生に対する医療介入として極めて重い内容であると評価している。
小学生に対する各施術の医学的妥当性
高須氏は、劇中に登場した施術項目について、成長過程にある小学生に適用できるかどうかを医学的な視点から個別に検証している。
- 二重まぶた(切開・埋没):
小学生高学年であれば、逆さまつげによって睫毛が目に当たり角膜を傷つけるような「機能的な問題」の改善を兼ねて埋没法や切開法を行うケースは実際に存在する。ただし、萌えのんちゃんのように元々狭い奥二重がある場合、あえて切開手術を急ぐ必要はなく、どうしても行う場合でも埋没法で幅を広げる程度に留めるのが自然であるとした。 - 目尻切開:
劇的な変化をもたらす手術ではないため、小学生に対してあえて実施する意義は乏しい。 - 涙袋形成:
外科的な手術や軟骨移植は推奨されず、行うとしても元に戻せる(ヒアルロニダーゼで溶解できる)ヒアルロン酸注入程度が限度である。 - 鼻のプロテーゼ・顎のヒアルロン酸:
小学生は顔面の骨格が成長途中にあり、成長に伴って自然に鼻が高くなる可能性もあるため、骨格の成長が完了する成人前に入れるべきではない。顎のヒアルロン酸も骨への負担を考慮すると、成長期は待つことが推奨される。 - 全身脱毛:
第二次性徴で脇毛などが生え、本人が強く気にする場合はレーザー照射の選択肢もある。ただし、成長に伴って後から別の毛穴から生えてくる可能性が高く、時期には賛否がある。
結論として、小学生の段階で検討し得るのは、逆さまつげなどの機能改善を伴う二重形成、安全な範囲でのレーザー脱毛、あるいは小児歯科矯正程度であり、不可逆的な骨格・組織への侵襲を伴う手術は避けるべきであると論じた。
未成年の意思決定と「炎上マーケティング」の構造
劇中では、父親のために手術を受けようとする萌えのんちゃんの心中を察した担当医が、手術直前に中止を決断する場面がある。高須氏はこの点について、小学生が「自分が整形したい」と主張していても、その意思の半分以上は親の言動や誘導によるものであると指摘する。親が「可愛くなれば人気が出る」「二重にしたほうがいい」と言い続ければ、子どもは親を喜ばせたい一心でその意向を内面化してしまうため、児童虐待と捉えられかねない危険性を孕んでいると述べた。
また、未成年の整形をインターネット上で公開することに伴う「炎上」が、皮肉にもクリニック側の集客につながる実態にも言及した。過去に実在のクリニックが小学生の二重モニター動画を公開して批判を浴びた事例を挙げ、一般社会から批判されても、潜在的な整形肯定派や「未成年でも手術をしてくれる場所を探している層」へリーチしてしまい、結果的に宣伝効果を生んでしまうという業界の闇を説明した。
美容医療業界の過当競争とルッキズムの拡大
高須氏は、なぜ未成年に対する美容整形や過激な広告が増えているのかという背景に、業界全体の需給バランスの崩壊があると分析する。
美容外科医やクリニックの数が急増し、供給過多に陥った結果、経営破綻するクリニックも出始めている。その中で生き残るため、クリニック側は新たな需要を開拓しなければならない。需要を人工的に生み出す最も直接的な手段が「人々のコンプレックスや劣等感を刺激すること」であり、その対象がSNSを日常的に利用する小中高生にまで広がっていると指摘する。スマートフォンを通じて周囲やインフルエンサーの容姿と自分を絶え間なく比較させられることで、若年層のルッキズムが加速し、過剰な整形願望につながっていると警鐘を鳴らした。
実際の診療現場における未成年患者への対応と課題
自身のクリニックにおける未成年患者の診察経験についても具体例を挙げて語った。
- いじめや不登校を理由とする来院:
「顔のせいでいじめられた、不登校になった」と親子で来院するケースがあるが、客観的な顔立ちには何の問題もないことが多い。原因が外見ではなく内面や対人関係にある場合、ストレートに伝えると親から反発を受けることもあるが、安易な手術は根本的な解決にならない。 - 親自身のコンプレックスの投影:
美容整形を受けた母親が、自身の整形前の特徴(一重まぶたや小鼻の広がりなど)を受け継いだ我が子を連れてくる事例も見られる。2歳児など本人の意思確認が不可能な年齢で連れてこられるケースもあり、これらは当然断っているという。 - 親の説得役を医師に押し付けるケース:
子どもに嫌われたくない親が、自身で反対せずに「医師からダメだと言って諦めさせてほしい」と受診させる例もあるが、クリニックは家庭内の指導を行う場ではないため、家庭内で方針を決めるべきであるとしている。 - アイプチによる皮膚トラブル:
毎朝のアイプチやアイテープによって皮膚が荒れ、肥厚して戻らなくなるリスクを回避するため、中学生・高校生段階で本人の強い希望と親の同意のもと、自然な埋没法を選択することは現実的な対処法としてあり得る。
医師が断った後の患者の流出と業界の未解決問題
ドラマの結末において、萌えのんちゃんは東山美容クリニックで手術を断られた後、ライバル医院(MBC)へ移って企画を継続させてしまう。高須氏はこの展開を「美容医療のリアルな現実」と表現した。
医学的適応がない、あるいは時期尚早であると判断して正当な理由で施術を断っても、患者側は手術を受け入れてくれる別のクリニックを探し出し、最終的に他院で受けてしまうケースが後を絶たない。これは未成年への施術に限らず、過剰な手術を繰り返す整形依存症や身体醜形症の患者でも同様であり、売上を優先して無理な施術を行う医師が存在する限り防ぎきれない。
特定の医師が責任を持って長期的に患者を管理できず、施術を断られた患者が他院を渡り歩いた結果、取り返しのつかない変形や後遺症を招く構造的な問題が、現在の美容医療界に厳然として存在していることを提示して締めくくった。
